鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでレイドの効率落ちたので初投稿です…。


18 決闘もどき

 事前に決闘をすると決めてあったのか。話はトントン拍子に進み、日時も場所も簡単に決まってしまった。『マクギリス』に決闘を受けないという選択肢はなかったので準備を粛々と進めている間にギャラルホルンではドルトコロニーの騒乱が話題になっていた。

 

 そんな変遷期にこのようなことをやらなければならない立場であることに、『マクギリス』はそっと溜息をつく。

 

 決闘のルールは簡単で、MSによる戦闘で決着をつけるということ。ただし相手を殺害することは禁止で、弾丸はペイント弾を使うこと。殺害を禁止したのはいくらギャラルホルンの正当な決闘とはいえ、セブンスターズを欠くわけにはいかないからだ。

 

 場所はヴィーンゴールヴ内の地上演習場。そのため暇なセブンスターズや地球本部に配属になっているギャラルホルン所属の隊員が観戦するという。

 

 衆目の場で、結果にイチャモンを言わせないための処置だろう。

 

 使用するMSは公平性を保つためにお互いグレイズでも使うのかと尋ねたが、イオクはそれを突っぱねた。曰く『私は専用機を使うから、貴様も自分の機体を使え』とのこと。何故士官学校生が専用機を持っているのかと疑問に思ったが、口出しするのをやめた。

 

 『マクギリス』は日時も決められてしまったため、即座に連絡。シュヴァルべを地球に降ろしてもらい、地上用にスラスターなどを調整する羽目になった。

 

 前回が火星支部の監査だったために、調整の諸々が宇宙仕様のままだったのだ。次の監査先も決まっていなかったので機体は宇宙艦に搭載したまま。シュヴァルべが届いて次の日には決闘の日になっていた。

 

 なので『マクギリス』は専属の整備士を休暇中なのに呼び出して整備させることとなった。今もコックピットで様々な調整をしている。

 

『すまないな。休暇中に呼び出して』

 

「いいえ、いいんですよ。というか、決闘なんて聞いたらおちおち休んでいられませんって。特務三佐」

 

『ここに来るまでの移動日も含めて、倍の特別休暇を勝ち取ってきた。次の休みはゆっくりとしてくれ』

 

「ありがとうございます。絶対勝ってくださいよ」

 

 整備士の男性軍曹と軽口を叩きながら独特のコックピットの調整をたった二人で行なっていく。これはマクギリスの個人データの塊なので、おいそれと他人に見せるわけにはいかなかった。しかも今調整しているのは『マクギリス』だ。余計に見せられなかった。

 

 様々なデータを書き換えていく。元々のデータもバックアップは取っておくものの、今は新しくフィッティングをしていく。

 

 今回の決闘は負けられない。負けるとは思っていないが、もしもを排除するために万全を期す。負けられない理由が『マクギリス』にはあった。

 

 決闘による取り決めは簡単だ。

 

 イオクが勝った場合、マクギリス・ファリドのセブンスターズ就任権利の破棄。

 

 マクギリスが勝った場合、金輪際のマクギリス・ファリドとアルミリア・ボードウィンへの接触禁止。

 

 ボードウィン公とガエリオも含もうと思ったが、あくまで本人達の決闘なのでマクギリスとその婚約者しか適応しなくていいとボードウィン公に言われてこの内容となった。

 

 地上用のスラスター調整と、コックピット内の感応波受信設定を書き換え終わった頃にはすっかり真っ暗になっていた。

 

 なので『マクギリス』は半日以上付き合ってくれた軍曹に缶コーヒーの差し入れをする。

 

『助かった、軍曹。これで私は明日負けないだろう』

 

「お役に立てたんなら良かった。あ、煙草吸っていいです? 」

 

『構わない。労働の後の一服も必要だろう』

 

 軍曹がポケットから煙草を取り出してライターで火を点ける。『マクギリス』は一切吸わないので、煙に当たらない少し離れた場所の椅子へ腰をかけていた。

 

「いやしかし、大変ですなぁ。クジャン家の御曹司と決闘だなんて。のくせにペイント弾って、昔の決闘はそうじゃなかったんでしょ? 」

 

『らしいな。私も話に聞く限りで、すっかり廃れた風習だと思っていたが』

 

