2001年4月。 ~コースポ記事~怪物伝説12番勝負4戦目。凱旋門賞
凱旋門賞。ホースマンなら一度は聞いたことがあるであろう。
フランスはロンシャン競馬場で行われる文字通り、欧州競馬一の大レースだ。
1994年10月2日。前日の小雨が止み、薄く、小さい。が見事な虹がかかっていたのをよく覚えている。
私は凱旋門賞の取材にパリまで赴いたのだ。
なぜかはわからないが先輩である貴船絵里さんと共にロンシャン競馬場に赴いた。当時はまだ私は新人。22歳だ。
オグリキャップの活躍で競馬の世界に魅了された。当時私はIT系の会社に行こうと思っていた夢をすぐに捨て去って記者になったのた。
海外になんぞ行ったこともない。新鮮で楽しみであったがそれ以上に不安が脳裏をよぎっていたのを覚えている。
前夜は寝れなかった。
だが私はあのとき間違いなく幸運であった。
翌日は寝坊した。
フランスに行く便に間に合わないくらいに。
急いで本社に電話を入れ、謝り、成田に到着した瞬間にパリ行きの便に飛び乗った。
突然こんな話を書いているのは可笑しいだろうが、特別編を書くことを許されたのでお付き合い願いたい。
その飛行機は通路が2箇所あり、座席は3席ある。
だから窓から3席。通路。3席。通路。3席という具合だ。
私は空いているところに滑り込んだ。
通路側だったが、窓の方を見れば人が二人いた。少し気まずい気持ちになりながら仕事の確認等をしていると隣からは「先生。ブライアンは勝てますかね?」や「能力で言えばトップクラスです。日本で見ても世界で見ても…。やはり当日の調子にかかっているとしか言えません。」みたいな声がする。
反射的に窓の方を見る。そこにはウイニングファームのオーナーとナリタブライアンの調教師である黒井敏明調教師がいたのだ。
「あ!」と声が出そうになるのを必死に抑えた。
どうだろうか。これは僥倖。幸運である。
何分だっただろうか。寝た振りをしながら二人の内容を聞いていたのだ。
カツラギエースのことや来年の素質馬。BNWで誰が一番強いのか等々。
一競馬ファンとしてとても幸せな時間を過ごせた。
ふと考えた。考えてしまった。
(私。オーナーにインタビューをできればお咎めなしになるんじゃね?)
そう考えた私は質問内容を考えに考え、40分後くらいだっただろうか。
意を決して声を掛けた。
わけを説明し、取材をしていいかと許可を取る。
結論から言うと許可を取れた。正直想定していたより遥かに簡単に許可を取れた。
このときの内容はこちらのコラムにまとめているので暇な方は是非見てほしい。
https://kospo-keiba.jp/reporter-column/tokuninasi
2人に取材をしているといつの間にかパリに着いた。
滞在場所が違うからここでオーナーたちとは別れた。
取材のおかげで私はお咎めなしになり、次のコラムの素材も手に入りホクホクであった。
そしてそんなことから暫く。凱旋門の舞台。パリロンシャン競馬場に私たちは訪れたのである。
時間は跳ぶが凱旋門賞が始まるまであと30分。
私はジョシュア・オブライアン調教師に取材をしていた。私なんぞが取材を行えるとは思えない方だが、なぜできたのであろうか。
だがこんな機会を逃すわけにはいかない。
あの世界に誇るニジンスキーやロベルト。エルグランセニョールの調教師。一言一言が金となる。
様々なことを聞いたが、最も重視した内容はブライアンの強さだ。
欧州の名伯楽から見て我らが”シャドーロールの怪物”はどう映っているのかをぜひ聞いてみたいと思ったからだ。
それを聞いたときにオブライアン調教師はKGⅥ&QESの話をしてくれた。
これからがようやく本編だ。
長くおまたせして申し訳ない。
Q「早速本題で申し訳ないのですが、オブライアン調教師は今年のKGⅥ&QESを観戦していたとお聞きしました。欧州の名伯楽からみてブライアンはどう映りましたか?」
オブライアン氏 ブライアンは……。正直言うとまだ分かりません。…ああ、いや。強い馬というのは分かります。私が管理していた馬と比較しても遜色ない。
ただ……。
――ただ?
オブライアン氏 ただ、底が見えない。成長の途中です。
あんなにも強いのにまだまだ成長途中です。
証拠となるであろう事は後で話しますが、馬体で言えばバランスの良い美しい体をしてはいますが脚がまだ適応できていないように思います。
うーん。何というか、ブライアンはシャドーロールの重さで低い体勢で走るじゃないですか。グワン。グワンって。
その走りに最近漸く適応し始めた。といえばいいのか……。
――本格化というやつでしょうか。
オブライアン氏 いや身体の本格化はまだだと思います。
ロベルト系は使うほどに強くなる。という言葉にもあるように血統面から見てまだまだ本格化は先でしょう。
あのままだとすると来年の秋ごろかなと。
――まだ強くなるんですか。
オブライアン氏 ケガとか精神面に不調が起きない限りは。
兄のビワハヤヒデも3歳の夏からの本格化でしたから、グレイソヴリンは早めに本格化する血統だと思います。なら、晩成寄りのロベルト系ならそれぐらいじゃないかと。
――なるほど…。さっき仰っていた証拠とは?
