ウイニングファーム興亡記   作:おたま

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この世界のテクノロジーは現代と同じくらいと思ってくれるとありがたいです。

ガンダムオリジンクラスの画力でアニメガンダム本編がが毎週放送されていました。
羨ましいですね。


1984 熱狂と目黒記念

熱狂とはこういうことを言うのだろうか。私も含めここにいる15万もの同胞たちもこのような気持ちなのだろうか。

まだ7つの息子が勝負服カラーのCBと書かれた小さな旗を振りながら、私の肩の上で初めて来た東京競馬場で、満面の笑みで緑のターフに心を躍らせていた。

 

会社の先輩から誘われて試しにと去年のダービーをテレビで見、サラブレットの命の輝きに魅入られてはや一年。

 

日本ダービーが初めての競馬場観戦となった。息子も一緒にダービーを見ていてシービーかっこいいね!と一緒に競馬を見るようになった。

妻はハマってはいないが、いつもシービーに最後の最後に差されるカツラギエースに同情しており、一緒に競馬を見ていた。

 

 

競馬場に初めて来たのだからと、初めてギャンブルを行った。

 

というか、妻と子供と物珍しい光景にキョロキョロしてたら、One Cup片手にまだ朝の10時なのにへべれけのじいさんに「最近はさぁ!!家族連れもね!多くなってね!初めてかい!?馬券買いなよ!!」と強引に誘われ、全くわからん3R未勝利戦の馬券を買わされた。

 

最近は家族連れも多くなって警備員も増え治安もよくなったと聞いたがやっぱりギャンブル。とんでもない人に絡まれたと冷や汗ものだったが、ビギナーズラックからか応援馬券が当たり、少しうれしかった。

じいさんは「あたったのかい!?よかったねぇ!おじさんもね、当たったからね、息子さんにね!プレゼントあげるよ!!競馬場をね!楽しんでね!!子供も遊べるところはあっちだからね!!」CBとかかれた旗をもらった。

案外いいギャンブルおじさんもいるのかもしれない。

 

 

その後にはお昼ご飯を食べに行き、ホースショーを見に行って、競馬博物館等に遊びに行った。

 

そしてダービーの時間だ。

幸いゴール板前を確保できた。

 

パドックも見に行きたかったが、ここまで戻ってくれる自信がない。

まあ、ターフビジョンもあるし大丈夫だろう。

 

今日のダービーはシンボリルドルフの圧倒的一番人気だ。

ライバル枠のビゼンニシキが二番人気だが、やっぱり軍配が上がるのはルドルフであろう。

 

後ろにいるおっちゃんも「無敗馬は負けるまで買え」と大声で言ってたし、無敗というのはやはり絶対的な強さを後押しすのだろう。

 

ダービーはスポーツ観戦的なノリで見たいのでどの馬にも賭けてはいない。

 

3人で楽しく談笑していると、本馬場入場の曲が流れた。

 

各馬の本馬場入場紹介のアナウンスが流れる。

競馬ブームに乗ってなのか、あのCMに乗ったのか中々にポエムなアナウンスだ。

 

『1枠3番ニシキに泣かされ、皇帝に泣かされた。今こそ反撃の時。惜敗連続3回連続4着の怒りを高らかにならせ。スズパレード田中正広(たなかまさひろ)

 

『3枠9番今こそ青葉の輝きを。ジンクスを打ち破れ。ラッシュアンドゴー高原清輝(たかはらせいき)

 

『4枠10番満を持しての登場です。緑のターフにその名を刻む、勇往邁進。道は自らが作り出す。4戦4勝。無敗の皐月賞馬。シンボリルドルフ岡安幸夫(おかやすゆきお)

 

『6枠14番皇帝のライバルは錦に彩られた優駿です。弥生、皐月で2着。今こそ栄光をつかめ。ビゼンニシキ有沢清二(ありざわせいじ)

 

私の上からは、甲高い息子の歓喜の声が聞こえる。周りから、歓声が鳴り響く。

 

胸から熱いものがこみ上げ歓声を上げていた。横を見れば妻も顔を赤くして何かを言っている。

まだ本馬場入場のみだが私たちのボルテージは最高潮だ。始まってしまったら一体どうなってしまうのだろうか。

 

皆が待機場に向かっているのはビジョンで確認できるがルドルフは動かない。というかゴール版から動かない。東側を見てその場で一周ぐるっと回ると、ルドルフがゆっくりと観客側に向かって歩いてきた。

その瞬間少なくとも私たち三人は静かになったと思う。

 

ルドルフが外ラチまで歩いてきて、止まり、観客を右から左まで見たグルっと見渡したかと思うと、待機場のほうに颯爽と走っていった。その時の歓声はまさに地鳴りのようであった。

 

