鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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33 天使と悪魔の目覚め・2

 マクギリス達が火星についてすぐしたことは鉄華団に会うことだった。採掘場からMAを掘り出したのは彼らだ。彼らに顔を合わせなければ話は進まない。

 

 カルタとガエリオは二年前の出来事から鉄華団には苦い印象があるが、それを飲み込んで接しなければならない。それだけの大ごとだからだ。

 

 マクギリスとオルガが握手をしたところで、三日月がガエリオを見て呟く。

 

「今度はガリガリもいるんだ」

 

「お前……。相変わらず失礼な餓鬼だな。俺の名前はガエリオ・ボードウィン。ボードウィン家を正式に継承した准将だ」

 

「ププ。ガリガリって……」

 

「笑うなカルタ! 」

 

 相変わらずだった三日月の様子にガエリオは訂正をさせるが、初めて生で会った三日月の様子にカルタは笑ってしまった。バルバトスを操縦するパイロットだとは事前にマクギリスから聞いていたが、この天然っぷりは笑いを堪えられなかった。

 

「そっちは? 」

 

「……地球外縁軌道統制統合艦隊総司令官、カルタ・イシュー准将よ。二年前はどうも。『鉄華団の悪魔』さん」

 

「二年前? 」

 

「ほら、三日月。僕らが地球に突入する時に防衛網を準備してた人だよ」

 

「ああ。あの時の」

 

 三日月は直接戦ったわけではなかったのであまり覚えていなかった。ビスケットに言われて地球外縁軌道統制統合艦隊と二年前という言葉に納得がいったようだ。

 

 カルタはその時に何人もパイロットを失っている。それをまるで印象に残っていないような返しをされたのは堪えたが、実際あの時は鉄華団にしてやられた。戦ったのもその一回のみ。

 

 印象に残っていなくても仕方がないと、飲み込んだ。

 

(これが、マクギリスの言っていた戦いでしか生きられない子供達。オルフェンズ。二年経って少しはまともになったんでしょうけど、特にこの子はそれが顕著なんでしょうね。『鉄華団の悪魔』の戦績はおかしいもの……。これが、クーデリア・藍那・バーンスタインが変えたいと思っている火星の実態)

 

 カルタは実際に会ってみて、鉄華団と三日月の歪さを感じていた。ハーフメタル事業によってこれからは戦闘をする回数は減るかもしれないが、戦闘を行わないということにはならないだろうと感じていた。

 

 戦うしかできない子供もいるのだろうと。

 

 ガエリオもアインを討たれたことを改めて思い出していたが、アインに引き摺られてここで諍いを起こせば、何十万という人が亡くなるだろうと理解していた。MAが起動すれば厄災戦の再発と同義だ。

 

 まずはMAの解体に専念する。だからこそアインのことは話題に出さなかった。

 

「早速移動しよう。MSはなしで、MWとこちらで用意した解体用の機材を現場に持っていく」

 

「ヤバイ代物だっていうのに、MSはなしなのか? 」

 

「MAはほとんどの場合エイハブ・リアクターに反応して起動する。起動してからは人口密集地を襲うようにプログラムされているが、起動しなければただの物体だ。これは前例が二件あるために間違いないだろう」

 

「二つしか前例がないのかよ……」

 

「むしろ二件もあったことが問題だ。それだけMAとは恐怖の対象であり、目覚めれば火星が滅びると思ってくれ」

 

「わかった。MSはもしもの時のために本部待機にさせてもらう」

 

 マクギリスとオルガがそう話し合い、MSは置いて移動を始める。マクギリス達も持ってきたMSは共同宇宙港に降ろしたもののそこから出す気は無かった。

 

 一般車両とMWのみで移動を開始する。車両の中でMAの詳しい説明と、解体作業の手順について話し合った。解体作業は下手をすれば何週間もかかる根気のいる作業であり、その間鉄華団の他の仕事は休んでもらうこととなった。

 

「ねえ。ライオンはいないの? 」

 

「ライオン? 」

 

「カインのことだ。カインは別の任務に当たっていてな。火星には来ない。それに解体作業ならカインの力も必要ない」

 

「ふうん。この前の礼を言いたかったのに」

 

「『夜明けの地平線団』の時の話か。お礼を言うのはこちらだと思っていたが」

 

 マクギリスは戦闘についての礼だと思っていたが、それならマクギリスが協力を願い出たので礼を尽くすならこちら側だと言いたかったが。

 

 三日月が言いたいことはそうではなかったらしい。

 

「ん、いや。戦闘の話じゃなくて。まあいいや。どうなったかも聞きたかったけど、アンタら知らなそうだし」

 

「仕事の話ではなく? 」

 

「うん。ライオンは大事な奴にちゃんと話ができたのかなって」

 

「「「……ん? 」」」

 

 セブンスターズ三羽烏は全員首を傾げた。

 

