鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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今回で幕間は終わりの予定です。


26 アリアンロッドの日常

 クロウリーがアリアンロッドに編入してからしばらくして。

 

 クロウリーのことが話題にならない日はなかった。

 

 食事を徹底して自室で摂るため、素顔がわからない。怪しい。

 

 准将、または中将相当にしてはかなり気さく。わからないことは聞けば答えてくれる。階級相応に博識。

 

 任務中でなければずっとガンダム・フレームのコックピットにいて何かを弄っている。その時は何を話しかけても反応がない。怪しい。

 

 やたらMSの操縦技術が高い。シミュレーターではグレイズやゲイレールを使ったものの歴戦のパイロットが惨敗。曰く慣れているとのこと。

 

 ずっとアリアンロッドにいるわけではなく、時たまフラリといなくなり、一ヶ月帰ってこないこともザラにある。怪しい。

 

 食事を食べた後は食器などは本人が片しに来る。その際炊事係に「(さすがアリアンロッドだ。良い食材と良い腕の職人が集まっている)美味しかった」と告げたために食堂の者からは評価が高い。

 

 経歴を聞いても何も答えてくれない。アリアンロッドの前には機密保持局にいたので戦績などはデータに残っていないのだとか。怪しい。

 

 女性の扱いに慣れているのか、ラスタルの友人だからか。とにかく女性を立てることが多い。対応も紳士的で、女性隊員からの評判はむしろ良い方である。この間も言葉巧みに女性の荷物を運んだという。

 

 准将にそんなことはさせられないと女性隊員も断ったのだが、気付いた時には荷物は全て持たれて笑顔で談笑していたという。そんな恐れ多いことをしたと気付いたのは全てが終わってからだという。怪しい。

 

 書類仕事が速く、彼に提出した書類は一日を経たずして纏め上がる。それどころか他人の書類も終わらせて、ミスがあれば指摘してくる。文官顔負けの速度と精度だった。

 

 顔を隠している理由を聞くと、大火傷をして見せられる顔ではないから。声の加工も補助器を使って話しているため。顔は絶対見せられないとのこと。怪しい。

 

「という調査結果が出た! この結果から貴官はアリアンロッドに相応しくないと判断する! 退艦命令を下したいが、一方的では貴官も承服しないだろう。そのため、ここに私イオク・クジャンがレメゲトン・クロウリーに決闘を申し込む‼︎ 」

 

『……確か、そのようなことが以前地球でもあったと記憶している。アレはセブンスターズ同士のいざこざだったか……。それも貴官から切り出した案件だったはず』

 

「返答はいかに⁉︎ 」

 

『うん? 受ける意味がないだろう。私を退艦させよという声が過半数にも昇るのならばその決闘も受けざるを得ないが、私はそのような声を聞いていない。これでも私なりにアリアンロッドの者達とは良い関係を築けていたと自負していたが』

 

 イオクの決闘騒ぎを一蹴するクロウリー。

 

 決闘なんて双方の合意がなければ成立しないものだ。しかもクロウリーとしてはイオクに飲ませたい条件があるわけでもない。

 

 それに実際どう思っているのか、アリアンロッドの者に聞いてみた。本当に嫌がられているのであれば決闘を受けるだけ。そして返り討ちにすれば良いのだ。

 

「クロウリーの旦那? 顔隠してるのはまあ、怪しいが……。何日か経てば見慣れちまったし。迷惑もかかってないんで」

 

 とは一般兵。

 

「あ、クロウリー准将! また今度書類仕事について教えてください! あの書類、本部にすっごい好評でして! 本部の方もあの形式を正式形式にしようと連絡が」

 

『わかった。空いていればいつでも手伝おう。それとヴィーンゴールヴにもアレを雛形にするのは許可すると返答を』

 

「はい! 」

 

 とは女性文官。

 

「准将! また模擬戦やりましょう! いつ空いてます? 今? 」

 

