ウイニングファーム興亡記   作:おたま

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マイルの皇帝

最後のレースが始まる。地下馬道をピロウイナーに跨りながら行く。

厩務員さんも何も言わず静かにただ歩いていく。

 

ピロウイナーはとても落ち着いている。ターフを見つめ静かに。しかし確かな足取りで。

 

 

ピロウイナーは凄い馬だ。

カツラノハイセイコもとてつもなく強い馬だが、新馬戦から乗っているからかピロウイナーのほうが考えていることがよくわかり、正直とても乗りやすい馬だ。

 

先行でも差しでも行え、指示をよく聞き負けん気が強い。スプリントマイル馬なのも私の得意分野がマイル戦なのでそこもかみ合ったのだ。

 

3歳の安田記念ではあまりにも良いスタートで逃げになってしまったが、ゴール板までしっかり伸び、まさに敵なしであった。スプリングSを勝ったので、そのまま皐月賞にいき、距離適性によって大敗してしまった。

疲労を考えて、NHKマイルカップは出場しなかったのが悔やまれる。

 

『3枠6番これで最後です。二番人気。史上初3歳馬による安田記念制覇。さらに安田記念連覇、そして史上初春秋マイル制覇。マイル戦、6戦5勝2着1回。マイルの皇帝。ニホンピロウイナー。和泉岳志(いずみたけし)。』

 

ターフの上に来たが落ち着いている。ピロウイナーは賢い馬だ。これが最後とわかっているのだろう。周りを見渡し焼き付けるようにゆっくりと歩いている。

 

「ピロウイナー!!頑張れー!!」

 

 

「和泉騎手ー!!」

 

観客からの声援。

ピロウイナーは一度スタンドを眺めそしてターフをただ歩く。 

 

『1枠2番一番人気です。仁川の舞台に登場です。ジャック・ル・マロワ賞。スプリンターズステークス、BCマイルカップ。3連勝中です。ピロウイナーのライバルです。ピロウイナーとは3戦2勝。白き流星。コジーン。マイケル・ヴェネチア。』

 

コジーンはゆっくり走っている。 

アメリカ一の芝マイル馬だ。G1勝利数は4勝。レース前にマイケル騎手と話したら、ピロウイナーとコジーンのライバル関係はデイリーレーシングフォームにも掲載されており、全米に知れ渡っているらしい。

 

『7枠12番3番人気。前マイル王者の登場です。安田では3着。スプリンターズでは2着。今こそ過去の栄光を取り戻す。ハッピープログレス高原清輝(たかはらせいき)。』 

 

時間が流れる。

 

橋本調教師から言われた言葉を思い出す。短い一言だった。

 

「ピロウイナーの好きなように走らせてやってくれ。」

 

 

 

 

ゆっくりピロウイナーはスタートに入る。徐々に馬体が熱くなってくる。

『第二回マイルチャンピオンシップ。優駿17頭です。阪神競馬場はスピードとパワー。そしてスタミナ。全てが必要です。どんな輝きを見せてくれるのでしょうか!…スタートしました!』

 

『ピロウイナーいいスタートです!いいスタートです!コジーンもポンっと出ました!赤帽子のピロウイナーが先頭に立ちます!加速します!加速します!

去年の安田記念と同じか!2番手に…コジーン!白い帽子。わかりますでしょうか。

白い帽子がコジーン!

ピロウイナーのすぐ後ろにいます!

本来差し馬の二頭が逃げていきます!3番手ダイゼンシルバー。すぐ隣にヤマノシラギク。5番手ハッピープログレス、6番手桜花賞馬シャダイソフィアすぐ後ろにアルマゲドン。

キタヤマザクラ後ろにアシジバオー、サーペンスール、カルストンダンサー、タイムリーヒット岳邦洋(たけくにひろ)、隣にリウジンフジ、ワイドオー、ラブリースター最後方にセンターホーネット。という態勢であります。』

 

ピロウイナーは見事なスタートを決めた。前にぐんぐん出ていく。一度抑えたが、言うことを聞かない。こんなことは初めてだ。

少しどうするか悩んでいると、後ろから馴染みのある重圧が襲いかかってきた。

後ろを見なくてもわかる。コジーンだ。

 

コジーンが後ろにいる。コジーンのレースはすべて視聴しているが、逃げたことなど一度もないはずだ。

 

なのにコジーンが後ろにいる。

 

"このままいかせてくれ"

 

そう聞こえた気がした。

 

ピロウイナーは、一騎討ちを望んでいるのか。

 

もしも彼らもそのような対決を望んでいるのなら応えるのが、遥々アメリカから来てくれた礼儀だ。

 

貴公子の真似だが、やってみせよう。

 

『縦長の展開です!縦長の展開です!ニホンピロウイナーとコジーン馬体が合った!

先頭が外からコジーンに入れ替わりました!ニホンピロウイナーとコジーンが競り合います!ニホンピロウイナー!これは似ている!似ているぞ!天馬と貴公子!暮の中山、有馬記念のような一騎打ち!

