鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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34 天使と悪魔の目覚め・3

 MAが起動して。

 

 一番近くにいたイオク達はプルーマに襲われていた。百を越す数のプルーマが地面から這い上ってきて、それらが一斉にMS部隊を襲ってきた。いくらレギンレイズとはいえ、たった八機のMSで圧倒的な戦力差を覆すことはできなかった。

 

 相手がただのMWもどきであればどうとでもできただろう。だがプルーマはMAの眷属、MWではない。厄災戦の際も数々のMSがそのプルーマに屠られてきた。

 

 太古より続く、数こそ正義という戦争の基本が通じてしまう兵器なのだ。

 

 レギンレイズといえども、十機以上のプルーマに押し寄せられたら機体の操縦など効かなくなりそのままコックピットを貫かれる。一機、また一機と撃破されていく。

 

 このままでは全滅だと、イオクの親衛隊の中では状況判断ができる方の部隊長がイオクへ進言する。

 

「イオク様、お下がりください! このままでは全滅します! 」

 

「しかし! 」

 

「クジャン家を存続させるためです! あなたは生きて、我々の死を無駄にしないでください! 」

 

「そうですイオク様! あなたは生きなくてはなりません! あなたはアリアンロッドの第二艦隊司令なのです! 」

 

「お、お前達……! お前達の思いは受け取ったッ! 必ず貴様らの仇を、鉄華団を潰してみせる! 」

 

 イオクは部下に庇われる形で戦線を離脱。部下達はプルーマの波に飲まれ、帰らぬ人となった。

 

 ハシュマルも七つものご馳走があれば十分で、一つ取りこぼした程度は気にしなかった。それよりもエイハブ・リアクターでは得られない空腹を満たさなければならない。

 

 プルーマにはオイルや電力などを取ってくるように指示を出し、ハシュマル自身は人の一番多そうな近場へ移動を始める。

 

 ハシュマルとプルーマの一団が去った後、グライダーに乗ってガンダム・ゲーティアに搭乗したクロウリーと、レギンレイズ・カスタムに搭乗したジュリエッタが火星に降り立った。

 

 レギンレイズの残骸と採掘場の不自然な穴から、MAは結構離れた場所にいることがわかった。そして相手の軍団の規模も。

 

「……エイハブ・リアクターを引っこ抜いていますね。それにこの損壊具合……レギンレイズだと判別できませんよ」

 

『リアクターの照合も難しいからな。MSはMAに対する切り札であって餌にもなりうる。ビーム兵器の座標を考えると、あれは目覚めの一撃だったな』

 

「准将、どうなさいますか? 」

 

『……一番近く最大規模の人口密集地はクリュセ。その手前にも農業プラントがあるな。MAの習性を考えればこのどちらかに行く。そしてどちらにしてもこの渓谷を通るだろう」

 

「そこで迎え撃ちますか? 」

 

『無理だと私が判断したら、ジュリス二尉は火星支部と乗ってきた戦艦で地球へ戻れ。ラスタルへ伝え、ガンダム・フレームでMAを倒せ』

 

 ジュリエッタの実力ならガンダム・フレームを使いこなせるだろうと思っていた。クロウリーはこれで失敗したらガンダム・フレームに頼るしかないのだと考える。

 

 ここにはマクギリスなどセブンスターズの実力者が来ている。鉄華団もいる。それでも負けたら、勝てるのはジュリエッタだけになる。

 

 最後の希望を費やすつもりはなかった。

 

「命令ですか? 」

 

『命令だ。最悪火星を捨ててでもダインスレイヴで倒すとか、ラスタルなら考えるだろう』

 

「弱気な准将など、気持ち悪いですね」

 

『それだけの相手だ。できるならこの手で粉砕するとも。行くぞ』

 

 クロウリー達は移動を始める。

 

 一方マクギリスと鉄華団はどうにか撤退できており、MSの用意を始めていた。

 

 そしてクリュセへの避難勧告と同時にハシュマルとプルーマの分断作戦を考える。渓谷を爆破して分断することとした。

 

 鉄華団はすぐにMSを用意してハシュマルの進行速度を遅らせる、または爆破地点までハシュマルを誘導する任務に取り掛かる。

 

 マクギリス達はMSを受け取りに行った。火星支部の基地もハシュマルに襲われて自力で取りに行くしかなかったのだ。

 

 ハシュマルはギャラルホルンの基地を襲撃してオイルなどを補給した後、最短ルートを通ってクリュセに向かっていた。

 

 そのハシュマルへ、明弘が率いる鉄華団の二番隊が一当たりして爆破地点まで誘導しようと攻撃を仕掛けようとする。

 

 だが、それは別の方向から邪魔をされた。

 

 黒いレギンレイズが、カスタマイズされたレールガンで距離ギリギリからその一撃を加えていた。動きが遅かったこともあってその弾頭はハシュマルに直撃。ハシュマルもその方角を見て、抵抗するMSと人の密集地を検知。

 

 小さな場所であれば優先しようと考えていなかったハシュマルだったが、そちらに戦力があるならば踏み躙ろうと向きを変える。

 

