鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

16 / 69
第四-12話

「気を付けるんだぜ。これからお前はしばらく、他の鎮守府から徹底的にマークされるだろうよ」

 

 

 

第四-12話

 

 

 

ゴシゴシ…

 

 

 

まだ眠気が完全には消えていないのか、着席してからしきりに目の周りを指先で揉みほぐす課長。

 

「あー、やっぱり四時間じゃ足りねぇや…あ、もういいんだよ座れ座れ。お前、きちんと睡眠とってるか?」

 

「はい、艦娘のみんなが助けてくれますから。問題なしですよ」

 

着席する俺。

 

「羨ましいぞ、おい。人望ってヤツか?」

 

「とんでもない、周りのお陰ですよ。前の提督や職員がウチの鎮守府を良い雰囲気にしてくれたからこそ、新参の自分でもガキ扱いされずにここまで来れた。知ってますよ、他の鎮守府じゃ横暴な指揮官がいるらしいって」

 

人事課長は俺たち提督…つまり広報課分室室長たちに睨みを利かせる立場の人間で、直属の上司である広報課課長でも頭が上がらない。そんな人に向かって、まるで監視の不行(フユ)き届きを指摘するみたいな言い方だったが、課長は意外にも、

 

「あー、やっぱりお前にゃバレてたか。第三艦隊だ」

 

え?

 

一瞬、虚を衝(ツ)かれた。

 

「だから、第三分室の室長だ。そいつが艦娘に対して威張りちらしてる」

 

マジかよ。何か参考になる手掛かりでも得られればいいな、程度の発言だったんだけど。

 

「……課長、ダメですよ。そんな重大情報をポロッと」

 

「構わねぇよ、上じゃ以前から問題になってたんだ。今から俺が言うのは独り言な」

 

まさか…まだ情報をくれる?

 

「お前も気付いてるだろうが、我が歴史交流局は決して一枚岩じゃない。西暦の二十世紀末期に急ごしらえで成立した組織だが、深海棲艦の出現に頭を痛めていた為政者の前に突如現れた艦娘を奪いあって、国防省と国土省が凄まじい争いを繰り広げたんだ」

 

「はい」

 

前の提督から聞いたことのある内容だ。

 

「国防省の管轄は侵略からの防衛。国土省の管轄は船舶の運航や発展。当然、自分たちの組織こそが艦娘を引き受けるべきだという主張がぶつかり合った。俺は当時、まだまだ新人だったけどさ、まさか上のほうでそんなことになってるなんて、知らなかったよ」

 

課長は国防省から歴史交流局へと引き抜かれた外様(トザマ)組だが、今や揺るぎない地位を確立している。

 

「そこへ宮内省から鶴の一声、ですね」

 

「そうそう、これにゃ双方とも黙って従うしかなかった。何しろ、軍艦…本来は海軍艦船の全てを指す言葉ってワケじゃないんだが、今じゃ誰もそんなの気にせず全てを指す積りで使ってるな…とにかく、軍艦とは天皇陛下から賜(タマワ)る大切な船、という意識が昔の日本では浸透してたからな」

 

「そして特別外局たる国史庁が誕生、艦娘の所属も晴れて歴史交流局の広報課分室に決定」

 

「そこだよ。そこまでは確かに良かったんだが、掌握が無理ならせめて自分トコの職員を出向させたくなるのがお役人の人情だわな。その結果、歴史交流局には三つの省庁の人間が形成する有象無象(ウゾウムゾウ)の派閥が出来上がり、すっげぇカオスな組織になっちまった。第五分室の室長な、あいつもバックの派閥が支援してたのさ」

 

成る程な……タ級に寄り添われていた姿からは荒事に不向きな印象を受けたが、政治力のほうに長けた人物だったのか。夕雲から、第五・第六・第七艦隊は全部ひっくるめても9人の艦娘しかいなかったから互いに行き来して何とか支えてたと聞いたが、局長にしてみれば指揮能力の不確かな人物に、大勢の艦娘を振り分けることはできなかったんだろうな。第六・第七の提督は恐らく…同じ派閥で彼の友人もしくは取り巻き。そして3人は、深海棲艦との取引で入手した手数料を山分けしてたってトコか…彼らの派閥は今頃、失望してるだろう。

