鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第三話

「そうなのです! さっき、姫が…」

 

「姫」? まさか……

 

「先週の戦闘に於て拘束した深海棲姫が、目覚めました」

 

 

 

第三話

 

 

 

ヴィイン…ヴイイイン…ガタン

 

コツコツ…スタスタ…トコトコトコ…

 

 

 

我が鎮守府の地下に広がる特別区画へと繋がるエレベーターから降りて、特別区画へと歩みを進める俺と木曾、さらに第六駆逐隊。

これから対面する深海棲姫は、俺たちの敵であり脅威たる軍勢の一員だ。貴重な機会だし、ウチにいる艦娘を全て連れて来ようかと思ったが、考え直した。彼女たちは艦船だ、敵を目(マ)の当たりにすれば、いくら戦場ではないとはいえ戦士の本能が覚醒して、襲いかかっていく可能性がある。

いやむしろ。

戦場ではなく鎮守府だから

こそ、更にヤバいと思う。

 

ここは彼女たちの家。

 

かつて日本に点在していた母港がそうであったように、今この時代ではここが家なんだ。先週の戦闘後、ここに収容したことは艦娘全員に知らせてある。この1週間は何事もなかったけれど、家の中に敵がいるという状況は、彼女たちの神経に少なからず負担を掛けたはず。今その状態で対面させれば、何名かは冷静さを失うかも知れない。全員を一度に集めて会わせるのは、やめておこう。

まずは、いつも落ち着きがあって頼りになる木曾と、レディーたらんとするだけあって、必要なときには物静かな振る舞いのできる暁が率いる第六駆逐隊の面々からだ。

そして…

 

プシュー…ウイイン……

 

目の前の機械制御式隔壁が左右に開く。この先は厳重に管理されているということが、ひしひしと伝わってくる重厚な造りだ。

中から現れたのは雪風、そしてその隣に響。俺と木曾が話をしていた間に、この特別区画を監視する職員から深海棲姫が起きたという連絡を受け、直ちに駆けつけてくれた2人。いつも思うけど、ココは艦娘も職員も皆、熱心に働いてくれるからありがたい。前任の提督が素晴らしい手腕を振るって築きあげた鎮守府、ということかな。

 

「おはようございます、司令! 目下、異状ありません」

 

「おはよう雪風。そうか、ありがとう。二人一緒に出迎えてくれたってコトは、隔離場内の監視をゲンさんかゴローさんが?」

 

「ゲンさんです。雪風が残ろうとしたんですけど、二人で迎えに行くようにと…」

 

「ゲンさんらしいなあ」

 

「司令、おはよう」

 

「おはよう響、あれからしっかり眠れたか?」

 

「うん…ニ時間ぐらい。もう元気いっぱい」シャキーン

 

「そのチカラを頼りにさせてもらうぞ、ヤバいときには。姫はどんな様子?」

 

「なんだか戸惑ってるみたい」

 

「はい、暴れることも無く、隔離場内をウロウロと歩き回っています」

 

「やはり姫、ということかな…もしも鬼のほうだったら、状況は全く違っていたかもな。俺たちは運がいいよ、行こう」

 

隔壁をくぐり抜けて通路を歩いて行き、やがて次の隔壁に辿り着く。雪風が自身のカードキーを操作盤上の挿入口に差し込んで、幾つかのボタンを押すと、先ほどと同じように開いた。

 

目の前に広がるのは、凸(トツ)の形をした大きな区画。正面と左右にそれぞれ1つずつ、合計3つの扉があるが、俺たちの目的地は左側だ。

 

「ここに来るのは一週間ぶりだな。駆逐棲姫を収容して以来だ」

 

「この場所…いつも冷たい雰囲気」ギュッ

 

「ああ同感だ。初代提督の時代にいろいろ騒動があって以来ずっと、ここは使われてなかったらしいよ。だから当時の殺風景な状態のままなんだ」

 

「いつか変えられる?」

 

「変えられる。変えるさ。今は俺が戦闘部門の責任者だからね、この地下施設もこれからは遠慮なく手を加えさせてもらう」

 

響の小さな手を握りかえしながら扉へと近づく。

 

ガチャリ

 

入ってすぐ正面の壁に据え付けられているのは、横長の大きなディスプレイ画面。その両隣には、同じく横長だが小さな画面が2つずつ設けられている。隔離場内に埋め込まれた、5つの監視カメラから送られてくる映像を映し出すためのものだ。

そして、その中の1つに映るのは……

 

 

やっぱり可愛いな。

 

 

先週の戦闘後に拘束したときは既に失神してたけど、その整った顔立ちにはビックリした。

こうして動き回っているのを見ると、また違った印象が新鮮で目が離せない。

とはいえ、艦娘よりも可愛い存在なんていないけどな!

