鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
マクギリスはヴィーンゴールヴの通信装置を用いて、全世界に通信を行なっていた。地球圏だけではなくコロニーにも火星にも木星にも、人類が住む場所ならどこにだって届くように通信をジャックしていた。
マクギリスは演説をするために壇上の上に立っていた。その両脇には一歩離れてガエリオとカルタが立っていた。
そしてマクギリスの第一声は、世界へ衝撃を与えた。セブンスターズだと思っていた人物が違う名字を名乗った。婚約を結んでいるボードウィン家ではなく、全く知らない名前を取り出したのだ。
どういうことかと、誰もがその映像を、次の言葉を待った。
「私はイズナリオ・ファリドの血縁ではない。噂されている妾の子でもなければ、親族でもない。血が全く繋がらない孤児である。本来ならばファリド家を、セブンスターズを名乗るのも烏滸がましい身分だ。このように名前を偽っていたことを平に謝罪させていただく。申し訳ない」
マクギリスだけが頭を下げる。
この事実を知っていた者はごく少数。
ギャラルホルンでも知っている者が少ないファリド家最大の秘密に、聞いていた民衆は誰もが度肝を抜かれた。
そしてセブンスターズはそこまで腐っていたのかと思い知る。
「全てはイズナリオがギャラルホルン内で自分の立場を盤石にするための嘘だ。そして私もその嘘に縋らなければ生きられない子供だった。だが、今や私はファリドを名乗る意義を見出せない。現時刻を持ってファリドの名を返上する。ギャラルホルンに登録されていた偽装DNA情報も正しいものへ変えさせていただいた。前のデータも詐称の証拠としてしばらくは残させていただく」
全てのデータはマクギリスとイズナリオを親子と示すように改竄されていたが、今は赤の他人という証拠しか出てこない真実のデータが載せられていた。
これでもかなりの爆弾だが、これはまだ序の口だ。
「私の今までの功績がセブンスターズという家名ありきのものだと判断された場合、准将という階級もヴィーンゴールヴ総司令という地位も返上させていただく。それがギャラルホルンの、そして民意の結果だとすれば私は潔く全てを辞する」
この発言にたまったものじゃないと反論の声を挙げたのはギャラルホルンの、特にヴィーンゴールヴ所属の上位階級の者達だった。
ヴィーンゴールヴは代々ファリド家で統治されてきた。ノウハウは全てファリド家が持っていると言っていい。事務方などは運営の仕方などを共有されていても、セブンスターズの後釜に誰がなれというのか。
優秀な者は軍にもそこそこいるだろうが、マクギリスのようにMSの操縦も部隊の指揮も内政もできる万能人の後継なんてすぐに用意できない。ヴィーンゴールヴを率いるというにはそれなりな箔が必要で、セブンスターズであるとか、かなりの実績があるとかでなければ就任することもできない名誉ある立場だ。
孤児である云々を除いても、その能力の高さからマクギリスの降板など誰も考えられないほどに優秀だった。イズナリオの失態を完全にカバーできたのは同じファリド家でありながらもイズナリオを遥かに超える才覚があったからだ。
そこに万全に指揮ができる者がいるのに、それをイズナリオのような身から出た錆で辞めさせられるのではなく、イズナリオの被害で辞めて手放すなどもったいないと憤りを隠せていなかった。
それだけマクギリスが問題ない人格を演じていたことと、人心掌握術に長けていたからこその評価だった。元々妾の子というマイナス評価だったものを覆さなくてはならなかったのだ。かなりの実績を産んできた甲斐があったというもの。
それにガエリオとカインも合わせて、バケモノ染みた実績と出世を続けてきた。その中でも突出していたのがマクギリスだ。そのマクギリスに匹敵するのはセブンスターズに何人かいる程度で、代替になる人材などギャラルホルンには残っていない。
この辺りも計算に入れてのマクギリスの発言だった。
「私がこのような宣言をさせていただいたのは、今のギャラルホルン並びにセブンスターズの腐敗が原因だ。私は幼少期から養父イズナリオ・ファリドの元にいたためにセブンスターズの闇については十分に承知していたつもりだった。
