鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

43 / 48
42 エピローグ0.49 開戦前に

 ギャラルホルンが運営する場所ではなく、私立病院にて。

 

 ラスタルと『髭のおじさま』はそこでゆったりとした時間を過ごしていた。

 

 世界はギャラルホルンを二分する戦いが起きようとしているのに、ここではそんなことは関係ないと言うようにいい歳をしたおじさん二人が駄弁っているだけだ。

 

「ラスタル、いつまで入院してるんだ? 」

 

「地球の再生治療は遅いことで有名だからな。もう二週間はここにいるぞ」

 

「ということはあと二週間はここで待機か。長いな」

 

「全ての決着を何もせずに眺められる贅沢を味わえばいいだろう? こんな一大決戦は歴史に残るぞ」

 

「セブンスターズが瓦解するだろう一戦だからな。それはもう、歴史の一ページにインクの染みとして残るだろうよ」

 

 マクギリス派閥のギャラルホルン正規軍と、イオクを筆頭としたギャラルホルン離反組による宇宙での決戦。どっちが勝つかなんて二人は心配などしていない。二人の弟子と言うべきカインとジュリエッタが正規軍にはいるのだから。

 

 それに離反組は正規軍の迅速な摘発によって着の身着のままで離反した者も多い。捕まるよりは力で勝ち取ろうとなんとか逃げ出した者ばかりで、装備も練度も高が知れている。

 

 一応世界の闇組織がもしもの時を見据えて離反組に武器弾薬を供与したが、MSまでは提供できなかった。それなりに裕福だった貴族なども摘発されたために全ての財力を投じて決戦に臨む者もいる。

 

 それでも戦力比は無情にも正規軍が上だ。世界を統べる暴力装置たるギャラルホルンに寄せ集めの集団で一矢報いるなどかなりの奇跡がなければ無理だ。

 

 そんな奇跡を起こした鉄華団も火星の一件から正規軍に組している。イオク・クジャンと言う悪名は圏外圏ではかなり浸透しているのだ。そしてまともな企業であれば正規軍を応援した。

 

 ギャラルホルンは今まで悪どい鎮圧行為などをしていたが、それでも正義と呼べる部分は数多くあった。紛争の鎮圧や暴徒の摘発などはギャラルホルンだからこそできたことだ。経済圏は基本的にギャラルホルンを信用している。

 

 イズナリオやイオクのような膿を今回完全に排除してくれるとなれば、経済圏が手を貸すのは当然だった。

 

 イオクに敵意を向けられたら冤罪でダインスレイヴを放たれることをテイワズとタービンズと鉄華団が連名で発表したためにイオクへ恐怖を覚えた企業は多い。気に入らなかったら禁止兵器を使われるなど溜まったものではないのだ。

 

 このダインスレイヴを持ち出して使用した件も含めて、今後はギャラルホルンが強権を発動できないように様々な改革案を暇なラスタルが書き出しているところだ。その内容をマクギリス達と一緒になって検証し、纏めたものを経済圏に提出する予定だ。

 

 セブンスターズだけで話しては結局今まで通りなので一般将兵や市民なども含めた意見交換会を開く予定だった。そういったものの調整もあってラスタルはベッドの上にいながらも意外と暇ではない。

 

「しかし銃弾を腹部に受けたカインはもう前線復帰か? それほどあいつの肉体は強靭だった、というわけじゃないだろう? 」

 

「それはそうだ。アグニカは神ではない。ただの人間だ。そのクローンたるカインでも腹部への銃撃など重傷だ。ネタは『方舟』に残されたアーティファクト、現代では再現不可能な再生装置。それを使って即日で復帰したよ」

 

「人類最後の希望を乗せた船は何もかも規格外か」

 

「アンドロマリウスなんてとんだ化け物だったぞ? ベリアルと混ぜてようやく当時の八割再現がいいところだからな」

 

「アレで八割再現? というか、ベリアルを使ってたのか」

 

「私が無断で使えるガンダム・フレームはベリアルしかないからな。今倉庫で眠ってるのは外装だけ真似たグレイズだ」

 

 ラスタルがアンドロマリウスを見付けた時にはフレームしか残っていなかった。そのフレームに残された情報からアンドロマリウスのスペックは判明していたが、現存する全てのガンダム・フレームのスペックを超えていた。

 

 まさしく最後の悪魔と呼ばれるに相応しい機体だった。

 

 それを今用意できる最高の素材を使って復元したのがガンダム・ゲーティアだ。

 

「ベリアルなどガンダム・フレームの中では先行試作型に過ぎん。後継機の復元には多少の役にしかたたん」

 

「だが、バエルはどうなる? マクギリスが乗るそうだが、あのスペックは一般のMSどころかレギンレイズすら凌駕しているぞ? 」

 

「バエルはMAを滅ぼすために当時の全てを賭けて作った傑作機だ。五十番代までのガンダム・フレームはバエルの簡易マイナーチェンジ機で、バエルを超そうと製作されたのは六十番以降のガンダム・フレームだ。それまでは数が必要だったことと、喫緊の情勢でバエルをもう何機も作る余裕がなかったそうだ」

 

 一番最初の機体というのは予算度外視で作られるものだ。だからこそ性能も別格である。そんなバエルとアグニカでも一人ではMA全てに勝てなかったので似た悪魔が必要だっただけのこと。

 

 ベリアルはマイナーチェンジに当たる機体なので、素のスペックではアンドロマリウスは愚かバエルにも敵わない。

 

「今回の戦場に、正規軍は六機ものガンダム・フレームを用いるのか。鉄華団の三機にマクギリス、ガエリオ、カインか。これだけでも個の戦力で優っていて、戦力比も正規軍が上。イオクがまくろうとするなら、虎の子のダインスレイヴのみ」

