鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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44 エピローグ0.87 エドモントンの再来

 戦線が両面に展開されて、困るのはイオク軍だ。退路を断たれた上に連携が上手くない寄せ集め部隊だ。イオクの指示を完璧に聞く集団でもなく、明らかに兵站・戦力・情勢が負けている者達。

 

 最悪の状況になれば圏外圏に逃げればいいと考えていた小心者達が浮き足立った。前後を包囲されて逃げられるほど戦場は甘くない。そもそも自分達が乗っている戦艦ごと逃げられなければ宇宙で餓死する。

 

 しかもそんな小心者達の間に一番心配なのは、これがあれば勝てると言われていたダインスレイヴが不発に終わったことだ。放つタイミングで味方に被害が出ないように退避命令が出たのだが、戦場を穿つ一条の光は終に見えなかった。

 

 それに戦場で後ろを取られるというのはかなりマズイ。MSは小回りが効くからまだしも、戦艦は戦場で方向転換は難しい。後ろからでは一方的にやられる可能性がある。戦艦は前面で戦うことを基本としているので、後ろ側は脆い。

 

 スラスターなども多いため、背面を取られたのは本当にマズイことだ。逃げられないことに消沈していく大多数。

 

 鉄華団という歴戦の勇士達の参戦によって更に状況は正規軍優位になっていく。戦力比が完全に倍以上差がついて、エースの数も差がついた。及び腰の者がイオクの軍で増えたために、MSもどんどん撃破されていく。

 

 そんな状況の中、イオク軍の切り札の一つが戦場の後方へ現れる。

 

 その巨体はMSとしても一際大きく、型式としては若干古いその黒い機体。

 

 三日月は見覚えがあったので眉を吊り上げる。エドモントンで辛酸を嘗めさせられた機体と瓜二つだったので覚えていたのだ。

 

 今の右目と右腕になった元凶。悪化したのはMAのせいだが、最初の不調を覚えることになった相手だ。

 

「昭弘、シノ。気を付けて、あいつだ」

 

「あんなもん、二つも作ってやがったのか……」

 

「あぁ、覚えてるぜ……。俺が後にも先にも勝てなかったのはアイツだけだぜ」

 

 鉄華団のガンダム・フレーム乗りが危惧する相手。

 

 普通のMSの二倍はある全長。エドモントンの時とは異なり、宇宙用に改造されたその機体。

 

 グレイズ・ツヴァイがそこにはいた。

 

 接近戦用の戦斧を腰に、大口径のバズーカを二つと牽制用のハンドガンを持ったシンプルな兵装となっている。全身を阿頼耶識手術で固めているために、変な装備など必要としていないのだ。

 

『イオク様の栄光のために! この道を進ませてしまったがために! 私は貴様らを踏み潰す! 』

 

「宇宙だよ、ここ」

 

 三日月がそう言い、バルバトスで斬り込む。

 

 ガンダム・フレーム三機がグレイズ・ツヴァイと戦う。三日月達もこの機体が敵の主力だとわかったためにエース三人で挑むのだ。

 

 このグレイズ・ツヴァイに乗っている者は、クジャン家に昔から仕えている家系の者だ。タービンズ討伐作戦の際にダインスレイヴ隊として出撃して負傷し、もうMSに乗れないと診断された者だ。

 

 クジャン家に仕えることを誉れとしろ、という教えを幼少期から受け、イオクを絶対の主として扱ってきた。

 

 そのイオクの言うことを全て是として受け入れるのが臣下団の在り方だった。多くの者はそれに疑問を覚えることなくアリアンロッドに入隊し、イオクを神輿として持ち上げて死んでいった。

 

 イオクはまだ若いのだからと。間違っていたら諌めようと。年上の自分達で彼を支えようと。

 

 

 ──いつからだろう。歯車が狂ったのは。

 

 

 臣下団の多くは、イオクの同年代はいなかった。いても一人・二人。なので幼年学校や士官学校の頃のイオクのことを知らなかった者が多い。臣下団とはいえ、通常の業務に励まなくてはならない。

 

 休暇を利用してイオクに会うことはあっても、込み入った話をする時間などなかった。イオクはヴィーンゴールヴに近しいメガフロート群に住み、臣下団の大半はアリアンロッド所属として宇宙にいた。

 

 セブンスターズでもないのでそこまで多く地球へ降りられず、一年に一回しか会えないこともあった。

 

 イオクの教育はクジャン家に仕える、本当の側近に任せ、臣下団は将来の手足になろうと第二艦隊で実績を積んできた。イオクに本格的に会うのは彼がアリアンロッドに入ってからだ。

 

 最初の変化は、前当主が亡くなったこと。これは間違いなかった。

 

 イオクが幼いながらもクジャン家の跡取りとなり、彼にはセブンスターズとしての責任が付随するようになった。それに応えようと彼は尊大な態度を取るようになった。それこそが上に立つ人間の在り方だと思って。

 

 形から真似るのも良いだろうと、止めなかった。これが一つ目の間違い。

 

 次期当主としての教育で後見人たるラスタルと一緒になって知識の詰め込みを行わなかったことも失敗だろう。

 

 ラスタルが艦隊指揮で忙しかったので、後見人というのが形だけになってしまった。それをイオクが入隊してから後悔しても遅かった。入隊してしまえば、任務に忙殺されて知識を詰める時間が取れるはずもなく。

 

