ウイニングファーム興亡記   作:おたま

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1984 懐かれと衰え

 

夏も終わり秋競馬である。皆厩舎に戻っていき、次のレースのための調教中だ。

2歳馬のサクラユタカオーは岳騎手騎乗で見事に新馬戦を勝利し、次走は10月のサウジアラビアロイヤルカップである。

 

それにしても今回の夏は前年とは圧倒的に違う夏となった。 

 

 

なんと新冠町の観光客の数が去年の3倍になったのだ。というか北海道すべての観光客が倍加した。増加した競馬人気により、馬産地で大量の観光ツアーが作られ、もう大変だった。

突発で観光施設や功労馬繋養施設を増設して、観光体制を整えられるように努力した。

 

そして、種牡馬的価値がない廃用となってしまった種牡馬をたくさん買い、乗馬馬として訓練を始めた。これは引退馬支援共同会との連携の一つで、ある意味馬の再就職支援みたいなものである。

 

もう一つ分かったことがある。俺はめちゃくちゃ馬に懐かれる。というか動物に懐かれるのだ。

 

暇を見て北海道を弐式さんに案内してもらい、観光をした。

 

関東よりも涼しく自然が多い北海道はやはり動物が多く、いたるところに見た。弐式さんが言うには動物は警戒心が強いのでここまで見るのは珍しいと言ってた。

 

そして、弐式さんがトイレなどに行って一人になった瞬間キツネとか、ウサギなどの動物が草むらからピョン!っと飛び出してきて、てくてく歩いてくる。そしてキューイーンと鳴いたら膝の上にポン!と飛んでくるのだ。野生は有害なノミとかダニとかがついている恐れがあるので触れ合った後は必ず体を洗い服を洗濯しているが、チョーー可愛い!!もふもふしたくなる。

 

最近だとウイニングファーム敷地内で牧草の上で昼寝をしたとき、熱くなって起きたら隣に子クマが寝ていた。

生まれてから一番びっくりした。

 

まあ、そんな感じで、よくついてくる動物たちがウイニングファームに居つくのだ。でも野生では危ないので、俺が誘導して管理することにした。

 

だから、うちの牧場では乗馬馬やポニーの他にも、北海道原産のキツネにエゾシカ。シマエナガなどがいる。

確りと専門家を雇い、熊対策や、触れ合うための調教等をしている。

 

馬がいるところと真反対の所で飼育しているので大丈夫であろう。

たった一年で動物ふれあいパークに変貌したのがうちの牧場だ。モフモフが増えて正直うれしい。かわいい。

 

 

 

9月、ルドルフが秋初戦を危なげなく制しての2週間後。さて、スプリンターズステークスである。

 

秋競馬初戦のG1で、1200mという短距離で行われる電撃戦だ。

 

ニホンピロウイナーは前哨戦なしのぶっつけ本番だ。

コジーンも同じなので条件は同等だ。

 

というか、コジーンの馬主さんの意向で、レース後からスプリンターズステークスまでウイニングファーム預かりだった。

なのでウイナーと同じものを食べ、同じ時間に放牧をした。

 

ウイナーとはとても仲良くなっていた。

仲良きことは美しきかな。

 

その間日本いる間のコジーンの調教師さんや、厩務員さんもウイニングファームに滞在しており、海外式の調教を教わった。弐式達も熱心に聞いていのでさらなるスキルアップが期待できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の中山競馬場で行われるスプリンターズステークスは3強になっている。

ニホンピロウイナーとコジーン。そして、前年の覇者のハッピープログレスである。

 

と言ってもマイルでピロウイナーとコジーンに負けているので3番人気だ。

1番人気はニホンピロウイナー。僅差でコジーンだ。

 

今回の競馬場には少し変わっていたことがあり、横断幕がパドックの柵。全てに掛けられていたこと。そして観客席の後ろ。一番高いところにニホンピロウイナーとコジーン、ハッピープログレスの勝負服カラーの大きな旗がはためいたことだ。

 

流石にスタート直前には降ろされていたが、内馬場から観た旗は最早競馬がギャンブルであることを忘れさせるほどの破壊力があった。

まるでサッカーの応援のような感じだった。

 

誰が設置したかはわからないが自分的にはかっこよかったので好きだ。

 

更にNRAでは、競馬人気を盛り上げるために様々なところでコラボを展開しており、大河ドラマ徳川家康とコラボして騎馬武者姿の騎手がターフを駆けたり、アイドルのライブを行ったりなど、大衆化に向けて努力をしていた。

そして、現役ジョッキーへの質問コーナー等を各地の競馬場で行っていた。

 

中山競馬場では和泉騎手、岡安騎手そして、剛腕と称されるオペックホースでダービーを勝利した郷中洋文(ごうなかひろふみ)騎手が出演していた。

 

質問内容は子供からだと、体作りやダイエット方法。大人からだと、ダービーとはとか。期待している2歳馬は?後は素朴な騎手寮の雰囲気は?とか、調整ルームの中で何やってるの?等であった。

こうやって親しみやすいスポーツという所をアピールできれば馬の魅力に気づいてくれる人も多くなるのではないか。

 

 

 

 

 

『中山競馬場第4コーナーを回りまして早め先頭ニホンピロウイナー!

