鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
「イオク・クジャン! ガンダム・マルコシアス、出るぞ! 」
イオクがそう言い、黒に黄色をところどころに施した狼を想起させる流線的なフォルムが特徴のガンダム・フレームがイオクの旗艦から飛び出した。
ASW-G--35、ガンダム・マルコシアス。欺瞞を嫌う正直者を示す悪魔の名を冠するガンダム・フレームだ。このガンダムが生産された頃には多局面に対応できるように、様々な地形で活躍できるように設計された地形対応ヴァリエーションの一機だ。
マルコシアスは地上専用機だ。フラウロスの前身となる機体で、変形機構を用いて地上で高速機動をもってして敵MAを狩ることに特化させた機体。それを宇宙での決戦に合わせてプログラムを書き換えさせていた。
本来はウルフモードに変形してバエルをも超える速度で敵を錯乱させ、超鋼鉄ブレードで叩き斬るということが主要の戦術だった。
そのため、装備はブレードが二本に牽制用のガトリング砲が両肩に装備されているだけ。速度と一撃離脱を念頭にコンセプトされた機体なので余計な装備は外されていた。
厄災戦の時はそういう何かに特化した機体こそが活躍し、実際に戦果を挙げたのだ。だからのちのセブンスターズの一角になり、七星勲章も大量に得ていた。そういう機体が当時は刺さったのだ。
もちろん今の機体は阿頼耶識用のコックピットは外されて、一般用のコックピットになっている。
イオクは多大な出力に振り回されながらも、前を、地球を目指した。彼の辞書に撤退の二文字は基本的に存在せず、勝って地球に凱旋することを第一の作戦目標としていた。だからこそ戦場でも一番鉄火場となっている最前線へ向かう。
ダインスレイヴが不発だったために士気が落ちているのだ。それを取り戻すのは自分にしかできないと考えて陣頭指揮を執るつもりだった。それこそが士官学校から培ってきたものだと自信を持っていた。
「正規軍よ、私が来たからにはもう大丈夫だ! ダインスレイヴこそ不発に終わったが、私の正義の剣が革命軍を討ち滅ぼそう! 」
イオクは自分達の軍を正規軍だと、頑なに呼称した。マクギリス達の軍を革命軍として、暴力で全てを解決しようとしている野蛮な集団と決めつけた。
相手はギャラルホルンに所属している軍人ばかり。他方イオクは傭兵や海賊などが多数所属している多国籍軍のようなものなのにどの口が正規軍だと言っているのかと味方にさえも思われていたが、訂正するのも面倒だったので誰も口を挟まなかった。
イオクの軍からすれば、勝てばいいのだ。勝てば官軍なのだから。
イオクが広域に宣言をしたことで確かにイオクの軍に統一感が出てきたが、それと同じく大将首の在り処をマクギリス達に伝えることとなった。
マクギリスはすぐに、カインへ通信を入れる。
「カイン、私が部隊を率いてこの戦争を終わらせてくる。カインとジュリエッタ一尉は一旦下がれ。ビットは消耗が激しいと聞く。ガエリオと代われ」
「了解致しました。ジュリエッタ、下がるぞ」
「はい」
カインとジュリエッタは素直に退却する。大きな悪意はダインスレイヴとグレイズ・ツヴァイが撃破された時点で二人とも感じなくなっていた。その前からも獅子奮迅の活躍をしていたために消耗は事実激しかった。
ダインスレイヴ発射のために相手の陣形は崩れており、頼みの綱は不発。その上後ろをテイワズに抑えられ、戦況はぐちゃぐちゃになっている。これならカイン達が離脱しても問題ない状況だ。
イオクの声で纏まりだしたが、その前に混乱した者達を精鋭達が各個撃破して更に数を減らしていた。戦局を覆す秘密兵器が機能しなかった以上、ここからイオクがひっくり返す手段はない。
カインとジュリエッタにはそれがわかっていたために退却するのだ。ここからはイオクを倒すまでの消化試合に等しい。あとはどれだけ被害を減らすかに注力すべきだろう。
カイン達が下がる代わりに予備戦力が出撃していく。カインももしものためにガンダム・ゲーティアの整備を頼んで食事を摂っていたが、再出撃する可能性は低いと睨んでいた。
スレイプニルから宇宙用に改修されたガンダム・キマリスが出撃したのを見送って、カインはジュリエッタと並んでブリッジで戦況を見守る。
その頃ようやくマクギリスがイオクに接敵していた。
マクギリスはバエルの推力に物を言わせて真正面からバエルソードをクロスさせて斬りかかる。それを奇跡的に同じような動作でイオクも防いでいた。
「うおっ! 」
「ガンダム・フレームに乗ったものの、まるで扱えていないな! 機体が泣いているぞ! 」
「何をっ! 貴様こそ、バエルを持ち出すとはどういう了見だッ! 」
イオクは不器用にバエルソードを弾くが、やはり操縦は覚束ない。阿頼耶識がなければ操作性は劣悪なガンダム・フレームだ。グレイズの操縦だって危なっかしいイオクには過ぎた代物だった。
宇宙で溺れていないだけ操縦技術は上がった方なのだが、それはギャラルホルンのパイロットとしては全く褒められることではない。
この場合、マクギリスやガエリオが阿頼耶識なしで十全に機体性能を発揮していることが称賛されることであって、まともに動かせない方が普通なのだ。それでもイオクは拙いが。
