鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
短いです。
ガエリオがヴィーンゴールヴに帰ってきた時には、既にマクギリスとカインの入れ替えは終わっていた。カインからすれば重い荷がようやく降りたと思っている。
一緒に帰ってきたアインの様子を診断書と一緒に見る。彼が乗っていたシュヴァルべの状態も確認して、どんな有様か把握した。
メイスのような物がコックピットにほぼ直撃。むしろ即死していないのは幸運と言っていいほど酷い状態だった。生命維持装置で生かしているだけというのも正しい。この装置から外したら彼は生きていけない。
だからこそ、マクギリスはガエリオへ選択肢を与える。
「ガエリオ。二つに一つだろう。このままにするか、身体を機械に委ねるか。ギャラルホルンの技術力といえども、彼がこのまま目覚めることはない」
「……アイツの復讐心。上官の敵討ちはどうなる」
「叶えるなら選択肢は一つしかないぞ。ギャラルホルンだからと、何でもできるわけではない」
アインが復讐を叶えるには、阿頼耶識システムに身を任せるしかない。それ以外に意識を取り戻す手段は存在しなかった。
ガエリオもそのことをわかっている。だが、阿頼耶識システムを受け入れられないガエリオのことだ。人間が人間らしい証拠を失うのを恐れている。
マクギリスが説得しようと歩み寄ったが、その前にカインがガエリオに近付く。
「ガエリオ様。阿頼耶識システムは義足や義手と何ら変わりません。あなたは、それらを着けた者は人間と認めないのですか? 」
「それとこれとは違うだろ⁉︎ 阿頼耶識は、ギャラルホルンが禁止した技術だ! 」
「なぜ禁止したのか、知っていますか? 」
「それは、危険だからだろう? 」
「いいえ。
「……は? 」
カインの言葉に、ガエリオはもちろん、マクギリスも破顔する。
カインのほとんどの情報源はマクギリスだ。だが、マクギリスはカインにそんなことを教えた覚えはなかった。
だが、このまま説得できそうならいいかと傍観することにする。
「阿頼耶識は本来、ガンダム・フレームに乗るために開発された物です。昔は危険でもなんでもなかったと、研究の結果判明しているようです」
「だが、ナノマシンは子供の時にしか定着せず、致死率も高かったはずだろう? 」
「それは今出回っている物が粗悪品だからです。子供にしか使用できないのであれば、アインに使用するなんて話になっていません」
「……そうだな。となると、ギャラルホルンが阿頼耶識を禁止したのは……」
「使えば誰でも、戦力になってしまいます。字の読めない子供がMSを操り、ヒューマンデブリとして使い潰されるように。人類が下手に戦力を得て戦争をしないためと、子供の未来を案じてのためです」
カインがそう言うと、ガエリオは腑に落ちたように頷く。
鉄華団と直接戦ったからこそ、身に染みているのだろう。そしてヒューマンデブリという存在についても。
禁止する理由はわかったが、ではそれをアインに使用するのは良いのかという話になる。
「抑制しようとするギャラルホルンが、禁忌のシステムを使うのか」
「ダインスレイヴと同じく、いざという時に使えるように技術を、兵器を所持することは抑止力として必要です。MAがこの時代に発見されないとは限らないので」
「奴らはMAではないぞ? 」
「この一連の騒動は厄災戦に匹敵しかねないほどの火種に膨れ上がっています。燃え上がる前に止めなくてはならないのです」
「このまま放っておいたら、そうなると。いつもの勘か? 」
「はい」
迷いなく言葉を並べ、断言するカインの様子を見てガエリオも決心をする。
アインへ手術を行うことを。
「ガエリオ。これ以上の独断行動は禁止だぞ。お前には監査局として働いてもらわなければならない」
「……アインは大丈夫なのか? 」
「火星支部からの預かりで監査局の我々と同行してもらっただけだ。まだ彼の所属は宙ぶらりんのまま。アーブラウ方面軍に捩じ込むくらいはできる。それしかできないと言うべきか」
「わかった。今度は仕事をしよう。アインのことを信じて送り出すだけだ」
二度の無断出撃によって、ボードウィン公に絞られたのだろう。覇気がないながらも頷いていた。
「で? 今度の出張先はどこだ? 」
「喜べ。今回の監査先はヴィーンゴールヴ。移動は必要ない」
「……ここ? いや、確かにヴィーンゴールヴの監査なんてしたことがなかったか……? 」
「本部だけしないということはおかしいだろう。いくら我々が本部付きの部隊だとしてもな。ガエリオ、アインの手術が終わってからの仕事でいい。それを見守る義務が、お前にはある」
「……ありがとう。マクギリス」
「カインは悪いがすぐに仕事に取り掛かってくれ」
「はい」
こうしてガエリオの拘束と、本部を調べる口実を手にしたマクギリス。実際ヴィーンゴールヴは百年単位で監査されていなかったので、他の場所を監査する以上、一度は監査した方が面目が立つのだ。