 

「普通の理性があればダインスレイヴなど使用できないんだがな。マクギリスがダインスレイヴの詳細データも公表した。たまたまコロニーでも資源衛星でも、人の住む場所に落ちてみろ。すぐに空気が抜けて中の住民は皆窒息死だ。……だが、イオクが勝つ手段はそんな破滅の剣しかない」

 

「まったく、愚者はいくらお前でも掌握できなようだな? ラスタル」

 

「社会のつまはじき者。その者の名こそ愚者と言う。たとえ愚かであっても世界を変えることができる人間は『革命の乙女』のように謳われるのだよ」

 

 むしろラスタルは賢い者や純情な者こそ掌握できる。変に知識があるために行動が読めるのであって、何も考えずその場で行動するような者こそ天敵と呼べた。

 

 イオクは知識もなく、大局観もなく、従順でもなく。家の力があり、その家に付き従う愚者がいて、行動力がある。裸の王様よりもタチが悪い愚王なんて、ラスタルではどうしようもできない。

 

 一応ラスタルが保護者であるはずなので言うことを聞くだろうと首輪をつけていたらその首輪を勝手に外して飛び出していった、今や捨て子だ。もうラスタルの責任はなくなっている。イオクも良い年齢の大人のはずなのだから。

 

「適当に問題を起こしてその失策からセブンスターズの権力を剥いでやろうと思っていたが、やらかしたことが大きくなり過ぎた。家の取り潰しで済まなくなったのはイオクの責任だ。私は戦いの結果については何も口を挟まん」

 

「この前鉄華団に連絡を取ったが、かなりの殺意を募らせていたぞ。兄貴分の組織を抹殺しようとした片割れなんだからそれはそうだろうが」

 

「色々なところに喧嘩を売っているな。カインもキレていたし、アイツを生かそうとする者はもう残っていないだろう」

 

「だな。願わくば、正規軍の被害が少ないことを祈ろう」

 

────

 

 一方イオクは集まった戦力を見て苦虫を潰したような顔をしていた。

 

 はっきり言ってしまえば、彼らは世界に指差されたあぶれ者集団だ。何かしら悪事を働いたために世界から要らないとされた悪人。戦闘に頼らずのさばってきた人間も集まり、できるだけの支援をしてきたが明らかに戦力が足りない。

 

「……資産家の援助があっても、第二艦隊に少し足した数にしかならないのか? 」

 

「はい。ヒューマンデブリに傭兵、海賊などを集めましたが、ギャラルホルン同士の争いに手を貸せないと断る者が多くて」

 

「我らに正義があると言っても、首を縦に振らないのか⁉︎ 」

 

「彼らは元々、秩序とは程遠い存在なので……」

 

 イオクは副官が提示する内容に大きな声で確認を取るが良い返事は返ってこない。

 

 戦艦十隻、MS180はかなり集まった方だ。そして一攫千金を目指した馬鹿者も集まってこの程度。

 

 レストアMSや傭兵のカスタマイズMSでは正直グレイズとどっこいの性能が精々。ギャラルホルン製のMSはそれだけ特別なのだ。性能から整備性から汎用性まで、ギャラルホルン製のMSは全ての水準が高い。

 

 テイワズが作成するイオシリーズやガンダム・フレームがグレイズとやり合えることがおかしいだけで、厄災戦という三百年前のMSを修理して使っているのだから、劣化などはあって当然なのだ。

 

 それでも、彼らには切り札がある。

 

「ダインスレイヴの弾数は? 」

 

「無事だったものが六発。新造したものが四発、合計十発です」

 

「たったそれだけか……。いや、使いようによっては戦況を一変できるな」

 

「それと、地球に残った同志からイオク様が手配した機体を両方とも送られてきました」

 

「何? それは僥倖だ! すぐに片方はパイロットを選別しろ」

 

「いえ、すでに志願が出ています。能力的にも問題ないかと」

 

「ではそのように進めろ。もう一つは私が乗る」

 

 ダインスレイヴ以外の切り札も揃ったことでイオクには希望が見え始めていた。この戦いで勝つことで自分が正しいギャラルホルンだと世界に示し、今の不名誉な汚名を雪ぐことを真剣に考えていた。

 

 そしてもう一つ、イオクの懸念材料があった。

 

「ラスタル様の状況はどうだ? 何か情報は手に入ったか? 」

 

「それが……どうやらマクギリスの革命の日に、誰かに襲撃されたようで。今は再生装置で昏睡状態だそうです」

 

「何⁉︎ ラスタル様が⁉︎ 」

 

「はい。目覚める予定は三週間後とのことで……」

 

「誰にやられたのだ⁉︎ 」

 

「そ、それが我々の派閥の人間にやられたとギャラルホルン内で専らの噂となっていまして」

 

 カインがやったと知っているのはジュリエッタやマクギリスなどの一部だけで、しかもその後のジュリエッタの凶行を知っているのもその一部だけ。

 

 ラスタルが無事だと知っているのはその面子だけなので、その者達がバラさない限り情報が漏れることはない。

 

 親とも呼ぶべきラスタルがやられたと知って、しかもそれが自分の手の者のせいだと言われてイオクは激昂する。

 

「そんな筈があるか! これはきっとマクギリスの罠だ! そうに違いない! 」

 

「真偽は不明ですが、ラスタル様とは連絡が取れないことは事実です。ですので、アリアンロッド第一艦隊に増援を願うのは絶望的です……」

 

「そうか……。いや、マクギリスを討つ理由が増えたと思おう。総員、決戦に備えよ! 我らが正義を示すのだ! 」

 

 イオクのこの言葉から三日後。

 

 天下分け目の一大決戦が始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。