鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
ミッションバトルの9・10コンプリートは無理ですね。諦めが肝心。
鉄華団がアリアンロッドの艦隊から逃げ切ってしばらくして、タービンズのハンマーヘッドと合流した。先程の戦闘はテイワズとして有名すぎる彼らは加わることができなかったのだ。
合流してすぐに行なったことは鉄華団のMSの修復だ。今回の戦闘でかなり派手にやられたために、地球へ降りる前にどうにか準備を整えなければならない。
先程の戦闘は、クーデリアの機転で止められたが、やったことはアリアンロッドの作戦行動の妨害だ。MSも複数倒してしまったので、ガエリオの横入りが原因だとしてもギャラルホルンの敵として認定されてしまったことだろう。
つまり、確実に地球外縁軌道統制統合艦隊と事を構えることになる。そうなるだろうと予測していても、本当にそうなるとわかっていれば入念な準備が必要になる。
ボロボロのままのMSではダメだ。だから移動しながらやれることをし始める。
そこへ、モンターク商会を名乗る船が接近してきた。
「モンターク……」
「確か、火星で三日月達が会ったギャラルホルンの一人が名乗ってたんだったか? 」
「はい。ドルトでは私達に手を貸してくれましたが、警戒が必要な相手でしょう」
「トドもいるんだよな……」
クーデリアとオルガは確認した後に、名瀬も含めて会うことにする。真意を測ろうとしたのだ。
代表のモンタークはドルトの時と同じく仮面を被ったままだった。
「こっちはあんたがギャラルホルンの人間だとわかってる。そっちもそれを承知の上で商談と言いに来たんだろう? 目的は何だ? 」
「ドルトでは話していませんでしたね。簡単な話、ギャラルホルンという組織における革命を為したいと考えています。内部からするにも限度がありまして。あなた方は外部から働きかけるには最適の人物だと判断したためです」
「……内部から? 名前は」
「失敬。マクギリス・ファリドという」
マクギリスは仮面を外しながら名乗る。素顔を見たことで、そして名前を知ったことでその場にいた全員がマクギリスの正体を把握した。
名瀬は顔写真も見たことがあった。それほどまでに有名な人物だったからだ。
「ファリド家の嫡男……! 驚いた、そんな人物が出て来るなんてな」
「セブンスターズの一角……。そんな特権階級様が改革だと? 」
「特権階級だからこそだとも。あの組織は腐っている。内部からどうにかできるレベルを超えた。外的刺激がないと更に腐敗を増やすだけだ」
「だから、クーデリアの革命の支援をしたいと? お前さん、ハーフメタルの利権なんて口実に過ぎないんだろう? 」
「いえいえ、実益も兼ねている。モンターク商会としては見逃すわけにはいかない。革命の支援も、もちろんさせてもらうが」
名瀬はセブンスターズが相手だとわかっても、その特権を使用してこないことがわかったためにタメ口で話していた。マクギリスも自分を売り込むための交渉に来ていたので、立場は自分の方が低いと感じて何も言わず。
だが、正体を言ったことでマクギリスも敬語はやめていた。
「支援って、具体的には? 」
「地球降下のためのシャトルを用意した。武器弾薬はもちろん、地上で使うことになるMW、そしてMSの予備パーツ。リストはこれだ。特にガンダム・フレームの予備パーツともなれば貴重のはず」
オルガがタブレットを受け取り、リストを確認していく。かなりの納品数にオルガは驚き、横から覗き込んだ名瀬も、物品のリストから本当に貴重なガンダム・フレームの拡張パーツがあったことに本気さを知った。
「そしてこれも見ていただきたい」
「これは……? 」
「ノブリス・ゴルドンの、遺産相続に関する書類だ。彼の会社を監査したところ、これを見付けて手続きは済ませてきた。彼の物は一切合切君に引き継がれる。クーデリア嬢」
「え……? 」
同席していたクーデリアは、額縁に入れられ厳重に保管されたソレを見る。高級な和紙で作られたその書類は、本人に何かあった時のために資産家が用意しておく遺書のような物だ。遺産相続で揉め事になることは目に見えているので、資産家は必ずこういった誓約書を作成している。