『第51回 東京優駿、日本ダービー枠入りが始まります。世代の頂点に。ダービー馬の称号をつかみ取れるのはこの21頭のみです。』

 

始まった。一年前見たあのレースが。誉ある一生に一度しか走れない栄光への2400mが。

馬を驚かせないために必死に飛び出しそうになる声を抑える。

 

息子が「始まるよ!始まるよ!」と興奮しているのが聞こえる。私は必死に「そうだな。」としか返せない。

 

 

『さあ、大外21番マルブツサーペンの枠入りが…完了しました!…さあ、世代の頂点に。…スタートしました!!!』

 

 

始まった瞬間の歓声を二度と私たちは忘れはしないだろう。

 

俺も熱い心が決壊した。今まで出したことがないくらい大きな声が出た。

 

20番人気のスズマッハが逃げていく。大外枠19番で果敢にハナを取りに行く姿を見てふと思い出した。

 

ダービーのCMをThe gloryを。

4頭目に紹介されてた馬を。

 

犯罪皇帝という汚名をかぶってしまった悲劇のダービー馬。

このCMが流れた際、主戦の甲賀健実(こうがたけみ)騎手が名誉を守ってくれてありがとうとコメントしたのをコースポで読んだときは胸に来るものがあった。

 

 

 

 

76年日本ダービー

 

 

天馬と貴公子の一騎打ち。並び立てる者はなし。そう言われた。

 

 

俺を見ろ。俺を見ろ。一番強いのはこの俺だ。

 

 

「昇り詰める皇帝」

 

 

その馬の名前は『クライムカイザー』

 

 

勝ちたいのはお前たちだけじゃない。

 

 

 

 

『スズマッハ。リードを大きく、おおきく!広げました!!3馬身、4馬身くらいか!?必勝の念を込めて小崎昭二(こざきしょうじ)騎手果敢に逃げていきます!すべてのホースマンの夢が日本ダービーであります!!さあ、さあ!日本ダービーの第三コーナーであります!大ケヤキを回ります!』

 

スズマッハが逃げていく。徐々にスピードは落ちているが懸命に懸命に。勝利に向かってひた走っていた。ターフビジョンで雄姿を見届けながら「頑張れ」と声が漏れる。

 

 

 

『聞いてくださいこの大歓声!15万の大観衆!ビゼンニシキが上がっていきます!スズマッハが依然先頭!スズマッハが逃げております!外にフジノフウウン!外にフジノフウウン!内からスズパレード上がってきた!』

 

直線の向こう側から戦士たちが上がってくる。大地が揺らぐ。地鳴りが響く。体の内側で心臓の音が聞こえる。

 

気づいたら叫んでいた。

 

 

『直線に向いた長き直線!向かう先は栄光のみ!残り400!スズマッハ先頭!スズマッハ先頭!ビゼンニシキ上がってこれない!ラッシュアンドゴーは馬群の中です!』

 

「頑張れ!!頑張って!!走れ!!行け!!」

 

今、様々な声が聞こえる。俺の声なのだろうか。妻、息子の声なのだろうか。それとも他の仲間たちの声なのだろうか。

 

先頭馬群を見ていた目が突然後方の方に動いた。

 

『シンボリ、ルドルフ!シンボリ、ルドルフはようやく外目に持ち出した!残り200です!なんと未だにスズマッハ先頭であります!』

 

ルドルフがいた。残り200m勝てるのか。本当に勝てるのか。ここからで届くのか。

 

 

『真ん中フジノフウウン!外にスズパレード!きたきた!シンボリが来た!シンボリが来た!』

 

来た。来た。来た!皇帝が来た!あれがG1馬!あれがサラブレットなのか!

 

『抜けた!抜けました!シンボリ、ルドルフそのままゴールイン!初めて苦しい競馬を致しました! しかし勝ちました!しかし勝ちました!日本のサラブレッドから世界のサラブレッドへ飛躍するために、 その第一関門を突破致しました!名手!岡安幸夫は 初めての、ダービー制覇であります!」

 

倒れそうになる体を必死に抑える。肩の上には息子がいる。すべての力を使い果たしても倒れるわけにはいかない。

彼らは闘いぬいた。なら私が根を上げるわけにはいかない。

 

顔を上げると興奮でリンゴのように真っ赤になった息子が俺をのぞき込んでいた。満面の笑みでとても大きな声で。

 

「お馬さんすごいね!!みんなかっこいいね!ルドルフがビューインって!!僕ね!目が合ったよ!ルドルフが僕を見たよ!!」

 

ああ!そうだな!みんなかっこいいな!

 

興奮と冷めやらぬ会場。

 

横を見ると静かに涙を流す妻の姿が。肩を抱くと寄りかかってくる。

静かな声で。でも、確かな声で。

 

 

 

先頭を走っていたこを見ました?

