鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
シャアザク二種類も、ファーストガンダムもVガンダムもいねえよ……。なんでこうも青に偏るんだ……。
カインと少女は、ラスタルによって引き取られてエリオン家が運営する孤児院に入れられた。その際戸籍を作る関係で名前を尋ねてみたのだが。
「名前しか知らない。親の顔も名前も知らない」
「なまえってなあに? 」
そんな状態だった。なのでラスタルが名付けることとなる。
特にカインには士官学校に通ってもらいたかったので、苗字が必要だった。そのついでに少女に名前を付ける。
DNA鑑定も行なって二人が兄妹ではないことが判明したので苗字も別にすることにした。
「カイン・ベリアル。それとジュリエッタ・ジュリス。それが二人の名前だ」
「あたしカイン・ベリアルー! 」
「違う。それはオレの名前。君はジュリエッタ・ジュリス」
「じゅり? 」
「……ジュリエッタ・ジュリス」
「ジュリ! 」
カインはジュリエッタに名前を教え込むことを早々に諦めた。二歳児に長い名前を覚えろという方が無理だろう。
ジュリエッタはこのまま孤児院に入って一般常識と子供としての当たり前を経験することになる。
だが、カインは別だ。
カインの勘の良さ。これは異常としか言いようがなかった。それは彼の経歴を聞いた時のこと。
ジュリエッタはまともに物心もついていないような状態だったので、話を聞こうにも要領を得ない。だからカインに乗ってきた船のことも含めて色々と聞いてみた。
「するとカインはヒューマンデブリとしてあちこちに売り飛ばされて、今回は捨てられる予定だったと」
纏めるとそういう話だった。物心ついた頃には大人に殴られる日々で、他の子供の世話係をしていたという。年長者がカインで、他の子供が煩いと殴られていたと。
雇い主がどういうつもりだったのか知らないが、とにかく子供が集められていたという。そして出荷と言われて小型船に乗せられて地球にやってきて、海に打ち上がったところ何とか陸に着いたらジュリエッタの具合が悪くなったということ。
乗せられた子供は合計五人いたが、他の三人は動かなかったために置いてきたようだ。
何とか街まで行って、薬が手に入らなかったので持っていると確信したギャラルホルンの隊員から奪うことを決意。それが最善だと思ったとのこと。
そして今に至る。
ラスタルは自分の領地に戻ってくる前にカイン達が乗っていたと思われる宇宙船を回収している。それは一目で宇宙船とわからないように岩石をコーティングしていて、ただのデブリのように偽装していた。
そしてその中から金髪の子供の遺体も三つ、見付かっていた。
死因は大気圏突入プログラムの誤作動による艦内の温度上昇による脱水症状と、着水時による衝撃による圧死。突入プログラムを用意した者はバカだろうとラスタルは呆れていた。
違法な海賊辺りにはそれが限界だったのだろう。むしろ二人生存できたことが奇跡だ。二人は衝撃を緊急用のクッションで緩和して平気だったらしい。
突入プログラムの誤作動もそうだが、本来の着地予定ポイントともかなりズレていたのでとにかく杜撰だったのだろう。
本来の届け先を知ったことで、またセブンスターズの腐敗を知ってしまったことは正直ラスタルを萎えさせた。
それがギャラルホルンの本部であるヴィーンゴールヴを纏める人間だというのが余計に。
カインの中では悲惨な目に遭ったために捨てられたと認識していたが、正確には男娼として迎え入れるつもりだったことは言わないことにした。これは一生、ラスタルの内で秘めることにする。
ジュリエッタは性別が違うが、おそらくミスかたまには女児もいいか、というくらいの認識だったのだろうと思うことにした。これ以上この件に深く関わると脳に蛆が湧きそうだったので思考を止めるラスタル。
しっかり届け先の座標や、『積み荷の伝票』は確保しておいたが。
「ではどうしてあの隊員が治療薬を持っているとわかった? 」
「勘」
「あの位置にあるというのは? 」
「勘」
「実行しようがしまいが、捕まるとは思わなかったのか? 事実私には捕捉された」
「……やるしかなかった。それと勘で、どうにかなるって」
ここまで勘頼みなことにラスタルは頭を抱えたが、むしろそれしか頼ることができなかったカインの境遇にこそ同情した。大人を信じられず、子供を押し付けられ、地球に放り出された。
そしてその勘が良い結果を運んでいるので、何かあると勘を信じて行動してしまう。
問題はこの勘の精度が勘で収まらないことだろう。
まだ四歳のカインに言語化を求めるのも酷だろう。引き取られた海賊のところでもある程度の会話ができるように仕込まれたようだが、それでも最低限のようで文字は全然読めなかった。
この勘は恐ろしすぎる。だからカインにも了承を得て、科学的に調べることにした。
主に、脳波を調べるという方法で。
小型艇を運転させるゲームをやらせて、そのスコアなどを記録していったのだが。恐るべき結果が出た。
「ラスタル様っ! この子は通常の人間よりも三割の脳を日常的に使っているのです! 彼の言う勘は、我らが感じ取れない細かい情報までも五感の全てを通して感じ取り、それが言語化できないために勘と言っているだけで我々が取捨選択して確信している出来事を、より尖鋭に感じ取っているのです‼︎ 」
「つまり我々の常識だと思われる知覚領域よりも、この子は更に深く細かく物事を理解しているということか? 」
「まさしくっ! 阿頼耶識を埋め込んだかのごとく、彼は自然と人間を超えている! 彼は新たなる人類と言って良いほど、我らとは種族が異なるのです! 」
「新人類、か」
