鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでシロー・アマダさんを二枚抜きしたので初投稿です。
……ジュドーは?


28 明朝を拝めない者達・2

 鉄華団とギャラルホルンの共同部隊は『夜明けの地平線団』の首魁がいるとされる艦の捕捉に成功していた。追いつくまでの間はパイロット達は休息に充てて戦闘に備えた。

 

 肉眼でも戦艦を把握できる間合いに入った時、鉄華団とギャラルホルンからすれば誤算となる事実が発覚した。

 

 敵の艦隻が三ではなく十二だったのだ。

 

 おそらく全ての『夜明けの地平線団』がそこには集結していた。何故三隻しか確認できていなかったかというと、昔鉄華団がやったように他の艦で残りの艦を牽引していたのだ。それではエイハブ・リアクターを検知できない。

 

「まあ、そんな簡単に行くわけがないと思ってたけど」

 

 カインはコックピットでそうごちる。そんな単純な話ではないといつもの直感が告げていた。本当に三隻しかいないのであればカインも出撃を取りやめたかもしれないが、これだけ敵がいるのであれば新装備のテストも十分に行えるだろうと思っていた。

 

 『夜明けの地平線団』の頭であるサンドバルが、余裕綽々な態度で鉄華団に降伏宣言をしてきたらしい。それをカインは聞くことはなかったが、オルガは真っ向から拒否。むしろその程度の戦力で自分達を潰す気かと煽り返していた。

 

 その返しを持ってして、戦端は開かれた。鉄華団が前に出て海賊達と戦っていく。

 

 そんな報告を石動から聞いていたカインは、一人出撃用意をしていた。

 

「鉄華団だけにやらせるわけにはいかない。オレも出るぞ、石動」

 

「はっ、申し訳ありませんカイン特務三佐。挟撃までの時間を稼ぐために自分も出ます」

 

「いや、いい。石動は予備戦力として控えていてくれ。ギャラルホルン側はオレ一人でいい。相手はこの規模だ。鉄華団もオレも補給が必要になってくる。代わる際の第二戦力として待っていてくれ」

 

 石動の方が階級は下であるが、今回の作戦の責任者でもある。挟撃のタイミングを計ったり全体の状況を把握する必要があるため、MSで出撃するのは最終手段として取っておくべきだ。

 

 それにカインも、新装備を試さなければならない。今回は的が多く、とても実験向きだった。

 

「鉄華団との関係をこれからも維持したいのなら、戦闘は彼らに大部分を任せた方が良い。我々ギャラルホルンが出せるものは多いが、彼らが出せるのは戦力と火星の情報くらいだ」

 

「相手の領分は守るべきである、と? 」

 

「そうだ。火星近郊で動かせる戦力は限られている。そう見せることで相手も大々的に戦力を貸すという相互利潤関係を構築できる。信頼を得やすくする、と言った方が良いか。特に彼らは阿頼耶識の恩恵でパイロットの練度は非常に高い。こちらが見せるのは連携と数が精々の部隊だと見せるのが一番だ」

 

「……それではあなたが出る理由と矛盾しそうですが? 」

 

 石動の指摘はもっともだが、それに対する答えももちろん用意しているカイン。

 

「戦力が貧弱すぎても手を組むには及ばないと思われてしまう。ある程度の力の誇示は必須だ。それにオレの場合はマクギリス様の部下ではあるが、この部隊の人間ではない。そういう言い訳が効く存在だ」

 

「わかりました。ではご武運を」

 

「ああ。こちらは任せる」

 

 石動との通信も切れて、カインは出撃のためにカタパルトに乗る。

 

 カイン特有の紅のシュヴァルべ・グレイズ。これに各部へリアクティブ・アーマーを装着し装甲を強化。さらに脚部側面と両肩にミサイルポッドを装着。両腕にバズーカを持ち、サブマシンガンや滑空砲などを背面部にラックしていた。

 

 この重量を万全に動かすために追加プロペラントタンクを二本付け、スラスターも倍増。これによって大火力を高速機動できるような強襲機へとカスタムしていた。

 