「色々と思惑があるんでしょうけど。……いつも戦闘を見てる俺からすりゃあ何も心配はしてないんですけど、しくじらないでくださいよ? 」

 

『わかっているとも。明日はマクギリス・ファリドらしい戦い方で勝利を収めてみせる』

 

「間違って奴さん殺さないでくださいよ? 」

 

『色々と因縁のある相手だが……。ルールは守るさ。これでも堪忍袋の帯はきつく締められているらしい』

 

 冗談を口にしながら、『マクギリス』は暖かいコーヒーへ口を付ける。

 

 ボードウィン家で飲んだお茶に比べると、随分と味気ないものだった。

 

──

 

 決闘の時間がやってきた。

 

 『マクギリス』は既にギャラルホルン内でも有名になっている蒼いシュヴァルべ・グレイズに乗って現れる。

 

 一方イオクは黒を基調として黄色を節々に使ったグレイズに乗って現れる。イオクの操縦技術ははっきり言って低い。MSを用意した者もシュヴァルべはピーキーすぎて扱えないと思ってただのグレイズにしたのだという思考が明け透けだった。

 

 今回の決闘を見に来たセブンスターズはボードウィン公とイズナリオ、それにアルミリアだけ。他のセブンスターズは宇宙にいたり、作戦完了の撤退行動をしていたり、地球にいても純粋に用事があったりと、不参加な理由がきちんとあった。

 

 そもそもいくらセブンスターズ所縁の者の決闘とはいえ、急遽決まった話に駆けつけられるほど暇でもないのだ。関係者としてここに来た者はいても、ギャラルホルンのトップが急に仕事を休んで来られるはずもない。

 

 ということでセブンスターズの観客は少なかったが、その代わり一般将兵の観客は多かった。

 

 クジャン家の信奉者達やマクギリスのファン。純粋にセブンスターズに憧れる者、次代のトップの実力が気になる者など、理由は様々だが集まる要因は多数あるようだ。

 

 観客達は演習場から離れた場所で、ペイント弾が飛んでこないように透明な防弾ガラスに囲まれた観客席から映像を繋いで観戦する運びとなっていた。

 

 セブンスターズ用の観覧席にて。いずれ親子になるイズナリオとアルミリアが話していた。

 

「アルミリア。君には不思議な力があるという。その不思議な力とやらはどういったものなのかな? 」

 

「ちょっと勘が良いだけです。雨が降りそうとか、この人悪い人だなとか。そのくらいです」

 

「いやいや興味深い。ボードウィン公の英才教育のおかげかな? 」

 

「いえいえ。私はこれといって何かしたわけではありませんよ」

 

 イズナリオも含めて、セブンスターズでは有名な話だ。アルミリアは異様に勘が良いと。それは時に勘の範疇を超えており、是が非でもその勘の正体を知りたいと願ってしまうほど常軌を逸したものだった。

 

 ボードウィン公が遊びで遊戯場に連れて行ったら、様々なゲームで予感を的中させて大勝ちしたというのだ。しかも彼女は一つ一つのゲームのルールを把握していたわけではなく、なんとなくに従っていたら勝ち続けたという。

 

 その力も興味深くて、イズナリオはセブンスターズの立場を磐石とするための駒にアルミリアを選んだのだ。カルタと婚約させても、地球外縁軌道統制統合艦隊の実権など既に握っているので無駄になる。

 

 他にセブンスターズに子女がいなかったので、当たり前の選択肢ではあった。

 

 あと。

 

 アルミリアの勘がイズナリオのことを悪い人だと訴えかけていた。生理的に受け付けないというか、女として嫌いだった。

 

「アルミリア。どちらが勝つと思う? 」

 

「決まっています。ファリド公。マクギリス・ファリドが負けるはずがありません」

 

 断言する。

 

 アルミリアはイオクの悪評をほとんど知らない。ボードウィン公やガエリオが特に話していないからだ。マクギリスもカインも、イオクについて語るくらいなら他に話すことが山ほどあった。

 

 MSの操縦の出来など知らなくても、アルミリアははっきり言える。

 

 自分の夫になるマクギリス・ファリドは、ギャラルホルンの中で最強なのだと疑っていなかった。

 

