鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでクランの鞍替えをしたので初投稿です。
リーダーがINしなくなっちゃったからね……。仕方ないね、バナージ……。



3 偽り

 カインが飛び級をしてすぐ。途中からクラスに編入するため自己紹介をさせられた。孤児だということを素直に話してすぐ授業を受けて。

 

 二限の射撃訓練のために移動をしようとしたら、廊下で後ろから声をかけられた。

 

「おい、お前。カインとやら。いきなり三回生に上がって大丈夫か? 教養はあるようだが、三回生からは実技が増えるぞ」

 

(この方、確か……)

 

「心配していただきありがとうございます。ボードウィン卿」

 

 カインはそう言い、頭を下げた。薄紫色の髪をしたカインより少しだけ背の高い少年。制服は幼年学校で共通のものなので変わらないはずなのに、どこか気品を感じる少年だった。

 

 それもそのはず。

 

 彼はセブンスターズの正統後継者。ボードウィン家の長子、ガエリオ・ボードウィンだった。

 

「ボードウィン卿はやめてくれ。ガエリオでいい」

 

「では、ガエリオ様。自分を評価してくれた先生のためにも頑張るだけです」

 

「そうか! 孤児にしては見上げた根性だ。産まれを気にせずギャラルホルンのために頑張るお前のような人間がいるのは心強い。将来的にお前のような部下が欲しいな! 」

 

 ガエリオは純粋な気持ちでそう言っていた。それを言葉の雰囲気からカインも読み取る。

 

 ガエリオはセブンスターズの一員でありながら、出自を気にしない性格をしている。最近も正妻ではなく愛人の子だというマクギリスと親友になったばかりだ。

 

 だから孤児という理由でカインを差別したりしない。むしろ飛び級してみせた凄い奴だと褒め称えていた。

 

 セブンスターズの場合は武功を挙げずともその席は確約されているために、飛び級などで急ぐ必要はないとして飛び級をする者はいなかった。戦場に向かう期間を長引かせるなど、保守的なセブンスターズは誰も良しとしなかったのだ。

 

 そういう裏事情を知らないガエリオは、自分にはできなかったことをしたカインをセブンスターズとして配下に欲しいと、上の者として当然のように思っていた。

 

(このガエリオは要注意対象と親友だとラスタル様も仰っていた。二人して叛逆するかもしれない。なら彼とも関わっておいた方がいい)

 

 ラスタルからの情報を加味して、カインはそう打算を働かせる。マクギリスも来年になればこの幼年学校に通うのだ。

 

 今の内からガエリオと仲良くしておけば、マクギリスとの接触も簡単になると思い、ガエリオにもいい顔をしておこうと関係性の構築を決定した。

 

「そうなれれば、嬉しいです」

 

「約束だからな! よし、じゃあ次の授業について俺が教えてやろう。銃と言っても本物の銃を使うわけじゃなくて、モデルガンを使う。弾丸もゴム弾だ。その辺は実際に持ってみるとわかるぞ」

 

 こうして三回生の段階でガエリオと渡りをつけられた。そのおかげで四回生に上がった際に、予定通りにマクギリスとカルタ・イシューを紹介された。

 

 このセブンスターズ三羽烏とカインは幼年学校でも話題になっていく。全員が幼年学校で首位争いを繰り広げたので、幼年学校どころか士官学校でも名を知られていく。

 

 カインはギャラルホルンへ名前を売り、そしてセブンスターズに匹敵する者として、三家と交流がある人間としてカインは注目されていく。

 

 そうなれば。

 

 彼から声を掛けられるのも当然の流れだった。

 

──

 

「カイン。君は何の為にギャラルホルンへ入隊するんだ? 」

 

「自分達のような孤児を出さない為。孤児は辛いことが多いです。そんな孤児を、一人でも減らしたい。その為には、ギャラルホルンがもっと正しく、強くなければならないと考えます。孤児を減らすには、戦闘行為を減らすことが一番の近道だと考えました」

 

 呼び出されたカインは、マクギリスに半分本音、半分建前の言葉を告げる。

 

 この部屋は寮の一室で、セブンスターズの権力を使って抑えた小さな部屋で詰問されたカイン。

 

 孤児ながら優れた成績で、セブンスターズとして教育されてきたマクギリス達に匹敵する能力を持ち。更に歳下ときた。マクギリスも興味を抱いて当然の天才児。

 

