鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでジブラルタルアムロソロハードクリアしたので初投稿です。

ナラティブがめちゃくちゃ強くなってるからね。これくらいはね。
なおめっちゃギリギリだった模様。


5 初陣

 カインが六回生になって幼年学校が夏の長期休業に突入した時。

 

 カインはアフリカンユニオン(ヨーロッパとアフリカ、中東、中央アジアを中心とした経済圏)に来ていた。学校側には孤児院に帰ると伝えて、ジュリエッタにはいつも通り寮に残ると伝えた。

 

 ジュリエッタには嘘だとバレていたようだが、深く言及はされなかった。

 

 カインは今、両目にカラーコンタクトを入れて緑色の目にして、髪も真っ赤に染めていた。

 

 カインという幼年学校生が、紛争地帯にいたという証拠を残さないためだ。

 

 そんな場所にカインが一人で来られる訳が無い。手引きをしたのはもちろんラスタルだ。そしてラスタルがカインに同行させた人物もいる。

 

 黒髭を伸ばし、傭兵らしいガタイの良さと戦場の臭いを纏わせた、歴戦の漢を思わせる人物だ。

 

「ここではお前のことをアベルと呼ぶ。俺のことはノドか、『髭のおじさま』とでも呼ぶがいい」

 

「わかりました。ノドさん」

 

「可愛くないな……。まあ、ラスタルが送り込んだ奴だ。そういう奴なんだろうが。……アベル。お前のここでの立場は、傭兵が雇っているMS乗りのヒューマンデブリだ。今回の敵は中東の反体制派。ギャラルホルンと共同して物事に当たる。わかったな? 」

 

「はい」

 

 そう、これは実戦経験を積むためにラスタルがカインに出した試練。中東で小規模な紛争が起きているので、旧知の仲のノドを通してカインに実戦を知ってもらおうという考えだった。

 

 今の情勢で、いつ大規模な紛争になるかわかったものじゃないほどギャラルホルンは腐敗している。そのため実戦経験を積むことは急務だった。

 

 最近は特に宇宙でギャラルホルンに反発する勢力が増えている。幼年学校や士官学校に通っている間に大きな反乱に巻き込まれてそのまま死んでしまったとなると困るので、ラスタルは子を谷に落とすような所業で実戦投入を早めた。

 

 カインはノドに案内されるがまま、とある倉庫に着く。

 

 そこに格納されていたのは一つのMS。細身のバランスに深緑色の各部装甲が付けられた、現ギャラルホルンの主力機であるグレイズの前身となった量産型MSだった。

 

「これがアベルに支給される機体。ゲイレール・カスタムだ。通常のゲイレールと違うのはコックピット周りだな。中を見ればわかる」

 

 ノドと共にアンカーを伝ってコックピットに上がる。中を見れば一目瞭然、最新式のコックピットと遜色ないほど洗練された座席。そしてレバーなどは教本でも見たことのない物となっていた。

 

「俺もラスタルから詳しくは聞いていないが、とある研究所で作られた脳波を感じやすく、お前さんの脳波をMSに直接フィードバックさせるシステムが組み込まれているらしい。阿頼耶識システムの亜種だそうだ。このシステムを組んだがために、このゲイレールはグレイズ六機分の費用がかかっているらしいぞ? 」

 

 ノドがおどけてそう言う。カインは実際に火を入れてみて、どのように動くのか確認し始めた。

 

 研究所で取ったデータを参照しているのだろう。軽く動かしただけでシミュレーターよりも機敏に動かせた。ノドも補助席でその試運転を見ていたが、まるで人体のように動くMSに、感嘆の意味で口笛を鳴らす。

 

「ヒュー。お前さん、本当にまだ十歳か? 傭兵として十分やってけるぞ。これで戦場処女とはなあ」

 

「……凄いシャープにオレに応えてくれます。この機体の性能が良いんですよ」

 

「いくら操縦が上手くたって、戦場では何があるかわからない。それだけは覚えておけよ」

 

「はい」

 

 倉庫に機体を戻して、これからの活動をノドから聞こうとした。

 

 その前にノドが、ある物をカインに手渡す。

 

「今後アベルを名乗る際はこのサングラスを付けろ。誰かに聞かれたら色覚異常とでも言っておけ」

 

