ウイニングファーム興亡記   作:おたま

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1994 魔王と魔王

~二月四週~

 

『残りは200だ!中京競馬場!トロットサンダー一気に来たぞ~!トロットサンダーが大ッ外から来た!ニシノワランティ!がまだ先頭だ、が!ッ抜いた!

内からミスタールドルフ!ミスタールドルフ!モリユウプリンス!も来ているがこれは届かない!

地方からの刺客は止まらない!トロットサンダー!雷神は止まりません!

トロットサンダー!勝ったのはトロットサンダー!有沢清二(ありざわせいじ)!後続は各馬かたまっております!GⅠフェブラリーステークスを勝ちました!』

 

『サウジカップは半分を切ります。我らがホクトベガ横河典彦(よこがわのりひこ)は現在先団3番手!第三コーナーを回ります。

先頭はリングリヴァー。女性ジョッキークレアハートが逃げます。ベストパルが二番手です4コーナーに入っていきます。

4番手コロニアルアッフェアー。アップザアルファベット、カレンストーン。チェロキーラン!

直線に入る!

リングリヴァー!リングリヴァー!真ん中ホクトベガ!どうだ!北斗の星は輝くのか!

大きく膨らんだベストパル!ベストパルが追う!クエス・マッキャロンが追う!

残り200!ホクトベガが先頭か!残れ!ホクトベガが先頭だ!ベストパルが影を踏む!カルフォルニアの英雄が来た!どうだ残り100!残り100!

外からコロニアル!コロニアル!コロニアル!並んだ!ッゴールイン!

並びました!どうだ……、さて、ッッわずかに!僅かに!コロニアルが出ていますッ!勝ったのはコロニアルアッフェアー!ホクトベガは2,3番手!写真判定です!』

 

 

トロットサンダーはフェブラリーステークスを勝利した。

このままダートを走らせようと思っているのだが今回騎乗してくれた有沢騎手によると芝のほうが合うのと事だ。

トロットサンダーの騎手は未だに宙ぶらりんで横河騎手にはホクトベガがいるが地方からの第一戦なので無理を行って騎乗をしてもらった。

 

レースのあとにトロットサンダーの主戦をお願いしたが「ホクトベガがいますので。」と断られた。

 

当分は騎手を色々変えてみる予定だ。有沢騎手に田村騎手。海老瀬騎手。栗東に遅れたと言われているが美浦もまだまだやる。

 

ホクトベガと、トウケイニセイは中東遠征だ。ホクトベガはサウジカップ後に地方のかしわ記念に出走する。牝馬で砂は不利と見られるが侮ることなかれ。まさかの芝より砂のほうがホクトベガは走るのだ。

芝でG1を2勝しているのに砂のほうが強いのだ。

 

地味に中央のGⅠ馬が地方の重賞に出走するのは稀らしくて滅茶苦茶驚かれた。

今回のサウジカップも惜敗の3着。世界レベルだ。

期待しちゃう。

 

トウケイニセイは東海Sのあとに休養を挟んでドバイワールドカップに出走する。

シガーもベルトパルもコロニアルアッフェアーも出走する。

 

シガーはその暴力的な走りで日本。いや世界から"暴煙の魔王"と呼ばれている。

 

"岩手の魔王"は世界でどこまでやれるか、二頭の魔王がドバイで戦うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドバイの地に俺たちはいる。馬上で今更なことをふと思う。

着ている服は胴青・白一文字。

 

トウケイニセイとドバイの大舞台に挑む。轡を並べて早3年。

長いようで短かった。

 

間違いなく力はあるが体調で本調子を出せなく歯噛みをしていたがウイニングファームのお陰でなんとかなった。

 

川崎記念、かしわ記念、帝王賞、南部杯、チャンピオンズカップ怒涛の勝利。

 

地方馬が中央に殴り込みに行き勝利する大偉業。ムチも使わず4馬身。

 

本当にすごい馬だ。

 

地方から中央へ。中央から世界へ。

 

本馬場に入りその時を待つ。英語は正直わからないがそれでも今のトウケイニセイは7番人気ということだけは分かる。

 

舐められたものだ。

確かに本調子ではない。ウイニングファームの一流の体調管理でも、我々の看病も世界輸送の前には厳しかったようだ。

 

 

それでも俺たちのニセイは何も変わらない。

 

さあ。行こう。

 

 

『暗闇の中。世界の優駿12頭で争います。ドバイワールドカップいよいよ発走です。

日本からは地方馬でありながら、中央のチャンピオンズカップを勝利した”岩手の魔王”トウケイニセイが出走します。

大外の12番。今年のペガサスワールドカップを勝利しました。3番人気のシガーが入りまして……。

スタートしました!