 ライオンがカインのことだとガエリオもカルタも今知ったが、それを知っていたマクギリスですら知らないことが出てきた。

 

 カインにとっての大事な奴。

 

 大事な奴とはどういうことか。

 

 この中で一番経験値のあるマクギリスが勘でその答えに行き着く。

 

「それは、女性か? 」

 

「それ以外あんの? 」

 

「あー、なんだ? 三日月って言ったな。カインにはその、好きな女性がいると? 」

 

「そう言ってたけど? 知らなかったの? 」

 

「知らなかったわよ⁉︎ あの子、そんなこと一切話さないもの! どこの女⁉︎ 」

 

 話の流れでガエリオも察して、カルタは発狂する。カルタはカインのことを手のかかる弟のように思っていた。そんなカルタには相談せず、三日月に話していたことが悔しかったのだ。

 

 信頼関係は確実に三日月より築いている。この中ではマクギリスがそのはずだった。なのにマクギリスもその女性のことを知らない。

 

「知らない。ギャラルホルンの誰かじゃない? 」

 

「監査局、ではないだろうな。そんな気配は一切なかった」

 

「だなぁ。俺達の知らない二年の間にそういう奴ができたのか? 」

 

「二人でわからないなら、誰かわからないじゃない……」

 

「……まあ、私達同僚ではなく、外部の三日月・オーガスにだからこそ話せたということもあるのだろう。決して我々が蔑ろにされたわけではないだろうさ」

 

「ギャラルホルンで有名な女性だったらすぐわかるからな。特に俺とマクギリスなら監査局時代の名残で顔は広いし」

 

 カインが話せない理由にもなんとなく察しが付く三人。ギャラルホルンは広い組織だがマクギリスとガエリオなら特徴的な女性であれば思い出せる。それだけ女性隊員は少ないのだ。

 

 それに軍人なのだからいつ死ぬかわからない身。三日月の話からもまだカインはその女性と付き合っている様子はない。そんな不鮮明な間柄だから話していないのだろうと考えた。

 

「お礼ということは、カインにアドバイスでももらったのか? 」

 

「うん。ちょっとね」

 

「そうか。私も妻についてカインには助けてもらったよ」

 

「チョコも? 」

 

 そこからは共通の話題ができたのか、マクギリスと三日月はひとしきり盛り上がる。それをカルタとガエリオは微妙な顔で聞き、オルガや運転をしていたビスケットは曖昧な表情で口を出さなかった。

 

────

 

「イオク様。アーレスには既にハーフビーク級が三隻停泊しています」

 

「くっ、マクギリスに先を越されたか。MS隊発進用意! アーレスを通らず、グライダーで直接火星に降りるぞ! 」

 

「はっ! 」

 

────

 

 マクギリス達と鉄華団が採掘場に着いて実際のMAを検分していた。MSの倍はある全長。その異様とプルーマからマクギリスは結論を出した。

 

「最大でも主天使級だな。MSの倍程度ということは中位階級に間違いない。上位三隊だったら数週間の作業では済まなかったかもしれないな」

 

「何の話だ? 」

 

「MAの等級だ。この階級で大きさと強さが決まっている。下位三隊に属していればMSと同等程度の全長。中位で倍、上位だと数倍だと記録されている。最上級の熾天使級だとMSの十倍の大きさで、ガンダム・フレームでも十機で同等とされたらしい」

 

 そんなMAの序列の話をしていると、三日月が上を向く。ビスケットがその視線に気付いて釣られて上を向くと、空から流星が降ってきていた。

 

「オルガ、上! 」

 

「あ? ……オイオイ、ありゃあMSの大気圏突入か⁉︎ 」

 

「ギャラルホルンのグライダー? どこの部隊だ? 」

 

 マクギリス達は一切心当たりがなかった。火星支部からも何も連絡がなく、乗ってきた戦艦には全て待機命令を出している。

 

 火星支部はマクギリスの支配下にある。そのためラスタルが火星支部にイオクのことを伝えたら訝しまれると思い連絡しなかった。それに火星に降りるには火星支部の許可が必要だ。その手続きをしている内にマクギリスに話が行くだろうとラスタルは考えていた。

 

 そうすればイオクに降下許可など降りず、足止めできると考えていた。ラスタルとイオクは表向き協力関係だ。だというのに味方の身を売るような真似をすれば後々に響く。

 

 あとはそう。クロウリー達が間に合うだろうと信じていたのだが、タッチの差で間に合わなかった。

 

 イオク達のレギンレイズが火星の大地に降り立つ。そして先頭のイオクが無造作に採掘場へ近付いた。

 

「マクギリス・ファリド! 貴様が鉄華団と手を組み、禁止兵器MAを手にしようとしているという内通を受けた! これをギャラルホルンへの叛意と捉え、禁止兵器を運用しようとしている鉄華団を危険組織としてアリアンロッドとして摘発する! 」

 