「自分を隠すため、ですか? 」

 

「カラーコンタクトも染髪も、一時凌ぎでしかない。それなら顔の輪郭を誤魔化す大きな物があれば良いんだ。仮面も考えたが、そうしたら俺の品性が疑われるからな」

 

「サングラスで十分です」

 

 受け取ったサングラスをすぐにかける。視界が不鮮明になることもなく、色の見え方も普段と変わらなかった。

 

「うーん。やはり似合わんな。幼すぎる子供にサングラスってなぁ」

 

「それは言わないでください」

 

 機体を受領して、カインは初陣に挑む。

 

 相手はMWを中心とした少数の反抗勢力。地元の民族と、雇われた傭兵による混合部隊だ。こちらもギャラルホルンの部隊と、ノドが率いる傭兵団の混合部隊。

 

 こちらの指揮官はギャラルホルンの三佐。傭兵団は主に左翼を受け持って敵を各個撃破とのこと。

 

 ノドの傭兵団は珍しくMSを所持している傭兵団だ。この時代ではMSを所持している地球内にいる組織はかなり希少で、ギャラルホルンが見逃している、ある種公認の傭兵達だった。

 

 自分達を守る壁であり、金さえ払えば危険を減らせるならこういった傭兵を雇うことも厭わない。

 

 ただし自分達の敵になったら面倒なので逐一活動は監視されている。ノドもラスタルに恩義があるため、基本的にはギャラルホルンを敵に回すことはしなかった。

 

 カインは初日、ノドと一緒に偵察任務に出た。

 

 戦端が開かれているのは森林地帯だった。カインもノドもゲイレールに乗って木々の間に機体を隠しながら戦場を俯瞰していた。今日はカインに戦場というものを実感してもらう日に当てていた。

 

 カインは機体に立膝を付かせて、頭部の球状のセンサーユニットを使って戦場を見ていた。

 

 お互いのMWが機銃を吹かせて、どうにか突破しようとしている反抗勢力と、国境線を守ろうとするギャラルホルンのシンボルマークを掲げたMW達。

 

「どうだ? アベル。これが戦場だ」

 

「……気持ち悪い」

 

「ほう? 初の感想がそれか。やはりまだ戦場は早かったか? 」

 

 ノドはカインの感想を聞いて年齢的に若かったかと懸念を述べる。六回生になったとはいえ、まだ十歳。ヒューマンデブリならとっくに戦場を経験していてもおかしくはない年齢ではあるが。

 

 カインが元ヒューマンデブリだとしても、そこから脱却したのが四歳。それでは戦場も経験していないだろうとわかっていた。

 

 だが、おかしな感想でもある。

 

 怖い、ではなく気持ち悪い、なのだから。

 

 ノドはラスタルからカインの感受性について聞き及んでいる。だから、その感想を抱いたのはどういうことか尋ねる。

 

「何が気持ち悪いと感じた? 」

 

「何の為に戦っているのか、その信念がありません。恐怖、お金、自己顕示欲、根拠のない自信、ただの八つ当たり。そういうものがあそこには渦巻いている。誰かのために、という想いが欠如した戦いなんて、気持ち悪いとしか思えません」

 

「……お前は戦士というより、昔の騎士に近い精神性を持っているな。いや、それがお前の戦う理由になっているのならそれで良い。今日はここまでだな。ベースキャンプに戻るぞ」

 

「はい」

 

 戦場の視察という大目的を達成したため、二人は帰還した。

 

 戦場を本格的に経験するのは、次の日からだ。

 

──

 

 この紛争は、正直そこまで長引かなかった。

 

 相手の戦力が、ギャラルホルンにケンカを売るにしては脆弱すぎたからだ。

 

 古くからこの地に住む先住民と呼ばれる現地に住む人間の、ギャラルホルンが定めた国境線に対する抗議の意味で勃発した紛争。

 

 ギャラルホルンが「武力を持って武力を制す世界平和維持のための暴力装置」と呼ばれていることを鑑みればよほどのことがない限り暴力で訴えるのは愚かだ。

 