その効力は絶大だ。電子書類ではハッキングなどで改竄される可能性があるので電子で用意された相続書の効果は薄いが、紙でできた物なら誰もがその文言に従う。
しかも、署名の脇にとある物が付いていれば確実だ。
「おいおい、血判付きってことはマジじゃねえか……! これの、DNA判定は? 」
「もちろん済んでいる。今回の納入品のほとんどは、彼の会社の商品だ。クーデリア嬢の物を持ってきただけで、サービスになるのは一部の商品と運送費だけと考えていい」
「……確かに私の支援をノブリスはしてくれましたが、自分が倒れたら会社の名義以外の全てを私に移譲? 血縁でもない私に……? 」
「ノブリスってのはどうなったんだ? 」
「地球の風土病を患ったようでな。寝たきりになってしまった。既に生きているだけの植物人間だよ。大方地球へ旅行にでも行った際に発症したのだろう」
ノブリスの遺産が相続されるなら本人がおかしくなったはずだとオルガが確認すると、マクギリスが律儀に答えた。
これはフミタンが調べた情報と合致する。地球のとある地域で有名な風土病で、老人はあまり罹らず、感染しても発症までに時間がかかるものだという。
「詳しい相続についての書類も用意した。これらには君のサインも必要だから後で目を通しておいてくれ」
「は、はい」
「ああ、それと。地球外縁部で待ち受けている地球外縁軌道統制統合艦隊の戦力図も渡しておこう。これで作戦を立てるといい」
「……これ、アンタも組織の腐敗の一部だよな? 」
「むしろ象徴かもしれん。だからこそ壊したいのだ」
「ああ? 」
オルガは訳の分からない返答をされて首を傾げる。
鉄華団は十分な補給を受けて地球降下作戦を実行。ブルワーズから拿捕した戦艦を囮にする作戦で戦場を混乱させ、シャトルによる降下を実施。
その際また突っかかってきたガエリオとアインを三日月が返り討ちにし、アインが重傷を負う。
鉄華団は負傷者を出すことなく降下を成功させた。
その様子を紅いMS、ヴァルキュリア・フレームの一機グリムゲルデから見ていたマクギリスは小さく嘆息する。
「……ガエリオ、俺を失望させないでくれ。権力を笠に着た出撃、お前もただのセブンスターズに成り下がるのか? そうなれば、お前は邪魔になる……。アルミリアの手前、俺に手を下させないでくれ」
そう呟いた後、カインへメールを送る。
これから取るカルタの行動が、手に取るように分かったからだ。
彼女は自分の役目を全うしようと躍起になっている。だというのにギャラルホルンが警戒する鉄華団とクーデリアの地球降下を許してしまった形だ。
いくらマクギリスが戦場でも彼らを支援したとはいえ、本当にお節介程度の支援だった。それがなくても彼らは作戦を成功させていただろう。
今、カルタ・イシューという存在に脱落されては困るのだ。だが、ガエリオ・ボードウィンなら替えが効く。効いてしまう。
「さて、どうしたものか」
────
「マクギリス、どうして私達が地球へ降りることに許可が下りないの⁉︎ 地球外縁軌道統制統合艦隊の作戦行動圏内に地球も含まれているのよ‼︎ 」
『それは百も承知の上だ、カルタ。それでも私はヴィーンゴールヴ本部の決定を君へ伝えなければならない。カルタ・イシュー一佐、地球外縁軌道統制統合艦隊の宇宙戦力は現状維持のまま、宇宙の監視を続けること。これが本部の決定だ』
カルタがヴィーンゴールヴへ通信を行なったところ、受けたのはマクギリスに変装しているカインだった。マクギリスからメールを受けて、本部でカルタが獲り逃した事実を確認し、本部がどうするのかの決定を聞かされ、そのまま伝書鳩の役割を担っていた。
この役割をさせられた理由は同じセブンスターズで腐れ縁だからだ。
「……私達は領分を犯していないわよ? 」
『カルタはな。だがガエリオが二度も監査局以上の権限で戦場へ出撃している。部下も引き連れた上に、その部下を負傷させたという。それに本来であればガエリオの休暇も終わっているが、まだ戻ってきていない。私達もヴィーンゴールヴで待機している状態だ』
「ガエリオ坊やのせいじゃない……! 」
カルタが歯軋りをする。
