「…泊地棲鬼と空母棲鬼と装甲空母鬼、そして南方棲鬼はもういないわ。ある者はあなたの仲間によって倒され、またある者は深海棲姫…あ、姫さまの方ね…によって。今は綿津見神(ワタツミノカミ)さまの元に…海の底よ」
第四-10話
ズシャッ…ドスン…
頭上から微かに聞こえる、何かが滑り落ちたような音。破壊した屋上の瓦礫が、微妙なバランスを失って床に落下したのかも知れない。
それにしても。
深海棲艦が深海棲艦の手によって…だと…?
こんなの初耳だぞ。
司令部は知っているのかな?
いや待てよ、司令部は知っているが、何らかの理由で俺たちの艦隊には知らせてないって可能性はどうだろう?
今後は司令部の動向にも注意しておくか。
「率直に言って衝撃的な話だ。真実という証拠はあるのか?」
「いいえ、残念ながら。でも」
?
「あなたたちを統制する組織、司令部だったかしら…そこには私たちとの戦闘の記録があると思います。それを見れば、戦いの数は確実に減ってきている筈。深海棲艦が次々と命を落としたからよ」
……………。
(雪風)
(事実です、司令。おじ様は一年間で五度も出撃なさったことがあります…。
他の鎮守府も多かったらしく、特に第一艦隊の働きは獅子奮迅の気迫あり、と何回も呟いていらっしゃいました)
すげぇな。
俺はこの2年間で2度の出撃しか経験してないぞ。
でも今、気になるワードあったな。
(雪風……他の鎮守府も多かったらしく、とは? 一緒に出撃したことがあれば、多いか少ないか直ぐ分かるだろう?)
(あ…それは……)
口ごもる雪風。
いつもハキハキしてる彼女らしくない…どうしたのかな。
(すまない、答えにくい質問したみたいだな。木曾、いいか?)
(第八艦隊は、他の鎮守府との合同作戦を実施したことがないのさ…お前には伝えてなかったな…。だからオレたちは、他の鎮守府への臨時応援なら経験が豊富だが、要は出撃中の留守番だ。提督と艦娘は不在の静かな鎮守府なんて、寂しいもんだぜ)
何だよそれ。
ひでぇな。
雪風は他の鎮守府で艦娘たちに会いたかっただろうに…でも、それは実現されなかった。
今、木曾は寂しかったと言ったが、雪風だって同じ気持ち…いや、もしかしたらもっともっと。
でも見てろよ、雪風、木曾。
お前たち、そして恐らくは暁も響も雷も電も明石も味わったその寂しさを吹き飛ばす方法が、1つだけあるんだ。
俺は艦娘の黒子。
その役目を今から果たす。
「深海棲鬼と深海棲姫、発音が同じで判別が困難だ。これから先、お前との会話では【鬼】と【姫】という単語を使いたい。どちらがどちらを指すのかは明白だと思うが…どうだ?」
「ええ、分かったわ。では私もそのように」ニッコリ
「助かる。今の話だが、鬼と姫が戦うということはつまり、お前たちの軍勢は内部で分裂してるんだな?」
「その通りよ。私は、この日本で暮らしたいグループの一員なの。さっき言った通り、悪事を働く積りは一切ありません」
何となく見えてきた。
「つまりお前が所属するのは、姫のグループだな? そして俺たちの大八島國を憎む鬼は、そんなお前たちに反発した。このパーティーはこの国に住むための資金を稼ぐ場であると同時に、将来、日本で暮らすときに備えて現代文化とか生活様式とかを知るための場でもある……そんな感じか?」
「…驚いたわ。何でも答えるとは言ったけれど…これでは私たちの計画の全貌が知られるのも、時間の問題かしら」
ほんの一瞬、目をパチクリさせるタ級…表情豊かな戦艦だな。でも、相手のプライドをくすぐることも忘れないトコは、やっぱりトーク上手だな。気を付けよう。
「お前がキチンとこちらの質問に答えてくれるからだよ…では、肯定と受け取っていいな?」
「ええ」
コクリと頷くタ級。
その拍子に彼女のとても大きな胸が、ほんの少し揺れる。
…薄いワンピースの破壊力やべぇ。まさか赤面とかしてないだろうな、俺?
「いろいろ答えてもらえたことには感謝する。じゃあ次は、さっきの約束についてだ。司令部には必ず温情ある処置を願うが、その上で一つ提案がある」
まったく、この部屋に飛び込んだときは激怒してたのに……この深海棲艦と話してるうちに、だんだん頭が冷静になってきた。
不思議な戦艦だ。
「提案…何かしら?」
「このまま司令部に報告してしまえば、たとえ俺の口添えがあっても、お前たちは厳罰に処せられる可能性がある。そんなことは勿論、願い下げだろう? だから、お前たち……正確には第五、第六、第七艦隊の首謀者全員で話し合って………三つの艦隊がグルだってことは調査済みだぞ………こんな集まりなど最初から存在しなかったことにして、別の理由をでっちあげて自分から異動とか退任を申請するんだ」
「え…」キョトン
(し、司令!?)
(雪風、黙って見てるんだ)
(あ…はい、木曾)
さあ、ここからだぞ。
ウチのみんなが寂しい思いをしてたなんて、知らなかった。
何か事情とか理由とかあったのかもだが、そんなの知ったこっちゃない。
艦娘が艦娘と一緒に楽しく過ごせないなんて、そんなのあっちゃいけないんだ。雪風のお茶会タイムをダメにした俺だけど、それもまとめて精算してやる。
「そうすれば、司令部から厳しい糾弾を受けることはない…何しろ自主的な希望なんだからな。普通に受理されるだけだ」
ウチの前任提督も自ら退任を申請して承認されている。
「こんな提案をするのは勿論、こちらも相応の見返りを期待しているからだ」
ちょっと息を整えて、
「お前たちの艦隊に所属する艦娘を、我が第八艦隊の仲間として迎えたい。司令部に出向いた際に、その旨(ムネ)を上申してくれるなら、俺は今度の件について無言を貫くことも約束する」
続く
お茶会といえば金剛のお茶会セット
本当に素敵ですね