鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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今回短いです。


38 無知の罪科・2

 鉄華団の少数精鋭が介入したことで戦場の趨勢は変化していった。

 

 名瀬は敵が降伏を受け入れないとわかって単身特攻することを辞めた。ジャスレイが相手にいる段階でそんなことは言っても無駄だとわかり、アミダと一緒に後退して撤退を進める。

 

 そこに援護でライドがハンマーヘッドに付き、明弘とシノがアリアンロッド第二艦隊とやりあった。アリアンロッドが精鋭の集まりとはいえ、今回の作戦はダインスレイヴで駆逐することが前提とした部隊展開。

 

 ダインスレイヴを撃つグレイズと、弾頭を取り替えるグレイズが計二十機もいて、まともな戦力は残っていなかった。

 

 そしてほぼ動けないグレイズなど、ガンダム・フレームの敵ではない。

 

 接近された時の応対武器を所持していないグレイズ達では精々回避行動を取るしかできなかった。ガンダム・フレーム特有の膂力を活かした武装が使われていることで遠距離武器でもその一撃一撃が必殺の威力を持っている。

 

 直撃したら最低でも中破しかねないので、グレイズは避けるしかない。そうなるとダインスレイヴの補充なんてできるわけがなく、一方的に攻撃を受けていた。特にカインがアサルトビットでハラスメントを行なっているのも大きいだろう。

 

 何かをしようとしたら遠距離から実弾が飛んでくるのだ。ダインスレイヴの発射機構を破壊されればダインスレイヴも形無しだ。

 

 禁止兵器を持ち出したのに何も戦果が得られないことにイオクがブリッジで地団駄を踏む。

 

「ダインスレイヴの第一射はどうして外したんだ⁉︎ 当たらない兵器なんて価値がないだろう! 」

 

「イオク様、ダインスレイヴは元々命中率がそこまで高くありません! 距離も離れています、当たる保証なんてありません! 」

 

「十発も撃って、直進してくる戦艦に一発も当たらないのはおかしいだろう⁉︎ あの邪魔をしてくる機体はどこの誰だ! 悪趣味な機体色をして、戦場をバカにしているとしか思えん! 」

 

「IFFは不明ですが……どちらもガンダム・フレームです! あ、いや⁉︎ もう一機ガンダム・フレームの反応が! 」

 

「MAに惹かれて、古代の英雄まで甦ったか⁉︎ 我らの栄光の片割れを穢す愚物はどこのどいつだ! 」

 

 イオクはセブンスターズとしてガンダム・フレームを所持しているクジャン家の跡取りとして、ガンダム・フレームの存在は認知している。MAを知らずガンダム・フレームを知っていたのは実物があるかないかの差だ。

 

 ブリッジでデータ解析をしていた者が観測結果について驚く結果でも出たのか、声が裏返る。

 

「な⁉︎ 識別コードはガンダム・ゲーティア! レメゲトン・クロウリー特務准将です! 」

 

「何⁉︎ なぜ奴がここに……! 」

 

「……我々の任務外行動を咎めに来たのでは? 」

 

「そんな訳があるか! 我々は鉄華団という脅威を取り除くための行動をしているのだ! それがたとえ任務外行動であっても、秩序を守るための大義に変わりないはずだ! 」

 

 そう言っても本人は既にここに来ている。

 

 カインはまず避難民の安全確保のためにダインスレイヴを徹底的に狙って攻撃しているので接近はしていなかったが、排除が終われば次はイオクの番だ。

 

 他の観測員がグシオンの解析を終えて、IFFを隠蔽しているものの相手が鉄華団だとわかる。タービンズと鉄華団の関係を考えれば来るのは当然で、そんな一騎当千のガンダム・フレームが相手ではアリアンロッドとはいえ戦力は心許ない。

 

 直接戦闘ができる機体はダインスレイヴ運用のために限られていて、逃げようとしている艦隊を追おうとして追撃にほとんど回している。イオクの旗艦の周りに戦えるMSはほとんどいなかった。

