鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCE、クラン解散して一気に冷めてしまって引退しました…。なので初投稿です。


35 天使と悪魔の目覚め・4

 私にとって、レメゲトン・クロウリー特務准将というのは不思議な人でした。

 

 接した期間は短い。アリアンロッドに来て間もないということもありますが、何と言ってもこの方の出張があまりに多いのです。アリアンロッドにいる期間よりも出張の期間の方が長いという異例の上司。

 

 しかし、ラスタル様が信頼する方だというのは普段の業務でわかりました。

 

 本職のMS戦闘においては精鋭揃いと呼ばれる我々アリアンロッドの誰よりも突出していました。それは数多く行なった模擬戦と任務の結果からわかっています。私も一対一ではついぞ敵いませんでした。

 

 そして准将は驚くことにパイロットとしての才能だけではなく、文官も舌を巻くほどの事務処理能力、そして階級に相応しい知識を併せ持った方でした。質問をすれば確実に答えが返ってきて、知らないことなどないのではないかと思うほど。

 

 アリアンロッドには長い時間いないのに、誰もが彼を一員だと認めていました。それは実力があることと、普段の態度が紳士的であること。そしてラスタル様の笑顔を引き出す方だから、ということが大きいでしょう。

 

 ラスタル様の親友というのは本当で、准将といる時は屈託無く笑われるのです。

 

 アリアンロッドに所属する者はラスタル様に惹かれて入隊する者ばかり。そしてラスタル様のために働くことを至上としつつも、ラスタル様の様々なお顔を見たいというのも紛れもない事実。

 

 笑顔という一部を引き出してくれる准将を嫌う理由がないのです。当の本人の表情は全く見えませんが。

 

 紳士的で、戦場で輝く一等星で、ラスタル様のご友人。

 

 その人柄から、実力から。そして孤児である私を一隊員として認めてくれる信頼度から。私は自分のパーソナルスペースにラスタル様とカイン兄様、そして『髭のおじさま』の隣くらいに、准将を含めてもいいのかなと思いました。

 

 べ、別に実力を褒められたからではありませんよ? MA討伐の同行を許可されたからとか、そんな安い理由ではありませんから。

 

 まあ、とにかく。そんな風に認めていましたが、結局彼の本心までは読み取れなかったのです。鉄仮面と同時に、心を塞いでいるようで、少しは親しくなれたと思っても、その仮面の奥を私は感じ取れませんでした。

 

 なんとなくの感情は読み取れるようになりましたけど、全てはわからない人。喜怒哀楽は僅かに見せるものの、その全てを抑え込んでいるような人。そして彼の身の丈も、本心も。知っているのはラスタル様だけで。私達には全てを打ち明けてはくれない寂しい人。

 

 だから、総評としては不思議な人です。

 

 その不思議な人が、こうも感情を露わにして暴れるなんて思いもしませんでした。

 

『ああああああああ! 消えろ‼︎ 人の歴史のためにオレが壊す! もう二度と大事な者を手放してたまるものか! 』

 

 ああ、あの人が怒っている。

 

 そんな当たり前のことを知らなくて、私は自分の無知をさらけ出して。

 

 血を吐きながら意識が遠のいていった。

 

────

 

 盛大な爆発音とともに渓谷を構成する岩壁が崩れ、多種多様の岩石がハシュマルとプルーマを襲う。ハシュマルはその図体の大きさと装甲の硬さから岩落としを強硬策で突破していたがプルーマはその機体の小ささからほとんどが埋まってしまった。

 

 埋められなかった機体も、山となった岩を登るのは時間がかかる。その間に後ろに現れた鉄華団のMS部隊が一機ずつ撃破していった。

 

「どうよ! 」

 

「さすが鉄華団だな。こちらは任せろ」

 

 ユージンに賞賛の声をかけてマクギリスがハシュマルに突っ込む。それと同じようにクロウリー達も突っ込んだ。

 

 独特のキュウウという駆動音を立てながらハシュマルは暴れ出す。プルーマを助け出すのではなく、目の前に現れたMSの撃破を優先するようだ。

 

 それもそのはず。このハシュマルは直前までガンダム・フラウロスと戦っていた。自分を休眠状態に追い込んだガンダム・フレームが二機もいるのだ。怨敵と遭遇したように牙を向けてきた。

 

