「お前たちの艦隊に所属する艦娘を、我が第八艦隊の仲間として迎えたい。司令部に出向いた際に、その旨(ムネ)を上申してくれるなら、俺は今度の件について無言を貫くことも約束する」
第四-11話
サクッ
「はい、司令官。あーん」
パクッ。モグモグ…。
「どう? 美味しい?」
口の中に広がるイチゴとクリームの甘み、そして柔らかな歯ごたえ。
「すごく美味しいよ、雷のケーキって味も香りもバッチリだな」
「そうでしょうそうでしょう、たくさん食べてね。はい、あーん」ニコニコ
パクッ。
「もっと欲しいな。コレも頂くぜ!」ヒョイッ…パクッ
「あらら、まるごと食べちゃった。しょうがないわねぇ」ニッコー
「明石、大変だよ。司令官がクッキーからケーキに浮気しそう。ちゃんと胃袋を捕まえなくちゃ」
不死鳥が何か言ってるな。
「相手は雷、ハッキリ言って強敵です……。でも私、信じてます! 提督はきっと、帰って来てくれるって」グスン
あれ? なんか悪役っぽくね俺。
「明石、お前って本当に素直だな。だけどいくら響が先輩でも、炎上芸のファイアバードに付き合わなくてもいいんだぞ」
「…じゃあ、私のクッキーは?」ジーッ
「袋詰めのヤツを、さっき一袋ぜんぶ頂いたよ」
つーか響、俺がクッキー食べたの知ってるのに明石を煽ったな。
「本当に…? それじゃあ、私まだ雷に負けてませんね! 響、すみません…残念ですが、コンビは解消で…」
コンビだったのかよ。
「仕方ないね…これからは遠くから応援してるよ。再結成したくなったら、いつでも呼んで」
やる気ゲージ満タンじゃんか。
「ありがとうございます響。でも、いいんですか? みんないろいろアピールしてるんですよ?」
「大丈夫だよ、司令官と共にたくさん夜を過ごしてるのは私だから。僅差で先行してる雪風さえ撃破すれば、もう司令官は私の虜(トリコ)」チラッ
怖ぇよ。
でも俺がみんなに頼るようにしてから、響がたくさんの書類仕事を片付けてくれてるのは事実だ。
「しれい、くりーむついてる…おくちのまわりに」ペロ…クチュ…ペロリ
「わぁ、くーちゃん大胆なのです」///
もう慣れたけどね。
前に木曾が言った通り、みんなとのスキンシップが増えたら、以前みたいな醜態をさらすことがなくなった。もっと早く、こうしてりゃ良かったかな。
ポン。
腰掛けてる俺の肩に柔らかく触れる手。
「どうだ、楽しんでるか?」ニッコリ
見上げると、ポテトを片手に柔らかな笑みを浮かべた木曾。
「みんながいる。仲間も増えた。料理もデザートもメチャクチャ美味い。もう言うことなしってぐらい、楽しんでるよ」
今日の執務室はパーティー会場。派手な飾り付けはないけど、所狭しと並ぶ料理
と、そして新しい艦娘の顔ぶれ。俺的には、最高だ。
「そりゃ良かった。お前はそれだけの働きをしたんだからな、こんなときぐらい羽を伸ばすんだぜ」
「ありがとう木曾、でも俺だけの力じゃないぞ、みんなの力だ。勿論お前もな、木曾」
彼女の手を握る。
「そうか。お前の力になれたんなら、それでいいさ」ギュッ
第五艦隊の鎮守府に俺たちが忍び込んだあの日から数日後、例の提督は配置転換となり、そして俺は今日、司令部に呼び出された。
ガチャ
「待たせたな。お互いに忙しい身だし、手早く済ませるぞ」
「おはようございます、課長。ヒゲ伸びてますよ」
「昨日の晩から泊まりなんだよ、代わってくれ」
「ウチの艦娘と離ればなれなんてツラくて耐えられません。コレどうぞ」ガサガサ
「うなぎ弁当か、分かってるじゃねぇか。ありがたく頂戴するぜ」ガサガサ…パク!
俺たち提督…いや、全ての鎮守府職員の上司に相当する人事課課長。疲労の色が見える顔に笑みが浮かぶ。
「美味ぇよ、ありがとな。お前、昼メシは?」
「もう食べました。はい、お茶。もう五月だから冷えてるの買いました」コトッ
「うなぎを冷やさんように別々に運んだのかよ。お前いろいろ気が利くね。その若さで苦労してるのか?」
7月で32歳なんだけど、未だにかなり年下扱いされてるな俺。課長だけじゃないが。
「大して変わらないでしょう、まだ四十代じゃないですか」
ふと第五艦隊の提督を思い出す。実年齢は同じくらいだろうけど、課長のほうがかなり若々しく見える。
「四十代つってもな、こちとら後半戦に突入してんだよ…モグモグ…。お前も今のうちに楽しんどけよ」ニヤリ
「分かりました。課長、司令部全体が何だかバタバタしてますね。鬼どもですか?」
俺たち艦隊は年中無休だが司令部は違う。時おり職員が鎮守府の様子を見に来るけれど、それがない時期なら日々のスケジュールはキツくない。
本来は。
「さっき泊まりって言ったろ、実は出たんだよ。第二艦隊が退けた」
てことは昨日からか。
「被害は?」
「ゼロだ…モグモグ…あちらさんは甚大。懲りない連中だぜ…ご馳走さん!」ゴクゴク
食事が済んだので本題に入る。
「それなんですが、ヤツらって全て侵略者だと思います?」
「どういう意味だ、何か掴んだのか」
課長の目が突如、鋭い光を帯びる。不用意な人間は大抵、これで面食らう。
「単なる思い付きです。二月の戦闘、相手の戦意がやけに低かったので、違う目的のヤツもいるのかなって」
タ級に聞いたとは言わない。彼女たちの集まりについては司令部に漏らさないって約束だ。くーを仲間にしたことも報告してないし、また秘密が増えたな。
「ふーん。まあ気にするな、俺たちは上層部の指示に従ってりゃいい」
「お前たち」とは言わず「俺たち」と言う課長。俺が彼に親近感を持つ理由の1つだ。
「でも勘違いするなよ、お前の意見はちゃんと覚えとくぜ。それじゃ、お前にわざわざ来てもらった用事を片付けよう…伝達事項だ、読むぞ」ガタッ
椅子から立ち上がる課長。すかさず俺も。
「指令書。歴史交流局広報課第八分室室長。新たに創設せられたる特務分室室長を命ず。零和三年五月十日 宮内省特別外局国史庁歴史交流局局長」
書面を読み上げる課長。一旦言葉を切って、
「ま、平たく言やあ統合だ。提督がまとめて退任してな、第五ないし第七艦隊はお前の第八艦隊と結び付けられ、新しい艦隊が誕生する。艦娘の数で言えば、第二、第三艦隊に匹敵する艦隊がな」
やっと、ここまで来たか。でもこれは単なる通過点だ。深海棲艦との内通者は去ったが、パワハラ野郎がまだ残ってるんだ。
「気を付けるんだぜ。これからお前はしばらく、他の鎮守府から徹底的にマークされるだろうよ」
続く
今さらですが艦隊これくしょんって本当に素晴らしい作品ですね