オブライアン氏 証拠というのは少し大きく行ったかもしれませんね(笑)。私の競馬仲間との会話で飛び出したことなのですが。
ブライアンのレースを見るとスパートを掛けるとき。第3コーナーから第4コーナー。そして直線。一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、姿勢が何時もの低姿勢よりも遥かに低くなる時があります。その後に一気にスピードが上がるそうで。
BCや朝日杯時にはまだありません。皐月やダービー時はスローにすると見えるそうですが一瞬。1秒もありません。
でも、KGⅥ&QESのときだけは肉眼で見れたそうです。私はゴール板前にいましたから見れなかったんですけどね。
友達が言うには日本のコミックのカスケード?という馬の走りに似ているそうですよ。始まったばかりのマンガだそうで、競馬のコミックなんてなかなかないですからね。英語版が出版されれば見たいものです。
この取材が終わったらもう一度レースを見てみてください。見れる指標はあのアスコットの芝が飛んでいく直前。自然でできた芝すらも破壊する。最恐の"シャドーロールの怪物"。その本格化の姿を見れるのかもしれませんよ。
――終わったらすぐに見てみます。では最後に。最強の兄弟。パシフィカス兄弟のビワハヤヒデとナリタブライアンが戦ったらどちらが勝つと思いますか?
オブライアン氏 それは…とてもむずかしい質問ですね(笑)。…うーん。どちらも先行馬でハイペースで他馬をヘロヘロにしてちぎりすてる。同じ戦法の両者ですからね……。
あぁ。さっきのカスケードの友人に聞いたことがあります。
現在ビワハヤヒデ、ナリタブライアンの両頭と戦った事がある馬が一頭だけいるそうです。
確か……イイデライナー。だったと思います。どっちが強いかはまだわかりませんが、ブライアンのダービー。ビワハヤヒデの宝塚。その結果で考察されてはいかがでしょうか。
いかがだっただろうか。2001年の今ではあまり需要のない記事だったかもしれないが、読者の想像力に一助になってくれれば幸いだ。
この後私はブライアンのダービーをオブライアン調教師と共にフォルスストリート。偽りの直線から観戦した。
私はその時に初めて見たのだ。
ナリタブライアンの真の実力を。
『ロンシャン競馬場は第4コーナーから偽りの直線に入ります!
エルナンドが最初に入ります!
岳穣とホワイトマズル!!キングスシアター外に持ち出すか!いいところにいるぞカーネギー!!
ナリタブライアンは大外!ナリタブライアンは大外!!
さあ!ここからどうなるのか!どうなるのか凱旋門賞!!
勝負はまだ分かりません!!』
533mの直線前にある250mの直線だ。
この直線はレースに慣れている馬ほど危険。
最後の直線だと勘違いをして、スパートをかけてしまい、最後の直線が持たなくなるという魔の直線。
85年の優勝馬。日本のシンボリルドルフはこの偽りの直線からスパートをかけ、史上に稀の勝利を挙げた。
『ナリタブライアンは外!一番外!漆黒の馬体に白いシャドーロール!
ナリタブライアンは大外です!!
フォレスストリートは中盤!まだ!どの馬も掛かりま……!!
ブライアンがスパートをかけました!!水内!ムチをいれた!!
これは……!低く!!』
私はこの光景を一生忘れないであろう。
凱旋門賞。世界一の大舞台でその姿を見せたのだ。
顔を低く。シャドーロールで揺れ動く中。確かに低く。這うように。
雄々しく。
これこそ怪物。
『ブライアンの劇的な加速で!エルナンドを抜き去る!!
ゴールまであと3ハロン!
馬身差を1!2!3!4!後続もスパートをかける!!
直線だ!向いたが!ブライアンまだ加速する!
ホワイトマズル!追いすがるか!加速するか!
キングズシアター!カーネギー!!アップルツリー
エルナンド頑張った!エルナンド頑張った!
ブ”ライアン!!ブライアンは400!!
残りは400!!』
加速を続ける。右から左へ。首を動かして、身を乗り出して見ようとする。
「Oh, strong. Excellent. That's the thoroughbred.」
声が漏れた。
『ナリタブライアン完勝~~!!!強い!!強いとしか言えない!!
次は菊花賞です!これが未来を創る馬!!
雄叫び上げた!