鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEで初レイドが始まったので初投稿です。

シャンブロが相手なら特攻はνじゃなくてUCの機体にするとかさぁ。
クェス報酬にするならそもそもシャンブロじゃなくてα・アジールにするとかさあ。

そういうところ雑だよね。


6 セブンスターズの変化

 カインは九回生、つまり幼年学校で最上級生になった。

 

 カインも最初以外の飛び級はせず、ジュリエッタもそこそこ良い成績を残したが、飛び級はしなかった。実技は良いのだが、いかんせん座学の成績は良くないので飛び級を勧められることはなかった。

 

 カインはいつもセブンスターズの幼年学校三羽烏こと、マクギリス・ガエリオ・カルタと一緒にいた。この四人組は幼年学校でも有名な四人組だった。

 

 カインだけ産まれが異なるが、三人全員がカインを認めているためにやっかみを受けることはなかった。陰口はたくさんもらっていたが。

 

 今日は珍しく四人組ではなく、カルタがいない。出席すらしていなかった。セブンスターズは自分の邸宅から通っているので寮を確認しても無駄だ。

 

 三人は中庭でサンドウィッチ片手にベンチに座って昼食を食べていた。マクギリスは出自的にそんな姿を見せても自然だったが、ガエリオは雰囲気から家柄から本当に良いところのお坊ちゃんという感じなので結構珍しい姿だ。

 

 マクギリスがやったことでガエリオとカルタも真似して見た所、二人とも片手で物を食べるという習慣がなかったので最初は苦労していたが、今では割と様になっている。

 

 むしろやんごとない英雄の家系がそんな庶民的な行動をして、しかも不器用にあたふたしている様は特に下級生の女子に大好評だった。

 

 今では様式美になっている様子を見せながら、カインは尋ねる。

 

「ガエリオ様。カルタ様はどうかされたのでしょうか? 」

 

「あー、最近カルタの親父さんの調子が良くなくてな。多分その見舞いだろう」

 

「なるほど……。親の一大事でしたか」

 

「……カインは、親のことなんて知らないんだよな? 」

 

「はい。気付いたら孤児院の前にいたので。記憶もなく、名前も知りません。名前は孤児院でつけていただきました」

 

「ホント、戦争孤児なんてなくなれば良いのにな……。マクギリス! 俺達でギャラルホルンを率いて、カインのような存在を一人でも減らそうぜ! 」

 

「無論だ。私はそのために今も精進している」

 

 カインの憂いげな空気を、ガエリオは快活に吹き飛ばす。マクギリスもクールに返しているが、それも大目標の一部だろう。だから力強く頷いていた。

 

 そのマクギリスが、確認をする。

 

「そういえば最近、クジャン家の一人息子が編入してきたな。四回生だったか。御当主が戦死なさって、エリオン家のラスタル様に引き取られたと父上から伺っている」

 

「宇宙海賊の討伐任務と聞いている。前当主が臨時でクジャン家を率いているようだが、あの方もいいお年だ。だからこそエリオン家に頼ったのだろう」

 

 マクギリスとガエリオが話している内容について、カインはもちろんラスタルから聞いていた。下手に接触する理由はないため、学年も下ということも相まって会わないと腹を括っていた。

 

 敵を騙すなら味方からという言葉もある。

 

 ジュリエッタとの秘密の逢瀬はノーカウント。

 

「そうそう。ガエリオ、奥様が御懐妊なさったとか。おめでとう」

 

「え? そうなのですか? ガエリオ様、おめでとうございます」

 

「止せ止せ。まだ四ヶ月だ。産まれてから祝ってくれ」

 

「フ。そうさせてもらうよ」

 

 この情報はカインも知らなかった。セブンスターズの情報も逐一入ってくるわけではない。ラスタルとの通信も不定期で、情報も全部流してくれるわけではなかった。

 

 クジャン家のこともあるために後継は一人だけというのも不安なのだろう。だからもう一人こさえた。

 

