鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
どうやらランキングに載ったようで…。感謝感激雨あられです。
鉄華団はブルワーズとの戦いを終えた後は順調に地球への航路を進み、第一中継地点とも呼べるドルトコロニーに到着した。アフリカンユニオンの公営企業であるドルトが所有するスペースコロニー群のことで、幾つものスペースコロニーがそこにはあった。
そのコロニーの一つ、ドルト2にテイワズから依頼された荷物を届ける仕事があった。鉄華団はその荷物の中身を知らず、見ることなく届けろという依頼だった。タービンズの名瀬曰くよくあることで、運送をする際は中の物など確認しない、詮索しないことが生き残るコツだという。
運送業で今の地位を築いた名瀬の言葉だったので、鉄華団は素直に聞くことにする。そのため誰も荷物のコンテナに触れることもなかった。
クーデリアは鉄華団が仕事をしている間に、ドルト3で買い物がしたいとオルガに進言していた。木星である歳星で買い物をしたとはいえ、地球へ降りる前の最後の補給ポイントでもある。アトラとフミタンも誘って買い物に行くことになった。
もしもがあってもいけないということで三日月とビスケットを護衛につけることになる。ビスケットは兄が働いているので顔を出したいということで志願していた。
ここで護衛の人選に驚くクーデリアと、向かう場所について表情を硬くするフミタンがいた。
クーデリアは昨日三日月に
オルガ達はドルト2へ積み荷の受け渡しに。三日月達は買い物へドルト3に。
彼らが近付くドルトコロニーが浮かぶ宙域にガエリオの乗ったスレイプニルが演習という名目で近付いていく。
そして銀色の髪をしたこの男も。
「さあ、見せてくれ。『革命の乙女』よ。アリアンロッドの鎮圧作戦を見て、君は何を感じる? どうやって世界へ嘆きを届ける? 」
そのつぶやきを拾い上げたかのように、そこかしこで事態は動いていく。
オルガ達は荷物の受け渡しにきただけなのに相手の歓迎モードと、鉄華団やクーデリアのことを知っているドルトコロニーの貧困労働組合員達のことが妙に感じ、詳しく話を聞いてみる。
するとどうだ。支援者なる者がクーデリアと鉄華団のことを伝えたという。名前も名乗らず、ただクーデリアの代理とだけ名乗って、火星以外の場所でも地球への反抗の狼煙をあげようとクーデリアが呼びかけているという話だった。
そう言われてオルガ達が持ってきた積荷を確認すると、戦闘用のMWに加えて武器弾薬が山ほど入っているではないか。
オルガも中身こそ確認していなかったが、リストには工業用の物資としか書いていなかった。それが蓋を開けてみれば随分と物騒な物が出てきたとなればオルガ達も警戒する。
そもそもの話。
クーデリアは武力を行使して経済圏と話し合うつもりは毛頭ない。クーデリア自身が戦えない人間だということもあるが、平和を勝ち取るために武力を使っては火星は本当の意味で幸せになれないという信念を持っていた。
鉄華団を雇ったのはあくまで自衛のため。圏外圏とは無法地帯と同義で海賊が多数のさばっているために、最低限の自衛手段が必要だった。クーデリアとしてもギャラルホルンが襲ってくることは想定外で、あくまで安全な航路のために武力を借りただけ。
武力で地球圏に訴えかけようなんて微塵も思っていないことをオルガは聞いていたために、労働組合員に訴えかける。
「なあ。あんた達は何をしようとしてるんだ? クーデリアは武力による反抗なんてしようとしてねえぞ? あんた達は武器を取って、誰と戦うつもりなんだ? 」
「そりゃあもちろん──」
「ちょ、やべえ! ギャラルホルンだ! 」
「何⁉︎ 」
組合員の焦る声と共に、ギャラルホルンの制服に身を包んだ者達が入ってくる。その者達はMWを見て携帯していた小銃を取り出した。
「違法な取引があるという通報は本当だったようだな! 全員その場を動くな! これより検閲を始める! 」
「お、おいオルガ。どうする? 」
「ひとまず見付からないように身を隠すぞ。向こうだって火星の騒ぎのことは知ってんだろ」
ユージンの問い掛けに、この場に来た鉄華団のメンバーはコンテナの奥へ隠れることにする。積荷を運んできてギャラルホルンと鉢合わせしました、となればクーデリアの依頼を完遂できないからだ。
荷を運び入れたことでテイワズからの依頼自体は終わっている。きな臭くなってきたが、すべきことはここを離れることだ。
幸いギャラルホルンの隊員は人数が少ない。どうにか目を掻い潜って船に戻ろうとする。
しかし。
「うおおおおお! 」
「なっ、嘘だろ⁉︎ 」
ここにある物が見られては不味いものだったからか、組合員側が発砲をしてしまう。それを皮切りに銃撃戦が発生。MWに乗り込んで生身の人間を追い出そうとする者もいた。
「それは……それは違うだろ! 」
