鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-3話

「提督……り……ぅ」

 

「………?」

 

「あり…が…とぅ……」グスッ

 

……海風の次はタルトかよ。

新しい仲間たち、すっげぇ感情豊かだわ。

 

 

 

第五-3話

 

 

 

スタッ…ドサッ

 

 

 

「大将、これで全部です。でも本当にいいんですかい、我々が運ばなくて?」

 

「大丈夫だよ。朝早くから頑張ってくれたんだ、ここから先はこちらでやります……どうです、新しい仲間の印象は?」

 

バショウから下船した妖精さんたちを新しい職場となる工廠に送り出した後で、名取やタルトたちをゴローさんと彼の部下に紹介した。青空の下で潮の香りに包まれながらの対面ってのも、なかなかいいもんだな。

 

「天龍さんや木曾さんとは、また違った感じですな……特に名取さんは、何て言うか、その……」

 

「大人しい?」

 

「ですねえ。拍子抜けたあ言いませんが、ちょいと驚きました。暁さんたちは、まあ仕方ありませんが、あの方はもう見た感じ高校生ぐらいなのに」

 

「多分これから、いい意味で驚かしてくれると思います。くーやタルト……いちばん小柄な子と、マントの子はどうですか?」

 

「…あ…それはまあ…小さなほうは、静かに見えても結構ハキハキしてそうで、響さんに似てますな…。ただ、マントのほうは…」

 

口籠るゴローさん。やっぱり刺激が強過ぎたか。

 

「露出が多いからね。ビックリしました?」

 

「そりゃあもう。肩や脚の防具とかマントは頼もしい感じですけどね、他はセーラー服と小さな水着だけですぜ……しかも本人は平気でニッコリ笑ってた。こいつらの驚きぶりを見たでしょう? 大将、くれぐれも間違いだけは起こさないでくだせえ」

 

「はいゴローさん。以前の俺ならともかく、今はちゃんと自分を抑える自信があります」

 

「それなら安心です……艦娘を一気に十人以上も仲間にするなんて、流石は大将だ。これからもゲンやあいつらと一緒に、お手伝い致します」

 

「ありがとうゴローさん。食堂にお昼の準備ができてますから、ゆっくりしてください」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

「いただきます、隊長!」

 

ゴローさんと彼の部下たちが、元気な声で応えてくれる。

俺の肩書は分室室長だが、ココのみんなには思い思いの呼び方があるし、俺もそれでいいと思ってる。艦娘のみんななら提督とか司令、職員のみんななら大将とか隊長といった具合だ。

 

「また何かあったら、頼りにさせてもらうよ。今日はありがとう、お疲れ!」

 

「お疲れ様です大将」

 

「お疲れ様です!」

 

食堂へと向かう一同を見送り、すぐ傍らに浮かぶバショウへと視線を移す……早朝から活躍してくれた彼ら。

ほんと助けられてるな俺。

 

「司令官、お話終わった?」トコトコ

 

自己紹介が終わった艦娘たちと共に待っててくれた雷が、こちらへと向かってくる。

 

「ああ、終わったよ。お待たせ雷、木箱は妖精さんの荷物、段ボール箱は司令部からだ」

 

ヒョイ。木箱を1つ持ち上げる。

 

「俺はみんなと一緒に木箱を工廠まで運ぶよ。雷、段ボール箱を執務室に運んでおいてほしい」

 

「ええ、任せて…あ、ちょっと待って! すぐ終わるから、屈(カガ)んでくれる? 箱も下ろしてね」

 

 

「これでいいかな」

 

片膝を折り曲げてしゃがむ俺。何だか女王様との謁見みたいだな。

 

「少し俯(ウツム)いて…うん、それじゃ始めるわね…よいしょ」スッ…サッ、ササッ

 

雷の小さな手が、髪の中を何回も軽(カロ)やかに流れていく。

気持ちいい。

 

「ちゃんと櫛で梳(ト)かさなくちゃダメよ…司令はちょっと目を離すと、直ぐにボサボサなんだから」

 

俺の頭を両腕で包みこんでいる彼女の声が伝わってくる……そして柔らかな体の感触と、多分シャンプーの心地よい香り。

 

