俺と枕を突き合わせて寝ている2人の声は頭上から。そして隣の明石からは…
「おやすみなさい、提督」ナデナデ
布団の中で俺の腕に触れる、明石のひんやりした掌だった。
第四-7話
ザザザザザアアァァ……!
「着いたぜ、気を付けて降りろよ」
「ああ。お疲れ、木曾。ありがとうな」ザッ
彼女を背後から抱きしめていた両腕をほどいて、小さな川の河口に降り立つ。鬱蒼(ウッソウ)とした森が両方の岸から迫ってくる、自然豊かなところだ。
「首の周りは何となく息苦しいな。次からは胸でいいぜ」
俺の腕をドコに巻き付けるか、だな。
「いや体勢的に無理があるだろ。上体が下がり過ぎて落ちるさ」
「オレのおっぱいがイヤなのか?」ジロリ
目が笑ってる…冗談まじりか。でもこっちは率直に。
「木曾のおっぱい大好きだぞ。柔らかくてあったかい」
「アハッ、そうか」パアアァ
破顔一笑の木曾。やべぇ。クールな普段とのギャップで可愛い。第六艦隊から帰った夜の問いかけにキチンと返事しなかったから、モヤモヤしてたのかも知れないな…でもあのときは木曾の様子に違和感があったから答えられなかった。
勿論、彼女の胸が気持ち良くて夢中だったのも大きな理由だが!
「お、雪風も来たぜ…誰にも見られてないんだったな?」
「ああ、妖精さんは既に半径一キロの範囲で展開している。大丈夫だ」
ザザザザアアァ……ザッ
「お待たせしました司令」
「ゴローさんは何か言ってた?」
「はい、一つだけ。司令に、気を付けてって」ニコリ
「ありがたいな…あ、動き始めた」
沖合いに向け手を振る。
俺たち3人を運んでくれたプレジャーボートが方向転換し、やがて走り去った。操縦者はウチの重鎮が1人、ゴローさんだ。
「あれが第五艦隊の鎮守府だ。離れてるってのもあるが……ほんと小さく見えるもんだぜ」
「前に来たときに俺もそう思ったよ。最初の第六艦隊と同じで、中には入れず周辺からの探索だったけどな」
「まあ一人じゃムリだろうな、いくら妖精がいても」
「その通りだよ、二度目の第六艦隊はみんなのチカラが加わって成功したんだ……そして今日はお前たちがいてくれる。さっき通り過ぎたヤツらのボート、あそこに到着してるらしい。行こう」
「ああ、任せとけ」ニッ
「はい、司令」ニコリ
約1時間ほどで森を通り抜けて辿り着いたのは、鎮守府の裏手へと続く山腹の丘陵。あちこちに隆起している岩場の1つに、身を寄せ合って潜む俺たち。さっき視界の片隅を横切ったのはトカゲかな?
「あれだ…鎮守府を取り囲む壁が見える。おい、もう少しこっち来いよ。ちゃんと隠れないと見付かるぜ」
今回も来てくれた妖精さんの水偵で、見張りがいないのは上空から確認済みだし、木曾も水偵を飛ばしているから分かってて言ってるんだ。冗談のフリして実は彼女なりの気遣い、ここは遠慮なく貰っておこう。
「分かった、そうする」ズイッ
ふにゅ
腕が木曾の大きな胸に当たるが、彼女はまるで気にしていない。
ギュウッ
「司令、失礼しますねっ」
「雪風?」
「見付かったらいけませんから!」ムニュ
二人の体温が両腕に。
「気持ちいい。落ち着くよ」
すぐ近くにある木曾の茶髪と雪風の黒髪からの甘い匂いが、鼻腔(ビクウ)をくすぐる。
「ひと仕事の前に景気づけだ」ニヤッ
チカラが湧いてきた。始めるか。
「俺たちが潜んでるとも知らず、目の前を通り過ぎてからだいたい二時間近くだ、ちょうど今頃はパーティーの最中だと思う。木曾、中庭の外れに煉瓦(レンガ)造りの建物があるだろ」
「ああ」
「中から大勢の声がするらしい…そして、艦娘の気配と、【初めて感じる艦娘に似た何者か】の気配だ!」
「おい、まさか…」
「司令、それって!」
興奮の響きに満ちた2人の声。
「まず間違いないだろう。ここは今、信じられないほどの無防備ぶりだ。仕事をナメてやがる…見回りなし、監視カメラに頼りきりのお粗末さだ。勝手に入らせてもらおう」
「本当にスマホもカメラもなくて大丈夫なのか? そりゃ、紛失はヤバいけどさ」
「分かるよ木曾、しっかりした証拠が欲しいんだろ。でも心配ない、あれから妖精さんと練習した成果を見せるから」
「何かあるみたいだな。お前がそう言うならいいぜ」
「行きましょう司令、妖精さんと水偵さんがいれば、監視カメラなんてヘッチャラです!」
「ああ、行くぞ。木曾、雪風、潜入開始!」
それは一瞬。
2人の体温が感じられなくなったと思った刹那、見れば既に姿は数メートル先。しなやかな体躯を大草原の捕食動物が如くうねらせ、ぐんぐん加速してからの跳躍は鎮守府の壁面を難なく凌駕し最上部に到達。
艦娘の身体能力。
もう何回も見たけどやっぱりすげぇ。深海棲鬼がどれだけ強かろうと、それを上回るのは間違いないという俺の予感……いや確信。
彼女たち艦船の建造って、当時は一体どんだけ凄まじい情熱が注がれていたんだろう。技術だけじゃない迫力、いつもそれをみんなから感じる。
「上げるぜ、しっかり握ってろよ」
「ああ」
グイイイイィッ!
