鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでレイド始まったので初投稿です。
βじゃなくてαかγが欲しいんだよなあ、素材は。


30 名もなき戦争・1

 『夜明けの地平線団』を捕縛してから暫くして。地球圏で新しい火種が勃発しようとしていた。ギャラルホルンの腐敗、セブンスターズの失脚という前代未聞の事態。それによって経済圏が自分達を守るためにギャラルホルンの力は借りられないと考えるようになり、防衛軍を独自に設立し始める。

 

 ギャラルホルンが守るべき場所にMSで攻め入れられたとなれば、信用もなくなるのだ。

 

 力を得ればもっとと求めてしまうのも人間である。防衛力を持ってしまうと他の経済圏へ攻め入ろうと思う強気な思考が増えるのだ。特に三百年もギャラルホルンによって領土を厳密に区切られ、地球での発展を抑制され続けてきたのだ。

 

 隣接する経済圏同士は、相手の嫌な部分も見えてくる。地球で争いがなくても、コロニー同士での軋轢もあったりする。

 

 そこでギャラルホルンの支配力が落ちれば、小競り合いが起きたりする。小さな紛争はこれまでのように起きていたが、その頻度が多くなっていた。

 

 そして鉄華団が一躍有名になった、ここエドモントンでも同様だった。

 

 鉄華団はアーブラウにその武力を認められ、鉄華団の地球支部をエドモントン近郊に構えることを許された。全戦力の三分の一を駐留し、副団長であるユージン・セブンスタークが地球支部を任されていた。

 

 その補佐としてチャド・チャダーンが付き、子供組ではタカキ・ウノが珍しく妹と一緒に地球へ来ていることが特筆されることだ。

 

 アーブラウの防衛軍も形を作り始めて、発足式典を行うという時にそれは起きた。

 

「ユージン、本当に俺が蒔苗先生の護衛で良いのか? 」

 

「アーブラウ側からも護衛は一人って言われてるしな。防衛軍のメンツもある。俺は外で指揮をするから、任せられんのはチャドだけなんだよ」

 

 ユージンはそう言い、チャドにアーブラウの代表である蒔苗の護衛を任せた。

 

 そして式典が始まる前に。蒔苗が待機していた部屋の花瓶が爆発を起こし、チャドは蒔苗を庇って負傷。蒔苗も意識不明の重体に陥る。

 

 爆発を起こしたのは何者なのか、調査の手が伸びることとなった。

 

 そんな中、今回の事件にはSAUが関わっているという憶測が流れ、両経済圏では接している領土境界線の辺りで部隊が展開することとなる。

 

 ユージンは地球支部を預かる者として団長のオルガへ連絡を入れていた。

 

「マジでこのままじゃ戦争一直線だ。第三者による調査って言っても、それを行うのは本来ならギャラルホルンだ。だがギャラルホルンは……」

 

「アーブラウ、特にエドモントンでは住民から嫌われてる。だから調査の手が伸びないってのか? 」

 

「エドモントンじゃ何故かギャラルホルンの仕業じゃねえかって噂まで流れてるぜ。ほら、アリアンロッドの締め出しと同じなんじゃないかって」

 

「ドルトの件か。お嬢さんが暴露しちまったからな……」

 

 どれもこれも鉄華団が関わっている事案だったためにオルガもユージンも溜息を吐く。

 

 そんなこんなで事件の全容なんて全く掴めていないのだという。

 

「アーブラウとの契約じゃ、戦闘行為があった際は鉄華団が戦闘を引き受けることになってたよな? 」

 

「ああ。だから戦争になったら徴兵される。軍事顧問っつうのはそういうの込みの契約だったからな」

 

「……わかった。じゃあ準備を進めておいてくれ。俺達もすぐそっちに向かう。火星での仕事もあるから、ミカと明弘と他にも少しって程度だろうが」

 

「その二人を送ってくれるなら問題ねえよ。こっちもこっちで調べてみる。また何かあったら連絡入れるぞ」

 

 ユージンはそれだけ伝えて、こちらでやるべきことを始める。チャドが抜けた穴は彼が埋めるしかないのだ。主力は基本火星にいて、こちらは出張で来ているだけなのだから。

 

 ユージンは動かせる戦力、アーブラウとの状況確認などなど、することは山積みだった。そうしている内に、事態は悪い方向に転がっていく。

 

 SAU側の偵察機がMSのエイハブ・リアクターによってコントロールを失って墜落。これによってSAU側に死者が出たことで開戦。

 

 アーブラウ側の蒔苗が意識不明のために外交問題をどうするかとアーブラウ側が話し合っている最中のことだった。これによってSAUが一方的に戦争行為に踏み出し、戦争は始まってしまった。