 

「ええい! クロウリーに通信を繋げ! 真意を確かめる! 」

 

「エイハブ・ウェーブのせいか、通信できません! 」

 

「右翼ハーフビーク級八番艦、損傷率三十%を突破! このままでは航行不能となります! 」

 

「左翼十一番艦も損傷拡大! つ、次は我々です! 」

 

「黄金のジャスレイ号、戦線を離脱しようとしています! 」

 

「くぅ! こうなったら私が直接叩き潰してくれる! 」

 

「いけません! まだレギンレイズは修理が終わっていません! 」

 

 イオクのブリッジは混乱していた。その間にも避難艦隊とハンマーヘッドは離脱していき、ダインスレイヴは破壊されていく。

 

 タービンズがダインスレイヴの有効射程から離脱したことと、ほとんどをガンダム達にやられてしまったので副司令官が撤退を指示。

 

 第二艦隊は木星でも火星でもないどこかへ逃げていった。

 

「クソ、逃げやがった! めちゃくちゃなことやっておいて、自分達が不利になったら逃げるなんてよ! 明弘、追おうぜ! 」

 

「追撃は……無理だな。スラスターの残量がなくなる。それにラフタ達は無事だったんだ。それでいいだろ。もうすぐビスケットの合流時間にもなるしな」

 

 シノと明弘が武器を降ろす。タービンズやユージンが操縦する戦艦に合流しようと後退を始めると、エイハブ・ウェーブの影響力が低くなったのかラフタの甲高い通信が入る。

 

「ちょっと明弘、助けて⁉︎ ギャラルホルンの奴、反応が返ってこないんだけど⁉︎ 」

 

「あ? ……なんだっけ、ビット? それはまだ動いてるから意識はあるはずだが……」

 

「アンタの筋肉でなんとかしてよぉ! 」

 

「俺の筋肉をなんだと思ってるんだ……」

 

 明弘はげんなりしながらゲーティアに近付く。ラフタも外から揺らしていたようだが反応がないようなので、コックピットを軽く小突いて揺らすことにした。

 

「あー、カインさん? 戦闘は終わったんだが、返事をしてくれ」

 

「……ん、ああ。すまない……。集中しすぎていた。終わったのか……」

 

「……カインさん、鼻血が出てる」

 

「鼻血? ……久しぶりだな。やはり十六基は無茶だったか……。脳が焼き切れなかっただけマシだ。昔はその直前まで行ったからな……」

 

 カインは明弘に指摘されて、救急セットを用意して鼻血を拭う。感応波を使いすぎると血管に影響が出ることもある。昔どれだけの物を動かせるかと研究所で実験をしていた時も十六は限界値であるのと同時に、機体本体の操縦ができない本当の意味での限界だった。

 

 カイン達はユージンとビスケットに回収されると、カインは戦艦で火星に着くまで爆睡。

 

 カインが火星に戻ると、火星の状態も落ち着いていた。マクギリス達と一緒に地球へ戻った。その航路の中で今後どうするかを話し合う。

 

 そして鉄華団では、今回の騒動でまずはジャスレイへ報復することを考える。

 

 三日月も容体が安定し始めたのでジャスレイ討伐の戦線に加わる。

 

────

 

 鉄華団とタービンズの連合がジャスレイのJPTトラストを襲撃した。

 

 ジャスレイも金に物を言わせてヒューマンデブリを大量に雇ったが、武闘派のタービンズとギャラルホルンを相手にしてきた鉄華団の猛攻は防げなかった。戦力比だけならジャスレイの方が上だったが、練度が違いすぎた。

 

 その蹂躙劇に、イオクを使えない歯痒さに。ジャスレイは取りたくなかった手段であるマクマードへ連絡を取った。

 

「親父、名瀬と鉄華団が俺に攻め込んで来やがった! 親父から言ってあいつらの暴走を止めてくれ! 」

 