 やりようによっては防衛にも向くこの大火力と追加装甲を見て、カルタもこのデータが欲しいと言っていた。

 

「カイン・ベリアル。シュヴァルべ・グレイズ・FAカスタム、出る! 」

 

 カタパルトから射出されたカインはそのままフットペダルを踏み込んで加速。既に様々な光が漂う戦場のど真ん中へ向かっていった。

 

 その道中にいたユーゴーやガルム・ロディへ確実にコックピットへバズーカを直撃させて沈黙させていた。

 

 カインはMSが多くいた場所に向かうまでに、右腕の装備をマシンガンへ変えていた。敵も気付いてカインへ様々な弾丸を放つが、それを右腕のマシンガンで全て撃ち落としていた。

 

 そしてすれ違いざまにコックピットか背面のスラスターを狙撃して行動不能に追い込んでいく。十機を撃ち落とした後、カインはマシンガンを一度背面ラックに戻して腰部に備えていたバズーカの弾倉を入れ替える。

 

 力もフルに使って敵と味方、ぶつかりそうな物を全て感知。それを避けた上でワンショットキルをかましていった。

 

 敵の中央は鉄華団に任せて、カインは左翼を撃ち滅ぼしていく。

 

 『夜明けの地平線団』はいつも数で敵を圧倒していった海賊だった。数年前のギャラルホルン襲撃事件の後から更に戦力の拡大をしてきたが、エースはあまり育たなかった。

 

 それもそのはず。既にその時にはギャラルホルンに負けたとはいえ喧嘩を吹っ掛けてくるような組織もおらず、いたとしても数で押し潰して併合してきたのだ。自分達が圧倒的に不利だという状況を経験しておらず、数のゴリ押しをすれば勝ててしまう。

 

 勝ててしまうのだから、強くなる理由も薄れていく。特にサンドバルは宇宙演習で失った戦力を補充するために、そして戦力とは何かを考える際にすぐ数へ結び付ける人間だったので数ばかり増やしていた。

 

 確かに戦力は増えたが、その数によって恐れられた集団は個の戦力が育つ土壌がなかったのだ。

 

 今回だって鉄華団を潰すつもりだったのに、鉄華団がギャラルホルンを引き連れてきていた。それでも見えたのは鉄華団を除いてたった一隻だったので倒せると増長した。

 

 ギャラルホルンが強いことはサンドバルも承知の上だった。だから宇宙演習以降ギャラルホルンには手を出さなかったし、今回は戦力比が四倍だからいくらギャラルホルンがいてもひっくり返せないだろうと踏んだのだ。

 

 鉄華団は所詮エドモントンでたまたま成功し、成り上がった新興組織。どうとでもなると思ってしまった。

 

 それが、絶対的なエースによる戦力比の打破という現実をもたらすと気付かずに。

 

 蓋を開けてみればどうか。中央は鉄華団によって突破されつつあり、左翼に至ってはギャラルホルンの一機に壊滅状態だ。今も左翼の戦艦が一隻、カインのシュヴァルべが落とした。鉄華団も負けじと戦艦を落とす。

 

 数は圧倒的に上だ。

 

 だが阿頼耶識システムによって回避性能が高いパイロットを揃えた鉄華団と、宇宙においては特に感知能力が増幅されたカインにはまず攻撃が当たらない。近付いたところで反撃され、どんどん撃破されていくのだ。

 

「こ、こんな筈ではっ⁉︎ もう良い、俺も出る! 」

 

 サンドバルは痺れを切らして自分で出撃することにした。部下が不甲斐ないなら自分で事態を解決するしかないと考えた。

 

 というか、それしか取れる手段がなかったと言えるだろう。ここにいる戦力が『夜明けの地平線団』の全戦力だ。鉄華団の所有する火星のハーフメタル採掘場を攻撃して失敗した時点でサンドバルなりに警戒して部隊を動かしたのだ。

 

