鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
それは火星のハーフメタル採掘場での発見が発端だった。
ハーフメタルを掘り出しているところにエイハブ・リアクターを二基搭載したガンダム・フレームと、用途不明のとてつもなく大きなMSらしき機械。それに複数あるMWのような不思議な形状の機械が出てきた。
ガンダム・フレームはともかく、他の機械がどういうものかわからず、そこまで掘り出せないということもあって鉄華団はガンダム・フレームとMWもどきをテイワズの歳星に送ることにした。
ガンダム・フレームはフラウロスだとわかったが、MWもどきはコックピットもなかったのでどういう機体かわからなかった。動力も不明でどうやって起動するのかについても四苦八苦していた。
そのため、オルガの伝手でマクギリスにその機体のことについて聞こうとテイワズの整備士エーコが提案。このままではわからずじまいであることは明らかなので、オルガが連絡を取った。
その画像を見て、マクギリスはすぐに動くことを伝えた。マクギリスはガエリオとカルタに連絡を取って三人で戦艦を動かして火星へ向かう。
話は変わって。
テイワズは今、少しばかりゴタゴタしていた。下部組織である鉄華団が順調に成果をあげていたことでNo.2のジャスレイ・ドノミコルスが苛立っていた。自分の立場を鉄華団の兄貴分である名瀬が奪いにくるのではないかと思っていたのだ。
それだけテイワズのボス、マクマードが鉄華団と名瀬を気に入っているからだ。
そのことを憂いたジャスレイは鉄華団とマクギリスが手を組んだと聞いて自分もセブンスターズと渡りをつけようと考えた。前当主の話になってしまうが、ジャスレイはクジャン家と関係があったのだ。
それを用いて火星で発掘されたMWもどきの画像を送った。何が陥れる証拠になるかわからないからだ。
その画像を送られてきたイオクは、意味がわからずラスタルに相談していた。
「ラスタル様。ジャスレイ・ドノミコルスなる者から送られてきた画像なのですが……。兵器のようですが心当たりがなく」
「どれ。……クロウリー。お前も見てみろ。最悪の事態かもしれん」
ラスタルはイオクから受け取ったタブレットに表示された画像を見て、一瞥しただけでその兵器の正体を看破した。隣にいたクロウリーにも確認させるためにタブレットを渡す。
クロウリーもタブレットを見ると、鉄仮面越しなのに息を飲んで驚愕の表情を見せていた。それをジュリエッタは感じ取って、この人も感情なんてあるんだと思っていた。
『プルーマ……? これがあるということはMAもあるということに……。ッ! 火星か! 』
「MA? 火星? 」
この場で唯一、MAについて知識がなかったイオクにラスタルが厄災戦の時の人類の敵だと伝える。プルーマはそのMAの付属ユニットだということも。
「クロウリー。何故それが火星に繋がる? 」
『ジャスレイという男は確かテイワズのNo.2のはず。そんな男がギャラルホルンに連絡をつけてきたということから、テイワズとは表立って対立するような事案ではないのだろう。なにせテイワズとアリアンロッドはドルトコロニーの一件で溝が深まったのだから。その男も切羽詰まっていないと見ると、対岸の火事。木星圏で危なくないとすれば彼らの影響力があるのは他に一部コロニーと火星だけ。地球に彼らの拠点はないからな』
「コロニーにこんなものがあるわけがないからな。消去法か」
『後は火星で以前不穏なものを感じたということもある』
ラスタルが頷いていると、下士官が展望室に入室してきた。今日は本来月の近くに作り上げたアリアンロッド宇宙本部で休暇だったのだが、イオクが相談事ということでラスタル達はやってきていた。
下士官は運悪く当直になっていた者だ。その彼が報告書を出してきた。
「マクギリスとガエリオ、カルタが揃って火星へ? まさかMAを討伐する気か? 」
『いや、そこまで過激なことはしないだろう。アレを呼び起こしたら一機だけでも人類の生活圏が狭まる。……ラスタル。私は行くぞ。そのためのガンダム・フレームだ』
「呼び起こした際の保険ということか? わかった。だが最善策は呼び起こさずに解体することだ。……お前には釈迦に説法だったか」
『ああ。解体用の機材も借りていく。艦を一隻借りるぞ。シャトルでは間に合わないかもしれん』
「行け。そして事態を見極めろ。私まで行ったら地球圏がスカスカになるから私は残る。すぐにこちらの任務も始まるからな」
アリアンロッドの休暇が終わればラスタルも忙しくなる。MAという事案も大事だが、日常を守ることも大事だ。
それに、クロウリーが行けば問題ないだろうと全幅の信頼を寄せていたからこその結論だった。
「あの、ラスタル様! 私もクロウリー准将に同行してよろしいでしょうか? 」
「ジュリエッタ、お前もか。理由を聞いても? 」
「嫌な予感がするのです。それはもう、過去一番なくらいに。私が行って何が変わるのかわかりませんが……」
「……お前の勘も良く当たる。わかった。クロウリーを補佐せよ」
「はい! 」
クロウリーとジュリエッタはすぐに火星へ行く準備を始める。火星まで長い航路だ。一隻だけとはいえ入念な準備がいる。
『ジュリス二尉。嫌な予感とはどれほど当たる? 』