そして、それを潰したんだな俺は。

 

「お偉方は今回の件で、大層お前に感心している…勿論、俺の印象だ…自分たちでそんなこと言うワケないからな。だが、表情ってのは隠せないもんだ。口元なんてどうにでもなるが、目は絶対に誤魔化せない。だからお前にゃ、ここまで話せるのさ……おっと、あくまでも独り言だぜ」ニヤッ

 

俺に感心?

おかしいな、表向きは自主的な申請にするよう勧めたんだが…何で俺が急浮上してるの。第六艦隊に潜入したことは絶対にバレていないハズだ…妖精さんや艦娘みんなの協力で成功させたんだから断言できる。

てコトは…

 

「三人とも、局長に言ったらしいぜ。第八分室の室長はまだ若いが、この先が面白くなりそうな奴だって。我々が築けなかった信頼関係を、残していく艦娘たちと築けるかも知れないって。彼女ら全員を任せたい、だとさ」

 

やっぱりそうか………俺の提案通りに…。

電、やったぜ。

 

「上は、お前が三人の退任劇に何らかの形で関わったと見ている。何せ、艦娘の行き先を第八艦隊に指定したんだからな」

 

司令部のアンテナに引っ掛かるのは想定の範囲内だ。第五分室室長に交換条件を提示したからこそ、艦娘を迎えられるんだ。

 

「さっき、徹底的にマークされるから気を付けろと言ったのはそこさ。消滅したとしか思えない艦隊のメンバーが全員、第八艦隊に行くんだ。当然、他の室長らも上層部と同様、お前が関わったと思うだろう。新参者だと思ってた若造が僅か二年で今や、第二・第三艦隊と肩を並べる規模の艦隊指揮官だ。いいか、特に、第三艦隊の指揮官には気を付けろ」

 

まさかのお宝情報ザックザク展開。ここまで来れたのも、普段から支えてくれてる鎮守府みんなのお陰だな。

そして、これ以上の情報を尋ねるような愚行は犯さない。さっき課長は、独り言だと言った。本来なら望むことすら能(アタ)わない貴重な情報の数々…これは、課長のギリギリ精一杯の厚意。これ以上、甘えちゃいけない。

ゆっくり立ち上がる俺。

 

「ありがとうございます、課長。頂いた情報、きっと生かしてみせます」

 

「お前ならそうするだろうよ、しっかりな…そうだ、最後に二つだけな」

 

 

「はい」

 

「第三艦隊の指揮官も第五・第六・第七と同様、とある別の派閥の出身だ。もう一つは、さっき第二・第三艦隊と肩を並べるなんて言ったが、ありゃ間違いかも知れん」

 

今までで、最も楽しそうな笑顔を浮かべた課長。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

噛んだよ。カッコ悪っ!

 

「今のお前なら上層部はもう、頼りない新人扱いなんてしないってこった。特に、それが貴重な存在である艦娘の意志に関わる事柄ならな」

 

???

 

「ハハハ、きょとんとしやがって。まあいい、気を付けて帰れよ。ほら指令書だ」パサッ

 

 

 

 

 

「提督、もうお腹いっぱいなのですか? みなさんのお菓子にお料理、まだまだありますわ」

 

……いけね、回想モードそろそろ停止だな。それにしても、課長のセリフは一体……?