エリオン家子飼いの研究施設で調べさせた結果、研究者達が発狂していた。それだけ興味深い結果だったのだろう。参加した研究者達が全員、食い入るようにデータに向き合っている。
「だが、カインが
「ではエリオン家の孤児院の子供達を調べさせていただきたい。特殊な一例なのか、進化の一端なのか」
カインだけが特別なのかを調べるために、エリオン家の全員に似たような試験を実施した。ラスタルとしても優秀な者が見付かるのならそれに越したことはないと、試験を許可。
結果、カインのように脳が拡張されているような者が一人だけいた。ジュリエッタだ。ジュリエッタはそれこそカインに匹敵する試験の結果を叩き出した。彼女はゲーム感覚で遊んでいただけだが、小型艇の操縦技術はとても子供とは思えないほど。
ラスタルはこの二人をまずは孤児院で育てて経過観察を行いつつ、一定周期で研究所に連れて行き、二人の能力に変化があったかを確認していった。
その結果を受け取りつつ、ラスタルは確信する。
彼らは
カインに、ベリアルの名前を与えて良かったとラスタルは過去の自分を褒める。
カインになら、エリオンの遺産を託しても構わない。そんなパイロットに育ててみせると、息込んだ。
だからまずは六歳になったら幼年学校に通わせることにする。士官学校に入るまでの繋ぎの教育機関だ。そこで基礎を養ってもらおうと考えた。
もちろん秘蔵っ子とするために、自分との関わりを全て消した経歴で入学させる。他のセブンスターズがやっていることに比べれば微々たる改竄だ。
もちろん入学させるまでに、研究所でできるだけの試験と調査、それにゲームと偽ってMSシミュレーターもやらせていた。MSの操縦のイロハを幼い時から徹底的に仕込ませる。
幼少期の学習は大人になった際の能力に影響するという研究結果もあり、また幼い時であれば物覚えが良い人間の習性から、カインはスポンジが水を吸うように様々な物事を順調に覚えていった。
ジュリエッタにも同じようにゲームとして様々なことを与えて、学習させる。
二人はラスタルの肝いりとして、丁寧に育てられていった。
──
カインとジュリエッタはよく二人一緒にいた。同じ感覚を共有する者として自然と一緒にいるようになっていた。同じ境遇だったということも大きく影響している。
そんな二人は孤児院の近くの花畑に来ていた。ジュリエッタが行きたいと言い、カインは付いていっている形だ。孤児院の大人にも二人で行っていいが決して手を離すなと言われた。
ジュリエッタはあまり覚えていないが、宇宙産まれのカインとしてはこのような花畑は珍しかった。緑が一面にあり、色とりどりの花がこれでもかと咲き乱れている。
自然の豊かさを実感しているのはカインだけ。カインが覚えている景色とは宇宙船の中の様子と暗い倉庫のような、人が暮らすような場所ではなかったボロボロの部屋。あとは窓から見える深淵を思わせる宇宙の濃い紫色と、デブリが浮いた宇宙のゴミ捨て場だけ。
地球に捨てられた直後は生き残ることに必死で海を楽しむ余裕なんてなかった。
コロニーにも入ったことがなく、他の火星やら木星やら、人が暮らしている星には行った記憶がない。そのためまともに人が住んでいる人類圏を見るのも初めてのことだったりする。
カインは花畑で何をするわけでもなく景色を楽しんでいたが、ジュリエッタは好き勝手にゴロゴロと転がって遊んでいた。
ジュリエッタがどこかに行ってしまわないよう、カインはジュリエッタから目を離さないようにしていたのだが、ジュリエッタの指に飛んでいた蝶が留まり、あろうことかそのまま口を広げていた。
カインは嫌な予感がしてすぐに駆け寄り、ジュリエッタの頭にチョップを下していた。
「あいたっ⁉︎ 」
チョップの反動でジュリエッタの身体が揺れたため、蝶は飛び立ってしまう。いきなりのことと痛みから涙目になりながら、上目遣いでカインのことを睨む。
「蝶を食べようとするな」
「カイン兄様。だって綺麗で、美味しそう」
「……美味しくないと思うぞ」
「兄様は食べたこと、あるの? 」
「ないけど……。小さくて、食べ応えがなさそうだ」
「確かに! 」
カインはそう説得した。あんな小さかったら、それに虫の成虫は美味しくなさそうだと直感が告げていた。
蝶の場合、多分鱗粉とかのせいで余計に美味しくないはず。
それに、エリオンの家の子には魔法の言葉がある。
「それにラスタル様が持ってくるお肉と比べたら、アレは全然美味しくないと思う」
「お肉! 食べたい! 」
そう、時折開催される
さすがセブンスターズの一角。豪勢なものである。
言葉だけでヨダレを出すジュリエッタだが、カインは更に追い打ちとして額を合わせて、今まで食べてきたお肉の味とイメージをジュリエッタに感応波として送る。
牛、鶏、豚はもちろんのこと、本当にごく稀に持ってくる羊、馬、兎などもある。そのお肉と、タレの味を事細かに伝えた。
するとどうだろう。
ジュリエッタは蝶を食べようとしていたこともすっかり忘れてしまったようだ。
「おっにくー! 」
「ラスタル様、あと三日くらいしたら来ると思う」
「兄様の予言、よく当たるから楽しみー! 」
「予言? 」
「みんな言ってるよ。カイン兄様はよげんしゃだって! 」
カインとしてはなんとなくそう思っただけで、確たる自信があるわけではない。ただ勘が冴えてそのことを言葉にしているだけなのだが、それがかなり的中するから不思議だ。
例えば雨が降りそうだとか、さっきもあったようにラスタルがいつ来るかとか。色々と当ててしまうために孤児院でも有り難がられている。
カインはジュリエッタに蝶のことを思い出させないために、手を引いて孤児院に戻る。
カインが五歳、ジュリエッタが三歳の時の話である。