鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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最近ハーメルンで鉄血ブームが来ている気がするので初投稿です。


31 名もなき戦争・2

 そして、戦争は始まる。

 

 アーブラウ側は防衛軍を前面に展開して守備は鉄華団やガラン達傭兵に任された。偵察任務なども鉄華団に任される。

 

 一方SAU側は自分達の戦力はあまり出さず、ギャラルホルンに戦力の大半を任せた戦いを仕掛けて来た。

 

 アーブラウ防衛軍は知識も経験も少ないので練度の高い軍隊であるギャラルホルンには全く敵わない。これに怒ったのはアーブラウ側だ。経済圏同士の戦争にギャラルホルンが介入して来たのだから。

 

 ギャラルホルンは確かに経済圏同士の戦争を起こさないように監視する治安維持組織だ。起きた場合は戦争に介入する権限もある。

 

 だが、それは一方だけの肩入れとなると話は別だ。

 

 アーブラウ政府はすぐにギャラルホルンのアーブラウ方面軍に苦情を入れる。いきなりの武力介入はないのではないかと。だがこれはギャラルホルン側もたまったものではない。調査を断られ、戦争が起きないように努力しようとしたのを邪魔したのはアーブラウ側だ。

 

 いくらエドモントン事件があるからと言って、ならどうすれば良いのかと困惑した。

 

 そんな政治の問題は置いておくとして、戦争行為は続く。境界線付近では毎日のようにドンパチが起こり、アーブラウ防衛軍はギャラルホルンに為す術もなく撃破されていく。

 

 ガランも撤退指示を出すものの、ようやくの陽の目を逃してたまるかと特攻する防衛軍の姿にガランは天を仰いだ。

 

 戦力がSAU側に傾いているのに戦争に決着が付かないのはガランの戦術眼が優れていると言うこともあるが、ギャラルホルン側が調停の妥協点を探して戦力の本格投入を避けているからだ。

 

 このままどちらかが勝ったら、地球圏は火の海に消える。武力で全てを叶える世界になってしまう。その先に人類の行き着く先はないと、マクギリスとガエリオが戦場を調整していた。二人は敵が想定以上に突っ込んでこない限り、撃退に抑えていた。

 

「マクギリス、まだか⁉︎ まだアーブラウ側の外交チャンネルは開かれないのか⁉︎ 」

 

「叫ぶな、ガエリオ。外交チャンネルは、まだだ」

 

「……外交チャンネル『は』? 」

 

 前線駐屯地である天幕で叫びながら入ってきたガエリオだったが、いつまでも小出しするような戦闘に苛立っていた。それをぶつけてしまったが、マクギリスは冷静に返す。

 

 こういうところがアルミリアやカルタにモテるのだろうなと、その一端を実感していた。

 

「アーブラウ側もSAUの戦力に我々が出てくるのは予想外だったようでな。アーブラウ方面軍に泣きついてきたらしい。ギャラルホルン同士で戦うわけにはいかないから方面軍が出撃することはないが、そこを通じて我々には通告が来たよ」

 

「向こうはなんと? 」

 

「ギャラルホルンは退けと。それだけだ。経済圏同士の争いは各々で決着を付けたいらしい」

 

「俺達の存在理由を全否定したな……」

 

「アーブラウが我々を嫌う理由はわかる。今回も早期に戦力の派兵を決定してしまったからな」

 

 エドモントンの一件は確実にギャラルホルンに非がある。クーデリアを危険視したのはギャラルホルン及びイズナリオであり、彼女がエドモントンに入ることを拒否したのはギャラルホルンの意思だ。

 

 彼女と蒔苗をエドモントンに入れるくらい許容すれば、ギャラルホルンはこうもアーブラウに嫌われなかった。アインが市内で暴れなければこのような事態にはなっていなかった。

 

 その図を描いたのはマクギリスだが、今回はSAUの早計が原因だ。

 

 ギャラルホルンも市民を守るために戦争を早く止めるために武力介入は仕方ないと判断した上に、アーブラウとは関係が微妙だったためにSAU側に着いたという理由もある。

 

