鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでカスタム10が増えてきたので初投稿です。
でも素材全然足りねえよ…。


原作二期(P.D.325)
27 明朝を拝めない者達・1


 ヴィーンゴールヴ本部にて。

 

 まるで祭壇のような、たった一機だけそこに置かれた格納庫。セブンスターズのそれぞれの家紋が記された扉と、ギャラルホルンのシンボルが描かれたその場所は、ヴィーンゴールヴでも一番大事な場所だった。

 

 そこに立つ、純白の天使のような一対の羽のようなスラスターが着けられた機体。ギャラルホルンの象徴とも呼べる伝説のガンダム・フレーム。

 

 アグニカ・カイエルが搭乗した最初の一機。ガンダム・バエルがいた。

 

 そのコックピットに手をかけているのはカインだった。カインは本部の監査の名目でP.D.325年の初頭、ここを訪れていた。

 

 バエルの整備は毎年行われてきた。この機体を起動させられればギャラルホルンの全権を得るという眉唾な噂もある機体だ。起動させるためと、神輿として最低限のことはできるようにと整備だけは続けられてきた。

 

 その整備と研究は正しい予算内で行われているか監査するという名目で、カインはここを訪れていた。

 

 本当の目的は、この機体に宿るというアグニカ・カイエルの魂が本当にあるのかを調べるためだった。

 

 ラスタルから自身の出生を聞いて、腑に落ちることばかりだった。『方舟計画』について朧げながら記憶にあり、ガンダム・フレームは『方舟』を守るために()()()動かしたこともあった。

 

 MAは自分達にとって不倶戴天の敵であり、同胞を殺し尽くした仇敵だ。そのことを思い出してカインは怒りに震えたが、そのMAはどこにもいない。であれば、この怒りをぶつける相手もいない。

 

 怒りを鎮めながら機体に触れるが、それはある意味予想通りだった。阿頼耶識システムはあくまで機体と人体を繫ぐだけのもので、魂の保管をするようなものではなかった。いくら人体と機械を一体化させようと、魂までは繋ぎ止められなかったようだ。

 

 そもそも、三百年以上経ってしまっている。今の医療技術によって百年以上人間が生きられるようになっていても、流石に三百年は長すぎたようだ。

 

 微かな残り香は感じても、もう語りかけることはできなさそうだった。

 

「アグニカ……。いや、父さんとでも呼ぶべきなんだろうか。あなたがどんな気持ちで『方舟』を送り出したのかわからない。勝手に子供を作られて良い迷惑だっただろう。いつかはMAを倒すための兵器になるクローンなんて、あなたには疎ましいだけだったのかもしれない。けど、オレはこの時代に目覚めて良かったと思ってる。だから、ありがとう父さん」

 

 それだけ伝えて去る。

 

 ギャラルホルンへ真実を告げる理由もない。特に魂なんて実証の難しいものだ。魂が宿っているかどうかなんて重要視している者もいないだろう。

 

 カインが部屋を出た後。

 

 バエルのツインアイが動いた、かもしれない。

 

────

 

 今回の本部の監査に合わせて、セブンスターズの定例会合が行われていた。最近の宇宙での海賊の活発な活動が問題になっており、そこへマクギリスが火星へ本部の部隊を送ることを提案していた。

 

 今地球圏は火種が広がっておらず、コロニーや宇宙海賊の問題が大きくなってばかりだ。エドモントンの一件でヒューマンデブリ、阿頼耶識システムの有用性を示してしまったためにそれらを利用して武力で訴えかける組織が急増していた。

 

 また、MSがなければどうにもならないと様々な宇宙の端に行ってジャンクMSを拾い、修復して使用する武装集団が増えた。結果、アリアンロッドは大回転の大忙しとなっていた。司令であるラスタルと第二艦隊司令に就任したイオクがセブンスターズの定例会合に欠席することがしばしばあるほどだ。

 

 今回は二人とも出席したが、明日にはもう宇宙へ上がる予定だった。ラスタルはジュリエッタを連れて孤児院へ焼肉パーティーへ向かう。

 