 これだけの戦力があって負けるなんて想定していなかった。ギャラルホルンに負けたのは不鮮明な情報ながら、騙されて士官学生ではなく本隊に負けたのだろうと考えていたからだ。それだけギャラルホルンが提示した情報は信じられなかった。

 

 士官学生四人に、分隊一つが滅ぼされたなんて。

 

 だが、左翼で猛威を奮っているMSが真紅のシュヴァルべ・グレイズだと聞いて嫌な予感がしていた。

 

「ま、まさかあのコロニー公社の反乱を治めた三機のシュヴァルべ……。その内の一機だとでも言うのか⁉︎ 特に紅いのはそのカラーリングと回避性能から、『紅鬼(あっき)』とまで呼ばれるギャラルホルンのエースじゃなかったか⁉︎ 」

 

 時折現れる紅のシュヴァルべ。誰も真似しないカラーリングながら、出てくる戦場では圧倒的な戦果を見せる化け物。

 

 海賊退治には滅多に現れなかったが、その姿を見た者は殺されるか、捕まって拷問にかけられるという噂が広まっていた。

 

 カインはただ職務に忠実だっただけだ。捕らえた者も尋問をしただけで拷問はしていないが噂には尾ひれがついていた。

 

 ギャラルホルンの内外でも怖れられるエース。挑発的なカラーリングに見合う戦果を引っさげてくることから、戦場で見たら逃げろと武力組織に広まるほどだった。カインはこの噂を知らなかったが。

 

 というか、後にこの二つ名を聞いて恥ずかしがった。

 

「カイン特務三佐。鉄華団で補給のための戦線の入れ替えがあるようなので私も出ます。特務三佐はまだ大丈夫でしょうか? 」

 

「ああ。スラスターも弾薬もまだ余裕がある。石動は鉄華団の補佐を。こっちはもう終わる」

 

 カインは石動と通信しながらも、左翼の艦隊を全て撃沈していた。この『夜明けの地平線団』は戦力を持ってして海賊行為に走り、武力で強奪に走る輩だったので捕らえるのではなく徹底的な排除を行なっていた。

 

 残ったMSも弾薬の節約のために両腕に持った鉄剣で叩き潰していた。

 

 左翼の戦力、戦艦三隻とMS三十機を全て無力化させて、鉄華団の邪魔をしないように右翼にでも行こうかと考えている頃、大規模な戦力が右翼に向かっていることを感じ取った。

 

 石動が挟撃しようと思っていた他の部隊は左翼の方角から来る筈だ。だからカインは道を開けるために徹底的に左翼を潰したのだ。だから右翼からやってきているのは石動達の別働隊ではないことになる。

 

 まさか『夜明けの地平線団』の予備戦力かとカインが警戒したところに、まさかの人物のプレッシャーを感じていた。

 

(ジュリエッタ⁉︎ ということは、アリアンロッドか! 何故この宙域に! )

 

(カイン⁉︎ あなた、監査局でしょう! 何で海賊退治なんか! )

 

(本部所属としての任務だ! ラスタル様はいないのにここにいるってことは、イオクのお守りか……! )

 

(そこまでわかるって、あなたの感能力にはいつも驚かされますよ……)

 

 カインはジュリエッタと感能力を用いて交信していた。養父であるラスタルのことは同じ戦場にいれば感じられる。そのラスタルの気配が全くなかったので、それ以外にジュリエッタがいる理由はアリアンロッドの第二艦隊司令であるイオク関連しかないだろうと思っていた。

 

 アリアンロッドの稼働率を鑑みて、休暇を出すためという理由もあってのカイン達の出撃なのだが、そんなことは第二艦隊司令様には関係がなかったようだ。

 

 部下に休暇を出さないとんでもない上司の下で働かされて、アリアンロッドの将兵に同情をしたくなった。ラスタルだってあまりの多忙さに疲れていたことを知っている。それだけ出動率が高かったからこそ、今回の本部防衛隊の出撃が許可されたというのに。

 

 アリアンロッドの艦隊も戦闘宙域に入って艦砲射撃を敢行。その射撃がいくらか敵艦に当たったことで鉄華団とギャラルホルンは増援が来たと思ってしまった。

 