 そのせいでセブンスターズとしての知識も曖昧なまま。不完全な状態で彼はクジャン家の当主となってしまった。これが二つ目の失敗。

 

 お付きの者を軍人でも良いのでつけるべきだったのだ。セブンスターズのみに伝えられる知識などはただの軍人が付いても意味がなかったかもしれないが、諌める人間さえいれば多くの失敗はどうにかできたかもしれなかった。

 

 臣下団の知らない場所で喧嘩を売り、他者を不快にさせ、決闘を申し込んで。

 

 気付いた時には取り返しのつかない利かん坊になっていた。

 

 自分も他者も見えない、自分中心の自己完結人間。

 

 当主の座を継ぎ、軍人になってしまい、大人の自覚ができたことで彼の性格は固定された。修正は不可能になっていた。

 

 進言した者は私の部下に相応しくないと、手にした権力で左遷させられ。ラスタルを目標の人物にする割には見ている方向がてんで別で。自分が気に入らない相手であるマクギリスやカインには自分の立場を考えずに突っ掛かり。

 

 あまつさえラスタルの忠言も流して自分の考えを優先し。情報の裏取りをするということもできずにジャスレイの甘言に乗ったり。臣下団で戦死者を出し。

 

 甘やかしていた臣下団の目もようやく覚めた頃にはもう何もかもが遅かった。

 

 ダインスレイヴ弾頭摘発のために本家本元のダインスレイヴを使用し、相手の降伏宣言も無視。ここまで来るともう軍人とは呼べない器だと分かりきっていた。

 

 それでも自分達が見捨てれば、イオクがどうなるか。それが分かって結局甘やかしてしまったのが臣下団の実態だ。

 

 イオクを変えることを諦めてしまった大人達。

 

 その結果世界から見放されたとなったら、その責任を取るためにこの戦場で命を散らせようと決めていた。

 

 グレイズ・ツヴァイに乗っている者はカインのアサルトビットの弾頭をまともに喰らい、コックピットの破片などが身体中に刺さって再起不能になったパイロットだ。

 

 イオクが禁止されている全身阿頼耶識の手術をしなければ乗れないこの機体を都合した時点で、彼が一番状況に適していた。他の者では四肢を切断しなければならなかったために、臣下団は苦渋の決断で彼を選んだ。

 

 阿頼耶識に接続して意識を取り戻した彼に、決断を下した全員が頭を下げるということもあった。

 

 彼は、そのことを受け入れた。彼が拒絶すれば誰かが犠牲になると思ったからだ。

 

 こんなことになってしまった責任を取ることが、パイロットをすることなら今までと変わらないとある意味思考停止をするのが楽だったのだ。

 

『どけぇ! もうこうするしかないのだ! 私の死を持ってしても変わらないのなら、イオク様は……! 』

 

「イオクってのが誰だか知らないけど、煩いよ。一人の名前ばっか叫んでバカみたいだ。その機体に乗ったら皆そんな感じになんの? 」

 

「三日月……。一応敵の大将の名前くらい覚えとけ」

 

 昭弘が呆れながら三日月に教えるが、人の名前を覚えるのが苦手な三日月のことだ。戦闘中ということもあってすぐに忘れているだろう。

 

 グレイズ・ツヴァイを動かしている人間はさすがアリアンロッド所属というべきか、ガンダム・フレーム三機がかりだというのに決定打を打てなかった。グレイズ・アインの敗戦を糧に色々と強化した機体だ。二年前から三人が強くなっていると言ってもすぐには倒せない、凶悪な機体になっていた。

 

「敵の大将なら悪い奴じゃん。タービンズを殺そうとして、自分は嫌だって逃げんの? 」

 

『あの方は子供なのだ! もっと時間があれば……! 』

 

「知らないよ。お前もそいつも。そういう身勝手さで俺達を排除しようとするなら、俺が殺す。新しい家族が増えるんだ。わけわかんない理由で撃鉄を落とされるわけにはいかないんだよ」

 

 相手の理論がまるでわからず、三日月はメイスを叩き付ける。装甲は歪んだが、まだまだ健在だった。

 

『貴様も、鉄華団という組織に仕え、一人の男を頂点に据えているだろう! その男が間違えたらどうする⁉︎ 』

 

「俺がオルガの選択を間違いにさせない。全部オルガの責任にさせない。それだけでしょ。何言ってんの? 」

 

『そんなもの、ただの綺麗事だ! 』

 

「癇癪で俺達を殺そうとしてる奴よりはマシじゃない? オルガは突っかかってくる相手は蹴散らすけど、一般人は守ろうとしてる。そいつとオルガをまるで似てるように言うのはやめろ。オルガは俺達の家族で、鉄華団の団長だ」

 

 三日月が一瞬機体を静止させた瞬間、グレイズ・ツヴァイのコックピットを腰の辺りについていたハシュマルのテールブレードが貫いていた。

 

 元々MSを破壊するための兵器だったので密度も段違いだった。それはコックピットを貫きながらも原型を保っていた。

 

「あーあ、ウザかった。昭弘、シノ。まだいける? 」

 

「途中からお前一人で戦ってたからな。まだ余裕だ」

 

「ああ。タービンズの援護に行こうぜ。昭弘の彼女も守ってやんねーと」

 

「む。ラフタはそこまでヤワじゃない」

 

「とか言って真っ先に向かってんじゃんか! お熱いねえ! 」

 

 そんな軽口を叩きながら彼らは戦場を移す。

 

 戦いの終わりは近い。

 

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