 そんな中セブンスターズ三羽烏と呼ばれているマクギリス、ガエリオ、カルタはカインも含めてヴィーンゴールヴの一室でお茶会をしていた。宇宙も地球でもかなりの混乱が生じており、四人が纏めて休暇を取れないので定例会合に合わせてカインが休暇を取ったりここへ職務として来ることで時間を合わせていた。

 

 会話のタネは、先程の定例会合で決まったことだ。

 

「マクギリス、随分と突拍子もないことをするじゃない。本部の部隊を動かして圏外圏の、それも火星近辺の海賊退治なんて。エリオン公が許可したからいいものの……」

 

「まったくだ。いや、言い分は最もなんだぞ? アリアンロッドの疲弊具合を鑑みて、本部の練度を落とさないための実戦経験を積む。本部の守備隊は精鋭が集まっているとはいえ、小さな紛争でもないと駆り出されないからな」

 

 カルタとガエリオがマクギリスへ苦言を呈する。いくらアリアンロッドが大変だからといってアリアンロッドの活動圏内に割り込む行為であり、かなりの越権行為だった。

 

 本部の練度が心配だというのも本音であり、アリアンロッドへ休暇を与えたいというのも組織を維持するための本音だ。

 

 だがカインからすれば、火星にいる鉄華団と共同して事を成したいのだというマクギリスの真意がわかっていた。あとは火星で橋頭堡を作り上げて活動範囲を広げたいとか、そういう理由だと。

 

 ラスタルもその真意に気付いているだろうから、カインがすることは黙秘することだけだ。お茶を飲んでいるだけ。

 

「案の定、イオク・クジャンが突っかかってきていたし……。あの坊やも成長しないわね」

 

「私は目の敵にされているからな。お互い当主を引き継いだためにこうやって定例会合で顔をあわせるから接触禁止令は解除になったが、これが目に見えていたから決闘の条件にしたのだが……。全てご破算だ」

 

「アルミリアにはまだ有効なんだからいいだろ。それだけでもお前が身体を張った理由はある」

 

「妻を守るのは当然だろう? 」

 

 そのマクギリスの言葉にカインは何も言わなかったし、カルタが悲痛な表情をしたことを見過ごした。

 

 マクギリスとアルミリアの婚約が正式に成立しても、カルタはまだマクギリスを諦められないらしい。

 

 マクギリスのアルミリアに対する愛は本物だ。だからこそ、この人間模様には何も口を出さなかった。

 

「お前らの仲が良好なら何も言わないさ。カイン、お前は今回の作戦に参加するのか? 」

 

「最近MSの戦闘を行なっていないので本部より参加するよう言い渡されました。つまり、マクギリス様の名指しですね」

 

「マクギリス……。それは横暴じゃないかしら? そんなことをしていいのなら、私もカインを引き抜きたいのだけど? 」

 

「監査局は本部預かりだ。それにカインの戦闘能力は折り紙付き。もしもの際の保険のようなものだ。私は本部を離れられないからな」

 

 カインは特別監査顧問になってからシュヴァルべに乗って戦闘を行なったことはなかった。カインの実力が知れ渡っていることもあるが、セブンスターズでも失脚するとわかった一般隊員や役職付きは監査局に大仰に反抗することをやめたのだ。

 

 事実様々な場所で鎮圧活動が多くなっており、腐敗にかまけるほど暇ではなくなっているということも大きい。

 

 カインも戦場から離れて久しいので、この辺りで錆を落としてもらおうとマクギリスは考えていた。それに内部の腐敗はカインがかなりの場所を巡ったのであらかた潰し切ったということもある。

 

 だが、今のカインの身分は便利なのでマクギリスもラスタルもこのままにしておこうと考えていた。

 

「あー、相手って宇宙演習の時の『夜明けの地平線団』だったか? 俺達に負けてから更に規模を増やしたらしいぞ? 」

 

「地球圏には全く顔を出さなくなったわね。どれだけの相手がいるのかも不明よ。昔は神出鬼没とまで言われていたのに。どこかの誰かさん達に分隊を壊滅させられちゃったからかしら? 」

 

「ギャラルホルンが大々的に士官学校生が壊滅させたと宣伝したからな。だが、そのせいで圏外圏は危険になってしまった。圏外圏の民からギャラルホルンの信頼を失うのは避けたい」