『すまない、今は聞き取り調査をしている。一尉はそんなに私と模擬戦がしたいのかね? 実力ならばジュリス二尉も変わらないと思っているが』

 

「あー、ジュリエッタもタイマンなら良いんですけどねえ。視野の広さ、部隊での即応への対処に関しては准将が群を抜いてます。エースとはなんぞや? という回答を頂けたようなもんですよ。なのでまた二中隊ほどと訓練でもと」

 

『なら時間を調整しておこう。都合の良い時間を申請しておくように』

 

「やりぃ! 」

 

 とは中隊の部隊長。

 

「クロウリー准将、ですか。確かに怪しいですし、ラスタル様を呼び捨てにするのは如何なものかと思いますが……。公私の区別は付いていて、作戦中は一貫してラスタル様を上司として敬っています。MSパイロットの腕は疑いようもなく、様々な事務仕事も速い上に隊員から良い評価を聞きます。……何故だかイラっとしますし、模擬戦で勝てないことは純粋に悔しいですが、追い出すほどのことではないかと。ラスタル様の信頼も厚いようですから」

 

「お前もか、ジュリエッタァァァ! 」

 

「というか、決闘? イオク様が? 私でも中隊を組んでようやく勝てるのに、一対一で勝てると思っているのですか? 寝言は寝てから言った方が良いかと。あの方はどのような出世をしたかは不明ですが、准将までなった方です。MSパイロットをしているということは士官学校を卒業したばかりのイオク様と戦歴が隔たっていますよ」

 

 とはジュリエッタ。ラスタル腹心の部下までもクロウリーを擁護したことにイオクは悔しがった。

 

 そして、それを聞いていたクロウリーが廊下の角から出てくる。今までは一緒に聞いていたが、イオクに言われて隠れていたのだ。

 

『君がそれほど私を買ってくれていたとは思わなかったよ。ジュリス二尉』

 

「……隠れていたことに気付かないとは、不覚です。そして女性の話を盗み聞きしているとは、評判の紳士さが感じられません。私はそのような扱いを受けた覚えがないのですが? 」

 

『ラスタル司令から、君は戦士として育てるようにと言われている。君を次のアリアンロッドの旗頭にしたいようだ』

 

「……私を? ラスタル様が? 」

 

『市井では『革命の乙女』が一大ブームとなっている。今でも低い立場である女性を男性と同じまで上げる運動が多くなっているのは君も知っているな? ……男女の性差による不平等は歴史上何度も問題になっているが、今もそんなことで人類は踏み止まっているとはな。厄災戦以後は子供を産める女性こそが人類の希望として持て囃されていたというのに。歴史は循環するようだ』

 

「ハァ」

 

 クロウリーの自分への態度を咎めたら歴史の話になっていたために、ジュリエッタは生返事をしていた。

 

 それにしても初耳だったのはアリアンロッドの旗頭にジュリエッタが添えられるという話。ジュリエッタはそういう話は一切聞いていなかった上に、そういう教育がされているわけでもない。

 

 女性の権利が低いのは特に宇宙だと顕著だ。ヒューマンデブリだとか労働層だからとか関係なく、女性というだけで酷い待遇を受けるということが散見される。

 

 ギャラルホルンはまだマシなのだが、他はそうはいかない。

 

『事実、ギャラルホルンでも女性ながら上に立つ者は少ない。軍隊がそういう場所だからと言ってしまえばそれまでだが、ギャラルホルンも経済圏からモデルケースとなるためにせっつかれているのが現状だ。女性がギャラルホルンでも出世できるとなれば余計な暴動が減るからな。経済圏はその辺りはギャラルホルンと足並みを揃えるつもりがあるらしい。カルタ・イシュー准将も頑張っているが、それだけでは足りないとラスタル司令は考えている。そこで君だ』

 

「アリアンロッドというギャラルホルン最大規模の軍事力を持つ部隊で矢面に立つパイロット、ということですか」

 