 マクギリスが鉄剣で斬りかかれば、援護するようにカルタとクロウリーが射撃を当てる。マクギリスに負けじとジュリエッタとガエリオもそれぞれの武器で斬りかかり、突き刺した。石動はその堅牢な機体特性を活かしてハシュマルの鋭い爪を防ぐ。

 

 ハシュマルの近接戦闘の速度は図体に似合わず高速だったが、この場にいるのはギャラルホルンでも最上位に位置する実力者ばかり。避けられない攻撃はあるものの致命傷にはならず、速度的にはついていけていた。

 

 それを見ていた爆破班の鉄華団もその戦闘能力の高さにエドモントンで彼らがいなくて良かったと安堵していた。

 

 ガエリオがランスで装甲を削ぎ、マクギリスとジュリエッタが剣で装甲の隙間に斬り込み。やってくる攻撃はカルタとクロウリーが狙撃して撃ち落としていた。

 

 即席のチームとは思えないほどの連携の練度。話し合う時間などなかったはずなのに、一人一人が何をやるのかわかっているように動いていた。

 

 今もマクギリスがテールブレードで距離を開けられたが、そこを埋めるように石動が同じポジションに入った。

 

 かといってシュヴァルべとヘルムヴィーゲ・リンカーでは機体のコンセプトが異なる。パイロットも違うのだから全く同じ動きができるはずもない。

 

 だがマクギリスが復帰するまで石動はそのポジションを全うしていた。

 

「すまない、石動! 助かった! 」

 

「問題ありません准将! 」

 

 入れ替わる時も大きな齟齬や全体への動きの強要などなくスムーズに立ち位置を変えていた。

 

 周りで見ている者からすればギャラルホルンの連携の凄まじさを見せつける場だったが、やっている本人達からすれば堪ったものではない。

 

(なんだこのやりやすさは⁉︎ 言葉を出さずに全員の動きがわかる⁉︎ これはアルミリアと繋がった時と同じ……! 自律機械の動きが読めるなど、アルミリアのように人と人の接触ではないんだぞ⁉︎ )

 

(視野が広い? いやだが、モニターに映らない動きまで俺は追えている? 後ろどころか、目が複数になったかのような……? そこ! ……何で俺は今尻尾が来るとわかったんだ⁉︎ )

 

(異常よ、こんなの! 指揮官として離れていたとしてもここまで俯瞰して状況を把握できない! 僅かに手が足りないところにだけ気付ける今の状況が異常だって、才能のない私にだってわかる! )

 

(とっさに遊撃のポジションに収まったが……。こうも完璧に攻守の切り替えができる判断力があったか? 相手は人類を滅ぼしたMAだぞ! こんな雑念を抱ける余念がある時点でおかしい! それにこれは准将達も同じ状況に陥っている……! なんなのだ、これは⁉︎ )

 

 上からマクギリス、ガエリオ、カルタ、石動の所感だった。高速戦闘を行なっているせいで声を出したら舌を噛みそうだったので心の内で思うだけだったが、疑問に感じながらも最適な行動をしている自分達がおかしいという自覚はあった。

 

 だが一方で、この戦闘に順応している者もいた。

 

 ジュリエッタだ。

 

(左、上! 右下、地面を砕く目眩し! からの砂煙からテールブレード! ……見えます! いつかのカインとの戦闘のように! これをやってるのは、クロウリー准将……? )

 

 そのクロウリーもアサルトビットを使って攻撃はもちろん、立っている地面を攻撃して足場を悪くして体勢を崩したり、相手への牽制に使ったりしていた。

 

 そして全員が、ハシュマルが口を開く前に回避行動を取っていた。

 

 直後放たれるメガ粒子砲。さっきまで立っていた場であれば直撃し、機体は無事でも攻撃するための武器が焼かれていただろう。もしくはマニュピレーターが融解していた可能性がある。

 

 それを予備動作になる前に予感して避けるなんて超人じみたことができる。それに困惑した四人は次の行動を取れなかった。

 

 むしろ慣れているジュリエッタとクロウリーはすぐに攻撃を再開させる。それを見てマクギリス達ももう一度踏み込んだ。

 

 その様子をユージンから送られてくる映像で確認して、オルガは秘密兵器たるフラウロスや三日月達を戦場に出さなくて済むことを喜ぶ。

 

 だが、待機させていた三日月がそれではダメだとバルバトスに乗り込んだ。

 

「おい、ミカ⁉︎ 」

 

「オルガ。俺が行かなかったらあそこの誰かが死ぬ。そうしたらオルガの立場が悪くなる」

 