「ジャスレイ……。確かに身内での揉め事はご法度とした。だがな、ちいとやりすぎたんじゃねえか? MAのことも精査せず、セブンスターズの問題児と手を組んで名瀬を嵌めようなんてよ……。てめえが誓った仁義って奴はそんなもんか? 」

 

「ぉ、親父……? 」

 

「MAは自律兵器だ。その上ギャラルホルンと鉄華団が討伐した、厄災戦以来の英雄様にてめえは何してんだ? 人類を守った、俺の誇れる息子達を禁止兵器で潰そうとしたな。その禁止兵器を扱ったっていう冤罪を仕掛けて」

 

 マクマードの態度から、ジャスレイはもう取り返しのつかないところまできたのだと自覚する。そして走馬灯のようにどこで間違えたか逡巡し始めた。

 

「折角No.2の席が空くんだ。名瀬を若頭に出世させて、鉄華団をテイワズの一組織に格上げしねえとな。ハーフメタル事業で上がったシノギは大きい」

 

「ま、待ってくれ親父! 」

 

「もうてめえは息子じゃねえよ。お前の首を持って、MAに焼かれた人々への哀悼の意とさせてもらう」

 

 そう言ってマクマードはジャスレイの盃を割って通信を切ってしまう。

 

 テイワズではなくなったジャスレイを、テイワズのタービンズと鉄華団が討伐してもなんら問題はない。

 

 バルバトスがブリッジに向かってメイスを叩き落とした。

 

 テイワズの勢力図が変わり、内紛の終わりを示す一戦となった。

 

────

 

 イオクの暴走はギャラルホルン全てに通達される。セブンスターズも緊急会議を行うこととなり、ヴィーンゴールヴへイオク以外へ招集がかけられた。

 

 主な目的は火星での出来事の精査。そしてこれからのイオクへの裁可について。

 

 火星の被害から経済圏ではまたギャラルホルンへの不満が爆発していた。今回のやらかしがイオクのせいだと情報が出回っており、それを止める手段がなかったのだ。

 

 ギャラルホルンが暴力を持ってして秩序を守っていたために、情報戦にあまり力を入れていなかったからこそ後手に回っていた。経済圏も火星に企業を進出させていたので本部とのやり取りなどをして情報は拡散されてしまった。

 

 火星はMA被害の最前線だったために最速で動いたことで落ち着きを取り戻していてギャラルホルン側への制裁や賠償などを纏められていたが、地球圏ではむしろ今こそがホットな話題になっていた。

 

 その対応にヴィーンゴールヴも追われていたが、統治するはずのマクギリスがいなかったことで混乱に見舞われていた。

 

 だが、マクギリスを責める声はない。MAについて知られ回っているということは同時にマクギリス達三羽烏の活躍も同時に伝わっているのだ。

 

 クロウリー准将のことは一切伝わらず、マクギリス達と鉄華団、そしてジュリエッタだけの活躍が持て囃される。現代の救世主だと、アグニカ・カイエルの意志を継ぐ者と評価されていく。

 

 マクギリス達が評判を挙げたこともそうだが、ラスタルの評判もそこまで落ちなかった。ジュリエッタの活躍が取り上げられたこともそうだが、このMA騒動の際にラスタルが送り込んだのはジュリエッタを含む戦艦一隻だけで、第一艦隊は任務をこなしていたと知らされたからだ。

 

 第二艦隊のスケジュールも全て公表され、火星支部へ寄港許可を申請したデータなども提出された。そのため、イオク周りの騒ぎはイオク本人と第二艦隊の暴走だと受け止められた。

 

 それもこれも、過去から続くイオクの暴走がギャラルホルンでは有名だったからだ。だがそれでも、やはり同じアリアンロッドとしてラスタルは責任を取らなければならない。

 

 セブンスターズが勢ぞろいするヴィーンゴールヴで。ギャラルホルンが変革する弾丸の音が鳴り響いた。

 




三日月は一期終盤と同じ状況になりました。
まだ歩けます。

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