申し訳ございませんでした。
昭和60年11月 烏丸尊
『三馬身!二馬身!一馬身!影を踏んだ!突き抜けるか!ルドルフ差し返す!合わさった!同時だぁ!』
ゴール板を駆けぬけた二頭。
世界頂上決定戦。馬場は稍重。タイムは2分22秒44。日本レコード。そして世界レコードである。
20万の観衆の歓声とどよめきは最高潮に達している。
写真判定時。ウイニングランは行わないのが普通なのだが、写真判定になったらその馬達でウイニングランを行ってほしい。という要請がNJAがあったという。
前も後も前例がない2頭でのウイニングランを行った。
ルドルフは内を通り、ショートカットをして左回り。
シービーは向こう正面でルドルフがケヤキの方に行くまで待ってくれてたらしく、右回りでウイニングランを行った。
同時に両頭、ゆっくり歩きながらのウイニングラン。
左からは「オカヤスコール」右からは「ヨシオカコール」
そして、二頭がゴール板に同時に辿り着き、両頭が顔を見合わせそのまま隣り合わせでウイニングサークル、そして検量室に歩いて行った。
その時の歓声はといったらどんなスポーツでも聞いたこともない。
きっと地球の裏側まで聞こえていただろう。
隣の知らない人と肩を組み、そして大声でコールをする。
正しく熱狂という言葉が似合っていた光景だ。
『15分に及ぶ写真判定の末に!僅かにシービーが出ています!僅かにシービーが出ています!シービーです!シービーです!圧倒的な直線一気!!ミスターサラブレッドが世界一の八冠馬!!ミスターシービーが勝ちました!!』
死闘の勝者は三代目日本三冠馬「奇跡の豪脚」ミスターシービーであった。
ミスターシービーは事前の発表があったが、次走の有馬記念で引退だ。
ルドルフにとっては雪辱を晴らせるのは1度きり。
今初めて「皇帝」は挑戦者になったのである。
『えぇ〜。一着はミスターシービーかシンボリルドルフ。写真判定の真っ最中であります。3着にティーノソ。クビ差でサガス。
そして5着にスリップアンカー。となっております。解説の大山さん。どうだったのですかこの対決は。とてつもない一戦となりましたよね。』
『ええ。本当に。この日本競馬でこんなビッグレースが見れるとは思っていませんでした。まあ、私は関西の馬が分かりません。
なので当然海外の馬なんぞは全く分かりませんが、その勇名は知っています。日本競馬がここまで来たということが非常に喜ばしいですね。』
『そうですぁ。でも大山さん。貴方、外国馬のティーノソに◎を入れてましたよね。3着に来て実質あたりですけれども、それはどうしてだったんですか?』
『やはり、馬場不問のとこがおおきいですね。超不良馬場のエプソムダービーと高速馬場のKGVI & QESを制したその脚はきっと日本の芝にも適応してくれると思いました。
七冠馬2頭も日本馬なので日本芝を走れるとは思いますが、あちらに長くいたので、こちらの高速馬場は走りづらくなっていると思いましたがそんなことなかったですね。読み間違いです。』
『競馬の神様と言われるほどの大山先生でも今回は難しかったということですね』
『まあ、順当に行けば、ルドルフとシービーの馬連で良かったでしょうが旨味がありませんからね。競馬評論家は穴狙いでないと。まあ、強い馬が出るレースほど人気順になるものです。』
『なるほどぉ。そうですか。おっと!七冠の両頭が検量室に戻ってきてまいりました!今写真判定の時間が10分を超えました。しかし結果が付きません。
今回のタイムは2分22秒44。世界レコードであります!もしも良馬場ならどれだけのタイムが出ていたのでしょうか。スズマッハの大逃げで一気にタイムが早まりました。おお。今話題のウイニングファームのオーナーが駆け寄っていきます。
満面の笑顔ですね。』
『ええ。そりゃああの二頭の馬主ですもんね。私があの二頭の七冠馬の馬主だったら、嬉しくて心臓が持ちませんよ。』
『撫で回してますね。シービーも、ルドルフも気持ちよさそうです。』
『ああやって見ればシービーもルドルフも可愛い馬なんですけどね。レースに出たら鬼神か化け物かという走りをしますからね。』
『ええ。テレビ局のスタッフもルドルフの走りは圧倒的すぎて逆に怖い…!