「ふ、銃身が逝ったか。だが一矢報いてやったぞ鉄華団! これで部下も浮かばれる……。本当なら徹底抗戦したいところだが、生きろと願われた。私はその意思を受け継ぐ! さらばだ! 」

 

 その弾丸を食らわせたイオクは撤退をする。最大出力で放った一撃でMAは沈黙したはずだと信じて。

 

 だが、ただの一撃で戦闘不能になるわけもなく。興味を引かれただけだ。

 

 方向が変わってしまったことに、明弘はキレる。

 

「あっちは農業プラントがあるんだぞ⁉︎ やったのはどこのバカだ⁉︎ 」

 

 二番隊がハシュマルを追う。ライドが先行して農業プラントを守ろうとするが、ハシュマルは一気に人類を滅ぼすためにメガ粒子砲を放った。

 

 MSはナノラミネートアーマーを施しているのでメガ粒子砲が直撃しても熱い程度で機体の損傷は少なかった。だが、後ろにあった農業プラントはそうはいかない。MSを超えて建物も人も燃やし尽くし、黒煙が空へ昇っていた。

 

「ああ……! あああああああ! なんなんだよお前! 埋まってるならずっと埋まってろよぉ! 」

 

 残っていたライドはプルーマに襲われる。メガ粒子砲が効かないのなら直接潰そうと派遣されてきた子飼い達。

 ライドも奮戦するが、数が数だ。取り付かれて装甲や盾を壊されていく。

 

「チクショおおおおおおお! 」

 

『間に合わなかったか』

 

 その言葉と同時に、プルーマが多数弾かれる。三日月の乗ったバルバトスがライドに近寄るプルーマをメイスで弾き飛ばし、近寄ろうとしているプルーマはゲーティアに乗ったクロウリーがアンチマテリアルライフルで吹き飛ばしていった。

 

「三日月さん……と、だれ? 」

 

『ギャラルホルンの者だ。アレは私が倒す。それに鉄華団の少年。阿頼耶識とガンダム・フレームがMAの前に揃ったら動けなくなるぞ。三百年も経てばリミッターが再び付けられているだろう。粗悪品な阿頼耶識なら尚更』

 

「アンタ、何を……」

 

 三日月が言葉を続ける前にバルバトスが警告音を鳴らす。操縦桿を操作するが、クロウリーの言うように動かなくなってしまった。

 

「何が……? 」

 

『ガンダム・フレームによるリミッター解除と、阿頼耶識のパイロット保護システムだ。MAを倒すために人の身を捨てる覚悟を問われている。──だが、君はそんなことをしなくていい。私が全てを終わらせる。他にもガンダム・フレームのパイロットがいるのなら退避させるといい』

 

 クロウリーはそれだけ言うとプルーマの群れに突っ込んでいった。そこに遅れてジュリエッタも合流する。クロウリーは嫌な予感がして先行したのだが間に合わなかったのだ。

 

 プルーマを殲滅させながらMAを目指す。ジュリエッタから通信が入った。

 

「准将。イオク様を見付けましたが、放り出しました。戦場からは離脱するようです」

 

『アレに気を回している余裕はない。ここからは死地だ。生き残ることだけを考えろ』

 

「は」

 

 プルーマを片しながら、MAの反応を追う。MAはクリュセ方面に向かいだしたようだが、やはりガンダム・グシオンリベイクフルシティも動きが止まっていた。

 

「新手⁉︎ 」

 

『ギャラルホルンのレメゲトン・クロウリー准将だ。MAが復活したと知り援軍に来た。クリュセを落とされるわけにはいかないだろう』

 

「……あいつら以外の援軍っているのか? 」

 

「まあでも、あのちっせえの倒してたし。援軍なんじゃね? とりあえず団長に報告だ。明弘のことも伝えねえと」

 

 鉄華団のダンテとチャド達と合流し、グシオンを運ぶのを手伝いながら次の迎撃ポイントとやらに向かう。向かいながら作戦を聞く。

 

『なるほど。渓谷の爆破か。マクギリスはプルーマの特性を知っているらしい。最良の判断だ』

 

「あのちっこいのが本体を直して、ちっこいのも材料があれば増え続けるんだろう? ならそうするしかねえだろ」

 

『そして分断したところを君達のエースであるガンダム・フレームで倒そうと思っていたが、システムエラーでそうはいかなくなったと。良い、なら私と彼女で二人の代わりを務めよう』

 

 グシオンを鉄華団の臨時作戦本部まで連れていき、オルガに顔を見せるために機体から降りるクロウリーとジュリエッタ。

 

 ダンテ達はすぐにプルーマの排除へ向かっていった。

 

『お初に御目に掛かる。鉄華団の団長殿。私はレメゲトン・クロウリー。MAのことを聞きつけこうして馳せ参じた。君達のガンダム・フレームの代わりに私達が働こう』

 

「そっちもガンダム・フレームってわけか。……ギャラルホルンは仮面でも流行ってるのか? 」

 

『すまない、顔は火傷が酷くてな。見せられない』

 

「まあ良いさ。何でアンタのガンダム・フレームは無事なんだ? 」

 