すぐ後ろにはコジーンがいます!中山の直線は短い!残りは200!200!紫電の速さでピロウイナー先頭です!コジーンが外からくる!やっぱり二頭のレースとなるのか!コジーンさらに伸びる!

ニホンピロウイナーもかそ、く!いや!ピロウイナーが伸びない!減速していきます!減速していきます!大丈夫なのか!っコジーンが1着!2着にハッピープログレス!ピロウイナーは5.6番手でしょうか!?ニホンピロウイナーまさかの減速です!一体何があったのか!』

 

急いで観客席から検量室に走る。竜胆さんも観客席に置きっぱなしでひたすらに走る。残り200mでのあの減速。普通じゃない。もしかして骨折かもしれない。

 

検量室につくと、橋本さんと和泉騎手が重い雰囲気でなにか話している。

「何があったんですか!あの減速は普通じゃないですよ!」

 

そう叫ぶと二人は振り向いた。

「いや、私の見立てでは骨折はどこもしてません。レースで疲れているくらいです。ですが…。」

 

「ですがってなんですか!!教えて下さい!ピロウイナーに何かあったら黙っていませんよ!」

 

「オーナー!落ち着いてください!レースでの減速は私のせいです!」

話を冷静に聞いて見ると、今回のレース。ピロウイナーの走りにすごく違和感を感じたらしい。いつもなら軽々と例えるならオートバイのような感じらしいのだが、今回は軽い雰囲気もなく逆に重々しい乗り味だったという。

細心の注意をはらい騎乗をしていて、合図をしても、やはりレースで見てた通り、伸びない。ピロウイナーは合図をしっかりと聞く馬で突然辞めるなどということをしない馬だ。

どちらかというと、伸びさないのではなく、伸ばせなかった…?

 

「橋本さん…もしかして。」

 

「はい。詳しい検査はあとになりますが、和泉の言葉を聞くとやっぱり衰えたのかもしれません。スプリントは馬にすごく負担がかかります。さらにピロウイナーは3歳で安田記念を勝てるほど仕上がりが早い馬です。想像するのなら、ピロウイナーはいつも通りに加速しようとしたのだけれども、加速しなくて戸惑ったのかもしれません。」

ピロウイナーはとても賢い馬だ。きっとレースの意味も理解しているのだろう。だからこそ戸惑ったのかもしれない。

 

 

 

このあとすぐにマイケル騎手が来てくれて、ピロウイナーのことを話した。衰えたのかもしれないと。

その後にマイケル騎手が「月末に行われるBCターフマイルを見てください。絶対に見てください。」と念を押された。

 

 

 

マスコミへの発表は今はせず、取り敢えずの異常はなし。減速の理由は今から究明するとした。

 

 

精密検査の結果は心拍数の減少と筋肉の衰え。完全に衰えたのだ。

以前のような競馬をすることはまずできないだろうとのこと。

 

正直ピロウイナーの顔が見れなかった。

竜胆さんがピロウイナーの顔を見て泣きそうな顔をしてたからだ。

ピロウイナーは他馬と競うのが好きな馬だ。放牧時も、隣りにいたシンボリルドルフとよく柵越しに併せて走っていたのを覚えている。

 

いつもは大食いで、淋しがりやで俺がいなくなるとピーピー鳴くくせに、走っているときはマイルの皇帝と呼ばれるほど強い馬なのに。

 

そんなに悲しい顔をするのか。辛いのか。なんとかしてやりたい。せめてあともう一回、対決を。

 

 

 

 

 

 

 

一か月後

 

『残り400!リアファン先頭!リアファン先頭!外からロイヤルヒロイン!リアファンを交わす!先頭に立ちました!一気に!最内!コジーンが突き抜ける!行くぞ!来るぞ!コージンだ!残り200m!ロイヤルヒロインをコジーンが交わす!外からツナミスルー!真ん中スターチョイス!コジーンが伸びる!伸びる!これは強いリードは2馬身くらいか!ゴールイン!BCマイルを勝ったのはコジーンです!』

 

 

「Rider Michael. Is there anything you would like to say at the end of this interview?(マイケル騎手。インタビューの最後に何か言いたいことはありますか?)」

 

「Ahhh yes. Can I have one? Japanese rivals." Nihon Pillow Winner and Izumi. Cozzene and I will be competing in the Japanese G1 Mile Championship.I heard from you guys that he is declining. That is why we are going to face each other at the end.I look forward to an honorable fight.(あーっとそうですね。一ついいですか。日本のライバル。”ニホンピロウィナー”と”和泉騎手”。コジーンと私たちは日本のG1マイルチャンピオンシップに出場します。衰えているのはあなた方から聞いたので知っています。だからこそ最後に対決を。誉ある戦いを期待します。)」

 

 

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