 

 一応 SAU側もギャラルホルンを通じて調停を要請したが、ギャラルホルンにしゃしゃり出られることをアーブラウ側が拒否。こうして碌な外交も行えないまま戦争は勃発。

 

 もちろん鉄華団も駆り出されることとなる。

 

 そんな鉄華団の地球支部に訪れる者がいた。顎髭を伸ばした黒髪でガタイの良い男。歴戦の戦士を思わせる傭兵の象徴のような男だった。

 

 その人物がソファから立ち上がり、ユージンへ手を差し出す。

 

「ユージンさん。こちら今回のアーブラウ側を指揮することとなった……」

 

「傭兵のガラン・モッサだ。よろしく頼むぞ、アーブラウを立て直した勇者達」

 

「鉄華団地球支部を任されてるユージン・セブンスタークだ。……傭兵? 」

 

 ユージンはテイワズからの出向で事務職に就いているラディーチェ・リロトの紹介を受けたガランの手を取る。てっきり防衛軍の誰かと話し合うものだと思っていたが、なるほど確かにガランは防衛軍の隊服を着ておらず私服のようなジャケットを着こなしていた。

 

 傭兵が何故と問うと、その答えは簡潔なことだった。

 

「アーブラウは防衛軍が発足したと言っても形だけだ。実戦経験もなく、大隊指揮なんて教本しか知らん連中だ。それを不安に思ったアーブラウが紛争の経験がある俺を雇ったわけだ。お前さんらも信頼の置ける仲間を指揮するならまだしも、練度も信頼もない者を指揮するのは難しいだろう? 」

 

「それは、まあ。俺達も懸念してたことだ。その点アンタなら経験豊富だと? 」

 

「傭兵は寄せ合い世帯だからな。身分から兵装やら思想まで、何もかもごちゃ混ぜでも戦闘ができちまう。そういう人種だ」

 

 ガランの言葉にそういうものかとユージンは頷く。

 

 アーブラウからの正式な書類も交えて、どのように戦うかを話し合って行く中で。ユージンと戦闘の指揮を一緒にすることとなるタカキは、ガランの戦術に思わず聞き返す。

 

「「徹底した遅滞戦闘ぉ? 」」

 

「ああ、そうだ。この状況、本来ならギャラルホルンが仲裁を行うはずが、アーブラウはそれを突っぱねている。蒔苗氏を失って冷静ではないのだろう。発端がわからないまま戦争になれば泥沼と化す。徹底的に相手を潰すか、やられるか。それしか終戦になる見込みがなくなる」

 

「相手を潰すっていうのは……無理か」

 

「防衛軍の練度が低いことは俺も知っている。そしてお前達も全戦力じゃない。それに……地球の四分の一を敵に回す恐ろしさを覚えておいた方が良いぞ? 」

 

 そう、経済圏の大きさをもっと深刻に考えるべきだ。アーブラウ防衛軍の頼りなさを知っているからユージン達は過小評価しかけたが、地球という大きな星の四分の一が相手であり、その財力は化け物と言っていい。

 

 その上、足りない戦力は最悪宇宙から引っ張ってくればいいのだ。そんな力を持った経済圏同士の争い。着地点を早々に見付けなければ長期戦になることは必至。

 

 で、そんな長期戦を戦いきるスタミナが鉄華団の地球支部にあるかと言われれば、否だ。

 

 確かに電撃戦において多大な戦果を成し遂げてきた鉄華団だが、それはどれも短期決戦。規模的には弱小と言っていい鉄華団の兵站能力では長期の戦争なんて息切れをする。アーブラウが支援しようが、団員が保たない。

 

 そのためガランが言いたいことは。

 

「アーブラウで強権を発動できる蒔苗氏の回復を待つ、消極的な戦闘。これが最善手だ。お前達も『家族』を失いたくないだろう? 」

 

「「……」」

 

 団員、家族のことを持ちだされると弱いのが鉄華団の特徴だ。オルガは鉄華団のみんなを家族のように思い、彼らに居場所を与えたくて頑張っている。ユージンもそんなオルガに同調し、タカキに至っては妹が実際にいる。

 

 だから今回の戦争で被害が出にくい遅滞戦闘に、二人は頷く。

 

「わかった。それで行こう。俺達の配置は? 」

 

「防衛軍の後ろだ。アーブラウも自身の戦力を誇示したいのだろう。矢面に立たせるように言われている。戦争は彼らに任せて、我々は砲撃支援、撤退支援に終始する」

 

「それでいい、のか? 」

 