 

「まだまだ食えるさ、夕雲。いろいろ手伝ってくれたんだってな、ありがとう」

 

立ち上がって、自分の皿にテーブルの料理をどんどん盛り付けていく。

 

パクッ。

うん美味い。

 

「ほら、夕雲も食べなよ。美味しいぜ」

 

「私はもうお腹いっぱいで…あ、下さるんですか? それじゃ、いただきます」パクッ

 

「ウチはデカいから何かと物入りなんだが、食事の費用だけは絶対に最優先なんだ。良かったら、これからも腕を振るってくれると嬉しいな」

 

新しい仲間にウチの方針を伝えておく。

 

「まぁ、そうでしたか。ふふ、そうですね。機会があれば是非」ニコッ

 

「約束だよ。分からないことがあれば、何でも……」

 

 

 

「ひぎいいいいぃぃぃぃぃぃ! 痛たたたたたたたたたたナックルパートはダメ! ダブルナックルで頭プレスとかダメだから! 痛たた! ゴメンって木曾!」

 

室内に響きわたるスクリーム。

 

「逃げられると思ってたのか? DQN女子ってのは、どういう意味だあ長波ィィィ!」グリグリグリ

 

「あ、ダメ! それダメ! 言ってるから! メリメリ言ってるから! しょうがないじゃない、収容任務の木曾や夕雲や秋雲と違って、私は離れて周辺警戒任務だったんだからぁ!! あいた! 直ぐには気配に気付かないってばぁ!! やばっ! ちょ、やばッ!」

 

「それはつまり仮にオレだって気付いても、内心ではやっぱり思ってたんだろうがああぁ!? そもそも港じゃ一緒だァ!」グリグリグリグリ

 

「ひぎいいいい! あ、秋雲! 助けて! アンタ何楽しそうに笑ってんのよ! 助けてってば!」

 

少し離れて、生暖かい目線を長波に送ってる秋雲。長波と違って、ギリギリとはいえ木曾のことを思い出してた彼女にしてみれば、ただただ自らの幸運を噛みしめる瞬間なんだろう。それを放棄して騒ぎに飛び込むのは……ないな、うん。

 

「あひいいいいいい! いいの!? 私がキズ付いたら、大事な戦力の損失よ!? ここのお風呂は凄く素敵だし、こうなったら一ヵ月ぐらい戦線離脱で優雅にセレブ気分を満喫だわ!」

 

すげぇ。

あの木曾を相手に、懇願から反撃へとシフトしたぞ…なかなかできることじゃねぇ。それに、もうウチの入渠施設をチェック済みかよ。

長波か…やるなあ。

 

「あぁん? こんなの撫でてんのと変わんねえだろうがああ!!」グリグリギリギリ

 

「ちょっ!? ありえないから! ヒネリ入れるとかマジありえないからああ! 誰か助けてええぇ!」

 

 

 

提督と艦娘は不在の静かな鎮守府なんて、寂しいもんだぜ

 

 

 

普段から元気な木曾だが、こんなにはしゃぐ木曾は見たことない。やっぱり嬉しいんだろうな。そして木曾は、決して誰かを傷付けたりしない娘だ。

 

「木曾、そろそろカンベンしてやってくれないか。頼む。長波は多分、悪気なんてなかったんだよ。つい思ったままに言っただけなんだ」

 

「そう! そうなのよ! ねっ、木曾! 提督のお言葉よ! ちゃんと聞かなくちゃダメなんだから! イタッ!」

 

「…まったく。分かったよ、お前に言われちゃしょうがねぇ…勘弁してやるか」

 

「ふい~、助かったあ~。あ、ありがとね、提督。改めて、これからヨロシク!」ギュッ

 

ムダのない動作で俺の手を握る長波。てか、もう復活したのかよ。今までのウチにはいなかったタイプだな…これから楽しくなりそうだ。

 

「木曾は本当に素敵な艦娘だよ。長かった空白を、これからココで埋めてくれ」ギュッ

 

「…やっぱり、面白そうな人だ。活躍してあげるから期待してて! そうだ、夜になったら会議だっけ?」

 

「慌ただしいが、みんなを迎えられて嬉しいんだ。少しでも早く、お互いの自己紹介を済ませたい」

 

「素直だねえ、いいよ~」ニッコリ

 

 

 

          続く




来月は9周年ですね
本当に愛されてる艦隊これくしょん
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。