誰か教えてください(懇願)
そして、一年後俺は取りあえず短大生となり、競馬を追っていった。
一年もたてばニ歳馬も入厩し名前も決まった。
シービークイーンの80は、取引に応じていただいた、
タニノベンチヤの80はカツラギエースとし、ニホンピロエバートの80は、馬主の一人である、小杉さんも同馬が欲しいという要請があり、協議の結果、冠名と勝負服をあちらにお願いし、調教師、主導レースローテ権はこちらに譲っていただいた。そしてついた名前はあちらの冠名の二ホンピロを加え、ニホンピロウイナーとなった。
我々には競馬関係で全くコネがないので、三頭とも歴が短い調教師に入れてもらった。
ミスターシービーは
この三人の調教師さんは後々も我々の馬を担当していただき、大変お世話になる。
そして俺は、毎週のように美浦に行き、毎月のように栗東に行き、成長具合と聞くとともに馬を撫で回していた。
最初は少し馬に警戒されてたが、今では自分が馬を見る前に馬が俺の足音で気づくらしくよく走ってきてくれたり、曲道でゴッツンコしそうなほど目の前にいることが多くなり、撫でてほしそうに顔を手に近づけるのだ。ちょーかわいい。
トレセンの方々も最初はまあ、あれだったのだが、馬が懐いてくれてかっこいい所を見せようとしたのか調教が順調に進むようになったらしく、歓迎されるようになった。
有り難いかぎりである。
話によるとよく来る馬主さんもいるようだが、それでもあそこまで懐かれるのは珍しいらしい。
冗談交じりでなんか変なフェロモンでも出てるんじゃないかといわれた。
だが、俺が来る効果なんぞあんまし意味はなさそうである。この3頭二歳ビックリするほど強いのである。芝を走れば剥がれ落ち、砂を走れば宙を舞う。急坂も何のその。古馬レースでも見てるんじゃないかと思った。しかも、同二歳の馬と併せて走ると一頭一頭で格付けが済んでしまいやる気をなくすそう。
恐ろしいものである。
なので栗東所属のピロウイナーとカツラギエースは他馬がつぶれない為にこちらがお願いして併せて走らせることができるが、ミスターシービーが一番えげつなく、張り合える馬がいないのである。
どうしたものかと考えていたのだが、試しと無理を言いまくりスイートルナの81に、一度だけ併せ馬頼んだ。
ニイホリ牧場様の方には何いってんだ!と怒られたがなんとか了承していただけた。
ただの思いつきだけではなく、何度もニイホリ牧場を見学しに行ってやはりあの馬はケタが違うことはわかっていたのである。
ニイホリはあのスピードシンボリを産んだ牧場。
素質馬が揃っていたがそれでも生物の格というのか、あの馬だけは馬体から雰囲気まで何もかもが他馬と違かったのである。
その馬はなにもかもが違った。2歳とは思えぬほどの馬格、走れば大地が揺れているんじゃないかと思うほどの踏み込み。
この馬ならシンザン以降出ていない三冠も達成できるのではないかという、期待も寄せてしまう。
こんな馬を、ミスターシービーを私に渡してくれるとは思わなかった。
併せ馬で対の馬との間がどんどん離れていく姿を見ながらそんなことを思った。
息子さんが併せ馬を連れてくると自信満々に言っていたがこの馬についてくれる馬は古馬でもそうそういまい。
ウチに所属している重賞馬でもいいのだが、正直この馬に競り勝てるほどの闘争心を持っているかがわからん。
「おーい!松山さーん!」
どうやら来たらしい。なぜあの人は何時もいつも名前を間違えるのだろうか。
「だから松本です!なんでいつも間違えるんですか!」
「いやいや、すみません。ハハハ。なんか松山さんでしっくり来ちゃって。他2頭担当の橋本さんも黒井さんも目の前にすると間違えちゃうんですよ。」
全くこの人の変人っぷりには呆れるもいうかなんというか。馬主さんもこのくらい変人なのだろうか。初対面は凄くまともそうに見えたのだがなあ。
「はぁ...まあ、いつものことですし、で、例の併せ馬は調達できたんで?」
そうしたら、後ろから少し小さい馬が歩いてきた。ゆるりと歩いていて、少し不安だ。それに綱を引いてる人の顔色も少し悪いような....。