 アーブラウ側を軽く蹴散らして喧嘩両成敗に持っていこうとしたのに、アーブラウは強固な姿勢なまま戦争を止めようとしない。これは鉄華団の力を信用しているというのも大きい。なにせギャラルホルンに一泡吹かせた集団なのだから。

 

「このままじゃ共倒れだぞ? 」

 

「それをどちらも理解していないのが度し難い。だから、我々は我々のやり方でこの戦争を終わらせる。武力だけがギャラルホルンではないと証明してみせないとな」

 

「……何をするつもりだ? 」

 

「情報収集。ガエリオには引き続き時間稼ぎに徹してほしい。深追いをしなければ良い。適当に追い返すだけの作業だ」

 

「まだ続くのか……。いつまでだ? 」

 

「一週間程度だな。それだけあれば情報も集まるだろう」

 

「長いな」

 

 戦争をする期間としては十分長い。ギャラルホルンが今まで調停してきた紛争は二週間と保たなかった。だが今回の戦争は既に二週間を過ぎている。ギャラルホルンが武力介入している戦闘行為の中では長い部類に入る。

 

 それだけギャラルホルンは圧倒的な武力で物事を解決してきた。だが今回のこの戦争の成り行き次第ではギャラルホルンが戦争を調停できない無能だと知らしめることになる。

 

 そんな不安がよぎったガエリオがマクギリスへ問う。

 

「そんなに悠長にしていていいのか? このままでは俺達が無能の誹りを受けるぞ? 」

 

「初めての経済圏同士の戦争だ。規模が違うのだからその心配はない。それに良いサンプルケースになるぞ? 経済圏も結局、ギャラルホルンの力ありきの戦争にしかならないと。我々が味方をした方が勝つ戦争をする意味がないとな」

 

「何も間違っていない事実だが……。MSの質と量、兵隊の練度。経済圏が俺達を信用できなくていきなり作った防衛軍程度では、向こう三十年は確実に追いつけないだろう」

 

 ガエリオが自分達の戦力と今回の防衛軍の実力。そして経済圏の状況などを鑑みてマクギリスの言う意味を正しく認識した答えを出す。

 

 いくら悪い風評が流れ、様々な組織が立ち上がっても。三百年この世界を守護してきたギャラルホルンの土台はそう簡単に崩れないという自信があった。

 

 そうなるように抑制した世界を作り上げたのだから、当たり前の帰結だ。技術的な発展があっても、ガンダム・フレームのようなオーパーツが用いられようと。そう簡単に外部の力だけで崩れるような組織ではないのだ。

 

「今回の戦争が長引いている理由は、お互いの防衛軍という軍と呼ぶにはお粗末な戦力が最前線で戦っていること。我々が全く深追いをしていないこと。相手が鉄華団で引き際を弁えており、前へ出てこないこと。相手に鉄華団と、アーブラウの雇った傭兵がいなければとっくの昔に決着が付いている」

 

「鉄華団……。今ではアーブラウの防衛顧問か。アインを倒したんだ。その実力は俺も認めている……」

 

 言葉とは裏腹に、ガエリオは苦虫を噛んだような表情をしていた。

 

 因縁ある組織で、自分の慕う部下を破った者達。アインにも問題があったとはわかっているが、それでも遣る瀬無い気持ちが残っていた。

 

「あの無茶をするばかりの宇宙ネズミ達が引き際を悟るとはな」

 

「彼らだってこの二年で成長したのだろう」

 

「……マクギリス。なぜ鉄華団と手を組んだ?『 夜明けの地平線団』を捕らえた火星の民間企業とは、アイツらのことだろう? 」

 

「利害の一致によるものだ。アインの仇と私が手を組んだことが、気に食わないか? 」

 

 天幕の中で、ピリピリとした空気が出来上がる。

 

 ガエリオは高潔すぎる。だから自分を慕っていたアインを誅した鉄華団と親友のマクギリスが手を組むことが認められない。

 

 元々は火星支部が悪いことはわかっている。その結果がこじれてギャラルホルンと敵対したことも、自分の行動のせいで溝が深まったことも。

 

 その辺りの分別はついているので鉄華団を戦場で見ても深追いはしないし、戦場に私情は持ち込まない。

 

