鉄血のオルフェンズ 捧ぐは愛と忠義と憐憫と   作:フラペチーノ

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ガンダムUCEでペッシェちゃん当たらなかったので初投稿です。

1/8加筆・修正


8 宇宙演習・2

 地球圏にわざわざやってきた『夜明けの地平線団』の分隊。『夜明けの地平線団』は元々十隻以上の戦艦と数多のMSを所持する、宇宙海賊でも最大規模を誇る戦力だ。

 

 普段であればギャラルホルンの影響力の強い地球圏にまで出張ってくることはない。アリアンロッドに加え、地球外縁軌道統制統合艦隊もいるからだ。そんな場所へ海賊稼業に出れば、いくら最大規模の海賊と言ってもタダではすまない。

 

 だというのに、今回彼らが危険であるはずの地球圏に来た理由は、ギャラルホルンが隙を見せたからだ。

 

 一番戦力の多いアリアンロッドが大規模演習という名のコロニー視察や海賊狩りにほとんどが駆り出されていて不在。更には地球へ降りる、近付く者を監視する地球外縁軌道統制統合艦隊はリーダーであるイシュー家の者が空座となっていて統制が取れていない。

 

 地球圏の宇宙で暴れるには最適な時期だったということだ。

 

 更に今回狙った艦はギャラルホルンの艦とはいえ一隻の上に非武装。そして主に使っているのが士官学校生という情報まで得ていた。護衛艦もおらず、ヒヨッコどもを襲えば武器や最新のMSを手に入れられるという寸法。

 

 何もかもが完璧だと、彼らは考えていた。

 

 ガルム・ロディに乗ったパイロット達がデブリの中を泳ぎながら談笑していた。今回の任務の簡単さから、そしてギャラルホルンの腐敗は本当だったのだと思い知ってバカにする意味でも余裕をかましていた。

 

「本当にバカだよな。まだ任官もしてない、戦場処女ばっかなのに非武装艦で護衛もなしぃ? おまけに艦はデブリ帯のすぐ側で即座に後退もできない。訓練中の士官学校生を見捨てて逃げたら、奴らの名声も終わりだからな」

 

「奴らは驕りゆえに逃げ出さない。適当に包囲して叩けば新型MSゲットってわけだ。ギャラルホルンに一泡吹かせたとなれば俺達の名声も上がる。傘下になる奴も増えるだろうし、いよいよ敵なしになるぜ」

 

「笑いが止まらないよなぁ」

 

 乗ってきた戦艦に搭載されている全てのMSで出撃し、既に作戦の成功を疑っていないパイロット全員が笑っていた。それほどまでに簡単な任務。百戦錬磨の彼らからすれば、戦場を知らない相手を刈り取るなんて赤子の手を捻るより簡単なこと。

 

 そんな彼らは、レーダーが告げる警告音に気持ちを引き締める。こちらに近付いてくるエイハブ・ウェーブを感知した音だ。

 

 モニターに出るシグナルはゲイレール一機。おそらく訓練をしていた機体だ。

 

「ハハッ! ほうら、ヴァルハラを志す勇猛果敢な学生くんは早くも英雄になろうと突貫して来たぞ? 全員で出迎えてやれ! 」

 

「「了解! 」」

 

 MS部隊のリーダーがバカな学生を嘲笑いながら指示を出す。大方戦艦のエイハブ・リアクターと九機のMSのシグナルを見て混乱してしまったのだろう。

 

 全員がマシンガンやバズーカなどの銃火器を構える。だが、よく見るとモニターに映る信号は故障かと思うほどの動きを見せていた。

 

「いや、おい待て⁉︎ なんだコイツ、デブリの中をどんな速度で突っ込んでやがる⁉︎ 」

 

「アニキ、こいつオレ達の三倍の速度でデブリの中を飛んできやがる! 正気じゃねえ⁉︎ 」

 

「進路上に適当に弾幕を張れ! たまたまデブリにぶつかってないマグレ野郎を撃ち落とせ! 」

 

 その声と共に多種多様な弾丸が飛び交う。シグナル目当てに撃ち込むが、そのシグナルは大きな動きをすることなく、速度も落とすことなく突っ込んできた。

 

 普通の感覚なら、いくら頑丈なMSといえども弾丸の直撃は避ける。頑丈とはいえ数発受ければ操縦できなくなることもあるからだ。その普通の感覚に従って彼らは射撃を敢行し、それを避けようとしてデブリにぶつかるだろうと予測していた。

 

 だが、その予想は簡単に裏切られる。普通が通じないからこそ、普通に従って勝ちを重ねてきた者達は錯乱して、まだMSの影も捉えていないのに更に弾丸を消費した。

 

 人間は未知の恐怖には、とことん弱い生き物であるために。

 

 そしてとうとうモノアイのメインカメラが捉えた視覚モニターにもその機体が映る。どこからどう見てもギャラルホルンで今は訓練機に成り下がっている一般的なゲイレールだ。特別なカスタムや配色は見受けられない。

 