 

「だからってたったの三隻で向かいますか……」

 

 カインとして文句があるとしたらそこ。明らかに戦力が足りていない。いくら鉄華団に力を借りるとはいえ、戦力比が明らかに釣り合っていない。

 

 マクギリスからすれば全て鉄華団とカインが潰すとでも考えているのだろう。

 

 カインはやれと言われればやるが。

 

「ここを空にするわけにはいかないのでな。カイン、頼んだぞ」

 

「了解致しました。できる限りはやりましょう。つきましては、先日提出しました新装備のテストも兼ねたいのですが」

 

「ああ、アレか。本部の技術課が試したいと言っていた新装備群。構わん、好きに使うといい。許可を出しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

「新装備? 」

 

 カインがマクギリスに許可をもらった新装備。それがガエリオには気になったようだ。

 

 本部の技術課が提案する装備は、基本厄災戦当時のデータを再現しようとするものばかりだ。ガエリオが今キマリスに施している地上用の追加脚部も本部の技術課の提案によるもの。

 

 カインはタブレットにその新装備のデータを表示してガエリオとカルタに見せる。そのデータを見ていった二人は渋い顔をしていた。

 

「これ、使えるのか? 」

 

「使えますよ? 質量の関係で完全に宇宙専用の追加装備ですが」

 

「カイン。この実証データが取れたら私にも頂戴。私の部隊でも使用するわ」

 

「確かに防衛でも使える装備ですね。マクギリス様、構いませんか? 」

 

「もちろん。多大なる戦果を期待する。カイン特務三佐」

 

「は。期待に添えてみせます」

 

 お茶会を解散した後、マクギリスが鉄華団に連絡を取ると鉄華団も『夜明けの地平線団』に火星で襲われたという。渡りに船であり、戦力を派遣することを伝えて協力関係が構築された。

 

 カインもマクギリスの腹心の部下である石動(いするぎ)と一緒に火星に向かった。

 

 火星に着いて鉄華団と面会した際、説得は石動に全て任せてカインはそこにいただけ。今回の作戦を主導するのはヴィーンゴールヴ本部であり、カインは保険でしかない。折衝などは関わらなかった。

 

 石動は相手に悟られないために部隊を二つに分けて、挟撃作戦を取ることとした。鉄華団には矢面に立ってもらうことになったが、それを団長のオルガは承諾した。

 

「こちらはお願いしている側だが、構わないのか? 」

 

「指揮権はこっちにくれるんだろう? ならそこまで問題じゃねえ。それにアンタがいるならその無茶なお願いって奴も聞き入れてやる。この一回こっきりだがな」

 

 オルガの視線の先にはカイン。付き添っただけで話題を振られるとは思っていなかった。

 

「団長さん。オレが何かしたのでしょうか? 」

 

「何って……。ミカの治療してくれただろ。こっちも『夜明けの地平線団』には襲われてるし、また襲われちゃかなわねえ。奴らの知名度から倒す価値もあるし、こっちにも利益はある話だ。んで、俺達は恩義には報いる。それだけの話だ」

 

「そうですか。義理人情に厚いとは、『革命の乙女』も見る目があるようで」

 

 カインの存在がこの共闘を後押ししたとなれば、それだけでここにきた意味があるというものだ。マクギリスはこれも考慮してカインを送ったのかもしれない。

 

 ギャラルホルンと鉄華団の話も纏まったので帰ろうとしたカインだったが、その通路の途中で三日月とアトラが反対側からやってきた。

 

「あ、ライオン」

 

「……だからライオンはやめてくれ。カイン・ベリアルだ」

 

「あれ? この前は違う名前じゃなかった? 」

 

「カインが本名だ。モンターク商会では本当の名前を名乗るわけにはいかない」

 

「こんにちは、カインさん! 」

 

 三日月の愛称呼びに、カインは訂正を求めた。様々な偽名を名乗ってきたが、ライオンだけはどうしても受け付けないのだ。

 

 ライオンとは言ってしまえばアグニカ・カイエルその人。カインは自分の出自を知ったからこそ、ライオンとは呼ばれたくなかった。自分のことをライオンの紛い物、虎とかその辺りだろうと思っていた。