トランポリンみたいな浮遊感。木曾のロープが降りてきたと思ったら、あっという間に俺を壁面のてっぺんに上げてしまう。まるで昔の時代に流行ったおもちゃみたいだな。
「司令、あれですね」
雪風が敷地内の一角を指差す。
うわぁ、本当に小さな鎮守府だな。前回は遠くから妖精さんに遠隔指示だったけど、こうして見ると町中の小学校みたいだ。
ん……あれは鎮守府の本館か。妙にキレイで羨ましいな、かなり資金潤沢なのかなココは……てコトは資源資材も豊富だろう。ウチはデッカイけど、その分、改修工事の費用がかさむんだよなぁ………。去年の年末は図書館の修繕で、総額7ケタの……。
…うおおおおお何だかメチャクチャ悔しくなってきたあああああああああ!!
(行くぞ二人ともおお!)ダッ
(はい、司令!)シャッ
(ああ!)タタッ
駆け出す俺たち。
風だ、風になるんだ俺ええええぇ! ゴオオオォ
最初の角をターン!
中庭を横切る必要などない。
見張りどころか監視カメラも有刺鉄線もないこのザル壁面を上から回り込んで、煉瓦の館の近くで降りてやればいい!
そして慎重に…
(………、……!)
あれ? 妖精さんから?
(こっちは順調だ、水偵で建物からの目視を警戒してくれてるからね……どうした、何かあった?)
(………!)
(へ? 窓? ああ、いま二つ目を曲がったからもう少しで見えるぞ……)
(………!…………!)
な、何いいいいいィ!?
マジか!?
この目で確かめ………
………ッ! 見えた、煉瓦建物の窓だ。
一番近くて、よく見おろせる場所まで移動する。
中で何が………
昼間とはいえ警戒心ゼロで
カーテン開けっ放しの窓から見えたもの。
2人の男女が絡み合っている。
1人はスーツに身を包んだ年配の男。ソファに体を沈めて嬉しそうに笑みを浮かべている。
もう1人は……
美しいロングヘア。
こちらはラフなワンピースを着こなしている。
そして妖艶(ヨウエン)な笑みを浮かべるその顔には、国防省のファイルで見覚えが……
……戦艦タ級!
ぶちっ
あ、もうダメだ。
鎮守府を裏切って。
好き勝手やりやがって。
もう止まらねぇ。
(爆装妖精さん来てくれええええええええぇ!)
(やるのか!?)
傍らの木曾。
(全員まとめて捕まえる)
………キュイイイイイイン!!
水偵には爆弾を積むことができる…今回は少人数、しかも戦闘能力の劣る俺も侵入するので、万が一の事態に備えて積んでもらったんだ。
(屋上と最上階はクリアだ! やっちまってくれええええええ!!)
(……!)
ズガアアアアン!!!
絶妙の加減で小型化した妖精さんと水偵が、ちょうどいい大きさの侵入路をポッカリと。
「ありがとう! うおおおおお!!」
ヤツらを観察できるほど壁面の近くに建ってるから、高低差はちょっとあるが距離的には屋上まで大したことない。
爆発音で驚いているであろう今のチャンスを生かすためには、一瞬もムダにできないんだ!
ガシッ
空中でカラダに感じる柔らかな感触。木曾と雪風が左右から俺を抱き抱え、先に着地して衝撃を完全に無効化してくれた。
「もう、ムチャするんですから」
「コイツはこうなったら止まらねぇよ」
爆破時に発生した熱の破片に注意して飛び込む。最上階はどうやら物置らしく、いろいろな家具や道具の上に、吹き飛ばされた天井部分のガレキが飛び散っている。これなら床から高くなってるから着地はカンタンだ。
スタッ
階段から下のフロアへ。
廊下には扉が1つだけか、つまりヤツらのパーティー会場!
(妖精さん、扉が開いてる! 逃げた奴は!?)
(………!)
(建物からは誰も出ていない? 分かった、もしもタイムラグでこの後に出て来たら、例の打ち合わせ通り頼む!)
(…!)
(ありがとう、そっちもな)
ダダッ
室内に突入 ……!
「全員、動くな。 こちらは武装しているッ!」
「ヒイイイイイッ!?」
「わあああ!」
「き、貴様あ! なな何の積りだ…!」
辛うじて口の利けるこの男…歳は俺より15ぐらい上か。フツーの人なら仰天する爆発なのに、ある程度の冷静さを発揮してるトコを見ると第五艦隊提督かも。声は震えてるが。
そして。
窓際のソファに目をやると、さっき壁面の上から見た年配のスーツ男は完全に気が動転して、口をパクパクさせている。だが隣の不敵な美女は、男の頰への口づけをやめてこちらに向き直り、
「…あら、はじめまして。ずいぶん勇ましい男の子ね? 後ろのお嬢さんたちも」ニッコリ
「私は戦艦タ級。あなたたちの呼び方では、ね」
続く
加賀岬イイですね
歌もBGMバージョンも