【完結】ウマ娘プリティーダービー ー夢のおわりのその先でー   作:プレリュード

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 投稿遅くなりました。忘れてたわけじゃないんです。遊んでました。

 


きっかけ

 

 

 勝利。それはボクにとって当然で、代わり映えしない日常。

 勝つために走り、当たり前に勝つ。

 レースの中盤になってからボクは仕掛けはじめる。確実に勝つ。そのためにボクは差しという作戦を選んでいる。

 今回、併走している相手は3人。いずれも先行や逃げの作戦を採用している。だから差しと追い込みの違いがあまりない状況になっているとしても。

 ここだ。勝負のカンと経験で仕掛け時を逃さない。脚の回転速度をあげて、加速する。

 柔軟な足首は左右の動きを容易くする。時に避けて、時に競り合い。レースの主導権を握ってボクの思いのままに操る。

 いい具合にレース終盤。最下位から一気に持ち直してボクの順位は2位。最終直線に入ると同時に1位までその順位をあげる。

 そのままゴールイン。ジョギングで流して徐々にスピードを落ちしていく。

 

「て、テイオーさん。ありがとう、ございました」

 

 ぜいぜいと荒い息を吐きながらお礼を言ってくる後輩たち。彼女たちもボクと同じ、企業競争バだ。ただし、ボクのようにデビューしてから加入したわけじゃなくて、事前に才能アリだと認められて勧誘されたタイプの娘たち。まだデビューも迎えていないから当然、ボクとまともなレースになるわけがない。

 でも前に併走したときよりずいぶんとスタミナもついてきた。スピードも順調に伸びてきているし、あともう何度か真剣勝負をして経験を積めばいいセンに行くと思う。

 うんうん。後輩たちの成長が楽しみだ。

 

「ボクこそありがとね。いい調整になったよ」

「テイオーさんは練習あがりなんですか?」

「この後に予定があってさ。みんな、がんばってね」

 

 これは併走。後輩たちのため、そしてボクのレースのカンを鋭く磨きあげるための練習だ。

 勝利に対する感慨深さなんて、湧いてくるはずもない。

 ただ当たり前に勝った。それだけの話。

 

 

 

 ボクはカイチョーに憧れている。

 憧れていた、じゃない。憧れている。過去形には絶対にしない。

 たとえカイチョーが最強の座を退いても、だ。ボクが憧れたのはカイチョーの強さであり、そして在り方だから。

 すべてのウマ娘のため。頂点に立ち、導くカリスマ。カイチョーだから女帝やシャドーロールの怪物がカイチョーの下、生徒会役員として統率されていた。他の人がどう考えているかは知らないけれど、ボクはそう思っている。

 ボクもカイチョーのようにありたい。最強を継承したボクはカイチョーのようにあらねばならない。

 だから普段から後輩と機会があったら併走する。それがカイチョーではなくとも、ボクなりにやれる後輩たちのためにできること。

 だからボクはトレーニングを早めに切り上げてトレセン学園を訪れている。

 

「歓迎ッ! よく来た、トウカイテイオー!」

 トレセン学園に到着すると同時。秋川理事長にボクは迎えられる。バサッ! と音を立てて扇子を広げる。いつも思うけれど、あれだけ激しく開かれてどうしてあの扇子は壊れないんだろう。

 

「忙しい中にすまないッ!」

「後輩たちのためだからね! スケジュールはもちろん空けておくよ!」

「感謝ッ! その調子で講演も頼んだッ!」

 

 トレセン学園からの講演の依頼。後輩たちのため、大講堂で未だに現役で走り続けるウマ娘として話をしてほしい、ということ。

 かつて通っていた大恩ある学園への恩返しも兼ねて、ボクは快諾した。

 

 案内はこの事務員が。そうして紹介された事務員が一礼する。事務員なのに帽子を目深にかぶっているのはなぜだろう。でも、理事長の秘書であるたづなさんも帽子をかぶっているし、そこまでヘンなころではないのかもしれない。

 ……うん、やっぱりヘンだよね! たづなさんがボクの中で普通の基準になってるけど、よく考えたらよそで帽子をかぶっている事務員なんて見たことないや!

 

「いやぁ、あの元気全開! って感じだったテイオーもオトナになったねぇ」

 

 ずいぶんとラフに話しかけられる。事務員だとしたらずいぶんとアレな、と思った。けれど、この声には聞き覚えがある。懐かしい声だ。

 

「え……ね、ネイチャ!?」

「やほー。久しぶりだねえ」

 

 にやっと笑いながら事務員が帽子を脱いだ。どうして事務員さんなのに帽子を被っているのか不思議だったけれど、ようやく理解がいった。

 ネイチャがギリギリまで自分の正体を隠して、ボクをびっくりさせるためだ。

 髪色は同じ。でも髪型が事務員らしく落ち着いたものになっている。しかも直接顔を合わせたのは何年ぶり。

 ネイチャだってわからないわけだ。

 

「えっ? えっ? なんで? どうしてここにいるの?」

「トレセン学園の事務員やってんの、アタシ」

「ウソ!? 全然知らなかった!」

 