 特に地球圏ではMWを始めとした武力を持つことはギャラルホルンが厳に監視している。MSなんて以ての外で、持っていたとしてもコレクションやエネルギー設備の電源代わりが精々。

 

 現役のMSを持つ武力組織など、一部の例外を除いて地球上にはいなかった。

 

 MWですら集めるには苦労する。もちろんMWだけ用意したとしても弾丸がなければ無用の長物。その弾丸ですら、地球では高い。

 

 MSと違ってMWや弾丸程度なら自作することもできるが、その製作工場が摘発されないかどうかは別の問題。やはり戦力を集めるのは大変だという話。

 

 高い金を支払って傭兵を雇っても、その傭兵がギャラルホルンに勝てるかと言われたら勝てないだろう。何せMSの装甲は強固だ。MWが使用する銃火器程度ではビクともせず、磨り潰されるだけ。

 

 そしてMSの技術を独占しているのも、ギャラルホルンだ。

 

 MSという絶対な力が敵勢力にある時点で、暴力に訴えるのは間違っている。

 

 ラスタルもそれがわかっているのでカインを派遣したのだし、相手は小国。雇える傭兵もたかが知れていた。

 

 では、何故傭兵などの中でMSを所持する者がいるのか。それも地球圏に、という話だが、もちろんこれには裏がある。

 

 ギャラルホルンを退役した軍人の天下り先として人気なのが傭兵と民間警備会社だ。傭兵は雇われなければ悠々自適に暮らせて、雇われたとしても前払いで金銭を受け取った後に危なくなったら離脱すればいい。

 

 民間警備会社もギャラルホルンに任せておけば、ただ街中を巡回してい流だけでお金が貰えるのだ。これ以上ない再就職先だった。

 

 そんなところのお飾りとしてギャラルホルンで不要になったMWやMSを払い下げていた。それがMSを持つ理由。

 

 これは元ギャラルホルンの人間だけではなく、関係ない傭兵や民間会社にもギャラルホルンから旧式の兵器を卸していたりする。

 

 まず第一に、良い収入源になるからだ。

 

 MSは一つでもかなりの戦力となる。MSに対抗するにはMSが必要だ。力を求める者は是が非でも求める。そういう相手に要らないMSを売ればかなりの高額な収入となる。

 

 軍事は維持するのにお金が掛かる。そのためMS以外にもギャラルホルンが裏から手を回して払い下げたりしているのだ。

 

 海賊などが使っている大半のMSは、厄災戦で宇宙などに捨てられた物を改修して使用しているだけ。純正品を使っている訳ではなく、骨董品を無理矢理動かしているだけだ。

 

 そんな傷だらけでまともに運用できるかどうかは直してみなければわからない骨董品を拾って修理する手間を考えると、ギャラルホルン製の旧式の方が性能も良くて整備性も良く、何より修理が要らない。

 

 こういう事情からMSを求める客はいて、傭兵達はギャラルホルンにとって良い財布だった。

 

 また、MSはともかくMWや弾丸などを卸す理由は、敵性勢力を完全に除去してしまえばギャラルホルンの暴力機構は必要なくなってしまうからだ。

 

 軍事を維持させるために、自分達で兵器を売り戦えるようにして、武力の必要性を証明して軍事費をせびる。所謂マッチポンプというやつだ。

 

 これらの理由から、地球圏の傭兵や民間警備会社、または反抗しようとしている者達が武力を整えられる環境ができていた。

 

 まさしく、ギャラルホルンが世界を統べていた。

 

 とはいえ、こういった調整ができるのも精々地球圏が精一杯。宇宙は広く、圏外圏である火星や木星などの人類が住む場所はギャラルホルンの手が行き届いてなかったり、ギャラルホルンの腐敗が一層酷かったりする。

 

 とにかく。

 

 ギャラルホルンの手引きのせいで目の前の紛争は行われていた。しかもギャラルホルンにとってかなり安全な紛争が。

 

 この紛争に勝てば相手に言うことを聞かせられて、色々と搾り取れる。それを考えればMWを払い下げるという初期投資など全く痛くなく、むしろ収支はプラスになる予定だった。

 

 そんな出来すぎた戦場で、カインはゲイレールを駆って右へ左への大立ち回りを披露していた。

 