力を手に入れた途端、暴虐に走ってしまう者達を見て、オルガはコンテナの奥から叫ぶ。鉄華団の面々は姿を隠しながらも、この惨状を受け入れ難かった。
彼らもCGS時代に壱番隊の大人を殺して会社を奪っている。だが、殺した者はクズ筆頭で、それ以外には脅したものの退職金を払いもした。それ以外の戦闘はあくまで降り掛かる火の粉を払うようなもので、自分達から積極的に仕掛けた戦闘はテイワズの傘下になるために覚悟を示すためにタービンズと戦った時の一度きりだ。
労働組合の者達が立ち上がるとしても、武器は必要ないはずだ。しかもその上で検閲に来たギャラルホルンへ反抗するように引き金を引く必要も。
特にMWに乗って生身のギャラルホルンの人間を追い払おうとするなど、明確な殺意がありすぎる。轢くにしろ、引き金を引くにしろ。過剰すぎる攻撃だ。
今反抗している彼らの姿が。
火星で襲って来た、MSに乗ってCGSのMWを蹴飛ばした姿とダブって見えた。
「くっ、負傷者が出た! 撤退しろ! 」
その言葉でギャラルホルンは撤退。検閲に来たら負傷者が出た、もしくは死者が出たなど許せないのだろう。
それに忠実に仕事をこなそうとしたら撃たれたのだ。この状況はどう考えてもギャラルホルンに理がある。
積荷が届いてすぐにギャラルホルンがやってくるのは都合が良すぎる気がするが、それでもこの状況が非常にマズイのはわかる。
「よし、勝ったぞ! 奴ら逃げていきやがった! 」
「ざまあみやがれ! 」
圧倒的な数を持ってして勝った組合員達は大喜びしているが、勝って当たり前の小競り合いだった。
戦力比から武器の違い、待ち伏せに近い状況。MWまで起動したのだ。勝って当然なのだが、今まで苦汁を嘗めてきたのか大喜びする者ばかり。
こんな小さな勝利による美酒がよほど美味かったらしい。そしてもう酔ってしまっている。非常に危険な状態だ。
「オルガ……。ヤバくねえか? 」
「ヤバいに決まってんだろ。名瀬の兄貴とも揉め事を起こすなって言われてる。ユージン、イサリビに戻るぞ」
「団長。あれ、ほっといていいのかよ? ギャラルホルンが何もしないでこの状況を見逃すとは思えねえぜ? 」
撤退行動を開始しようとして、情が深いシノが歓喜に溢れている連中を親指で指して尋ねる。
このままでは破滅すると、ブルワーズとの戦闘で仲間を失ったシノだからこそ気にかけてしまったのだろう。
だが、オルガは見ず知らずの相手にまで同情はしない。ヒューマンデブリとして過酷に使役されていたとなれば手を差し伸べるが、今回の事案は違う。
いい大人が自分の意思で武器を持ったのだ。しかもクーデリアを隠れ蓑にして。情報も精査しないままに。彼らの事情は知らないが、鉄華団として関わるのは違うとオルガは決断する。
「オレ達には関わりのない出来事だ。クーデリアの名前を勝手に使われるのは問題だが……主義主張が違いすぎる。こいつらの妄言としか思われねえだろ。本人がここに来たわけでも、正式な声明があるわけでもない。行くぞ」
「……ま、それもそうか。お嬢さんがいいように使われるのは俺も嫌けどよ。関わったら余計にヤバいから引くんだな? 」
「そうだ。三日月達とも連絡を取って引き上げさせろ。すぐにこのコロニーから離脱する。名瀬の兄貴にも報告だ。補給はしなくても大丈夫な量を歳星で確保してきたはずだ」
浮かれている連中を尻目にオルガ達は移動を開始する。ここにきたスペースランチがあるのでそれで帰ろうとした。
だが、それを止める者がいた。労働組合の、この反発行動の代表のようだ。
「鉄華団の皆さんですね? ナボナ・ミンゴと申します。この度はこれらの提供、ありがとうございます。我々もクーデリアさんに感化された者同士、詳しいお話といきませんか? 」
「悪いな、ナボナさんとやら。オレ達はギャラルホルンと事を構えるつもりはねえ。他を当たってくれ。荷物運びっていう仕事は終わった。受領のサインももらったし、振り込みをここで待つつもりもねえんだ」
「え? あ、あなた方はクーデリアさんの護衛をしているんですよね? ギャラルホルンと戦うのではないのですか? 」
「それとギャラルホルンと戦うことと、何が繋がるんだよ? 」
実際、この後はギャラルホルンと戦うこともあるだろうと考えていた。クーデリアは有名なので地球へ降りるために無茶をしなければならないだろう。これからのことはタービンズと相談もしているので地球へ降りる時に地球外縁軌道統制統合艦隊と一当たりする可能性はあったが、それ以外に手を出すつもりはない。
元々向こうから手を出してくるのであって、鉄華団としては戦うつもりはなかった。
「経済圏の人間に会いに行って交渉をするのに、何でギャラルホルンと戦うんだよ? 」
ギャラルホルンは世界の治安維持組織だ。経済圏へ戦争を起こさないように監視はしているものの、組織系統は別のものだ。
このコロニーを経営しているのはアフリカンユニオンという四大勢力に数えられる経済圏の一つ。
