だが隣の不敵な美女は、男の頰への口づけをやめてこちらに向き直り、
「…あら、はじめまして。ずいぶん勇ましい男の子ね? 後ろのお嬢さんたちも」ニッコリ
「私は戦艦タ級。あなたたちの呼び方では、ね」
第四-8話
カタッ…カタ…
テーブル上のグラスを握りしめた男の手が震え、時おり耳障りな音を立てている。どうやら爆破ショックで機先を制することができたみたいだな。他の連中も同様……ただ1人を除いて。
「聞かせて、あなたたちのお名前」
冷静さを失うことなく、こちらをしげしげと見つめるタ級…例の走り書きメモの4番目。俺たちの服装は3人ともレギュラーシャツで、俺と木曾はジーンズそして雪風はキュロット。この会場には思いきり不釣り合いに見えてるだろうな。
「名前は明かせない。彼と同じ組織の所属だ」
俺たちに対して最初に口を利いた男をチラリと見ながら答える。さあ、ここからだ…情報開示は慎重に。
「そう…それで? あなたたちは敵なの?」
うん?
妙な質問だな。こっちは鎮守府の所属だって伝えたんだし、屋上だって吹き飛ばしたんだぞ。敵だって分かるだろ。
俺たちの敵は深海棲艦……
せめない! おうちだよ?
……くーの言葉!
いけね、会議の晩に結論を出せなかったんだ…取り敢えず後回し!
「何が同じ組織だ! それなら部署を言ってみろ! 貴様ぁ、よくもこんな、こんなことを!」
さっきより動揺が治まってるな。だが今度は興奮気味か? 調子に乗らせると面倒だな……こんな衆人環視で情報を与えたくないんだけど。仕方ない…
「第八艦隊から来た指揮官だ。嘘だと思うのなら司令部に連絡してみるんだな、俺が話をするよ… 鎮守府を裏切った男が何を騒いでいる。もう終わりだよ、アンタは」
「な………そんな………。この…この野郎ぉ…………」
「鎮守府」や「司令部」なんて、部外者が口にする単語じゃない。市民から見れば鎮守府は、ヒマそうな職員が門番をしているだけの、単なる一般人立ち入り禁止の港湾施設だ。
ドサッ
男の膝が床に。
観念したか…おや?
「しっかりして。あなたは責任ある立場の人。投げ出してはいけないわ」
ギュッ
タ級…男を抱きしめ…て…?
赤ちゃんをあやす母親みたいだ、一瞬そんな風に思った自分に驚いた。
(司令…)
心に伝わってくる雪風の声にも明らかに動揺が。他の連中はぼんやりと眺めているだけ。
「…う…うぅ…」
さっきの勢いは消え失せたか…飛びかかってくる気配も司令部に連絡する様子もなし。予想外過ぎる事態でメンタルがメーター振り切ってしまったな…体も震えている。怒りというよりも、この先への不安か。
ダダダダッ!
近付いてくる駆け足の音が複数。
いよいよ艦娘のお出ましか。
(木曾)
(ああ)タタッ
「提督! ご無事ですか!」
「夕雲、気を付けなよ」
「そろそろだね…」
「お前らの提督は無事だ。そこで止まれ」
木曾の凛々しい声が響く。
「ッ!?」ザッ
「きゃっ! 夕雲、急ブレーキはダメ……なぁーに、アンタ? ここで何して……ありゃ? 夕雲、なんか…ヤバそうじゃない? この人」
「どうしたの秋雲…って、DQN女子が何でこんなトコに? あ、もしかして特別ゲストぉ? 好色だねぇ…守備範囲広過ぎでしょ」
「二人とも、黙って! この雰囲気…私たちと…同じ……それに…」
「!?」
「え…夕雲?」
夕雲……だと!?
さっきから確かにそう言ってるぞ。
まさか、こんな偶然が…。
タ級たちへの警戒を怠らないよう注意しながら、
(木曾。夕雲って、お前と共に…)
(……ああ、まさかこんな場所でな…でも、間違いねぇよ、思い出せるぜコイツの雰囲気……)
「お姉様だ…」タタッ
「ちょっ……! 夕雲、危ないっ!」
「お姉様ああああ!」
「夕雲! 元気にしてたかよ!!」
ギュムウウウウ!
「……へ? どうなって……え…この人まさか…」
「ふーん感動の再会? つーか誰」
温度差すげぇ。
でも、後の2人は片方が秋雲って呼ばれてたな。「感動の再会」はまだ続きそうだ。
(雪風。木曾の方は大丈夫そうだし、こっちを片付けるぞ。引き続きガードよろしく)
(分かりました…司令、良かったですね…)
(そうだな…こんなことってあるんだね。電との約束、いけるかも)
「……少し落ち着いた?さ、そこに座りなさいな。あなた、その水差しをお願い。……提督、これをどうぞ」
「………」ゴクゴク
やはり提督だったんだな。
……やがてタ級がこちらを向いて、
「さ、私たちもお話の続き、しましょ?」ニコッ
何だか間合いの近い戦艦だ。
調子狂うぜ。
続く
あちこちで見られる妖精さんの演出が楽しくて飽きません