ガエリオが参加した作戦で、どちらも鉄華団を逃しているというのがヴィーンゴールヴでは問題になっていた。火星では火星支部のあまりのやらかしのせいで見逃され、監査局としての仕事は全うしたのでお咎めなし。
その頃はクーデリアも注意人物程度で、今のように危険視していなかった。だがドルトの一件で一気に重要人物となり、次もまた何かやられそうだと警戒しているのである。
ドルトの一件ではクーデリアを逃す口実作りに貢献してしまったのがガエリオだという見方もできる。鉄華団のイサリビは
火星支部に犠牲を出した鉄華団だが、火星支部は然るべくして被害を出したのだ。追撃に出たのは彼の独自判断で、監査局の権限を超えている。ギャラルホルンの意向も無視した形だ。
ドルトでの作戦を遂行していたラスタルはガエリオの行動について気にしていないとは公言しているものの、ラスタルの邪魔をしたという意見を出す者もいる。
そして今回の地球外縁軌道統制統合艦隊へ参加してまた失敗したことが大きい。しかも本来であれば監査局に所属する者として職務に戻っていなければいけないのに、それをぶっちぎっての独断行動だ。
その上で部下を負傷させたとなると、組織としてはセブンスターズの御曹司ともいえども忠言しなければならない。
いや、この場合はセブンスターズだからこそと言った方がいい。それほど彼らはギャラルホルンの象徴になっているのだ。
このような処置をされた理由の一端には、イオクの決闘騒ぎがある。セブンスターズの愚行がギャラルホルンに知れ渡ってしまったことが大きい。二人目となると、セブンスターズの威光が陰るのだ。
同じような失敗をカルタにもされては堪らないと、行動を制限。幸いなことにクーデリアが誰を頼って、次にどういう行動に移るのかは分かっていたので、そこで網を張って待っていればいいのだ。
『カルタ。ガエリオはいつになったらこっちに戻ってくる? 』
「負傷した部下の治療がひとまず済んだから、これからシャトルに乗せて降ろすわ。ただ今日中には無理よ」
『アインの容体は? 』
「……生命維持装置で生かされているだけよ。コックピットの損傷と一緒に四肢と内臓のいくつかをやられて、ヘルメットも割れたことで酸素も減っていた。生きているのが奇跡というほどの重傷ね」
『……分かった。ヴィーンゴールヴに直接降りてくるんだな? 』
「ええ、そうよ」
それだけ聞ければカインとしては十分だった。
これ以降は、カルタを宇宙へ留まらせるための言葉を吐くだけだ。
『カルタ。宇宙にはドルトの時のように、クーデリアを担ぎ上げて武力蜂起しようとしている者がまだいるようだ。アリアンロッドも捕捉次第制圧しているようだが、彼女に続けと地球へやってくるかもしれない』
「そこまでする連中がいるの? 」
『可能性の話だ。そしてそれが事実ならば、地球圏が火の海になる。ギャラルホルンを、地球を殴っても何をしてもいいナニカだと誤認して襲ってくるだろう。それを防ぐ防波堤になってほしい。それができるのは地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタだけだ』
「マクギリス……」
マクギリスが言いそうなことをトレースするカイン。ギャラルホルンの総意をまるで自分の言葉のように使うマクギリスの思考にカインは少しだけ辟易する。
そしてそんな言葉で頬を赤くしているカルタのチョロさも心配してしまう。
『私達は監査局だから何ができるかはわからないが、地球のことは地球に任せてくれ。今は宇宙の方が混沌としている。エリオン中将とも連携してギャラルホルンの確固たる力と立場を示せとのことだ。イシュー一佐』
「ええ、分かったわ。ファリド特務三佐。こっちはこっちでなんとかする。もう二度と失態を見せないわ」
『張り切りすぎて視野を狭めないように。幼年学校から君にはそういう癖がある』
「〜〜〜〜〜ッ! ええ、忠告ありがとう! もうあの宇宙演習のような失敗はしないわ! 」
カルタはそう言い切って通信を切る。
一仕事を終えたカインは息をゆっくり吐きながら、マクギリスが早く帰ってくることを願った。
他人のフリをするのは思考を別にするために結構疲れるのだ。