 とはいえ。ガエリオと年齢差がありすぎる。ボードウィン家の奥方は下手したら高齢出産だ。そういう心配もあってガエリオはまだ祝うなと言っていた。

 

 ご飯も食べ終わって雑談をしていると、カルタがこちらに向かっていることに気が付く。どうやら午後から出席するようだ。

 

 だが、そのカルタの顔は優れない。

 

「カルタ、遅かったな! ……顔が険しいぞ? 」

 

「ガエリオ坊や、あなたのそれは最早才能の一つね。……三人には、お別れを言いに来たの」

 

「お別れ? 不穏だな」

 

 マクギリスも顔を顰める。カインも哀しみの感情は読み取れても、本題の内容までは察せなかった。

 

「──お父様の具合を鑑みて、私カルタ・イシューは幼年学校を繰り上げ卒業。士官学校二回生へ編入することになりました。その報告を」

 

 いつもとは違う口調。そして語られた内容は三人を驚かせるものだった。

 

 もう彼らは十五歳になった。セブンスターズという枠組みを十分に理解し、敢えて飛び級をしないことは知っていた。

 

 その暗黙の了解を破ってまで、カルタは飛び級をする。それほど御当主の容体がよろしくないのだろう。

 

「──なに。士官学校は三年ある。来年私達は同じ学び舎にいるのだ。そう悲観することではないだろう? カルタ先輩? 」

 

「マクギリス……」

 

「重圧とか大変だろうけど頑張れよ! 俺達は守ってやれないんだからな」

 

「ガエリオ坊やに心配されるまでもないわよ……」

 

「カルタ様はカルタ様に変わりありません。どこにいようと、あなたはあなたですよ」

 

「カイン……。ええ。そうね。私は私だわ」

 

 各々が激励の言葉を贈る。

 

 四人の友情は変わらないのだと。全員が拳を前に突き出して合わせていた。

 

 その一部始終を見ていた女子生徒があまりのエモさに鼻血を出して倒れていたのは完全なる余談である。

 

──

 

 もう毎週の決まりごとになった火曜日。

 

 カインとジュリエッタはどちらが早く来ると決まっていたわけではなかったが、早く来た方がシミュレーターのセッティングをしていた。今日はカインが早く来ていた。

 

 相変わらずMSのシミュレーターは不人気だ。卒業資格の単位として実機演習があるのがMWなので幼年学校の内はMWを慣らしておけばいいと考えているのだろう。

 

 あとは少なからずMSとMWは操作方法に共通性があるので、MWが操縦できればある程度はMSも操縦できるという事実も関連している。士官学校でやればいいと高を括っている者がほとんど。

 

 幼年学校の教官にも苦笑されるレベルでMSのシミュレーターをやっているのはカインだけだ。予定が合えばマクギリスやガエリオともやるが、二人はセブンスターズとしての教育で忙しい。

 

 カインがジュリエッタを待っていると、ジュリエッタ以外の人物がシミュレーター室に向かって来ているのを感じ取った。教官かとも思ったが、感覚は幼い子供だ。大人じゃない。

 

「イオク様! ここまでついてこないでください! 」

 

「私はお前の実力に興味がある! 将来の部下になる人間の実力を見極めておこうと考えたまでだ」

 

「ハァ⁉︎ 誰が将来のあなたの部下ですか! 確かに私の第一志望はアリアンロッドですが! 」

 

「アリアンロッドはクジャン家とエリオン家が代々指揮をしている。要するに私の部下だろう? 」

 

 ジュリエッタとイオクの声はシミュレーター室の中まで届いていた。そしてジュリエッタがイオクを連れてこの中に入っていいものかと逡巡しているのを感じ取った。

 

 溜息をついてから、カインはジュリエッタを助けるために扉を開いて廊下に出る。

 

「あ……。カイン九回生」

 

「ジュリエッタ五回生。遅かったな。イオク・クジャン様、お初にお目にかかります。カイン・ベリアルと申します。ジュリエッタ五回生の実力が知りたくてこちらまでいらっしゃったので? 」

 