『その通りだ。政治に利用してしまうことになるが、君は今まで通り任務をこなせば良い。君の場合は孤児だということも大きな注目の的となるだろう。……煩雑な視線も増えるだろうが、それがひいてはギャラルホルンのため、ラスタル司令のためになると思って我慢してほしい』

 

 クロウリーは誠意を持って頭を下げる。准将という立場で一士官にそこまでするのかと驚いたジュリエッタは、自分が頭を下げさせているのだとわかってすぐに頭を上げるように懇願した。クロウリーも他の者に見られたら困ると思ったのかすぐに頭を上げた。

 

 そして、ジュリエッタは純粋に感じたことを聞き出す。

 

「あの。孤児でも出世できると宣伝したいのであれば、カイン・ベリアル特務三佐はどうなるのでしょうか? 彼も孤児ながら一佐待遇まで駆け上がった方だと思いますが」

 

『ああ、彼か。彼の場合はギャラルホルン内に敵が多くてな……。監査局という仕事柄仕方がないのだが、彼は更迭させた者が多い。それで推しづらいとラスタル司令は言っていた』

 

「そう、ですか。私以上の適任だと思ったのですが」

 

『ふむ。確か彼とは幼年学校で知り合ったのだとラスタル司令が言っていたな。所属する部隊が異なるというのに、存外信頼しているらしい』

 

(この人でもカインと私、ラスタル様の関係を知らない……? ラスタル様の旧友だというのに? 『髭のおじさま』は知っていた。むしろ指導していたこともあったと。でも同じギャラルホルンのこの方が知らないとなると……。この方、何者なの? それとも、イオク様の前だからそういうことにしているだけ? )

 

 ジュリエッタはクロウリーの言葉に困惑していた。自分達の関係性とどう関わるのかわからず、後でラスタルに聞いてみようと思ったジュリエッタだった。

 

 一方イオクはクロウリーとジュリエッタの話の内容がわからず、頭の中で整理しようとしていて聞き逃してついていけなかった。

 

 宿敵のカインの名前が出たのはわかったが、どう繋がるのかわからずに困惑しているのはジュリエッタと同じだった。

 

「ジュリエッタ、貴様まだカインのことを調べているのか? 優秀なことはわかるが、同じ部隊に入れさせたくはないぞ」

 

「階級は上ですよイオク様。それにアリアンロッドの戦術パターンを増やした人物です。尊敬こそすれど、疎う理由はありません」

 

「やけに肩を持つな……。幼年学校の頃も二人でシミュレーターの訓練をしていたし、ジュリエッタはカインが好きなのか? 」

 

「……ハァ⁉︎ 」

 

 イオクのいきなりの発言に、ジュリエッタは顔を赤くさせる。頬どころか額や耳の先まで真っ赤で、それはウブな少女のようだった。

 

 そのような女性らしい仕草を見せたことがなかったジュリエッタにイオクは驚く。ジュリエッタと言えばアリアンロッドに入りたくていつも必死な人物だった。時間があれば訓練に時間を費やし、かと思えば時折空をぼおっと眺めていたり。

 

 目標も一つで、ずっと頑張り続ける軍人の鑑のような子供だった。まるでそんな手本を知っているかのように。

 

 イオクからすれば凄い人物という印象が強くて、一人の女性だという認識がかけていたようだ。

 

 なんとなく思ったことをポロリと溢したら、まさかのガチ照れに逆に驚いていた。

 

「だ、誰が誰のことを好きだと⁉︎ イオク様は脳までおかしくなりましたか⁉︎ 」

 

「待て、脳までと言ったか⁉︎ まるで脳以外も悪いところがあるようじゃないか⁉︎ 」

 

「その目元の赤い刺青はセンスないなと常々思っていますが⁉︎ 」

 

「このオシャレさがわからないとは、猿か! センスのない非人間め! 」

 

「軍人にオシャレが必要だと⁉︎ ワンポイントのチャーミングさと痛いオシャレを勘違いした人にセンスを説かれたくないですね! 」

 