最内を2番手で追走します!第3コーナーに入ります!コジーン外を走って先頭です!4コーナの直線に入ります。

3番手のダイセンシルバーとは5.6馬身離れています!また先頭が変わったぞぉ!内ラチにピロウイナーだ!ピロウイナーだ!直線だ!残り400m!残り400!仁川の坂が待っているぞ!』

 

仁川の坂。3コーナーから4コーナの緩やかな下り坂の後。残り200で存在するのが1.8mの急坂だ。この坂を登るのはスタミナがないとすぐにズルズル後退してしまうだろう。

だからこそ橋口調教師は限界ギリギリまで、坂路コースをピロウイナーに走らせていた。

それでもこの展開。この一騎打ちのスタミナの減少で果たして無事にかけ上がれるのか。

 

『さあ、さあ一騎打ちか!紅白帽子の一戦だ!

赤のピロウイナー先頭か!赤のピロウイナー先頭か!白のコジーンがまたちょっと出た! またまた世紀のレース!世紀の一戦だ!大歓声だ!大歓声だ!阪神競馬場!さあ!ニホンピロウイナー!が先頭!ニホンピロウイナーが先頭!少し出てるぞピロウイナー!だがコジーンも負けられない!マイケル騎手の風車鞭!マイケル騎手の風車鞭!残り200m!仁川の坂を駆け上がる!

後ろには何もいません!後ろは大きく離れた!

あ!コジーンが抜けるか抜けるか!もう一度頑張れピロウイナー!だが、厳しい!やはり衰え!苦しいか!?』

 

必死に追いながら考える。やはりコジーンに軍配は上がるか。衰えたのにここまでやれたのがとても凄いのだ。 

今は無事にゴールをさせることだけを…?

 

 

 

 

"仕掛けはまだか"

 

"仕掛けはまだか"

 

"まだ走れるぞ"

 

"終わってしまう"

 

"まだ走れるぞ"

 

"仕掛けはまだか"

 

 

 

"勝ちたい"

 

 

 

 

鞭は入れないようにと思っていた。もしも故障なんてしてしまったら日本競馬の損失だから。

 

でもお前は勝ちたいのか。そこまでして勝ちたいのか。自分の躰も捨ててまで勝ちたいのか。

 

 

 

お前は最高の馬だ。

 

 

 

 

「行くぞぉ!ピロウイナァー!!!」

 

 

 

『コジーンが先頭が!いや!ムチが入った和泉騎手!ピロウイナー猛追!ピロウイナー猛追!捉えました!加速します!見てくれこの脚!見てくれこの脚!これがマイルの皇帝ニホンピロウイナーだ!衰えようともこの強さ!さあ!また並んだ!並んだ!並んだ!内か外か!内か外か!内か…』

 

 

 

 

 

 

 

 

The Rival

 

 

84年マイルチャンピオンシップ。

 

 

皇帝の落日。白き流星は再来した。

 

 

二つの星が駆け上がる。

 

 

最後の闘い。最後の一騎打ち。

 

 

『皇帝に逃走はなし』

 

 

勝者の名前は『ニホンピロウイナー』

 

 

 

 

 

『衰えようともこの強さ!さあ!また並んだ!並んだ!並んだ!内か外か!内か外か!内か外か!わずかに内だ〜!勝ったのはニホンピロウイナー!ニホンピロウイナー!逆襲のラストラン!皇帝に逃走はなし!お見事でした!和泉岳志(いずみたけし)騎手!』

 

 

 

 

 

ライバルには勝ちたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

ニホンピロウイナー

 

現役期間:1982年~1984年

 

欧米字:Nihon Pillow Winner

 

 

性別:牡

 

毛色:黒鹿毛

 

生誕: 1980年4月27日

 

 

父:スティールハート

 

母:ニホンピロエバート

 

母の父: チャイナロック

 

生国:日本(北海道門別町)

 

馬主:ウイニングファーム

 

調教師:橋本弘一郎(はしもとこういちろう)

 

 

勝ち鞍

 

 

 

GI マイルCS 1983年・1984年

 

GI 安田記念 1983年・1984年

 

GI 朝日杯FS 1982年

 

GII 京王杯スプリングカップ 1984年

 

GII スワンステークス 1983年

 

GII スプリングステークス 1983年

 

GII 京王杯 京王杯2歳ステークス 1982年

 

GIIIシンザン記念 1983年

 

 

 

名馬の肖像2020年安田記念。

 

先駆けとしてまっさらな大地をただ進むだけでは先駆者とはなりえない。

 

颯爽とした足どりで地図を描きこの冒険の素晴らしさを世に知らせながら自らの価値も高めていく。

 

彼が成し遂げたのはそんな仕事だった。




なぜか私のデータだと、よく4歳で衰えた判定になっていました。

成長力は遅いなんですけども。



史実のピロウイナーは3年連続最優秀短距離受賞馬馬です。

短距離界のパイオニアとして、初代絶対王者としてとてもかっこいい馬ですね。

産駒もみんな短距離馬なのもロマンでヨシです。


面白かったら高評価。コメントの方もよろしくお願いします。
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