「あれだけ優勢なんだぞ? それにもう一回お前がMAと戦えばエドモントンの二の舞だ! そうなったらアトラとクーデリアに申し訳が立たねえじゃねえか‼︎ 」

 

「あの二人も大事だけど、俺はオルガも大事なんだよ。それにクリュセには二人が残ってるんだ。人任せにするよりは、自分の手で守る」

 

「ミカ! 」

 

 オルガが止めるまでもなく三日月は戦場に向かってしまう。それに慌てたオルガは自分専用の白い獅電、通称『王様の椅子』に乗り込んで三日月を追いかけた。

 

 そして戦況は動く。

 

 MAは何を思ったのか、メガ粒子砲を連発した。岩壁も地面も粉々に砕くように何発もビームを解き放った。

 

 そのせいで降り注ぐ大小様々な岩。モニターがやられるほどの岩の粒子。全員がその場に居座るのは危険だと感じて砂のカーテンから離脱しようとする。

 

 しかし、それを許すハシュマルではなかった。

 

「がっ⁉︎ 」

 

「カルタ⁉︎ このっ! 」

 

「プルーマ⁉︎ どこか……きゃあ⁉︎ 」

 

『ジュリエッタ! 』

 

 砂埃から現れたプルーマによってカルタとジュリエッタは吹っ飛ばされてしまう。カルタはすぐにマクギリスがプルーマを排除したので軽傷だったが、ジュリエッタには五機ものプルーマが突っ込んでいた。

 

 しかもすぐ近くに岩盤があったためにそこに叩きつけられてしまった。クロウリーがプルーマを即座にバスタードソードで排除したが、レギンレイズはところどころがひしゃげていた。

 

『無事か、ジュリエッタ⁉︎ 』

 

「……はは。ようや、く……。名前を、呼んで……くれました、ね」

 

『バカなことを言っている場合か! 応急キットを出せ! それもできないなら下がらせる! 』

 

「……なんでしょう、あなたとの、共闘。そんなに嫌いじゃ、なかった……。ガハッ! 」

 

『石動一尉! 彼女を連れて下がれ! すぐに処置しなければ命に関わる! 』

 

「は、はっ! 」

 

 吐血までしていたので、石動を使ってジュリエッタを下がらせた。

 

 ハシュマルは先程の鉄華団の仕掛けによる爆破で生き埋めになったプルーマに、火星の大地を掘らせて地中に潜ませていたのだ。そしてメガ粒子砲で視界を奪った後、全くの想定外である真下から奇襲を仕掛け、女性陣を追い込んだ。

 

 だが埋められていたプルーマが六機しかおらず、砂埃のカモフラージュもあまり長く保たなかったので近場にいたジュリエッタに戦力を集中させて確実に戦線復帰不可能へと追い込んでいた。

 

 その残虐性に、機械が人を殺すという理不尽に。

 

 クロウリーがキレた。

 

『ああああああああ! 消えろ‼︎ 人の歴史のためにオレが壊す! もう二度と大事な者を手放してたまるものか! 』

 

 今までの連携がなんだったのかと思うほどの苛烈さで、単機でハシュマルへ突っ込んでいった。アンチマテリアルライフルと大型のシールドを投げ出して、バスタードソードを両手で持って斬りかかっていた。

 

 直前まで冷静に一歩引いて援護に徹していたクロウリーが突出したことを誰も止められなかった。そこまでの激情家だったと、ギャラルホルンの誰もが知らなかったのだ。

 

 近接戦闘で一対一だというのに完全に渡り合っていた。全く引けを取らず、攻撃を受け流すどころかむしろ攻撃を加えていた。

 

『クソ! 仮面が邪魔だから動きが鈍る! ──ジュリエッタが傷付くくらいなら、こんな物最初から着けなければ良かった! 」

 

 クロウリーがコックピットの中で仮面を外す。

 

 するとリミッターが外れたのか、格段にゲーティアの動きが良くなった。速度が上がり、アサルトビットの動きも複雑怪奇になっていく。

 

 キュウウウウ!という悲鳴のような機械音がハシュマルから聞こえる。先程まで六人がかりで追い込んでいたというのに、今は一人で圧倒していた。

 

 その鬼神の如き動きもそうだが、マクギリス達が動けなかったのはゲーティアから聞こえてきた肉声が原因だ。

 