だが、それはセブンスターズに限っての話ではなかった。私はヴィーンゴールヴ着任の前に監査局としてギャラルホルンが統治する様々な場所を巡ったが、この目で多くの悪しき風習を目の当たりにしてきた。
統治すべき場所の権力者との癒着、賄賂。功績を上げるために自作自演による鎮圧行動を行使するための政治介入。申請のない部隊運用に加え、一般企業への襲撃など枚挙にいとまがないほどだ。
いや、ギャラルホルンは責められまい。その上に立つべきセブンスターズが、それに続くギャラルホルン上位の名家が、同じように多くの腐敗を見せつけていたのだから。これがその証拠だ」
ガエリオがボタンを操作すると、数々の汚職がマクギリス達のバックのモニターに映し出される。それは放送とは別口で全世界に情報として拡散していった。
そんな汚職は今更だとあまり無関心な者。自分の身近でもあったのだと悲しむ者。これを契機に立ち上がる者などがいた。
秘密裏に悪事を働いていた者も、この情報の暴露には慌てる。バレていないはずの悪行が今や世界に証拠付きで拡散されてしまったのだ。
これらの情報提供は監査局はもちろん、カインがこの二年で独自に調べ上げたものも多い。監査局として監査をすると告げずに調査したために、無防備に腹を見せた者も多かった。カインがバレないようにスニーキングしていたこともあるだろう。
ギャラルホルンの隊服を着ずに市場調査などをした結果集めた情報を全てカインはマクギリスに渡していた。火星のような状況は珍しいものではなくありふれたものだった。だから摘発された家は多い。
「皆の者、もう一度原点に立ち返ってほしい。厄災戦を生き残った始祖達は平和な、秩序を守るための組織であったはずだ。だがこのような自らを貶めることをして本当にギャラルホルンを名乗れるのか?
その最たるものが、先日一企業に対して行われたイオク・クジャンによる禁止兵器ダインスレイヴの使用。禁止された物を自ら使うその精神性を疑う。養父イズナリオ同様、近年は酷い腐敗が進みすぎている。
これ以上は看過できないほどに、いつその禁止兵器が一般人に向くかわからない恐怖を抱かせながら夜を過ごさせるわけにはいかない。こうして話している我々にもいつ禁止兵器が降り注ぐかわからない。
そして今や、そのイオクはどこにいるのかわからないままだ。任務を放棄し、活動報告を提出しない有様は軍人としての責任を放棄している。我々はこの悪逆を見過ごすわけにはいかない。我々は総力を持ってしてイオク・クジャンを捕縛することをここに宣言する!
これを成したのちに腐敗した全ての人物を粛清する! このギャラルホルンへの改革を持ってして、私のヴィーンゴールヴ総司令最後の責務としよう!
現時刻を持って我々はイオク捜索隊を編成、全ての宇宙の捜索を始める。どこに逃げたとしても、必ず全ての市民へ安眠を約束しよう! 」
そう言って放送は終わる。
これからイオクと、その他の摘発した家や人物がマクギリス達へ反旗を翻すだろう。むしろそっちの方がありがたい。短絡的な思想をしてくれた方が武力を持って制圧できるのだ。
「カインは上手くやったかしら? 」
「やってるだろ。これで一時的にエリオン公は退場。アリアンロッドの戦力が動かせないだけで相手の戦力はガタ落ちだ」
「イオクに味方する者は少ないと思うがな。今はエリオン公に寄せられる不満を避けることが大事だ」
放送が終わって肩の力を抜いていた時、一人の将兵がやってくる。
その顔は焦りに満ちていた。
「准将、大変です! カイン特務三佐が……! 」
「どうかしたのか? 」
「任務は遂行したのですが、脇腹を銃弾により負傷。今は軍事病院に入院したようです」
「何? 程度は? 」
「弾は貫通していたので縫合すれば大丈夫のようですが……」
その報告を詳しく聞くとカインが珍しく失敗したらしい。だが程度は軽いようだったので問題なしとした。
これから大きく動かなくてはならないだろう。カインの状態を確認しつつ、彼らは行動を開始する。
宇宙ではこれを聞いた者達が、武力を結集し始めた。