鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と 作:フラペチーノ
オリジナルキャラのペッシェちゃん、ガチャかぁ。そうかぁ……。
カイン達は問題なく幼年学校を卒業し、予定通り士官学校に進学していた。幼年学校を卒業したからといって全員が士官学校に進学するわけではない。技術職や事務職希望は他の学校に行くからだ。
ちなみにカインの代で首席卒業はマクギリス。次席はガエリオ。カインは出しゃばる真似をしなくて済んで、心から安堵していた。
そして士官学校の一回生になって。カイン達はクラス全員を乗せた宇宙用のシャトルにいた。間も無く宇宙へ飛び出すために発射台から射出される。
地球出身者が多いために、初めての宇宙で沸き立つクラスメイトも多い。地球はある種、居ることそれこそが特権のようになっていて、宇宙ともなれば海賊やらヒューマンデブリやらの問題があり、しかも労働賃金も低いと来た。
しかも宇宙にあるものは全て人造物。地球が産み出した母なる自然を感じられないとなれば、宇宙旅行や宇宙進出などする地球人はいなかった。
地球だって孤児の問題や労働環境問題はあるが、宇宙よりはだいぶマシである。ギャラルホルンの力が強いので余計に。
カインが誰とも話さず一人の席でボケーと窓の外の景色を見ていると、一回生の騒ぎが気になったのか、監督生である三回生が近付いてきて一喝。
「そろそろ静かにしなさい! この移動も演習の一環です! あなた達は任官してもそうやって遠足のように騒ぐつもり⁉︎ 」
カルタ・イシュー三回生だ。セブンスターズの彼女の叱責に騒ぐ者はいなくなり、その様子にマクギリスとガエリオはフッと笑った。
カインは周りの様子を気にせず、興味は宇宙にばかり向いていた。ある意味一番集中していなかったが、カルタはカインの様子に気が付かなかったのか注意をしない。
発射シークエンスに移って、窓は防壁が降りて見れなくなったのでカインは目を閉じて宇宙に着くのをただ待つ。
士官学校に上がってからも、カインは順調だった。マクギリスとの関係も良好で、マクギリスのペーパーカンパニーであるモンターク商会の準備も出来上がっていた。その情報をラスタルに流すことも。
唯一の不満は、ジュリエッタとの模擬戦ができなくなってしまったことか。幼年学校と士官学校はかなり離れているので、わざわざ会おうということはできない。
シミュレーターをオンラインで繋ぐこともできないので、その辺りはジュリエッタに我慢してもらった。
去年が最後の、ジュリエッタと一緒に居られる時間だった。士官学校はたったの三年間。学年が四つも離れていて、それ以降二人は同じ部隊に配属される予定はなかったので、ギャラルホルンでも顔を合わせることはなくなる。
カインはこのままだとマクギリスに引き抜かれて監査局へ。ラスタルも一応優秀な生徒として引き抜くことをポーズとして取るが、あくまでポーズだ。マクギリスを監視する人間としてマクギリスの近くに配置する予定だった。人事部にもそういう風に手を回す予定だ。
ジュリエッタは隠すことなくラスタルの腹心の部下としてアリアンロッドに引き抜く。ギャラルホルンは巨大な組織なので所属する部隊が異なればほぼほぼ顔を合わせなくなるだろう。
カインはギャラルホルンがある場所全てを巡り、ジュリエッタは基本的に地球圏から少し離れた宇宙に滞在する。
「宇宙は、広いな」
そうボソリと呟いたのと同時に、窓の防壁は上がり。
どこまでも続きそうな夜のカーテンが、そこにはあった。
・
宇宙演習が始まって。シャトルが地球衛星軌道上に存在するギャラルホルンのサテライトベースであるグラズヘイムに寄港し、それからは士官学校生はビスコー級クルーザーという非武装の箱型宇宙艦艇に乗り込んでMSによる飛行訓練が実施されていた。
デブリの多い宙域でデブリを避けながら決められたルートを操縦し、レコードを競う訓練。ただ宇宙で飛ぶだけならできる者も多いが、障害物を避けながらというのはとても難しい。
だがアリアンロッドにでも配属になったらできないと困る操縦でもある。宇宙をメインに活動するなら経験しておかなければならない訓練だ。宇宙での艦隊戦ともなれば様々に弾丸が飛び交うのだから、デブリくらい避けられなければならない。
既に何人か訓練を終えていた。初めての宇宙空間ということで操縦に慣れずデブリに激突した者もいた。地上とは勝手が違う無重力空間だ。足が着く地上とは勝手が違いすぎる。
そんな中でもトップの成績で、しかも監督生である三回生をも唸らせる成績を叩き出したマクギリスがおかしいのだ。比較として三回生の平均タイムも提示されていたが、マクギリスはそれよりも三十秒以上短いブッチギリ。
ガエリオも頑張ったのだが、マクギリスには及ばない。二人ともセブンスターズとして宇宙に上がったことがあったのでそれなりに宇宙での行動にも慣れていたが、それよりも驚くのはカインだ。
まるで我が意を得たかのように自由自在に戦艦内でも活動していた。まるで宇宙が本拠地であったかのように、水の中の魚のようだった。
それもそのはず。カインはラスタル以外に誰にも伝えてなかったが、産まれてから四年間ずっと宇宙に漂っていたのだ。宇宙で過ごす方が、正直容易かった。
その感覚はこの訓練でも現れることになる。
「カイン・ベリアル。出ます」
訓練機であるゲイレールに乗って、戦艦のカタパルトから発進する。