労働組合が訴えかける相手はアフリカンユニオンであって、ギャラルホルンではない。ギャラルホルンはアフリカンユニオンからの依頼でこのコロニーの暴動鎮圧などを請け負っているのだろうが、労働組合には直接的な関与がない。
先ほどの行為は、本当にただの暴動でしかなかった。
鉄華団としても、向こうが何かと理由をつけて戦いを仕掛けてくれば迎え撃つが、嬉々として殴り込みに行くような者はいない。ギャラルホルンの巨大さはわかっているからだ。
「行くぞ、お前ら」
「あの、団長。三日月さん達には通信手段がなくて、定時連絡以外で連絡が取り合えません」
「そうだった……。とにかく、イサリビに戻ってからだ。ヤマギ、戻ったら整備班を動かしてくれ。何があるかわからない」
「はい」
オルガ達は移動を開始する。ランチに乗って積荷の依頼主がGNトレーディングという会社だったこと、タービンズのハンマーヘッドへの連絡。出航準備。
そういうことをしている間に、ドルト3で労働環境改善のためのデモ行進が始まったと一報が入る。それと時を同じく、三日月から定時連絡が入ったので今すぐ脱出するように命令を出した。
兄に会いに行ったビスケットだけ戻ってきていなかったので、戻ってきたらすぐに脱出すると三日月が言い。
オルガは三日月達を拾うためにスペースランチの用意をする。イサリビで着艦するのは危険だと考え、鉄華団のマークが付いていないランチを差し向けた。
その周りに、多数の戦艦が向かってきていると知らないまま。
──
「鉄華団……。お前達が武器なんて持ってこなければ……! 」
「え? 武器……? サヴァラン兄さん、どういうこと? 」
ドルト3の公園のベンチに座って話していたビスケットと兄のサヴァラン。
家族二人っきりで会って話していて、途中までは普通の会話だったのだが、ビスケットが今は鉄華団で働いていると話した途端、サヴァランが顔を蒼くさせたのだ。
話がわからずビスケットは聞き返すと、オルガ達が知ったことをビスケットも把握した。
積荷の中身。労働組合がやろうとしていること。兄がその労働組合とドルトカンパニーの折衝役をこなしていること。サヴァランとしては武力による行動なんてとって欲しくないこと。
「労働環境も、生活環境も酷いことはわかってる……。だが、武器を持つことだけは違うんだ。そんな暴力的な訴えをドルトカンパニーが、アフリカンユニオンが聞き入れるわけがない! コロニー公社なんてもんは、利権のことしか頭にないんだから! 」
「交渉をしても無駄だから、武装蜂起……」
「抗議デモとは言っているが、過激派も多い。確実にそうなる。それに武器を運び入れられる場所なんて限られている。今頃はギャラルホルンに嗅ぎつけられているだろう。お前も、利用されたんだよ……! 」
これから起こることを理解したビスケットは、立ち上がる。
彼は彼で鉄華団としてやるべきことがあるのだ。ここにいては巻き込まれる。そして組合が後ろ盾として使いたい人間が、ここにはいる。
「兄さん。俺達を火星に送ってくれて、ありがとうございます。クッキーもクラッカーも、元気に過ごしています。生活はまだ、苦しいけど」
「……二人と、桜ばあちゃんによろしく伝えてくれ。生きて火星に帰れよ」
「兄さんも巻き込まれないように気を付けて」
ビスケットは走り出す。幸い三日月達との集合場所はさほど離れておらず、向こうもオルガから連絡を受けて走り出していた。
クーデリアに最低限の変装をさせて、五人は港へ向かう。できるだけ路地裏を通って最短距離でオルガ達と合流しようとする。
その行く先を止める不審な人物がいた。
腰に近いほど伸ばした銀の髪に、目元を隠す金の仮面。成人男性にしては高い背丈、がっしりとした体格。着ている服もどこかの貴族を思わせる気品のある物だった。
仮面のせいで怪しさ全開だった。
「一度お目に掛かりたいと思っていましたよ。クーデリア・藍那・バーンスタイン。ここがどうなるか、ご存知の様子。それなら話は早い。私からあなたへ、一つ贈り物だ。鉄華団に武器を運ばせた者の依頼書。これをテイワズからの依頼書と照らし合わせるといい。ノブリス・ゴルドンが浮かび上がるはずだ」
「え……? あなたは一体……? 」
「あ、良かった〜。クーデリアさん、この変な人と知り合いなのかと思っちゃった」
仮面の人物を知らないと言ったクーデリアにアトラは一安心する。
そのアトラの隣で、三日月が首を傾げながら問い掛ける。
「チョコの人、何やってんの? 」
「「「……え? 」」」
三日月の言うチョコの人。それは他の四人全員が知っていた。
なにせ火星で会った時に、全員その場にいたからだ。クーデリアとフミタンは隠れていたが。フミタンだけは声に出さなかったものの、三日月と仮面の人物へ視線を行き来させている。
仮面の人物は面白いと言いたげに、口角を上げた。
ぶっちゃけこの時の労働組合側って、言い訳できないほどやらかしてるよねって話。