 勝負服を着ていたネイチャのイメージがどうしたって強いけど、今のオフィスカジュアルな装いのネイチャも意外とアリだった。こう、実に事務員としてサマになっている。

 

「ネイチャ、背が伸びた?」

「ちょっと伸びたかも」

「いいなぁ。ボクなんてあれから変わってないよ」

 

 これは競争バとしての本能みたいなものなんだと思う。つい、相手を競争相手としてどれくらいの実力があるのか測ってしまう。体格をつい見てしまうのはその一環だ。

 ネイチャの姿を上から下まで見る。

 事務員ということは競争からは離れている。それなのに、ソックスに包まれている脚には引き締まった筋肉が見て取れる。今も何かしらの形で走っているのだろう。

 なんだ。結局、ネイチャも走りからは完全に離れられなかったんだ。

 

「あの、さ。人の脚をジロジロ見ないでくれない?」

「え? あ。ご、ごめん!」

 

 慌てて視線をあげようとする。あげかけて、ネイチャの左手で目が止まった。

 左手の薬指。シンプルなシルバーのリングが燦然と輝いている。

 

「結婚してたの?」

「あー、これ? うん。まあね」

「だ、だれと?」

「トレーナーさんと」

 

 ああ、ネイチャは幸せなんだな。そうボクは直感する。

 頬を染めて指輪を愛おしそうに撫でているネイチャは本当に幸せそうだ。

 

「あ、正確にはアタシのトレーナーだった人。アタシはもう引退しちゃったからね」

「へぇー。あの人かぁ」

「そそ。だから今はワイフネイチャさんで、オフィスネイチャさんなんだよね」

 

 ちょっとだけいいなぁ、と思ってしまった。

 勝つこと。それだけをボクはひたすら追い求め続けた。走って、走り続けて。最強の座を占領している。

 断言できるけど、後悔はしてない。最強を目指して走り続けて、勝つために今もなお研鑽を続けているこの競技人生には。

 でも、同時に少し考えてしまう。ボクは引き時を喪ったんじゃないか、って。

 いいや。引きたかったわけじゃない。すぐに浮かんだ考えを否定する。

 けれど、最強に座っているボクの中になにか欠けている感覚があるのは認めないといけない。

 だから、ネイチャみたいな幸せの形が素敵なものだとボクは思う。

 ネイチャはすごいと思う。

 ちゃんと最後まで走り切った。自分で引き時を定めて、表舞台を潔く去った。

 トレーナーと結婚して、トレセン学園の事務員になった。

 そしてネイチャは幸せを掴んだ。指輪を撫でた表情がはっきりと告げていた。

 

「ねえ、テイオー。これから講演って時に悪いんだけどさ。頼みが、あるんだよね」

「なに?」

「講演のあとさ、時間ってある?」

「えーっと、どうだったかな」

 

 スケジュールを思い出すまでもなく、トレーニングの文字が頭の中には刻まれている。

 ボクはわざと本当のことを言わなかった。ネイチャの頼みが気になったから。

 

「アタシと走ってくれない?」

「え……?」

 

 冗談かと思った。ボクは現役。一方のネイチャは引退して事務員。走ることは辞めていないみたいだけど、どっちが強いかなんて論ずるまでもない。

 ボクの困惑はネイチャにも伝わったはず。でも、ネイチャは目を逸らさない。

 

「それはレースってこと?」

「うん。アタシと、テイオーで」

 

 ネイチャが何を考えてるのかさっぱりわからない。勝てるわけない。ボクは最強で現役で、片やネイチャは引退してる。勝負にすらなるはずがない。

 そもそも非公式で勝手にレースなんてしたら、スポンサーがなんて言ってくることか。怒られるに決まってる。

 

「条件は?」

 

 だからボクはボク自身の口から飛び出した言葉に驚いた。

 何を言ってるんだ、ボクは。勝負なんてするまでもなくどちらが勝つかなんて明らかじゃないか。

 

「正直スタミナに自信ないからさ。芝短距離1200で」

「コースはどこ?」

「トレセン学園の短距離用トラック。事務員のツテでテイオーの講演が終わってから1時間だけ押さえてる」

 

 用意周到。ボクは嗤ったんだと思う。ネイチャはあまり表に闘志みたいなものを見せないイメージを抱いていたけど、その評価を覆さないといけない。

 ネイチャの闘志は中に秘めるものだった。だからボクが気づかなかった。それだけの話。

 闘うつもりがなければ、用意なんてしない。今日、ボクがトレセン学園に来ると知ったときからネイチャは準備していたんだろう。

 

「いいよ。講演のあとね」

「ん。待ってる」

 

 ここ、講演開始までの楽屋ね。出番になったら呼びに来るから。

 ネイチャが立ち去る。後ろ姿をボクは見送った。

 

「やっぱネイチャも競争バだねぇ」

 

 楽屋のドアを閉めながらつぶやく。ネイチャはその背中に気迫を背負っていた。

 

 

 

 

 

 





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