今!今!写真判定の結果がついたようです!!えぇっと…。付いた差はわずか1cm!
勝った馬は…10番!!!ミスターシービーです!ミスターシービーです!
15分に及ぶ写真判定の末に!僅かにシービーが出ています!僅かにシービーが出ています!シービーです!シービーです!圧倒的な直線一気!!
ミスターサラブレッドが世界一の八冠馬!!ミスターシービーが勝ちました!!』
『凄まじい追い込みでした。あの追込は二度と見れるもんじゃありません。
三冠馬だからこそできる追い込みでしたね。勝因は最初に出遅れなかったこと。ルドルフ達が早仕掛けしたせいでしょう。普通ならあれで他馬のスタミナを使い果たせて圧勝できたでしょうが、シービーのスタミナを少し軽んじてたのかもしれません。
いや、シービーのスタミナが桁違いということなのでしょう。
知り合いの作家にシービー好きがいましてね。彼も今見てるでしょうか…。』
『ええ!見てますとも!さあ!今から吉岡騎手のインタビューとシービーが口取り式のためにウィナーズサークルに戻っていきます!ルドルフ。初めての敗北です。
13戦12勝。最多無敗記録は12勝で止まってしまいました。ん…?検量室でどよめきが…?何ということでしょう!ルドルフが!ルドルフが泣いております!!』
「ルドルフ…?」
シービーが写真判定で勝利した。シービーに付いていこうとしたらルドルフに裾を噛まれた。ふと見てみると大粒の涙が静かに流れていた。
思いだした。
あのとき。美浦で、同じことがあった。
そうか。そうだったな。
お前は今まで頑張ってきたのはシービーに勝つためだったんだな。
ありがとう。
あの頃のように。手を俯く頭を支えながら額と額を合わせる。
「ありがとう。お前は強くなったよ。もう一回は辛いかい?」
ルドルフが首を横に降る。
「ごめんな。きっと次しかないんだ。次しか。でも、今度こそだな。今度こそ勝とう。兄貴分に勝とう。八冠馬に勝とう。」
そう言いながら首を優しく叩く。
あぁ。なんていい子に出逢ったんだ。
対決を。
きっとこの涙に報いなければ俺は地獄に行くのだろう。
普通ならありえない。馬は悔し涙を流さない。それが科学で出た結論である。
だが彼らは見た。ガラス越しから画面越しから。
さっきまでの喧騒は嘘のようにしずまりかえる。
誰も声が出せなくなったかのように。
見た人々は息を呑んだだろう。きっとドラマでも見れない。
それは彼らにとって現実であった。
絶対の皇帝は今始めて正体を見せる。
彼はただの負けず嫌いなただの青年であった。
馬にそんなことを言うのは少しおかしいとは思うが、それでもただ負けず嫌いな青年であった。
『あの、世界頂上決定戦から1ヶ月。
年末の有馬記念であります。八冠馬ミスターシービーはこれでラストラン。
ルドルフの惜敗の涙。観客の心にを刺さったか、ルドルフが人気投票。そして一番人気であります。観客が皆固唾をのんで見守ります!
泣いても笑ってもこれで最後です。悔いの残らない最高の最後の走りを魅せてくれ!
人馬ともに勝ちたいと願う!第三十回有馬記念の枠入り完了!…スタートしました!』
勝ちたくないものなど存在しないのだ。
ルドルフの涙にはしっかりと元ネタがあります。
面白かったら高評価。コメントの方もよろしくお願いします。