フットペダルを踏んでスラスターを吹かす。そしてデブリが数ある中でも恐れることなく突っ込んでいった。
その度胸に、訓練を一緒に見ていたガエリオはハラハラとする。
「飛ばしすぎじゃないか? あれ、ほぼトップスピードだろ? 」
「いいや、大丈夫だ。カインは普通じゃない」
「そりゃあ飛び級して俺達についてくる成績なんだから普通じゃないだろうけど……」
「そういう意味じゃないが、まあ見ているといいさ」
マクギリスがそう言うので画面に目線を戻すと、デブリの中に入ってジグザグと進んでいく姿を艦の望遠カメラが捉えていた。
だが、その動きが訓練を終えたガエリオだからおかしいと気付く。
「んんっ⁉︎ あいつ、避ける時に減速したか⁉︎ 」
「してないな。各種アポジモーターの僅かなスラスター噴出だけでデブリを避けている」
「そんなこと初見でできるのか⁉︎ デブリなんてどう動くかわからないんだぞ⁉︎ 」
「だが実際カインはやっているぞ? まあ、私でもアレはできないな」
マクギリスは苦笑しながら映像を見続けている。ガエリオの叫びに周りの全員がカインの異常性に気付いて、何度も宇宙空間でMSの操縦をしている監督生達はおろか、この艦を動かしているギャラルホルン本隊ですらその映像は信じられなかった。
あんな未来予測じみた動き、博打過ぎて誰もできない。それをほぼトップスピードを維持したままなんて誰ができるものか。
高速で宇宙空間を移動する物体は、物にぶつかった際破壊力が増す。あのスピードでデブリにぶつかれば、いくら頑丈なMSといえども大破するだろう。そんなこと怖くて誰もできない。
だが、それを今目の前で見せつけられている。恐怖という脳のリミッターが存在しないようだ。それほどの暴挙を見せつけられて、背筋が凍る者ばかり。
「む、無茶苦茶すぎる……! 」
「カルタ三回生。アレを見てから仰った方が宜しいかと」
「アレ? 」
カルタはマクギリスに言われて艦の望遠レンズで映っている映像、ではない方を見る。それは何かあった時のために付けられているMSのコックピット内を映すインナーカメラの映像。
そこにはノーマルスーツを着たカインの姿と。
「う、嘘でしょ……⁉︎ 」
「全く。カインにはいつも驚かされる」
「〜♪ 」
鼻歌交じりに、
目視していないのにデブリを完璧に避けて、なおかつスピードは緩めないままにチェックポイントを越えていく。その通過速度はブッチギリだったはずのマクギリスすら超えていた。
カイン本人は久しぶりの宇宙で高揚してしまい、身を包む宇宙の感覚に全てを委ねているだけ。
それが常軌を逸した行動だと理解せずに、見せつけてしまっていた。
だが、それも長く続かない。
カインが唐突に、機体を静止させる。そして腰にマウントされていたマシンガンを装備した。
スピーカーから、カインの声が流れる。
「すみません。十時方向から戦艦が来ます。MSもいるかもしれません」
「何? 」
これを聞いていたブリッジは即座に十時方向へレーダーを向けると、エイハブ・ウェーブの反応が一気に増大し始めた。
スクランブルとして警報を鳴らし、第一種戦闘配備に移る。その警報が鳴る前にカインの様子を見ていたマクギリスとガエリオはMSデッキに向かっていた。
「待ちなさい! マクギリス、ガエリオ坊や! 」
「カインが危ない! アレはペイント弾しかないんだ! 私達が行くしかないだろう! 」
「そうそう、ゲイレールは後二つあるんだからな! カインに実弾を運ぶ係が必要だろ! 」
「……全く! 私もグレイズで出るから無茶だけはしないように! 」
「「了解! 」」
幼年学校三羽烏が動き出す。マクギリスとガエリオは訓練で使っていたゲイレールを実戦仕様に武器を変えて出撃。カルタも艦長を説得して名目上は監督生として飛び出した一回生を連れ戻すということで予備機のグレイズを借りて出撃した。
ギャラルホルンの本隊も、三機のグレイズを出撃させる準備をしていたが、士官学校の演習中に襲撃されるとは想定していなかったのかパイロットの搭乗が間に合っていなかった。
そのため、結局迎撃に出たのは先行して出撃した四人だけだった。
「カイン! 受け取れ! 」
「ありがとうございます。マクギリス様」
カインは後ろからやって来たマクギリスから滑空砲を受け取る。それを左手に持った。
ギャラルホルンのデータベースは優秀で、近付いてくる艦のエイハブ・リアクターから相手の所属を割り出していた。
「海賊の『夜明けの地平線団』だな。だが艦は一隻だけ。本隊ではないんだろう」
「MSの出撃を確認。ヘキサ・フレームのユーゴー三機とロディ・フレームのガルム・ロディを六機確認。戦力差三倍ですね」
「後ろからカルタも来るぞ。けどなぁ、初陣が襲撃かよ」
「我々の伝説の始まりにしては、些か敵が軟弱だな。そうは思わないか? 」
「思わないわよ! 海賊としては規模だけでも最大級と呼ばれる『夜明けの地平線団』! 援軍は時間がかかるし、こっちの艦は非武装!戦力は実質これだけってことよ! 」
「カルタ様」
唯一のグレイズが到着する。カルタの言葉を受けて、マクギリスはふむと一つ提案をした。
「カイン。君には危険が伴うが、君にしかできない役目を任せたい。頼めるか? 」
「はい。それが作戦で、今取り得る最良なら」
「最良だ。その作戦とは──」
マクギリスが作戦内容を三人に伝える。三人も吟味して、その内容が今の最良であり最善だと結論を出した。
その作戦にあたり、持つべき武器を交換し始める。エンゲージまで後三分。