 

うん。

 

最初外から一生懸命に走っていきました。

 

うん。

 

だれよりも早く走って、私たちの所に来たときはもう…も、う疲れていたのに。

 

うん。

 

頑張っていて、がんば、って、いて。

 

ほほを涙が流れる。

 

 

ルドルフが来たとき、正直。来ないでって、おもっちゃいました。

 

うん。

 

みんな、がんばっていました。とてもがんばっていました。

 

うん。

 

でも、できるなら、きっとあの子がいちばんがんばってたから。

 

そうだね。

 

わたし、けいばのこと。何にも知りません。でも、私はあの子が今一番強かったと思います。わたし、は、あのこにかってほし、かった。

 

そういうと妻は言葉を口にするのをやめた。

 

俺の肩に顔を乗せて静かに、静かに泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウイニングランが行われた。

岡安騎手とシンボリルドルフがゆっくりとスタンド前に歩を進めている。

 

来ている途中までは、正面を向き笑顔だったが、近づくにつれて徐々に下を向き震えていた。

 

 

おめでとう!!かっこよかった!!見事だったぞー!

 

 

ルドルフが近づくほど増える祝福の声。岡安騎手が上を向いたとき確かにほほが光っていた。

 

 

「おめでとう!!」

 

雫が伝う。

 

ああ。

 

これが競馬なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『東京11レース。第98回目黒記念です。今年は16頭立てでお送りいたします。』

 

17時。最終レースだ。

 

ダービーが終わったのに観客は全然減らない。これが古馬人気か。

 

『スタートしました!!カツラギエース見事なスタートを切りました。ぐんぐん前へ行きます。今日が復帰戦のミスターシービーはいつも通りに最後方!どのような競馬を見せてくれるのでありましょうか。』

 

黒井さんがさっき地下馬道で、カツラギエースが昨日滞在時の厩舎でシービーにメンチを切っていたらしい。

 

牧場に放牧した時に知ったのだが、シービーとはすごく仲がいい。

放牧地が隣であり、柵越しにグルーミングをするほどには仲がいい。

 

そんな両頭がメンチを切り合うとはやはりG1馬。仕事とプライベートは別ってことなのかもしれない。

 

 

『大ケヤキをまわります!カツラギエースが先頭で、2番手にホリスキー。3番手に早めにメジロモンスニー。ダイナカールと続いています。直線に入りました。

カツラギエースが先頭です。400mを通過して、坂を上る!今日はスピードを緩めません。ぐんぐん増していきます!外からモンテファスト、真ん中からホリスキーが上がってくる構えか!ダイナカールは伸びません!

ミスターシービーが大外からものすごい勢いで上がってきたぁ!!!先頭カツラギ!カツラギだ!真ん中モンテファスト!ホリスキー!!ミスタシービー来た来た来た!残り200!残り200!!カツラギか!だが、シービーがすごい脚!!

すごい脚!3番手!2番手!!届くか!?届くか!!?

届いた!!届いた!!だが、カツラギ伸びる!カツラギ伸びる!

シービー!カツラギ!シービー!カツラギ!!並んだ!並んだ!並んだ!並んだままだ!並んだままゴールイン!!残りましたカツラギーエース!!

これ、は?写真判定です!!写真判定です!!CA VS CB対決!!他馬をちぎっての圧倒的な闘いとなりました!!』

 

 

凄い闘いを見た。

いやーこれがダービー後のレースか。

日本競馬史に残る濃密な一日になった。

永久保存版だ。

 

『3着はモンテファスト。4着にホリスキー。5着にダイセキテイであります。これで3回目の写真判定になります。

うーんこれ、は、どちらが勝ったのでしょうか。肉眼では同時であります。さて、あ!結果が出ました!!

結果は…。カツラギエースです!カツラギエースの勝利です!!』

 

歓声が響く勝ったのは、逃げ馬。カツラギエースだ。

 

検量室で聞いている、調教師さんや騎手の方々もみんなここにいるが黒井さんの喜びが半端じゃない。飛び跳ねている。東浦(とううら)さんに飛び跳ねている。

 

カツラギエースの所に向かうと顔をスリスリされた。

 

可愛い。

 

 

俺はここで安らぐことはできない。

馬主として、色々なほかの馬主さん。調教師さん。騎手の方々にあいさつ回りや、マスコミ対応。

やることは山積みだ。

 

そして、来週は安田記念。うちの馬であるニホンピロウイナーが出走する。

 

今回は外国馬にコジーンという馬も来ている。

コジーンはアメリカの1月に行われたペガサスワールドカップターフを勝利した強豪だ。

他には前年、スプリンターズステークス1着馬のハッピープログレス。桜花賞馬のシャダイソフィアか。

 

まだまだ休んでいる時間はない。

頑張っていこう。

 

 

 

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