 そして聞き出せば、今のギャラルホルン、ひいてはセブンスターズを否定するような発言が出てきた。

 

 思わず、マクギリスは笑みを浮かべてしまう。

 

「つまりは、力が欲しいと? 」

 

「はい。悪を討つ、正義の力が欲しい」

 

「……同志になろう。カイン」

 

「はい? 」

 

 上手くいった感触はあっても、突然の誘いに首を傾げてしまうカイン。

 

 孤児が少しでも減って欲しいと思っているのは事実だ。だが、そんな理由でカインは力を求めていない。

 

 全てはラスタルの思い描く世界のために。その世界の実現のために必要なものがMSの操縦だったり軍人としての力量であれば学ぶだけだ。

 

 正義だの悪だので、力を求めていない。

 

「その世界の実現のためには、今のギャラルホルンではダメだ。ここはギャラルホルンのお膝元だからわからないだろうが、ギャラルホルンは腐敗している。君のような孤児は増える一方だ。それは地球でも、その他の人類圏でも」

 

「そう、なのですか? 」

 

「ああ。俺がその腐敗の最たる証拠だ。俺も孤児。イズナリオに拾われた、血縁もないただの子供。それがセブンスターズを名乗っていることが、歯車の狂いを示している」

 

 マクギリスの唐突な告白に、カインは驚いた。演技などではなく、本心からマクギリスの偽りない言葉に驚愕を隠せなかった。

 

「ふふ、驚いたか? 君と変わらない立場の者が、セブンスターズとして崇められている。愛人の子というのは真っ赤な嘘だ」

 

(ラスタル様からそんなことは聞いていない……。養子とは聞いていたけど、血の繋がりはあるものとばかり。確認しないと)

 

「俺は男娼としてイズナリオに気に入られただけだ。俺のような存在は宇宙にたくさんいる。これを変えるにはギャラルホルンの抜本的改革がいる。力による、腐敗など起きない絶対的な統治が。伝説の力が再び必要なんだ。アグニカ・カイエルのような英雄が」

 

 マクギリスの言葉に熱が篭る。頬も上気して気分が昂っているようだ。

 

 カインには男娼など知らない単語もあったが、マクギリスがロクでもない目に遭ってきたのだと察する。

 

 そしてマクギリスがカインも授業で習ったアグニカ・カイエルを随分と盲信しているのだということも。

 

 マクギリスの思考が危険だとわかっても彼は、ラスタルのためにも彼の代わりの目になることを選ぶ。

 

「……もしもあなたが本当に世界を変えられるなら。オレはいくらでも力を貸します。孤児が悲しまない世界を。同じ孤児だったあなたならきっと──」

 

「ああ。ありがとうカイン。まず俺がセブンスターズとして、跡取りとして相応しいと思われるように実績を積む。カインもこの学校と士官学校で優秀な成績を納めてくれ。そして俺が直属の部下として引き抜く」

 

「わかりました」

 

「俺と二人の時はそんな固い言葉じゃなくていい。俺も襟を広げているだろう? 」

 

「……わかったよ。マクギリス」

 

 二人の偽りの協力関係が、ここに構築された。

 

 カインはそのことと、マクギリスの素性もラスタルへ報告したが、ラスタルはカインが男娼という言葉を知ってしまいショックで一日寝込んだ。

 

 カインとジュリエッタがイズナリオに拾われてマクギリスと同じようにハーレムに加えられる予定だったことだけは墓まで持っていくと、今度こそラスタルは誓う。

 

──

 

 その日は新入生が入って二週間ほど経った日。

 

 新入生は一団となって野外の演習場を訪れていた。学校から距離のあるそこにはバスを使って移動したため、新入生からすれば遠足気分だ。

 

 演習場に近付いてくると、キャイキャイと騒いでいる生徒達へ担任が声をかける。

 

「まもなくモビルワーカーを使った実機演習場に到着する。演習を行なっているのは五回生。みんなより四歳歳上の先輩達だ。そしてこの五回生にはセブンスターズのご子息が三名もいらっしゃる。心して見学するように」

 

「知ってる! マクギリス様とガエリオ様! 」

 

「カルタおねー様もいらっしゃるわ! 」

 

 担任の言葉はむしろ子供達のミーハー心を刺激してしまっただけのようだ。

 

 そんな騒がしい新入生達をよそに、窓の外を眺めている少女が一人。

 