 この場にいないと思っていた人物の声が辺りに響いたのだから。

 

「か、カイン、なのか……? 」

 

「マクギリス! 何でカインが准将を名乗って、アリアンロッドにいるんだ⁉︎ 」

 

「俺は何も知らない⁉︎ 何も聞いてないぞ⁉︎ 」

 

 あまりの衝撃に、マクギリスは素の一人称が出てしまってた。取り繕う余裕がないほどにマクギリスは驚いていたが、それはガエリオもカルタも同じ。

 

 MAという脅威もそうだが、親友だと思っていた人物が自分達に内密に、立場も偽って暴れていた。カインの裏を知っていると思い込んでいたマクギリスが一番衝撃を受けているだろう。

 

 そんなセブンスターズ三羽烏の衝撃を置き去りに、上空から一機の白い悪魔が天使を襲う。バルバトスがメイスでハシュマルの頭を突き刺していた。

 

「手伝うよ」

 

「三日月・オーガス! 自分の身体を大事にしろ! 」

 

「やっぱりライオンだったんだ。ライオンも大事な奴傷付けられて怒ってんのに、俺になんか言えんの? 俺だって、オルガやアトラ、クーデリアが傷付くのは嫌だ」

 

「……好きにしろ! 」

 

 バルバトスは少しだけリミッターを外し。本来の力を使い出したゲーティアもハシュマルを追い込む。

 

 最初の内はメイスやバスタードソードで斬りかかっていたが、途中からは獣のように圧倒的な膂力をもってして装甲を砕き、手刀で割り、脚部に着けたクローエッジで蹴り込み。

 

 カインの普段のスマートな戦闘を知る者としてはあり得ない、野生味溢れた戦闘にギャラルホルンの者は誰もついていけなかった。阿頼耶識を付けたオルガでも不可能で、そのカインについていけるのは三日月とバルバトスだけ。

 

 カインは昔から突拍子のない戦闘方法をしていたが、それもあくまであり得る範疇のもの。自分の機体が傷付くことを厭わず攻め続ける姿など誰も見たことがなかった。

 

 時にはアンチマテリアルライフルを拾って口に突っ込んでゼロ距離射撃を行なったり。シールドでシールドバッシュをやってノックバックでハシュマルを怯ませ、その隙に三日月が一撃を与えたり。

 

 アサルトビットを使い捨ての弾丸扱いにして一方的な火力を叩きつけていた。

 

 まるでさっきまでの戦闘のように、何も言わずともカインと三日月はわかり合っているかのように熾烈な攻撃を仕掛けていた。カインが下から投げたメイスが避けられたと思ったら頭上に跳んでいた三日月が受け取って突き刺すなど、これが初めての共闘だと思えないほど阿吽の呼吸を見せていた。

 

 そこに、誰かが何かをしたらこの状態が崩れるのではないかと思い何もできない。二人が傷付きハシュマルを攻め立てているというのに、誰も一歩も動けなかった。

 

 それは途方もなく長い時間のように感じたが、実際にはとても短い時間だった。

 

 二体の悪魔に、主天使では歯向かえず。

 

 そもそも過去に、主天使よりも階級が上の智天使がたった一機の悪魔に敗北しているのだ。

 

 悪魔に相応の傷を付けたものの、今度は完全なる暗闇へと落ちていった。

 

 その光景をプルーマを排除していた鉄華団のMS部隊も残さず見入っていた。

 

 厄災戦の一端を、誰もが肌で感じていた。

 

 ゲーティアも傷付いたことで偽装用のエイハブ・リアクターが損傷した。そのせいでリアクターの照合が可能となった。

 

 照合ができたのはギャラルホルンの者のみ。それは存在しているとされていたが、ギャラルホルンでも実在を証明できなかった幻の機体。

 

 厄災戦で製造されたものの、搭乗者が存在しなかった。ただの数字合わせの機体と言われていたガンダム・フレーム。

 

「ASW-G-72、アンドロマリウス……。最後の悪魔が、泣いてるわ」

 

 天使を誅殺した悪魔の末弟。

 

 全身の装甲が剥がれ、右手のマニュピレーターが潰れ、特徴的な二本角の片方が折れ、ツインアイの片方も明滅したボロボロな状態。

 

 その姿がとても悲しげで、カルタは思わずそう零していた。

 

 その感想はあながち間違っていない。アンドロマリウスの中でたった一人の生き残りは、確かにそこで涙を流していたのだから。

 

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