「彼らは戦力として優秀だ。確かに二年前は我々とも敵対したが、その蟠りも既に解消している。彼らはクーデリア嬢の護衛上我々が立ち塞がったために蹴散らしただけ。敵対する理由さえなければ、彼らは海賊を討伐する善良な企業でしかない」

 

「お前に協力したんだから、そうなんだろうな。火星で敵対したお前とも手を組む度量があると」

 

「そうだ。そして我々の仕事と彼らの仕事がかち合えば、今回のように敵対することもある」

 

「……本気で敵対したら、俺は憂いなく鉄華団を討つからな」

 

 それだけ言ってガエリオは前線指揮官を務めるためにガンダム・キマリスの整備を頼んで休むことにする。相手がいつ攻め込んでくるのかわからないために、休める時に休むのが戦場での基本だ。

 

 ガエリオは以前からマクギリスと鉄華団が縁故の関係だったと知らない。だからこの程度の話術でマクギリスは切り抜けられていた。

 

 一息着いてから、マクギリスは今回の事態の整理をする。

 

「さて。今回のはアーブラウの自作自演か、内輪揉めか。もしくはSAUの作戦か、ギャラルホルンの他派閥の横槍か。可能性が高いのはSAUの作戦だな。ガエリオに戦力の供与を頼むのが早すぎる。……頼むぞ、カイン」

 

 マクギリスは一人になった天幕でそう呟く。

 

 その呟きから三日。カインはアーブラウで入手した情報をマクギリスへ送る。

 

 マクギリスの部下もSAUで情報を手に入れ、この戦争を止める手札を揃えた。

 

────

 

 マクギリスとガエリオが天幕で話してからちょうど一週間。

 

 その日もアーブラウとSAUの境界線付近で戦闘が起きていた。鉄華団は後方支援に徹し、前へ出ることなく相手への嫌がらせを続ける。

 

 そんな最中、上空からエイハブ・リアクターの反応があった。

 

「上⁉︎ SAUの奴ら、まさか宇宙から攻め込んできやがったのか⁉︎ 」

 

 ユージンはMWに乗って指揮を取っている中、そう叫ぶ。

 

 それにしては鉄華団の後ろを取られたわけでもなく、その反応はそれこそ戦闘区域の中心へ落ちていくようだ。

 

「副団長! この反応、マクギリスって人から貰っている周波数と一致します! コードネームライオンです! 」

 

「ああ? ってことは、あの紅いシュヴァルべか……」

 

 タカキから聞いて、ユージンはその反応に攻撃せず近寄らないように指示を出す。一機だけで戦場のど真ん中に降りるなんて無茶なことをするなと思っていたが、これで事態は動くだろうと思えた。

 

 ガランもそれがわかってアーブラウ側に攻撃をしないように指示を出す。ギャラルホルンの識別反応を出していたためにアーブラウ防衛軍はSAUの増援だと思って攻撃しようとしていたが、シュヴァルべが大きな白い旗を持っていたことで攻撃の手が止まる。

 

 ウェイブライダーに乗って地上に着地したカインは、全域に聞こえるように通信を流す。

 

「私はギャラルホルン、ヴィーンゴールヴ所属カイン・ベリアル三佐である。双方即時戦闘行為を辞めるように勧告する。アーブラウ・SAU双方が交渉のテーブルに着くとギャラルホルンを通じて発表した。これ以上の戦闘行為は認められない。即刻軍事行動を控えよ。繰り返す──」

 

「なあ、ガランのおっさん。これで終わったのか? 」

 

「ああ。どういう結果になるかはわからないが、戦争は終わりだ。……長かったな、戦友よ」

 

「そうだなぁ。なんかやけに長かった気がする……」

 

 ガランとユージンは拳を当て合う。臨時の戦線を組んだだけだが、三週間もあればそれなりの交友も深めていた。

 

 お互い少し気楽なのは、所属する者達の被害が軽微だったからだ。MSなどは少なからず破損したが、死者は出ていない。怪我をした者はいても軽傷ばかりだ。

 