「……おい、あのバカ何を言ってるんだ⁉︎ MAを運用って、厄災戦が人と人の争いだったと思ってるのか⁉︎ 」

 

「MAを作ったのは確かに人間だけど、そういうものじゃないって習わなかったの⁉︎ いくら親が早く亡くなったからって、セブンスターズとしての教育は親がいなくてもされるでしょう⁉︎ 」

 

 イオクの発言にガエリオとカルタが狼狽する。

 

 同じセブンスターズとして有り得ないことしか言ってないのだ。

 

 たとえ当主が亡くなっていても、当主の妻や家に仕える者、もしくは家庭教師などが絶対に教育する。当主としての最低限の知識は当主のみに継承されるようなことはないのだ。

 

 後見人になったラスタルを責めることはできない。ラスタルもアリアンロッドの運営で忙しく、イオクの教育などクジャン家に代々仕える者に任せきりだ。後見人といえども名前だけの関係だというのは同じような関係だったカルタが一番わかっていた。

 

 マクギリスもイオクの発言に驚いているが、マクギリスは動けない。

 

 こちらにある戦力はMWだけでMSには敵わない。それにこれ以上は許容範囲を超える。

 

「イオク、今すぐ止まれ! MAはそんな生易しい機械ではない‼︎ 」

 

「問答無用! 覚悟! 」

 

 イオクが射撃の体勢を取るために一歩踏み出したところで、MAの感知範囲に接触してしまった。

 

 電源が入ってしまい、天使が目覚めの産声を上げる。

 

 その産声は、口から放たれるメガ粒子砲という名前のビーム兵器によって行われ、地面を抉りながら天へと届かせる復活の宣言。

 

 天使は三百年の時を経て、墓標より蘇った。

 

「え……? まさか、もう乗り込んでいたのか⁉︎ 総員、迎撃用意! 」

 

 イオクは指示を出すが、MAハシュマルは即座に自分の子機であるプルーマに指示を出す。

 

 ハラガヘッタと。

 

 目の前の馳走を、喰い散らかせと。

 

 憎きMSを粉砕せよと。

 

 親から指示を受けたプルーマは、それを神の啓示だとでも言わんばかりに行動で示す。少し集まっている人間よりも、今だけはエイハブ・リアクターの方が優先だと優先順位を変えていた。

 

 折角の目覚めなのだ。これからこの地上の人類を滅ぼさなければならないのだ。

 

 神の(おわ)す場所へ、人類を導かなければならないのだ。

 

 そのためにはエネルギーがいる。万全な状態に戻らなければならない。神への宣誓のためにビームを放ってしまったので、使ったエネルギーを回収しなければならなかった。

 

 使命を全うするために。

 

 では、いただきます。

 

「うああああああ⁉︎ 」

 

「イオク様、お逃げください! こいつら、普通じゃありません! 」

 

「鉄華団、ガエリオにカルタも! 今すぐに後退するぞ! いつこちらに矛先が向くかわからん! 目覚めた以上奴は火星を滅ぼすぞ! 」

 

「クソ、どうしてこうなった⁉︎ 全員撤退だ! 本部にもMSの用意をさせろ! 」

 

 イオク達がスケープゴートになっている間に鉄華団とマクギリス達は撤退する。

 

 予定が全て狂い、MAを討伐しなければならなくなった。

 

 マクギリスも通信機を借りて火星支部へ連絡。この場所から一番近い人口密集地であるクリュセの防衛をさせることと、自分達のMSを持ってきてもらうことを連絡した。

 

 カインがいないことを、今更ながら悔やんだマクギリスだった。

 

────

 

 イオク達が火星に着陸した頃。ようやくクロウリー達の乗るハーフビーク級が火星近郊に着いた。かなり飛ばしてきたのだがイオクには追いつけなかった。

 

 追い抜いたということはあり得ないとクロウリーとジュリエッタの直感が告げており、火星に着いたらすぐに戦闘を行えるように準備していた。

 

 イオクを捕らえるためと、MAが起動してしまった時に備えてだ。

 

 クロウリーがブリッジからイオクのハーフビーク級がアーレスに入港していないことを確認していた時、火星から空へと昇る一条の光が目に焼き付いた。

 

 それは人類を焼き尽くす暴虐の印。憎く、忘れたこともない仇敵の産声だった。

 

「クロウリー准将。今のは……? 」

 

『MAのビーム兵器だ。今目覚めたのか、もう暴れているのか……。火星支部には入港要請を出しておけ。艦はそのまま待機。ジュリス二尉、私と一緒にグライダーで火星に降りてもらう。MAに勝てるのは私と二尉だけだ』

 

「は! 了解です! 」

 

 クロウリーとジュリエッタも火星へ降りる。グライダーの使用許可も後から取ることにする。そんな正規の手順なんて踏んでいられないほどの緊急事態だった。

 

 この一秒一瞬が、人命に関わるのだから。

 


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