 肉眼で捉えれば、流石に当てられるだろうとカートリッジを替えながらトリガーを引く。

 

 そこで彼らの常識は完璧に壊された。

 

「避けるのは良い! ()()()()()()()()()()()とか、あれは本当にガキか⁉︎ 」

 

「何であんな無茶苦茶な機動ができるんだよ⁉︎ スラスターも脚部フレームもガタが出るぞ! 」

 

「速度が落ちないカラクリはわかったが、だからってアレは人間にできるのかよ⁉︎ 」

 

 何で機体が保つのか、そもそもそんな操作ができるのかわからなかった。相手はギャラルホルンの士官学校生か、あり得るとしても本隊のパイロットだろう。

 

 それにしても、『夜明けの地平線団』を翻弄するエースのような動きをゲイレールでされると脳が様々な可能性を拒絶していく。

 

「アニキ、アレ宇宙ネズミなんじゃ⁉︎ あんなキモい機動するMW見たことあるけど、そういうのって全部宇宙ネズミだったぜ! 」

 

「阿頼耶識システムだったか⁉︎ 何でその宇宙ネズミがギャラルホルンにいるんだよ‼︎ 」

 

「オレが聞きてえよ! 」

 

 宇宙ネズミ──阿頼耶識システムを施術されたヒューマンデブリ──の可能性に行き着くが、なら今度は何で宇宙ゴミがギャラルホルンのMSに乗っているのかという疑問に行き着く。

 

 阿頼耶識システムは空間認識能力の補助などがナノマシンによって施されるが、生身の人間だって熟練度を上げれば似たようなことができる。変な動きだから阿頼耶識を使っている、という誤解は彼らの戦場におけるただの思考停止。

 

 自分の知識が世界の全てだと誤認している者の、弱者の思考だった。

 

 ゲイレールはとうとうガルム・ロディに弾丸が届く距離まで近付いた。右手にマシンガン、左手に滑空砲を持ったゲイレールはマシンガンで牽制しつつ、近寄ってきたMSには確実にコックピットに滑空砲の大口径の鉛玉を喰らわせていた。

 

「シド、クルムがやられた! ユーゴーに乗ってる奴の援護が足りないからだぞ! 支援をしっかりしやがれ! 」

 

「あんなのにどうやって当てろってんだよ⁉︎ 」

 

「あんな無茶な機動だ! すぐにガス欠かフレームがお釈迦になる! 」

 

「近寄るな! ガス欠になってから叩け! 」

 

 二機落とされたものの、まだ数的有利を保っていたのでそれを活かしてどうにかしようと飽和攻撃を仕掛ける。

 

 いや、しようとした、だろう。

 

 トリガーをいくら引いても、ガチャンガチャンと鳴るだけで一向に弾丸が発射されない。ジャムった訳ではなく、弾切れだと表示されていた。

 

「んなっ⁉︎ そんなに撃ったか⁉︎ 」

 

「艦隊戦に挑める量の弾薬を用意したはずだ! だっていうのにどいつもこいつも弾切れ⁉︎ 」

 

 携行武器を替えれば、もしくはマガジンを取り替えればまだ弾薬はあったが、最初に持っていた銃火器がどれも弾切れを起こすなんてそれだけの弾幕を形成してしまったということだ。

 

 しかもそれだけの弾を消費して、相手には有効打を与えられていない。

 

「くそ! どうせ敵は一機だ! ユーゴーは援護射撃、ガルム・ロディは接近戦で囲め! いくらギャラルホルンのMSって言っても、ガルム・ロディの装甲は驚異なはずだ! 」

 

 リーダーはそう言ってマガジンを替えることより近接武器を取り出すことを優先した。それぞれハンマーチョッパーやブースト・ハンマー、バスターソードを構える。

 

 囲むために動き出そうとした時、弾切れを知らせるようにビービー!と特大の警告音が全員のコックピットに鳴り響いた。

 

 いきなりの警告音に誰もが気を取られてしまう。先ほどまでなかったエイハブ・リアクターの反応が直近に現れ、奇襲に備えなくてはならなかった。

 

 だが、すぐそばまで接近を許した時点で遅かった。なにせ相手はギャラルホルンの本隊でもバケモノとしか言えない成績を残すセブンスターズの跡取り。

 

 マクギリスは指示を出していたガルム・ロディの背中から直剣を突き刺してリーダーを絶命させた。機体の構造を完璧に把握していたことと、確実に突き刺す技量があったからこそ為し得た絶技。

 

 一撃必殺をかました瞬間にその場から離脱していた。

 

「アニキィィィ‼︎ 」

 

「やろう、反応はなかったのにどうやって近付きやがった⁉︎ 」

 

 困惑している間に最初のゲイレールに近付かれ滑空砲で風穴を開けられ。マクギリスのゲイレールに剣で釘刺しにされていた。

 

 原理は至って簡単。エイハブ・ウェーブはその機体を起動させなければ感知されない。

 