「はいおしまい。お昼ご飯、ちゃんと食べてね。食堂でもいいけど、冷蔵庫におにぎりもあるから」ニッコリ

 

天使の微笑みに魂を持っていかれそうになったが、何とか踏みとどまることに成功する。

もう1人の天使は今朝、おかずを分けたら不思議そうな顔をしつつも、美味しそうに食べてた。

 

「雷の艦むすを食べそこなうなんて大事件だよ。ありがとうな、頂くよ…梅干しある?」

 

「バッチリ。それと、昆布もね……あ、みんな来たわね。それじゃ午後も頑張ってね」ヒョイ

 

段ボール箱を軽々と持ち上げて立ち去る雷。そして、こちらへと近付いてくる仲間たち。

 

「提督、大きな港だね~。大型船の喫水でも余裕でしょ? あ、手伝うよ」ヒョイ

 

「コンテナ船や豪華客船でも全く問題ないくらいだよ、秋雲。レジャーとか向けに貸し出して、使用料を得られたらいいんだけどなあ」

 

「機密上、不可能ってわけだね。ココって、もしかして赤字?」

 

「もう秋雲ったら、そういうことは……」ヒョイ

 

「いいんだよ夕雲、ここはもうみんなの家だ。自分の家について知るのは自然だよ……夕雲にも、そしてみんなにも知っておいてほしい」

 

ほんの少し声を大きくして、

 

「運営の費用に関しては大丈夫だ。ただ、見ての通りの規模だ……施設の維持管理が、とにかく大変なんだよ。さっき雷が運んでいったのは司令部からの荷物なんだが、恐らく予算の配分に関する通知も入ってると思う。後で読んで、これからの任務に役立てる積りだ」

 

「あれ? えーっと、鎮守府の運営ってさ、資金とか予算に関しては総務課の仕事でしょ……提督はあくまでも戦闘と鎮守府防衛、それと対外交渉の責任者よね?」

 

「その通りだよ。但し俺たち広報課の分室室長にも、総務課よりは劣るが、ある程度の範囲内で予算を組む権限が与えられているんだ。無駄遣いしないように気を付けてるよ」

 

「あ…あの……」

 

「海風、どうした?」

 

「昨日、私たちのために開いてくれたパーティーって、もしかして……」ヒョイ

 

「そうだ。俺が費用を計算して、金庫から出してきたんだ。よし、みんな持ってくれたね……後は歩きながら話そう。くー、俺たちの運んでる木箱はちょっと重いから、職員にぶつかったら大変なんだよ……先頭に立って、誰か来たら、ぶつからないように守ってほしい。目的地は工廠だ」

 

「うん、わかった。にんむだね」トコトコ

 

「そうだ、しっかり頼むよ。それじゃ行こう…………海風、話の続きだけど、みんなの歓迎パーティーはとても大切な行事だ。そのための予算を出すのはむしろ、嬉しいくらいだよ。気にしないでほしい」

 

「そうなんですか……分かりました、提督。ありがとうございます」ニッコリ

 

「提督、重くない? 重かったら持つよ? これ結構、目方あるよ…私たちは平気だけど」

 

「ありがとう鬼怒。そうだな、三十キロぐらいありそうだな……でもこの程度なら大丈夫だよ。中身は妖精さんたちの工具とか部品らしい。気を付けて運ぼう」

 

「はい、提督」

 

「提督、よろしいでしょうか?」

 

「いいよ夕雲、どうしたの?」

 

「提督、あの時……一人だけ、会場から逃げ出した人がいたんです…」

 

「俺が第五室長と対峙した時か。確かにいたね」

 

「はい。あの人はどうなったのか、ご存知ではありませんか?」

 

「その男なら無事だ。夕雲たちが入ってきた直後に建物から飛び出したんだけど、水偵の妖精さんが複数で進路を妨害しながら包囲して、逃亡を諦めさせたからな。第五室長が出ていく時に、一緒に引き揚げたよ」

 

「そうでしたか…安心しました、ありがとうございます」ニコリ

 