 戦争は結局、喧嘩両成敗で終わる。アーブラウに爆薬を仕掛けた者はアーブラウ防衛軍の設立を良く思わないナショナリストの犯行と発表され、アーブラウの自演でもSAUの作戦でもないとして開戦の責任の所在を曖昧にして終わりを迎えた。

 

 鉄華団はアーブラウ防衛軍の設立を持って防衛顧問の責務を全うしたと判断された。鉄華団としても火星のハーフメタル事業をテイワズから任されたこともあって地球からの撤退を決めていた。

 

 アーブラウとの関係は保ったまま、戦力の駐在を辞めた形だ。

 

 アーブラウとしても経済圏同士の戦争は泥沼になるだけだとわかり、いざとなればやはりギャラルホルンに頼るのが戦力としては間違いないと理解して鉄華団へ支払う防衛費の削除という理由もあって防衛顧問の契約を解除。

 

 その代わり有事の際にはギャラルホルンに、市民へ被害が出ないような防衛を徹底させることを約束させた。ギャラルホルン側もエドモントンでの一件を経て、これを遵守することを誓う。

 

 そんな終わりを迎えた戦争の跡地で。

 

 ゲイレール・カスタムのコックピットでガランはある人物へ通信を試みていた。

 

「結局はSAUの仕業だったんだろう? マクギリスはその証拠を手にしてSAUを脅したのか? 」

 

「はい。実行した男はSAUの特殊工作員。SAUの住民権を持っていた男に間違いありませんでした。その証拠を突き付けてSAU側の反論を封殺。結果、SAUは賠償などを折半にすることで交渉のテーブルに着きました」

 

「SAUの仕業と公表したら徹底抗戦に陥るだけだからな。それにそうなればギャラルホルンはSAUから手を引き、アーブラウに着くだろう? 」

 

「ええ。経済圏を刺激しないためにも、SAUを潰さないためにも。このような処置となりました」

 

 妥当なところだろうとガランは頷く。SAUも勝てず、自分達が潰れるくらいならある程度の賠償を払って自ら折れた方がマシだと判断したのだろう。

 

「マクギリスはイズナリオよりはマシだな。それにガエリオもその辺りを飲み込んだか。……ようやく地盤が固まってきたか? 」

 

「これも『髭のおじさま』の戦局操作が一流だったおかげです。ありがとうございます。オレではそうはいかないので」

 

「ふん、良く言う。単機の戦闘能力と戦場の理解力ではもうお前の方が上だろうに」

 

「ですが、オレはどうやら指揮官には向いていないようで。誰かに指示を出しながら戦うという才能がないようです」

 

「そういう風に俺もラスタルも育てなかったからな。お前は全ての個に優り、集団すらも殲滅する最強のジョーカー。誰かと協力して物事を成す戦士に育てなかった。お前に追随できるのはジュリエッタくらいだろうよ」

 

 人には向き不向きがある。

 

 そして指揮官ができなくても、たった一人で戦況を変えられる絶対的なエースに育ったならそれでいいのだ。力をつけさせた上に指揮官の真似事までさせなくていい。

 

 その割にはハッキングなど、戦闘以外の技能はたらふく仕込んだが。

 

「カイン、次は宇宙か? 」

 

「はい。シュヴァルべのFAカスタム、その実践教導を地球外縁軌道統制統合艦隊に」

 

「お前……。多忙すぎて倒れるぞ? しっかり休んでいるのか? 」

 

「ええ。もうすぐ完全休暇です。三日ほど休ませてもらえますよ」

 

「ならゆっくり休め。ジュリエッタの写真と一緒にな」

 

「……あなたもそのことで揶揄いますか」

 

「クク。このヘタレめ。ラスタルから色々と聞いてるんだよ。……大仕事が終わったら、伝えるんだろう? お前の勘では、どれくらい先なんだ? 」

 

「案外近いかもです。宇宙の騒乱が終わったら安定期に入りそうですよ」

 

 それは良いことを聞いたとガランは、いや、また名無しの男に戻る『髭のおじさま』は笑う。

 

 その時はラスタルと一緒に面と向かって揶揄ってやろうと、また楽しみが増えていた。

 

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