「女っ気の欠片もない貴様がカインに恋などと私の目が節穴だったわ! それにカインはあんな化け物染みていてもセブンスターズに追い縋る出世株だからな! さぞモテて貴様など眼中にもないだろうよ! 猿が人間様に恋をするはずもないか! フハハハハ! 」

 

「おや、それを言いますか! 幼年学校や士官学校で女子生徒に『他のセブンスターズの方々ならまだしも、タレ眉イオクはなぁ……』と言われていたイオク様が偉くなったものですねえ! きっと素敵な彼女がいらっしゃることでしょう‼︎ 」

 

「な、何⁉︎ 私はそんな風に思われていたのか……っ⁉︎ まさかのマクギリス・ファリド以下⁉︎ 」

 

「……出自を除けば完璧超人ですよ? ファリド公」

 

「バカな⁉︎ 」

 

 そんな容赦ない応酬が交わされて。

 

 置いていかれたクロウリーが一言。

 

『……君達は仲が良いな? 』

 

「「誰が⁉︎ 」」

 

『その息の合ったところが』

 

「不快です! 誰がイオク様なんかと! 」

 

「まったくだ! こんな猿と息が合うなどと! 」

 

 二人してプンスカしていたところに、一人の足音が聞こえる。結構な大声で話していたので近くを通りかかった者に聞かれていたのだろう。

 

 クロウリーはその人物の接近を知っていたが二人には伝えなかった。

 

「面白い話をしているな? イオク、ジュリエッタ」

 

「「ラスタル様⁉︎ 」」

 

 クツクツと笑うラスタルが現れる。ジュリエッタは敬礼をしようとしたが、軽く手を振ってやめさせる。ジュリエッタには特に目をかけているので、廊下で会ったくらいで一々そんなことをされても困るのだ。

 

 やめろと言っても軍規なのでジュリエッタはやめない。特に他者の目がある場所では。

 

「そうかそうか。ジュリエッタはカイン特務三佐が好きなのか。デブリデータを貰ったおかげでプライベートナンバーは知っている。報告しておこう」

 

「や、やめてください! あの、その! 兄! そう、兄のように慕っているだけですので! 」

 

「うん? そうなのか? クロウリー、どう思う? 」

 

『……若い娘を揶揄うのは老いた証拠だぞ。ラスタル』

 

「それは困るな。まだまだ俺は現役なのだが。二人が結婚するならドレスやら式場やらの手配が必要だと思ったのになあ」

 

「話が飛躍しすぎです⁉︎ それにラスタル様もまだお若いです! 」

 

「かと言って俺とカインならカインを選ぶだろう? 」

 

 ニヤリと笑ってラスタルは問う。クロウリーがやめろと言っても意味がないようだった。

 

 そう問われたジュリエッタはボンッ! と聞こえてきそうなほど頭の先から湯気を出し、小さく頷いた。

 

「……ら、ラスタル様は父のような方なので。ど、どちらかを選ぶとなるとどうしても……」

 

「よーし、酒でも飲むか! クロウリー、付き合え! 」

 

『待て⁉︎ 何故そうなった! もしや今の会話の前から酔っていたわけではないだろうな⁉︎ 』

 

「娘が恋をした。それだけで親としては祝福すべきだろう! カインの人格は俺も認めている。今日はもう任務も書類仕事もないからな! 」

 

『ああ、もう……! アリアンロッドの司令も、ただの親バカか! 』

 

 上機嫌に肩を組んで去ってしまうラスタルとクロウリー。

 

 まるで確定事項のように話が進み、頭を抱えてその場に踞るジュリエッタ。

 

 カインに恋していると確信したジュリエッタに、あんな化け物を好きになるなんて趣味が悪いなと冷たい目線を送るイオク。

 

 こうしてアリアンロッドの何気ない日常が過ぎていく。

 

 こんな日は貴重だ。いつ暴動や海賊の襲撃があるのかわかったものではないのだから。

 

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