「ええ。ええ!できましたとも。すげぇ怒られたけど。で、この馬がミスターシービーの併せ相手のスイートルナの81です!」
…何を言ってるんだこの人は。一歳馬じゃないか。まだ夏だぞ。
「ただの一歳馬と侮ってはいけませんよ!まつも、松山さん!この馬は父の第一候補なんです!ニイホリさんに土下座をする勢いで譲ってくれと懇願してたんですから!」
流れてくる言葉を右に左に流しながらよく馬を観察する。確かに。よく見るとまだ一歳半なのに仕上がりつつある。多分初めて馬運車に揺られ知らないところに連れてきただろうにこの落ち着き様。この馬は大器の持ち主かもしれない。
…。試しだ。一度だけなら走らずにはならないかもしれない。
「いいでしょう。ただし一度だけです。それで判断します。してみせます。」
私がそれを言ってしまった瞬間に、最早用意が始まってしまった。
正直言ってから後悔が込みあがってきたが仕方がない。シービーの成長のため。
いや、あの馬からは何かを感じる。私がヨーロッパで修行をしていたときに見た、ニジンスキーの様ななんとも言えない覇道を歩むかのような雰囲気が、この馬。もしかするともしかするかも知れない。
こちらも弟子でシービーの主戦騎手である
あちらの馬に乗るのはなんとあの名手である
こちらが驚いているのに気付いたのかあの子が満面の笑顔でサムズアップしてくる。
今はただの一歳馬によく名手を乗せられたものだ。いや、名手だからなのだろうか。
合わせ距離は1200m。そこまで負担をかけないように坂路ではなくウッドチップコースで行う。
タイム等々は関係なく、シービーについてこれればそれだけで大物だ。
やはり、スイートルナの81は凄いと俺は思う。馬運車に乗っても暴れもしなかった。馬運車で甘えられたので、ずっと撫でまわしていたが、その姿を見て厩務員がめちゃくちゃびっくりしていたがなんだったんだろう。
トレセンについてから岡安騎手に乗ってもらえるようにめっちゃアピールしたし主戦騎手を約束もした。まあ、乗ってから決めるとおっしゃっていたが、ほとんど決まったようなものだろう。
岡安騎手も乗った瞬間にすごく驚いたような顔をしてるし。
初めての人が乗ったというのにあの落ち着き様。あの威風は皇子のよう。
ニイボリから来てくださった、厩務員さんに、「やっぱり、あの馬は大人しいですよね。威風堂々として珍しいでしょうね。」と言うと、顔を横にブンブン振り、あの馬、牧場だとビビるくらいにわがままで他馬に当たり散らかしていると言われたが、到底信じられないのである。もう5,6回はお邪魔しているがそんなところを見たことがない。
あの馬は表では愛想振りまくそう。
そんな会話をしてても、厩務員さんの視線はスイートルナ81に注がれており、次々着いていく馬具を見ながらハラハラしている。わがままだ、大人しくなってくれたが愚痴は言っていたが、心配そうなあたり、やはり愛されているんだなと思う。
気を紛らわすようなことはないだろうか。そういえばまだ名前をきめてない。親父の秘蔵子だが、あの子、幼駒なんてわかりずらすぎる。
あだ名とかないのかと聞いてみると、厩務員さんの間ではライオンとか呼ばれているらしい。
あの自信満々の威風堂々としたたたずまい。たしかにライオンのようだ。
ニイボリさんとの交渉時に勝負服とシンボリの冠名は使わなくてはいけないのでシンボリ○○か、○○シンボリになる。
うーむ。ライオン、ライオン、、百獣の王、王、皇帝。
シンボリカール...ダサいな。フリードリヒシンボリ。長いし、栗毛じゃねえし。ヴィリーシンボリ。なんかアホそう。うーむルドルフ。お。ルドルフシンボリ。シンボリルドルフ。しっくりくるな。
「厩務員さん。唐突なんですけどね。あの馬の名前を考えていたんですけど。ルドルフシンボリかシンボリルドルフ。どっちがいいですか。」
「ええ…本当に唐突ですね。あーっと、シンボリルドルフのほうがまだ呼びやすいんで、後者でお願いします。」
そう厩務員さんが言った瞬間我々の目の前に一陣の風が吹いた。