トウケイニセイはいいスタートです!

6番!アトランティックアクイラが出遅れました!アトランティックアクイラが出遅れました!

先頭に行くのは3番のドバイの馬。カインドグレースが行きます!外から競るのは最内のスカイビューティー。この二頭がレースを引っ張っていく構えか。

3番手にはサウジカップを勝利したコロニアルアッフェアーがいます。

4番手から3頭固まって最内にシガー。シガー、ジョン・ベイリーが最内4番手。その横にベストパル。

今年2戦とも2着の英雄は今回どのような競馬をするのでしょうか。

シガーとベルトパルの後ろに!我らの魔王!トウケイニセイがいます!トウケイニセイがいます!現在6番手です!』

 

 

いいところに着けた。シガーとベストパルを見られるいい位置だ。

 

私は海外の競馬をしたことがない。まあ、当たり前なのだが。ここから慣れている彼らと同じタイミングでスパートをかける。

あちらの馬の方が能力は高いかもだが、それでもニセイの力は本物だ。

 

届くと信じている。

 

人気的にも分かるが我々が来るとは観客もほかの騎手さえも思ってはいないだろう。

間桐騎手のように馬の視界に入るか否かのところでチラチラマークをする。

相手はやりずらく、俺達は走りやすく。

 

さあ、どう出る……。

 

 

『第四コーナーを回り直線に向きます!400の直線だ!暗闇の中一陣の光に照らされて!各馬が疾走を開始する!

スカイビューが今先頭です!スカイビューが先頭!

いつ来るんだ!いつ来るんだ!外からパセアナ!凄い脚で迫ってくる!ベストパル加速!動くか!動くか!

デヴィルヒズデュー!真ん中!デヴィルヒズデュー!大外から!アトランティックアクイラ!

ベストパルが先頭に立つ!パセアナも来る!

更に大外にはコロニアルアッフェラー!!凄いレースになりました!

!!!来た!来た!来た!』

 

直線に入った。ベストパルが動く。

 

動くか……?

シガーは動かない。動かない。

 

「!!?」

 

驚きに声が出ない。先に動こうと手綱を動かすがニセイは反応してくれない。

 

いつもは動いて、くれるのに……ッ!

 

 

『!!来た来た来た!!シガーが加速する!トウケイニセイも同時に来たー-!!凄い脚!二頭の魔王が併せて突っ込んでくる!突っ込んでくる!

凄い脚だ!

内にはベストパル!苦しいか!ベストパルは苦しいか!外パセアナ!真ん中からシガーと!トウケイニセイだー!

大外にはコロニアルアッフェラー!!

前は大激戦!前は大激戦!

残り200!残り200!激しい闘い!5頭の競り合い!5頭の競り合い!

ベストパルは落ちないが!シガーが突き抜けた!!

シガーが一気に先頭だ!5頭は落ちない!5頭は落ちない!

トウケイ先頭に立つ!立つ!!立つ!!!差した!シガーを差した! 内からもう一度シガーも差し返す!?

シガーも差し返す!!?

5頭固まってゴールイン!これはわかりません!これはわかりません!最後の末脚で他3頭も上がってきていました!

これは!!すごい1着から5着まで全部写真判定です!トウケイニセイは勝てたのでしょうか……!!?』

 

 

鳥肌が立つ。思考がぼやける。意識がもどる。歓声が聞こえる。

 

……今考えるとベストパルと一緒にスパートをかけたら調子の悪いニセイは最後まで耐えられたか分からない。

 

正直シガーはそこまで脅威ではないと考えていた。去年までは9戦2勝のみ。GⅢ重賞も11着でペガサスワールドカップでは正直フロック勝ちだと内心では思っていた。

 

俺が警戒していたのはベストパルだ。

 

トウケイニセイはもしかしてシガーに気づいていたのかもしれない。

そう考えながらニセイの首を叩く。こんなところまで来て、嫌だろうに。

凄い馬だなぁ。こんなにすごい馬に乗れるのは幸せだ。

 

 

『さあッ10分の長い写真判定が終わりまして……。1着から5着まですべてハナ差の大接戦です!

一着が12番!シガー!シガーが一着です!2着にコロニアルアッフェアー!3着トウケイニセイです!

……惜敗の3着トウケイニセイ。余りにも惜しい敗北です。』

 

 

馬道に戻るようにニセイを促す。確りと言う事をニセイは聞いてくれる。負けたことも分かっているのだろうか。

生暖かい風が私たちを通り抜ける。

 

 

……苦いなぁ。

 

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