『ギャラルホルンに保管されているフレームは既にリミッターが外されている。機能不全に陥ることはない』

 

 それと阿頼耶識もつけていないのでクロウリーとゲーティアが同じような症状になることはない。

 

「アンタ、所属は? 」

 

『アリアンロッドだ』

 

「そのアリアンロッドはどうやってMAについて知った? 俺らはマクギリスにしか伝えていないぞ? 」

 

『背中に気を付けろ、と言っておこう』

 

「……そうかよ。あともう一つ。この黒いMS、アンタの所のやつか? 」

 

 オルガが見せる映像。それはライドの機体が記録していた、撤退するイオクのレギンレイズ。

 

 隠す必要もないかと、クロウリーはあっさりと告げる。

 

『『夜明けの地平線団』との戦いで見ただろう? アリアンロッド第二艦隊司令官、イオク・クジャンの乗機レギンレイズだ』

 

「アンタらのせいで、農業プラントが焼かれたんだぞ! わかってんのか⁉︎ 」

 

 オルガがクロウリーの胸ぐらを掴む。それにジュリエッタがムッとしたが、クロウリーが手で制する。

 

『ああ。彼の暴走を止められなかった我々の責任だ。言い訳はすまい。だからこそ、これ以上を防ぐために私達が来た。アリアンロッド最強の個は私達だ。クリュセを守るために、私達を戦線に加えることを許可してほしい』

 

「……許可してやる。責任を果たしやがれ」

 

『マクギリス達にも私とジュリエッタ・ジュリスが加わることを伝えてくれ。では行かせてもらう』

 

 クロウリーとジュリエッタはハシュマルの元へ向かう。その間にジュリエッタが質問をしてきた。

 

「准将。どうして鉄華団に下手に出るのです? イオク様の責任を准将が取る理由はありませんよ? 」

 

『彼らにアリアンロッドの現状やラスタルの心情、イオクの実態など気付くわけがないからな。アリアンロッドはアリアンロッドでしかない。それは彼らだけでなく、火星についても同様だ。イオクの不始末はアリアンロッドで拭わなければならない。そうなると彼らへの謝罪を私がするのも不自然なことではないぞ』

 

「まったく。疫病神ですか? あの人は」

 

『それには激しく同意する。ここからは私語は無しだ。行くぞ』

 

 鉄華団には全員に連絡が行っていたようで、クロウリーとジュリエッタが参戦しても何も思われなかった。彼らも一度ギャラルホルンと共闘しているためにその辺りの認識ができているのだろう。

 

 渓谷の上からプルーマだけを狙う。本体に攻撃を当てたら反撃を食らうのは先程のイオクの攻撃で実証済み。プルーマだけに狙いを絞るよう徹底された。

 

 その結果プルーマを六十機以上撃破することに成功する。特にクロウリーとジュリエッタの奮闘はすごいもので、三日月と明弘の代わりを務めると宣言したのは嘘偽りなかった。

 

「お前ら、よくやった! あとはユージンの班が爆破する! その後も子機を倒してくれ。本体はギャラルホルンが叩く」

 

『では私達も移動する。マクギリス達も来るのだな? 』

 

「もうすぐ爆破地点に着くって連絡があった」

 

『了解した。先回りする』

 

 オルガからの連絡を受けて移動を開始する。

 

 爆破地点にはマクギリスのシュヴァルべ、ガエリオのキマリス・トルーパー、カルタのグレイズリッター。そして石動のヘルムヴィーゲ・リンカーがいた。

 

 マクギリスが代表として、話しかけて来る。

 

「レメゲトン・クロウリー准将。アリアンロッドは何がしたい? 」

 

『今はMAの討伐だ。アリアンロッドの総意としては、今回のファリド公達の邪魔立てをするつもりなどなかった。ラスタル中将からも正式な任務を通達されて私と彼女は来ている。MAが目覚めた際に討伐するための戦力派遣だ。イオク・クジャンの行動予定表と共に渡そう』

 

 マクギリスへ、電子データを送る。

 

 そこにはラスタルの印が押されたクロウリー達の依頼書と、イオクの本来の行動予定表。それを見ると火星に来る予定などなかったはずなのだ。

 

「明らかな電子音声といい、信用できないな」

 

『だが、MAの危険性を座視できないのはアリアンロッドとしても同様だ。もしイオク・クジャンが邪魔ならセブンスターズとして彼を除名したまえ。ラスタル中将も賛同してくれるだろう』

 

「エリオン公が? 同じアリアンロッドだろう? 」

 

『MAを起こし、その危険性を調べず。任務を遂行しようともしない人間がギャラルホルンに必要だと思うか? 』

 

「話し合うのも良いが、そろそろMAが来るぞ」

 

 会話にユージンが割り込んで来る。座標データを見ると確かにハシュマルが近付いて来ていた。

 

『言葉が信じられないのなら行動で示すしかないだろう。MAを倒すまでの共同戦線だと思ってくれれば良い』

 

「時間がないな。今はそれで納得しよう」

 

 MS全ての準備を整えて、観測班がしっかりと速度を計測して。

 

 仕掛けた爆弾が、爆発した。

 

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