「俺も近くで控えているが、基本はアベルが一人で立ち回れ。戦場を知ること、MSの有用性を肌で感じること、人を殺すとはどういうことか。それを全て味わってこい」

 

 ノドにそう言われて、カインは相手のMWを蹴散らしていた。ギャラルホルンもMWを出して紛争を長引かせていたが、大人気なくても結果としては大勝利としなければならない。

 

 そのため雇った傭兵団にも花を持たせるために左翼は完全に傭兵団に任せてMSの出撃を許可していた。今頃中央と右翼でもギャラルホルンのグレイズが暴れている頃だろう。

 

『グアアア! 祖国バンザーイ! 』

 

『ヒッ⁉︎ 嫌だ嫌だ! 死にたくない⁉︎ 』

 

『ええい、ギャラルホルンのMSはバケモノか! 』

 

『お、お母さ──! 』

 

『チクショウ! ギャラルホルンなんて糞食らえー! 』

 

『我々は部族と、誇りある聖地のために……! 何故邪魔をするゥ⁉︎ 』

 

『俺達は、強いられているんだ! 』

 

『金と暴力で弱者を潰して、楽しいのかよ⁉︎ 』

 

『だってよ、パーサーなんだぜ⁉︎ 』

 

『こんな憎しみが憎しみを産んで……! 』

 

 様々な怨嗟の声が、生々しい声が、カインに届く。特別製のコックピットはエイハブ・ウェーブの影響下であっても爆散する直前の声を拾ってしまい、死の恐怖がカインの頭にこびり付く。

 

 それでもカインはフットペダルを踏んで敵に近付き。レバーを操作して鉄剣を振るい。トリガーを引いて大火力でMWを吹き飛ばした。

 

 肉の声が届くたびに胃から込み上げるものがあり、何度かえづきながらもカインは突き進んだ。あまりにも感じすぎてしまうために戦場の感覚は常人よりも辛かったが、カインは理想のために前へ足掻く。

 

 これからはもっと酷いことがあるかもしれない。そしてそれを止めるために、いざという時に動けるようにと、カインは人を殺した感覚をしっかりと受け入れながら歩む。

 

 辺りのMWをカイン一人で壊滅させた頃、カインは肩で息をしていた。疲労はもちろんのこと、様々な感情が襲ってきて精神的にも参っていた。

 

 そんな時、コックピットからアラーム音が鳴る。特徴的なエイハブ・ウェーブを感知した音だ。レーダーを見て、頭部のカメラでそのシグナルを視認して。

 

 味方ではないゲイレールが、カインの元へ向かっていた。

 

 すぐさまカインはその場を離れる。すると今までいた場所にマシンガンによる銃撃が地面へ着弾していた。少しでも遅れていたら装甲に傷が付いていただろう。

 

「クソが! ギャラルホルンもこんなちっちゃな戦争でMSを二十機以上動員しやがって! 商売上がったりだぜ‼︎ 悪いがご同輩! 俺サマが生き残るための礎になってくれ! 」

 

 右手のマシンガンで牽制してきた傭兵のゲイレールは、左手で持った鉄剣をカインのゲイレールへ振り下ろしてきた。カインもすぐさま右手の鉄剣で受け止めて、長く鍔迫り合いをすることなく離れる。

 

 初めて、コックピットを大きく揺らす衝撃を受けた。MSとの実戦。直に受ける衝撃はシミュレーターで受ける揺さぶりよりも大分酷く、不規則なものだった。

 

 マシンガンが放たれれば避ける。スラスターのガスを多く使うことになるがこれが最適解だった。いくらMSが強固とはいえ、当たりどころが悪ければカメラがやられる上に、精密機械であるMSの駆動部をやられたら後は良い的になるだけ。

 

 カインは近接戦を仕掛けながらも、避けられる攻撃はできるだけ避けていた。

 

「お前の動き、気持ち悪いな……。まるでこっちの動きを察知してるかのようだぜ。でもな、こっちもベテランの傭兵として、同じ傭兵には負けてらんねーのよ! 周りにギャラルホルンもいねえ、たった一機のゲイレール! 傭兵の虎の子の戦力ってところだろ! 」

 

 相手の傭兵は随分と饒舌だった。カインはその受け答えをする余裕などなく、ひたすら剣を叩きつけて避けるだけ。

 