「ああ、そうだ。ここはMSのシミュレーターじゃないか。アリアンロッドともなればMSの操縦技術は必須。もう学んでいるとは私も鼻が高いぞ! 」

 

 カインが下手に出て、そのままをよしとしたことにジュリエッタはウワーと引いていた。ジュリエッタが九回生と言ったのだからたとえどんな立場だろうと幼年学校では目上の人物だ。

 

 だというのに畏まる態度を取られて当然という横柄な様子。セブンスターズとはいえ、軍内での規律や階級は守らなければならない。ギャラルホルンの下部組織である幼年学校でもそれは同じだ。

 

 この場合は学年になる。

 

 他のセブンスターズは自分達がセブンスターズだからといってその立場をひけらかして好き勝手してきたわけではない。学年などが上の相手には敬意を示していた。

 

 イオクのこの態度は、クジャン家で甘やかされてきたためにそういう常識を学んでこなかったからだ。

 

 カインもイオクのことはラスタルから掻い摘んで聞いてはいたが、実際に目にしてみると酷いとわかる。

 

 それでも、そんなことを思ったとは露ほども表情に出さず、カインはこのまま対応を続ける。

 

「それではイオク様。見学なさいますか? 」

 

「いや、私が直接実力を見よう! これでもアリアンロッドを率いるための教育を受けてきたからな。ジュリエッタと戦わせてもらおう」

 

 ジュリエッタが不安そうにカインのことを見てきたが、カインは頷くしかなかった。カインが使おうと思っていた方を初期設定に変えて、ジュリエッタはいつも通りにカスタム。

 

 双方グレイズを使って模擬戦が始まった。

 

 のだが。

 

「グオオオオオオオ⁉︎ 」

 

「え……? 」

 

 牽制で放った滑空砲に直撃するイオクのグレイズ。まさか当たるとは思っていなかったのか呆けた声を出してしまうジュリエッタ。シミュレーターとはいえ受けた衝撃は疑似体験としてコックピットを揺らす。

 

 揺れるコックピットなんて初めてだったのか、イオクは大声で叫んでいた。

 

 ジュリエッタは接近戦なら大丈夫かなと、嫌な予感がしながらも近付く。近付く間も、イオクのグレイズは迎撃射撃を行うことはなかった。

 

 目の前まで接近できてしまい、鉄剣を振るう。特に抵抗もなく叩けてしまった。

 

「うおおおおおお⁉︎ 」

 

「えぇー……」

 

 豪語してた割には抵抗もなく叩けてしまったので、ジュリエッタはさっさとこの茶番を終わらせてしまおうと容赦なく叩き続ける。響くソプラノの声は無視した。

 

 ジュリエッタとしてはさっさとカインと同じ時間を共有したいのだ。

 

 すぐに撃破判定が出て、模擬戦が終わる。結局まともに動かせなかったイオクに対してジュリエッタは絶対零度の目を向けていた。

 

「馬鹿な⁉︎ 我が家のシミュレーターではこのようなことはなかったのに! 」

 

 これもクジャン家の甘やかしの弊害だ。ゲーム感覚でシミュレーターをやらせていて、しかも自動操縦補助にオートロックオンなどシミュレーターだからこそできる機能がたくさんあった。

 

 機械にAIを積むことは厄災戦を経てギャラルホルンが禁止したため、実機にはそんな素敵機能はついていない。それにオートロックオンなども実戦に耐えられる精度ではなかった。

 

 捕虜などを得たい時などに弊害にしかならないのだ。ならそんな機能は初めからつけなければいい。

 

「このシミュレーターがおかしいんじゃないか⁉︎ 」

 

「士官学校やギャラルホルン本隊で使われている初期設定と同じだと教官から伺っています。私が同じ設定でジュリエッタ五回生と戦いましょう」

 

「珍しいですね。カイン九回生がグレイズを使うなんて」

 

「いつもはゲイレールだからな」

 

 今度はきちんと、模擬戦が始まった。

 カインとしては使い慣れない設定だったが、それでも試合にはなった。

 その映像を見ていて、イオクは呆然とするしかなかった。

 


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