「いいのだよ。お前達が防衛顧問と言われていても、それはあくまで防衛軍が発足するまで。発足した後の責任までお前達に負わせようと思っていない。むしろ経済圏の重鎮とは自己顕示欲の権化だ。自分の防衛軍(おもちゃ)を自慢したくてたまらないのさ。そこに英雄的な君達は邪魔になる」

 

「利害が一致してんのか」

 

 ガランのその説明にユージンも取るべき方針を決定する。

 

 ここに、名もなき戦争が勃発した。

 

────

 

「それで? 実際この戦争の引き金はなんなんだ? 」

 

「それは今カインに調べさせている。カインが監査局の権限でアーブラウ方面軍へ監査をする名目でアーブラウに入り込み、当日の監視カメラの映像をハッキングしているようだ」

 

「爆発物が運び込まれたことは事実だからな。ラスタル、お前の考えは? 」

 

「十中八九SAUの仕業だ。火星のハーフメタルの独占はMSの価値が上がって更に脅威となった。それをやっかみ、ハーフメタルの流通を得ようというのが彼らの考えだろう」

 

 ガランこと『髭のおじさま』が自分の愛機ゲイレール・カスタムのコックピットの中で秘匿通信をしていた。ここの安全性は世界一で、ギャラルホルンでも傍受できない特別仕様にしていた。

 

 愛弟子が多方面で活躍していることを知って嬉しい反面、過労死しないかと心配になった。

 

「そこまで言い切れる根拠は? 」

 

「偵察機の事故より前に、調停の申し込みではなく武力の提供をギャラルホルンに申請している。ガエリオへ確認を取ったから間違いない。ボードウィン家として彼とマクギリスが動くようだ」

 

「それで遅滞戦闘に徹しろと? ガエリオはガンダム・キマリスとして、マクギリスは? 」

 

「シュヴァルべだ。ファリド家のガンダム・アスモデウスは本部で調整中のようでな。ヴァルキュリア・フレームのグリムゲルデは使えば地球外縁軌道統制統合艦隊を襲ったのは自分だと証明することになって使えない。シュヴァルべしか選択肢がないのだよ」

 

 ラスタルはアスモデウスが調整中の理由を知っている。カインに使わせるために様々な仕掛けをしているようだ。これもカインからの情報で、そこからマクギリスが使う機体はシュヴァルべに絞れた。

 

「……SAUもギャラルホルンの戦力があればアーブラウを攻め落とせると考えたんだろうが、詰めが甘いな」

 

「ああ。我々ギャラルホルンは相手の徹底占領などはしない。侵攻作戦をしているわけではないからな。そういうわけで、この戦争を止めるなら蒔苗氏の回復を待つしかない」

 

「ラスタル。何故お前はマクギリスとガエリオ、カルタに手を貸すような真似をする? 敵になるかもしれんのだろう? 」

 

 ガランはそう問う。今回の問題が解決しやすくなるようにラスタルはわざわざ虎の子の手札であるガランをアーブラウに送ったのだ。アーブラウとSAUの関係性を守るために。

 

 カルタは一見関係なさそうに見えるが、地球での出来事は地球外縁軌道統制統合艦隊の案件の一つでもある。今回はガエリオとマクギリスに任せて宇宙の監視を続けるようだが、カルタへの援助にもなる。

 

 もしも事態が悪化したらカルタも参加しなければならなくなるからだ。

 

 そして彼らは、いわゆるマクギリス派閥と言ってもいい。マクギリスの真意を知っているのかまではわからないが、おそらく賛同するような仲だ。

 

 ラスタルの敵になりかねない彼らを手伝う理由は何かと、ガランは問う。

 

「経済圏を刺激したくないことが一つ。イオクの失態の埋め合わせが一つ。そして鉄華団の名声を広げないことが一つ。ある意味マクギリスへの牽制でもあるんだぞ? 」

 

「……なるほど、そういうことか。やはりお前は怖い男だよ」

 

「とはいえ私にもできないことがある。だからお前やカインに頼ることになるのだが」

 

「そうそう。カインは相変わらず化け物だな。鉄華団に首輪をつけるワードを即座に読み取るとは。『家族』と言った途端大人しくなったぞ」

 

「ギャラルホルンを纏めた男を父に持つ、私の部下だぞ? 」

 

「お前の部下という意味合いの方が大きそうだぞ? 」

 

 ガランもラスタルからカインの出自を聞いていた。だがそれでもあのえげつなさはラスタルの弟子だという理由が大きいと感じていた。

 

「ま、精々戦場で踊ってみせるさ。そろそろ通信はマズイな。こっちは任せろ、友よ」

 

「ああ。雑事は私とカインに任せろ。友よ」

 


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