 ゲイレールは、ギャラルホルンにとって旧式のMSだ。グレイズ・フレームがあまりにも優秀すぎたため、一世代前の機体ながらもさっさと流出させてしまうほど性能差があるとギャラルホルンは考えている。

 

 だからそんなゲイレールに乗っている者はよっぽどの老兵(ロートル)か、傭兵しか考えられない。それが傭兵にとっての常識。

 

 ギャラルホルンの手の者が偽装工作でわざわざゲイレールを使うなどという考えには思い至らないのだ。

 

「お前の動き、どこかで……? ッ! その人体を模した機体の動き! そうか、テメエ宇宙ネズミか! 」

 

「だったら、何だ! 」

 

「はっ、やっぱり声が若え! ヒューマンデブリめ、地球でもお仕事ご苦労様ってなぁ! テメエの居場所はここにはねえよ! 産まれ落ちた宇宙で死ねなくてご愁傷さん! 」

 

 傭兵の男は阿頼耶識手術を受けた者だと考えていたが、カインは阿頼耶識についてあまり詳しくなかった。宇宙ネズミと言えば粗悪品の阿頼耶識システムを着けた者の詐称なのだが、そうとは知らずカインはその言葉をヒューマンデブリの詐称だと思った。

 

 カインがヒューマンデブリだったということは事実だ。今更覆ることはない。そして宇宙でも要らないとされて地球に捨てられた。

 

 

 どこにも居場所がない子供だった。

 

 

 それを助けてくれた人がいた。

 

 

 一緒にいた子も助けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 それだけで、カインは戦う理由にできた。生きたいと、少女の顔が思い浮かびながら願ってしまった。

 

 

 

 

 

 その想いを機体が応えたのか。徐々にカインの振るう鉄剣が敵の関節部を捉えるようになってきた。動きも更に俊敏になり、鉄剣で敵の両脚を叩き潰して地面に転がしていた。

 

 傭兵はまだ諦めずにマシンガンを向けるが、そのマシンガンは銃身ごと蹴り潰される。両肩に脚を乗せ、完全に身動きが取れなくしていた。

 

「……ハッ。俺も鈍ったかねえ……。地球の肥溜めの俺と、宇宙ネズミのお前。どこにも差はねえか」

 

「……あなたは、強かった。オレは、そう思う。それにきっと、オレとあなたは違う人だ」

 

「どうだかねえ。……まあいい。この選択をした俺自身は何も後悔はねえ。先にヴァルハラで待ってるぜ! 我が好敵手よ! 」

 

 その叫びを聞き届けて。

 

 カインは鉄剣をコックピットに突き刺した。

 

 生命の灯火が消える感覚を味わって。本当に後悔がないような満足感だけを残されて。

 

「………………ウエッ」

 

 カインは盛大に吐瀉物をぶちまけた。

 

────

 

「どうだった? 『髭のおじさま』」

 

「お前がそう呼ぶなよ……。最後はえづいていたが、結果だけを見れば最良だろう。戦場を怖がっている様子もない。戦果も申し分ない。お前への忠誠も変わらずだ」

 

「そうか。……酷な事をさせた」

 

「全くだ。早すぎる。……なあ、あの『疾風のイグザ』を雇ったの、お前だろう? あんな小国がアイツを雇える金があるとは思えない。MWやら弾薬やらで手一杯のはずだ」

 

「……ああ。MWだけではなく、MSとの戦闘も経験させておきたかった。それにお前もいたのだから、もしもはないと思ってな。結局一人で倒してしまうとは」

 

「あの機体があってこその成果だがな。普通のゲイレールだったらやられていただろう。イグザのゲイレールは通常の物よりかなりチェーンアップされていたようだからな」

 

「だが、あの辺りで有力なエースも倒せたというのはかなりの経験値になっただろう。後は集団戦だが、この夏期休暇では無理だな。じっくりと経験させよう」

 

「またその時は俺頼みか? 」

 

「そうなる。よろしく頼むぞ、友よ」

 

「ハァ。わかったよ、友よ」

 




途中で出てきた聞いたことのあるようなセリフに深い意味はありません。悪しからず。

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