マクギリスの剣舞による連撃をまともに受けられないイオク。イオクは機体の正面ばかり剣で守ろうとするため、その動作を見たマクギリスが余裕で剣の軌道を変えることで徐々に機体の装甲を削り取っていった。
マルコシアスは速度を重視した機体だ。装甲も削って速度を出そうとするコンセプトから、MSの中でも特に防御力がない。ナノラミネートアーマーに変わりはないのでそう簡単には撃破されることはないのだが、比較すれば脆いとしか言えない。
そんな脆い機体で、しかも変形機構を搭載しているのだ。内部に負担がかかって余計に脆くなっている。関節部はガンダム・フレームにあるまじき脆さだ。
パイロットの技量さえあれば無双できる機体なのだが、逆に技量がない者が乗ると欠点だらけの貧弱な機体に成り下がってしまう。一点特化というのは多くのリスクがあり、相応のリスクがある諸刃の剣でもあるのだ。
コンセプトだけで言えばバエルとも似ているマルコシアスだが、だからこそ余計にパイロットの差を如実に示してしまっていた。
イオクは防戦一方で徐々に内部フレームが見えるほどに傷付けられていた。その間も無意味に「うおおおおおお⁉︎ 」と叫ぶだけ。
このままではやられると、イオクの親衛隊が二人の鍔迫り合いに介入した。
「イオク様! 」
「チィ! いつまで腰巾着を続けるつもりだ⁉︎ この男が長生きするほど戦乱が蔓延ると何故わからん! 」
迫り来るグレイズを即座に跳ね除けるマクギリス。
だがその一機を皮切りに続々とバエルに集るグレイズ達。それはマクギリスが率いていた部隊によってほとんどが除去されたが、時間稼ぎにはそれで十分だった。
二十機ものグレイズが散っていくことによってできた時間。それはあるものが最前線まで辿り着くには十分な時間だった。
「マクギリス、避けろ! 」
「うおおおおおお! 」
「バカな、フラグシップが特攻だと⁉︎ 」
旗艦であるはずの戦艦が突撃をかましてくれば流石のマクギリスでも驚く。ガエリオの忠告がなければ火だるまになっていた可能性もある。マクギリスが避けると弾薬が尽きたのか本当に体当たりを仕掛けてきた。
バエルに唯一装備されている肩の電磁砲で戦艦の動きを止めようとするが、それだけでは動きは止まらなかった。電磁砲はあくまで牽制用の装備なので大型戦艦を止められるほどの威力はなかった。
マクギリスに対抗手段がないとわかったガエリオが、キマリスの背中にジョイントアームで接続されたレールガンを取り出す。『夜明けの地平線団』の戦艦を落としたレールガンの改良型だ。
それの引き金を、躊躇いもなく引いた。イオクの旗艦は拿捕する予定だったが自爆されてマクギリスを失うくらいならとガエリオは高威力の弾丸を放つ。
それが直撃してブリッジを貫いたのと同時に、狂信者は一つのボタンを押した。
戦艦に積まれていた火薬全てを引火させるためのスイッチだった。まさしく神風特攻であり、それは景気良く大爆発を引き起こした。
最前線で大きな爆発が起きても、カインは全く慌てなかった。無事だとわかっているのに心配をする理由がないのだ。
その証拠に、バエルには大きな傷もなく健在。その様子を見てイオクが叫ぶ。
「我が部下達の輝きを持ってしても貴様という巨悪は倒れないとは……! お前達の命は預かった! みなの力を私にくれ! マクギリス・ファリド、覚悟ぉ! 」
「いや、終わりだ」
大仰に叫んでいる間にマクギリスはイオクへ近付き、コックピットに向けてバエルソードを突き刺した。何も言うことはできないままイオクはコックピットごとすり潰され、最後に何も残せないまま肉片へと変わっていった。
マクギリスは余韻を感じるまでもなく、そのままマルコシアスの頭部も切断し、剣先で頭部を見せ付けるように掲げた。
と同時に、それを感じ取ったカインが信号弾を撃つように指示。
戦場に赤・青・黄色の信号弾が浮かぶ。それは戦いを生業としている者なら誰もが知っている合図。
大将首の撃破。即時戦闘中止の合図だった。
それに続いてマクギリスが勝利宣言をする。
「逆賊イオク・クジャンは今この刻を持って死した! ここに宣言しよう、不当なる世界は終わりを迎えると! 」
「うおおおおお! マクギリス万歳! 」
「万歳! 」
「勝ったー! 内乱は終わりだー! 」
大喝采とともに、イオク軍は全てを諦めて大人しく捕縛されていった。元々負け戦だったのだ。イオクが討たれた以上、無駄に命を散らす理由はない。
マクギリスがガエリオとカルタと連名で残った者を殺すことはやめるよう通達。海賊達も当座は命の心配をしなくていいということで諦めて縄についた。
もっとも余罪次第では極刑もありえる話だ。この場で殺すことを禁止しただけである。
戦闘行為が終わったことで、カインが大きく伸びをする。
「ハァ〜……。ようやく艦隊指揮なんて重荷から解放される」
「カイン一佐。帰還するまではあなたが最高責任者です。まだ終わりではありませんよ」
「……本当にオレはこういうのに向かないな。ラスタル様には遠く及ばない。あー、捕縛要員は足りているか? 足りなかったら予備戦力で控えていた者を出撃させろ」
クロウリー准将を演じていた時とは違って自信なさげに指示を出すカイン。演じていた時と違って場違いだという思いを仮面で隠すことができないためにそんなしどろもどろな指示になってしまった。
その様子を見たブリッジの者全員がクスリと笑って、その指示を通達する。
長いギャラルホルンの歴史が変わる内乱が、終わりを迎えた。