 

 アトラは三日月の治療をしたためか、かなり好意的にカインのことを捉えているようだった。今も笑顔で挨拶をされた。

 

「こんにちは。君は確か鉄華団の炊事係だったね。名前を聞いても? 」

 

「あ、そういえば名乗ってなかったかも。アトラ・ミクスタです」

 

「改めて、カイン・ベリアルだ。マクギリス・ファリド准将の部下としてここにいる。今回の戦闘にも参加する予定だ」

 

「ねえ、アトラ。准将ってどれくらい偉いの? 」

 

「さあ? でもすっごく偉いんじゃない? だってセブンスターズでしょう? 」

 

「ふーん。チョコってそんなに凄かったんだ」

 

 三日月の愛称呼びは変わらないらしい。カインもそれを個性と捉えて深く言及しないようにした。

 

 マクギリスも気にしていないどころか、三日月をやたら気に入っているので変に訂正しなくていいだろうと判断。ライオンと呼ばれるのは本当に嫌だったが。

 

「右腕と右目、変わりはないか? 」

 

「ん、ああ。あんまり動かないし、あんまり見えないけど変わんないよ。バルバトスと繋がれば前と変わんないし」

 

「そうか。……君は、アグニカ・カイエルになるなよ」

 

「誰? それ」

 

「ガンダム・フレームと一つになって、笛を吹き続けて。望んだ世界を見られなくなった偉大(バカ)な人の名前さ」

 

「ふうん? バルバトスと一つになったら農業もできなくなるし、アトラを慰められなくなる。だからいいや」

 

「み、三日月っ⁉︎ 」

 

 アトラが顔を真っ赤にして、しれっと答えている三日月の顔を見て。

 

 いきなり桃色空間が出来上がっていたことにカインは辟易としていた。

 

 カインの周りはマクギリスとアルミリアといい、カルタといい、すぐにこういう空間を形成する。

 

 カイン自身は作りたくても作れないのに。

 

 だが、彼がアグニカを目指さないのは良いことだと頷く。

 

「人が人のままである世界。アグニカもオレも、作れなかった。でも、その結果こうして産まれる関係もある。……君達の未来が明るく照らされていることを、祈るよ」

 

「俺達はみんな、オルガの目指す場所へ走るだけだよ」

 

「そうか。前を見過ぎて、隣や後ろの誰かを蔑ろにしないように。アトラさんも彼の手をよく握っておくと良い。やりたいことや目標ばかりに目を向けていると、身近な大切なものを見逃してしまう」

 

「そんなもん? 」

 

「ああ。オレはそうやって、後悔してきた。もう少し手を握ってやれば良かったと思ってる。少し歳上からのお節介だ」

 

 カインが実感を込めてそう言うと、アトラはうーんと考え込んでしまう。

 

 そして「あ」と何かに気付いたような声をあげた。

 

「もしかしてカインさんって、好きな人と離れ離れなんですか⁉︎ 」

 

「……あー、そうだね。別に死に別れをしたわけじゃないが、あまり言葉を重ねてこなかった。今も寂しい思いをさせている、と思う。だから、近くにいるのならできるだけ寄り添っているべきだ。特に戦闘に身を置いているのなら、尚更に」

 

「死んじゃったら、手も繋げないか」

 

「そう言うことだ」

 

 カインがそう言うと、三日月はアトラの手を握る。右手で握っていたので握力はあまりなかったが、それでもしっかりと繋がっていた。

 

「ライオンも、その人を泣かせてるなら抱きしめてあげれば? それだけで良いんじゃない? 」

 

「……殴られそうだな」

 

「大変なんだね。んじゃ、戦いになったらよろしく」

 

 二人は手を繋いだまま行ってしまう。いきなり積極的になった三日月に動揺したのか、アトラは口をパクパクしたまま三日月に引き摺られていった。

 

 カインも若い二人を守るために、艦に戻ってシュヴァルべの調整に戻ることにした。海賊退治は十二時間後。

 




なぜかパソコンで「マクギリス」と打つと予測変換で「ポプテピピック」と出てくるのだが……。
何故?

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