 イズナリオはその力強い言葉に感心して頷くと、始まる直前というタイミングでイオクが鉄剣を向けて宣言をしていた。

 

「マクギリス・ファリド。貴様の名声もここまでだ。この私が直々に、正義の鉄槌を食らわせてやる! 」

 

『正義の鉄槌とは? 私はギャラルホルンに不貞を働いた覚えはないが』

 

「白々しい! 正統なる後継者でもない貴様がセブンスターズを名乗るのは分不相応であり、貴様がその椅子に座ろうとしているなど、セブンスターズへの侮辱でしかないだろう! 」

 

 その物言いに、『マクギリス』はブチッ、という音が自分の身体の中から聞こえた気がした。いや、気ではなく、実は左手に力が入りすぎて血が出ていた。手袋に血が滲み始める。

 

 アルミリアも遠いながらもそのブチッという音が聞こえたために「あ」と淑女らしからぬ声が漏れていた。

 

『……セブンスターズといえども、ギャラルホルンの一部だろうに。軍隊に所属する者が信賞必罰を否定するだと? 特権を知り、井の中で吠える俗物か』

 

「俗物だとッ⁉︎ 妾の子の貴様が言うことかッ⁉︎ 」

 

『そう、それだ。来年には軍人となり、アリアンロッドを指揮する立場になるはずだ。だと言うのに身分で人に優劣を付け、優秀な者を飼い殺しにする。アリアンロッドは多種多様な身分の人間が所属している。アリアンロッドは違うと贔屓にするつもりか? 』

 

「セブンスターズはギャラルホルンの象徴! 栄光の証だ! そこに不純物が混ざることをおかしいと述べて何が悪い⁉︎ 」

 

 イオクの叫びから、『マクギリス』は目の前の男がギャラルホルンの負の象徴だと理解した。イズナリオもそうだが、ここまで今のギャラルホルンを体現する男もいないだろうとむしろ呆れてくる。

 

 何故この男についていく者がいるのだろうと、そればかりは不思議で疑問は解決しなかった。

 

 まさか前当主への恩義から忠誠を子に捧げる前時代的な人間が多数いるとは思いもしなかったのだ。後日、歴史は繰り返されるという言葉を切実に実感した『マクギリス』だった。

 

「時間です。双方私語は慎むように」

 

 審判にそう言われて、一方的な言葉の応酬は止まる。

 

 ここからはMSで語ると、イオクは意気込む。『マクギリス』は痛い目に遭わせると決めて開始のコールを待つ。

 

 機械によるカウントダウンが始まる。五から下がっていく数字を見ながら、両者とも最初の行動を頭に思い浮かべていた。

 

 0と同時に、甲高いブザー音と共に決闘が始まる。

 

 イオクは右のマニピュレーターに持っていたサブマシンガンの引き金を引く。『マクギリス』のシュヴァルべに向かって放ったが、シュヴァルべが即座に開始位置から横へ移動したことでペイントを一切受けなかった。

 

「決闘の初手が回避だと⁉︎ はっ、まさしく貴様の性根を表しているな! 」

 

『むしろ開始位置から動かないとは、戦場を知らないと見える。足を止めたら死ぬぞ? 』

 

 『マクギリス』は右に持っていたサブマシンガンを後ろ腰のラックに戻した。代わりに側面に配置していた鉄剣を二本とも引き抜き、両手に装備する。

 

 そのまま細かいバーニア制御を行いながら戦場を駆ける。その動きに合わせてイオクも散弾を撒き散らすが、地面を染めるだけでシュヴァルべは蒼いままだ。

 

「クッ! 回避行動はそれなりだな! だが、カインの方がよっぽど恐ろしいぞ! アレに比べれば貴様の動きなど……っ! 」

 

『カイン・ベリアル一尉のことを言っているのか? なるほど、彼を知ったつもりになっているらしい』

 

 一切被弾しないまま、シュヴァルべは距離を詰める。もしどちらかの手に銃火器を持っていれば既にイオクは被弾していただろう。なにせまだ最初の位置から動いていない。機体を動かしながら射撃を行うということはできないようだった。

 