 入学した、ジュリエッタだ。

 

 ジュリエッタの考えていることは、この学校にいる兄貴分のこと。突然孤児院から出て行き、幼年学校の寮生活を始めて一切孤児院へ帰ってこなくなった。

 

 時折来るラスタルはカインが幼年学校で元気にやっていると教えてくれたが今までいた暖かさをいきなり感じられなくなって、ジュリエッタは不安だった。

 

 一緒にやっていた研究所の試験も、一人だと味気なかった。大好きな焼肉を食べても、どこか寂しかった。

 

 ポッカリと空いてしまった空白が、とても気持ち悪かった。

 

 だからジュリエッタは早くカインと会いたかったのだが、この二週間会うことはできなかった。構内にいる感覚はあるのに、授業やら何やらで会うタイミングがなかった。

 

 最悪寮の部屋に殴り込みに行こうかと思っていたが、男女で寮は別れている。そう易々と異性の寮には近付けなかった。それだけ学校とそれぞれの寮は引き離されている。

 

 強硬手段をするには、ジュリエッタは幼すぎた。

 

 だから、悪態をつく。

 

「バカ兄様……」

 

 五回生なんて四つ上にジュリエッタは興味なんて欠片もなかった。用があるのは二個上の三回生。

 

 折角同じ幼年学校に入ったのに、二週間も会えていないせいで向かう先からカインの波長を感じ取ってしまうジュリエッタ。疲れているのだろうとジュリエッタは首を横に振る。

 

 演習場に着いて、観覧席に座るジュリエッタ。そして電光掲示板に現れる、演習を見せてくれる生徒の名前を見てジュリエッタは立ち上がってしまった。

 

 二対二の形式のようだ。四人の内三人は担任が言っていたセブンスターズの跡取り。そしてもう一人は。

 

「カイン兄様……」

 

 演習場にいるMWから感じる感覚は偽物ではなかった。そこにカインがいる。飛び級しているなんて、ラスタルから聞いていなかった。

 

 周りはセブンスターズの跡取り達が総出で戦うということに興奮しているようだったが、ジュリエッタにはもうカインしか見えていなかった。

 

 模擬戦が始まる。

 

 使われるのはペイント弾のようで、地面が真っ赤になっていく。それなりに近い距離のはずなのに、誰一人被弾していなかった。その技量の高さを見せつけていた。

 

 だが、ジュリエッタは変だと感じる。

 

 研究所でカインとジュリエッタはMWとMSの操縦訓練をシミュレーターとはいえ行なってきた。その時の動きと比較しても、動きが悪い。実機とシミュレーターという差がそこまであるのか。

 

 ジュリエッタは他の三人についても感覚の波を広げて読み取る。

 

 その結果、三人は必死ながらも、カインには余裕があるとわかった。

 

(兄様、手を抜いてる……? あ、ラスタル様との関係を疑われないため! 私も言われてたんだった! )

 

 カインの動きが緩慢な理由には思い至った。そして手を抜いていてもそこまで実力が離れていないとわかる。

 

「ちょっとガエリオ坊や! もっとマクギリスを引き付けて! 」

 

「む、無理言うなってカルタ! マクギリスは俺達の中でトップの成績だぞ⁉︎ カインもこのところすっごく実力をつけてるし! 」

 

「ああ、もうっ! こうなったら菖蒲(しょうぶ)の陣よ! 」

 

「何それ⁉︎ 俺も知らない戦法口にされても困るんだけど! 」

 

 結果としてマクギリス以外が全員撃破判定。マクギリスがぶっちぎりなことは事実だが、カインも負けていないとジュリエッタは思った。

 

「あれがセブンスターズのご子息の皆様と、五回生で唯一の飛び級生カインだ。あれだけMWを操縦できるとなると、士官学校生も顔負けだ。成績が良ければカイン五回生のように飛び級できる。皆も頑張ってほしい」

 

 最後にカインのことを担任が褒めたことでジュリエッタは我がことのように鼻が高くなっていた。

 

 自慢の兄が相変わらずで、ジュリエッタは嬉しかったのだ。兄も頑張っていると、ジュリエッタも幼年学校で頑張ろうと志を新たにした。

 




今回の話を纏めると。
マクギリス「同志だ!嬉しい!」(ピョンピョン!)
ジュリエッタ「お兄様すごいすごい!」(ピョンピョン!)
以上というね。

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