「石動が言ってた本隊か! 」

 

「いや、違う……! バカな、なぜここにアリアンロッドがいるんだ⁉︎ 」

 

 オルガの言葉を石動は否定する。なにせやってきた艦隊にはアリアンロッドを率いるセブンスターズ二家の内の一つ、クジャン家を示す北欧神話に登場する神オーディンの使いである二羽の烏であるフギンとムニンが記されていた。

 

 間違いなく、イオク・クジャンが動かせる戦力だった。

 

 石動からすればアリアンロッドの部隊がここにいるはずがなかった。マクギリスがアリアンロッドの総司令であるラスタルから正式に許可を得てこの作戦を実行している。アリアンロッド艦隊は休暇のはず。

 

 だというのにクジャン家のシンボルマークが描かれた戦艦が三隻、ここにやって来ていた。『夜明けの地平線団』は宇宙でも最大規模の海賊だ。それを打破、もしくは拿捕でもできればギャラルホルンでも大きな名誉になるだろう。

 

 だが、その名誉のために休みが取れていない部下達を率いてこんな火星の先まで来るなんてなんと酷い上司なのだろうか。

 

 艦砲射撃に合わせて戦艦からMSが続々と出撃してくる。ジュリエッタもレギンレイズで出撃したのをカインは感じ取った。

 

 そして戦闘宙域に大きな声で、黒いレギンレイズから通信が入る。

 

「我々はギャラルホルンアリアンロッド艦隊第二司令、イオク・クジャンだ! この宙域は我々の作戦行動圏内である! その海賊は我々が制圧する! 」

 

「ハァ⁉︎ イオク様はバカですか! そんなことしたら敵がこっちに集中するでしょう! 」

 

 ジュリエッタは一人特攻をしようとしたらしいが、イオクの通信で機体の動きを止める。

 

 セブンスターズの一人が、自分の存在をこの乱戦で宣伝する。つまり狙ってくれと言っているようなものだ。

 

 ギャラルホルンの象徴であるセブンスターズの首は、海賊からすればかなり価値のあるものだ。ギャラルホルンの栄光に罅を入れられるのだから。セブンスターズを撃破したとなれば組織に箔が付く。

 

 それは『夜明けの地平線団』からしても同じ。鉄華団を倒せなくても、というか使える駒に映ってしまう。

 

 セブンスターズの権力はギャラルホルンでもかなりのものだ。その一人を捕まえて人質にすればこの状況を打開できると考え付く。

 

「クソ! 石動、オレも右翼に行く! サンドバルの確保は任せた! 」

 

「……いっそ見殺しにしても良いのでは? その方が准将もやり易くなると思いますが」

 

「いや、逆だ! どんな理由であろうとここでイオク・クジャンが負傷でも確保でも戦死でもしてみろ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! そうなればマクギリス様はセブンスターズでの実権を失うどころか、イズナリオ前当主のように失脚する可能性もある‼︎ 」

 

「……っ! そちらは任せます! 」

 

 カインの推論に石動はその可能性に行き当たり、カインが右翼に行くことを許可する。

 

 カインはここでイオクを殺すことはできない。マクギリスにとってもラスタルにとってもイオクが戦場で死ぬにはその肩書き上不味いのだ。

 

 ただでさえ今ギャラルホルンは世界から嫌疑の目を多数向けられているのに、セブンスターズの威光までハリボテであったとなれば、更に混乱が増す。せめて宇宙の暴動がもっと収まった後に処分しなければならない。

 

 特にイオクが死ぬということはクジャン家の断絶を示す。セブンスターズが必要のない体制に移行できているのであれば問題ないが、こんなにも混乱している世の中で後継者もいない家の人間が死ぬことの意味が本人に全く自覚がないらしい。

 

 そしてイオクのMSの操縦技術の低さは折り紙付きだ。

 

 もうすぐ『夜明けの地平線団』を倒せるという時に舞い降りた厄介ごと。

 

 カインはスラスターの残量を気にしながらフットペダルを踏み込んだ。

 


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