 『マクギリス』はさもカインのことを知っているかのように語るイオクにムカついていた。どうせ知っている内容は幼い時のシミュレーターの内容と、今の表のプロフィールだけ。カインは幼年学校以降イオクに会っていないので、イオクが知る由もないのだ。

 

 ギャラルホルンの一隊員であるカインの戦闘記録なんて全て公開しているはずがない。デブリ帯での戦闘データも共有しているのはアリアンロッドだけ。士官学校生に見せて下手に真似されると事故が増えると判断されて外には漏れていない。

 

 実質的には何も知らないくせに、幼年期の幻影に魘されているなんてどんな茶番か。

 

 『マクギリス』は左の剣でサブマシンガンを破壊する。頭と身体で違うものを描いていれば現実の対処なんてできるわけもない。

 

「クォ⁉︎ 」

 

『自分とカインは別人だと自覚すべきだ。人間は他者になれない。カインを追っても、自分を見失うだけだ』

 

「部下として引き抜いたからこそ、そんなことが言える! あの恐怖を味わっていない貴様に何がわかる⁉︎ 」

 

『監査局を敵に回す予定でもあるのだろうか? 味方を過剰に恐れるなんて、理解できない感情だ』

 

 今度は右の剣で左腕の関節部を狙い、切断する。結合部を叩き折ったという言い方が正しいか。左腕を失ってバランスを失ったことで、グレイズが数歩後退する。

 

 サブマシンガンは破壊され、左手に持っていた鉄剣は握られたまま地面に落ちている。腰に残っているのはバトルアックスだが、それを即座に取り出すという頭も回らないらしい。

 

 このまま達磨にでもしてやろうかと、『マクギリス』は苛立ちをぶつけるように鉄剣を向けるが、それはイオクの言葉で止まってしまう。

 

「アレを平然と部下に置いている貴様の神経を疑うぞ⁉︎ 自分のことをいないかのように扱われて、その高い実力を見せつけていく! それも目に見える功績を、孤児が! アレはおかしい! まともな教育を受けていないはずなのに、セブンスターズに追い縋る成績を残し続けるだと⁉︎ そんなバケモノ、産まれからしてありえない変異種としか思えないだろう‼︎ 」

 

 イオクの言い分に一度動きが止まるが、すぐに両腕を動かして頭と右腕を潰す。

 

 これでもうグレイズは武器を持つことができず、足だけで万全なシュヴァルべに勝てるわけがない。

 

 そう判断したのか、審判が終わりのホイッスルを鳴らす。感慨もなく『マクギリス』は鉄剣を降ろす。

 

 差別意識に囚われた目の前の男に、何かの感情を向けるのがバカらしいと遅まきながら気付いた。

 

『……努力を、鍛錬を。何とも思わないのか。産まれだけで全ての事柄が決まるのか。だからドルトコロニーで反乱が起きたのだろう。起こるべくして起こった事件だったと、今の発言を聞いて噛み締めたよ』

 

 『マクギリス』はそれだけ言って演習場を去る。

 

 まるでここに勝者はいないようだった。

 

──

 

『ボードウィン公、お世話になりました』

 

「いつでも来なさい。お世話になったなんて言わなくていい」

 

 『マクギリス』は休暇も終わりを迎えようとしていたのでボードウィン家から出立しようとしていた。見送りにボードウィン公とアルミリアが来ていた。

 

『アルミリアも、また次の休暇に』

 

「うん、またねマッキー。あ、そこにかがんで? 」

 

『? ああ』

 

 アルミリアのお願いを聞き入れてかがむ『マクギリス』。アルミリアは彼に近付くと耳元でボードウィン公に聞かれないように囁く。

 

「今度はマッキーを連れて来てね。カイン」

 

 その言葉に、悪戯がバレたかのように『マクギリス』は破顔して、大きく頷く。

 

『約束しよう、レディ。次には必ず』

 

「ええ、約束ね! 」

 

 これにてボードウィン家での偽りの生活はおしまい。

 

 これからはギャラルホルンで同じように影武者として指示を出すことになる。

 

 カインにはアリアンロッドの監査の分余計に休暇があるので、カインが復帰しなくても問題はない。

 

 マクギリスはモンタークとして、カインは『マクギリス』としてもう暫く動くことになる。

 

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