マクギリスが思い浮かべる絵は簡単だ。
ギャラルホルンが腐敗したことを多くの者の目に届かせる。復讐心に囚われたアインは鉄華団を殺そうと暴走するだろう。
アーブラウの首都エドモントンに住む住民や、そこで行われる選挙のことなど二の次で鉄華団を優先する。それは今までガエリオに同行したということから、ギャラルホルンの本質を捨てて私心で行動しているとわかる。
クーデリアと鉄華団の最後の成功談には大きな障害が必要だ。アインにはその障害になってもらう。
ガンダム・フレームという、厄災戦の英雄同士が戦うのは美しくない。そういう理由でガエリオとガンダム・キマリスをアーブラウから排除した。
このついでにイズナリオの癒着やギャラルホルンそのものの腐敗を暴くつもりだった。
アインの手術が始まった頃、マクギリスとカインは例の如く密会をしていた。
「しかしカイン。ああも簡単にアインを見捨てるとは思わなかったぞ? 」
「クランクという上官だった男に囚われすぎて現実が見えていない男です。MSの操縦技術も並。庇う理由がありません」
「そう言ってやるな。アレは犬と同じだ。自分の主人を見付けて、それにくっつくだけの迷い子。
「そもそも、秩序の番人が私怨で動くことがおかしいのです。我々の計画を推し進めるための礎になれる。彼も復讐心を満たされる。結構なことではないですか」
これはマクギリスの狗としての言葉ではなく、カインの本音だった。
上官の間違いを諌めず、自分にとって都合の良い上官に尻尾を振るう。組織の法を破ることも厭わない。
アインの行動にはガエリオも悪い部分はあるが、ガエリオはまだ間に合う。今回勝手にエドモントンに向かわなければ修正が効く。
だが、アインは手遅れだ。彼はクジャン家に仕える家臣と同じように思考を放棄している。
カインが気に食わないのは、クジャン家を思い出すからというのもある。
「アレがギャラルホルンの末端なのだよ。中枢部が腐敗していれば、枝の先も腐敗していて当然。あの思考こそ唾棄すべきもので、排除すべき象徴そのものだ。出身そのものから迫害を受けていたとしても、俺やカインはどうなる? アインはただ、
「強くなろうとするのではなく、八つ当たりがしたいだけ。与えられた力で満足する子供です」
「その子供にはめいいっぱい暴れてもらおうじゃないか。英雄の名声を高めるには、巨悪が必要なのだから」
────
鉄華団は地球に降りた後、クーデリアが交渉をしようとしていたアーブラウの代表、蒔苗東護ノ介と合流するが、彼は失脚して亡命中だったために交渉も何もなかった。その代わり選挙に出れば勝てるというので彼をエドモントンまで運ぶことになる。
クーデリアと鉄華団はギャラルホルンの様々な部隊と交戦してしまったために、街へ入るどころか応戦されてしまった。これはイズナリオが手を組んでいるアンリ・フリュウに当選してもらうために蒔苗をエドモントンへ入れないために戦力を動員したためだった。
お互い市街地戦をしない良識があり、鉄華団は蒔苗とクーデリアを議事堂に運ぶためにMSで大規模な陽動を行い、その間に車両で彼らを運び入れる作戦に出る。
結果、街の外では紛争と言っていいほどの戦闘行為が勃発。どちらも本気でぶつかり合ったことで膠着状態ができていた。
三日も戦闘が続いたために、選挙の期日が間近となってオルガはMS部隊に指示を出す。
街のギリギリまで突っ込んで、相手の注目を浴びることだ。MWでも違う方面から攻撃を仕掛ける二面作戦。護衛はオルガとビスケットのMWのみという強行突破作戦を発動。
その作戦も途中までは上手く行っていた。ギャラルホルンが、いや、彼がやらかさなければ。
間に合ってしまった援軍、グレイズ・アインに乗ったアインがエドモントン内に降り立ったのだ。
MSのエイハブ・リアクターは様々な電気機器へ電波障害を起こすため、市街地やコロニー内で使用することは禁止されていた。主に使う側のギャラルホルンが禁止したのだが、今回はギャラルホルン側が破った。
この映像は、マクギリスの手の者である戦場カメラマンがバッチリ撮影しており、すぐに全世界にこの悪行が広まる。
三日月もオルガ達を守るために街へ入って交戦。激しい戦闘になり、エドモントンの住民を巻き込んだ破壊活動が続く。
結果として。三日月が阿頼耶識を通してバルバトスの力を引き出して勝利。代償に右目の視力と右手の自由を失ったが、クーデリアの護衛をやり遂げた。
蒔苗も再選し、ハーフメタル事業やクリュセに関する交渉を火星と執り行うこととなる。
これにて鉄華団の初仕事は終了。
これに合わせてイズナリオの癒着も明るみとなり失脚。ヴィーンゴールヴはマクギリスが率いることとなる。
ガエリオも今回の一件で監査局ではなく、ボードウィン家の職務である四大経済圏の監視業務を行うこととなる。
ギャラルホルンでも大々的な人事異動が起こり、様々な問題に対処していくことになる。
カインもまた、これまでの立場とは異なる職務に就くこととなった。