「ふふん。実のところ百発百中です。これに従って物事を避けたら、女子の嫌がらせを全て回避できましたよ! 」
『……そうか。士官学校の時に苦労したのだな』
「ええ。幼年学校はまだしも、士官学校ではエリート志向が高くて女子は私のような孤児を蹴落とそうと必死になっていましたからね。良い危機感知の練習になりましたよ」
『随分ポジティブなことだ』
したり顔で説明するジュリエッタに、クロウリーは溜息をつく。
その嫌な予感というものがどういう風なものだったのか聞くのをやめたクロウリーの失敗が後々に響いてくる。
「ラスタル様。MAを討伐すれば七星勲章を得るというのは本当ですか? 」
「三百年前はな。この七星勲章の数で我々セブンスターズや他の良家の席次が決まっている」
「マクギリスは、それを利用して席次を盤石にするつもりでは? 新たな授与者ともなれば大戦果と共にギャラルホルン内で発言力が増すでしょう」
「イオク。それがどうした? 奴は今や正式なファリド家の当主でヴィーンゴールヴを統べる男だ。七星勲章を得た程度で何が変わると思っている? 」
「アレは、妾の子ですらないのでしょう⁉︎ 赤の他人がセブンスターズを継承していることがおかしいのです! 実績まで得ては、奴の暴走の歯止めが効かなくなる! 」
クロウリーとジュリエッタが去った後に、イオクはそう申し立てた。
どこからかマクギリスの真実を聞いたのだろう。だからこそ、余計マクギリス憎しとなっている。
イオク自身が、セブンスターズコンプレックスを患っているために。
「今の地位が、出自に反して相応しくないと」
「ええ。誉れあるヴィーンゴールヴはセブンスターズが率いるべきギャラルホルンの中心! それをあのような男が座っていると思うと……! 」
「だが、公表したところで実証できる証拠が何もない。真実を知るイズナリオ殿は失脚して亡命している。……なんにせよ、我々は普段通りに任務に忠実であるべきだ。そうして民衆から理解を得て信頼を回復するのが今すべきこと。急がば回れという奴だな。こうした地道な行動が積み重なって後々に響いてくる。政治や統制というのはそういうことだぞイオク。
我々は軍隊だが、英雄のように華々しい活躍はいらん。そんなものはクロウリーに任せておけ。エースという一過性の栄光の証ではなく、我々は長期的な安心を与える軍隊であるべきなのだから」
ラスタルはイオクをそう説得する。
エースももちろん大事だが、そんなエースは何人も要らない。アリアンロッドには複数いる上に、クロウリーもジュリエッタもいる。
マクギリスのことも公表できる段階ではない。切り札は無闇矢鱈に切ればいいというものでもないのだ。
切るべき場面を整える。そして最も効果的な場面で押し出す。それこそが切り札としての用い方。
下手に切ればむしろ利用されて、不利になる。そんな危険を伴ったものが切り札と呼ばれるものだ。
「イオク。次の任務に集中しろ。マクギリスのこととなると視野が狭くなる。今日の内に気持ちを落ち着かせておけ。司令官には冷徹に状況を俯瞰する視野が必要だ」
「は。わかりました」
イオクはそう言って敬礼して退室する。
廊下で待っていた忠臣が、イオクに話しかけてきた。
「イオク様。どのような物でしたか? 」
「あの男が言っていたように危険な物だった。我々を邪魔した鉄華団が持てば危険な戦力となるだろう。ジャスレイなる者は鉄華団の危険性をよく教えてくれた。エドモントンのように我々に罪をなすりつけるだろう。ドルトの件も鉄華団の仕業だというではないか。やはりあの組織は滅ぼさなければならないだろう。これも立派なアリアンロッドの業務だ」
「危険組織の摘発ですね? 」
「そうだ。休暇を切り上げて第二艦隊は出撃だ。次の任務は火星の悪辣企業、鉄華団の摘発だ! 」
「既に準備は整っております」
「よし! すぐに出るぞ! 」
そうしてイオクの第二艦隊は火星に向けて一足先に出発する。
その様子を、休暇に戻っていたラスタルは気付くことはなかった。クロウリーもジュリエッタも出発前の休眠を取っていたので気付けなかった。
気付いたのはイオクが出発して四時間後のことだった。
「嫌な予感はこれでしたか……」
『ラスタル。イオクはMAが自律兵器だと知っているのか? ギャラルホルンで自律兵器が禁止だというのにMAを知らない様子だったが……』
「知らないだろう。すまない、即座に出発してほしい。これはジュリエッタではなくても嫌な予感がする」
『ああ。もしMAが目覚めたら私のことは諦めろ。種別次第では、私は兄弟のようにヴァルハラへ行くだろう』
「……そうしないために、ゲーティアを調整させた。生きて帰ってこい。ジュリエッタもな」
ラスタルは苦痛の表情を浮かべながらも二人を送り出す。
それからクロウリーはゲーティアのコックピットに籠るようになった。まるで最終決戦前かのように。
────
「マクギリス。珍しいな? お前がカインを呼ばないなんて」
「物理的に不可能だった。金星近辺のコロニーへ監査に行っているようでな。最近あちらで多くの海賊が暴れていたようで、戦費が膨れ上がっているらしい」
「逆方向か……。確かにそれは無理だな」
「でも、火星の情報だと休眠しているんでしょう? カインの戦力に頼る必要もない案件だわ。……一応物が物だから私もガエリオ坊やも来たけど」
「心強いよ、カルタ。私に取っても未知の物だ。もしもがあっては困る」