俺は連中のことを、許すべからざる内通者と断じていたんだけどな……夕雲といいタルトといい、どうも俺とは考え方が違うみたいだ。例の密会は半年くらい続いていたらしいから、彼女たちはその間、第五室長らと会話や歓談を交わしていたわけか。意外と優しかったとか、紳士的だったとかかな……。

認識を修正。

取り敢えず、単なる悪人だと決め付けるのはやめよう。

 

「あのね、おにもつはこんでるの。あぶないから、ちょっと、まっててくれる?」

 

くーの声。見ると、食堂スタッフの1人だった。いつも明るくて礼儀正しいので、ココでの人気が高い女の子だ。

 

「あ、そうなんだ。分かった、待ってるね……室長さん! お疲れ様です」ペコリ

 

「ハヤもね。これから寮に戻るのかい?」

 

「はい、お昼のピークは過ぎたので夕方までのんびりしちゃいます」ニッコリ

 

「ウチは五十人を越える大所帯だから大変だよな。ゴローさんたちの分も、ありがとう」

 

「ステーキ定食六人前ですよ! しかも大盛り! みなさん相変わらず健啖家ですね。 室長さんのポケットマネー、たっぷり頂きました」ニヤリ

 

「食費だけは絶対に出し惜しみしないからな、これからもお願いすることは何回もあると思う……そうだハヤ、もっと大所帯になったぞ。さっき声を掛けた艦娘も含めて、総勢十一人の新しい仲間さ。みんな、食堂のスタッフとして頑張ってくれてるハヤだよ」

 

「あ、こちらのみなさんなんですね………今朝の回覧板、見ましたよ。今回の艦娘さんは、交流局にも秘密なんですよね、了解しました! みなさん、私はハヤです、よろしくお願いします!」

 

回覧板というのは昨晩、暁と響そして雪風が作成してくれた2種類の書類……書庫に保管する書類と、鎮守府の職員たちに通達する書類……その後者の方を挟んだクリップボードだ。

メールは各自の端末に残るからヤバい。

何でもかんでもスマホやPCに頼るから、世間じゃ個人情報の流出が止まらないんだと思う。

俺たちは特別な場合を除いて、昔ながらの方法を採用しているんだ。

 

「くーだよ。よろしくね、はや」

 

「はい、くーちゃんよろしくね!」

 

「よろしく!」

 

「よろしくお願いします!」

 

次々に挨拶していくみんなと、それに応えるハヤ。一列縦隊に並んで、しかも荷物ありだ…きちんとした自己紹介は後日、各自で……だな。

 

「ハヤ、そろそろ行くよ。今日はありがとうな」

 

「あ……あの、またのご利用お待ちしてますね」ニコッ

 

「ああ、じゃあね」

 

再び歩き始める俺たち……やがて見えてきたのは、木々に囲まれた大きな煉瓦造りの建物。年季を感じさせる赤茶色の煉瓦1つ1つがたくさん集まっている色彩は、一種の重厚さを放っている。

 

「うわー……すっごい年代物だな……しかもおっきい。前のトコとは大違いだ」

 

感嘆の声が長波から。

 

「三つの艦隊から来てくれた妖精さんたちが暮らすためのスペースも、たっぷりあるぞ。一階は大広間になってるんだ」ザッ

 

周りをぐるりと囲む煉瓦の壁に設けられた唯一の門をくぐり、正面玄関へと近付いていく。そして

 

 

ギイイィ………。

 

 

あと数歩というところまで来た時に、扉が開け放たれた。中から現れたのは、作業着に身を包んだ1人の小柄な女の子。

 

 

 

(……………!)

 

「(ああ、久し振りだね職長! この前はありがとうな、暁も電も空中ブランコ、凄く喜んでたよ)」

 

彼女たち妖精さんは、言葉ではなく思念を伝える。内容をみんなにも分かってもらうために、言葉と念話の両方を使ってやりとりする俺。

 

(………………! …………?)

 

「(ごめんよ、もっと来るべきだった……ああ、妖精さんたちの荷物だよ。そして彼女たちも、新しい仲間だ)」

 

 

 

          続く




オープニング本当に素敵です
これから始まるストーリーへの期待を掻き立ててくれるような
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