 そのため休眠状態にしたマクギリスのゲイレールを、カインのゲイレールによってワイヤークローを利用して牽引し、近くの宙域まで引っ張ってきた。あとはスラスターを用いない力学的移動だけで近寄ってデブリに身を隠し、ここぞという時に起動して近寄っただけだ。

 

 エイハブ・ウェーブを感知されないためにはモニターも何もかも消す必要がある。予備カメラを除いて全ての電源を落とし、エイハブ・リアクターからのエネルギー供給を絶たなければならない。

 

 マクギリスは本当に小さい映像だけでデブリ帯の高速移動を経験する羽目になった。だがそれはカインを信頼してこそ。

 

 実際、最上の結果をもたらした。

 

 合流した二機はカインが牽制をして、マクギリスがトドメを刺すという連携を取っていた。その連携があまりにも息が合いすぎていて、頭もやられた『夜明けの地平線団』は平静を保つことはできなかった。

 

(素晴らしい! カインはどこまでも俺についてこられる! 俺に必要なものを提示してくれる! やはり俺の同志足り得るのは君しかいない‼︎ )

 

 マクギリスは高揚しながら最後のユーゴーを撃墜する。残り二機となったガルム・ロディに乗ったパイロットはもう作戦の成否など気にせず後退していた。不意打ちもあったとはいえ、海賊でも上澄みの自分達の大多数を屠ったバケモノを相手にする理由はない。

 

「逃げるぞ! ギャラルホルンに嵌められたってサンドバルの大アニキに伝えねえと……! 」

 

「馬鹿な⁉︎ オレ達の艦がないぞ! 」

 

「あ⁉︎ エイハブ・リアクターの反応が、ない⁉︎ 」

 

 モニターの表記が信じられなくて立ち止まってしまう二機。

 

 そこを見逃す二人ではなく、二機ともそれぞれの鉄剣にコックピットを貫かれてコックピット周辺が爆散した。

 

「完全勝利だ。後の二人も作戦を完遂したようだな」

 

 マクギリスは感慨深く呟く。

 

 少し遠い宙域で、大きな閃光が一つ打ち上がった。

 

──

 

『二人にも危険なことをしてもらう。デブリ帯を迂回して、敵の旗艦を潰してくれ。その後挟撃をしてMSを全て撃破する』

 

『MSが九機も出撃してて、危険か? 』

 

『危険だとも。九が最大数とは限らない。それに敵は武装艦だろう。二機のMSじゃ火力も限られている中で、確実に落として欲しいと言っているんだから。これはカルタ先輩の腕の見せ所だぞ? 』

 

『全く……。ガエリオ坊や、やるわよ! マクギリスとカインも危険な役割をこなすのだから、私達も敵艦を落とすわ! 』

 

『……わかった。MSが出てくる前に、敵艦を落とすぞ』

 

 それが作戦会議の内容。カルタとガエリオはデブリ帯を抜けて最大加速で敵艦に向かった。敵艦はデブリ帯に入り込んでいないので、外から迂回するのが一番の近道だった。

 

 相手に感知されることを前提に、二人はスロットルを全開に突っ込んでいった。敵艦から対空射撃が繰り出されたが、ギャラルホルン製のMS特有の加速力を活かして避けていた。ミサイルや対空機銃などは、高速で移動するMSに当てるのは至難の技だ。

 

 特に戦闘艦の方は今回の作戦で艦隊戦を行う羽目になるとは考えておらず、MS部隊に丸投げしておけばいいと思っていたために反応も遅れてしまった。適当に放たれた迎撃射撃に当たるほど、カルタとガエリオは落ちぶれていない。

 

 そして弾幕を抜けた先で、有効射程距離に入った瞬間、火力のあるレールガンを二人で掃射する。

 

「「落ちろ! 」」

 

 遠距離武器の中でも特に弾数が少なく火力の高いレールガンは全弾敵艦に命中し、ブリッジやスラスターを貫通して動力源に引火したのか内部から大きく爆発した。

 

 爆発に巻き込まれないように二人は離脱する。MSが出てこず、対空射撃も大したことなかったので二人は安堵していた。

 

「フゥ……。ガエリオ坊や、無事ね? 」

 

「一発も当たってないぞ。……抵抗が少なくて良かった」

 

「まだ片方の任務が終わっただけよ。マクギリス達の援護に行かなくちゃ。レールガンは荷物になるわ。置いていくわよ」

 

「了解。カルタ三回生」

 

 後で回収するつもりでレールガンを放棄してデブリ帯に戻ろうとする二人。だがその前にエイハブ・ウェーブの増大をレーダーが感知したのと同時に二人へ不鮮明ながらも通信が入る。

 

「いや、その必要はない。君達はこちらの艦に収容しよう」

 

「この声、エリオン公? 」

 

「オイオイマジか……。スキップジャック級。アリアンロッドの旗艦だぜ……」

 

 二人のモニターには通常の宇宙戦艦の倍はある全長をした真っ白の戦艦。

 

 ラスタル・エリオンが乗るスキップジャック級が映っていた。

 


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