……おっと。

やべぇ何興奮してんだ俺。

今は目の前に集中だ。

 

……ヤツは敵。

ここ1週間、ずっと自分に言い聞かせてきたことだ。

ヤツは敵。

見た目に惑わされてどうするんだ俺。

深海棲艦どもの情報をあらいざらい白状させて、俺たちの勝利フラグを立てるんだろ。

指揮官らしく、敵に対して非情になれ!!

非情に………

非情…

 

 

 

 

 

 

 

 

…………できるかああああああああああああ!

何が非情だあああああああああああ!

そんなの鬼畜鎮守府の連中と変わらんわああああああああああああああ!!

 

決めた。

たった今決めた。

こんなに無垢そうな女の子に敵同士モードなんて発動できてたまるか。

見ろ、暴れるどころか好奇心に目を輝かせて子犬とかハムスターみたいにテクテク歩いてるじゃんか。

やーめた。

捕虜扱いやーめた。

そもそも最初から違和感あったんだ。敵だの情報だの、映画やドラマじゃあるまいし、艦娘の黒子たらんとする俺が自分の一存で、こんな一大事についての判断を下してどうするよ。

彼女の処遇は、艦娘みんなの反応を見ながら決めていこう。

あー何だかスッキリした。

 

 

「雪風、あいつは確かに駆逐棲姫で間違いない?」

 

「はい。ずっと以前に司令部から与えられたファイルに記述と写真があり、内容は一致しています。間違いありません」

 

「わかった。俺も早いとこ読んでおかなくちゃな」

 

「近いうちに一緒に読みませんか? 雪風は何回も読んだから、いろいろ役に立つかも」

 

「雪風、私たちとのお茶会も忘れないで。明石が残念がっていたのよ」

 

「あ…、すみません暁。はい、必ず行きます!」

 

「司令官、雪風にもリラックスさせてあげてほしいのです。もっと私たちのことも頼りにして」

 

「全くその通りだよ暁。俺がみんなに遠慮した結果、雪風の負担が増えた。演習と任務で疲れてるのに悪いが、これからは書類仕事も頼むことが増えそうだ。みんなの親睦を台無しにしないためにも」

 

「いつでも言ってね」ニコ

 

「助けられてばかりだな俺、嬉しいぜ……じゃあこっちは片付いたな。次は駆逐棲姫のほうだ。彼女の体調に問題はなさそうに見えるな。雪風、さっきと違うトコある?」

 

「いいえ、相変わらずですね。場内を歩き回りながら、あんな風に興味津々な様子で床や壁をペタペタ触ってました」

 

「てコトは雪風と響が入室した一時間前あたりから、ずっと同じ調子でハムスターしてたワケか…よく飽きないな。あんなに好奇心を示すぐらいだから、彼女たちの本拠地は、かなり違う造りをしているのかも知れない」

 

「司令官さん、ハムスターがどうしたのです?」

 

いけね、心の叫びが発露したか。

 

「少し気になることがね。それと、後でみんなに伝えたいことがある」

 

それにしても。

「駆逐棲姫」か。

「姫」……。

深海棲艦の呼び名はどういうわけか、だいぶ以前から知られている。

「駆逐」とか「軽巡」といったお馴染みの呼称がヤツらにも付けられているんだが、旗艦クラスになると更に別の単語が登場する。

 

根城とするエリアを表す「北方」とか「離島」とか「南方」などの単語が使われ、最後の締めくくりに「姫」または「鬼」のどちらかが付いて完成、だ。

 

例えば「軽巡棲鬼」とか「北方棲姫」なんて具合になるんだけど……

 

なんで姫と鬼なんだろう?

 

この鎮守府に配属されて、色々と学び始めた頃から持っていた疑問点。

未だに解消されなくてモヤモヤする。

まるで昔ばなしのヒロインとラスボスじゃないか。この国に仇(アダ)なすヤツらは当然ラスボスとその配下だしヒロインなんていないぞ。

以前は、そう思ってた。

 

深海棲艦の存在が初めて確認されたのは、皇紀2655年頃だったらしい。今は2681年だから、26年も前か。

勿論、当時は鎮守府の存在しない時代だったけど、戦後に組織された「国防省」の職員たちが活躍して、深海棲艦の生態を少しずつ明らかにしていったらしい。

その過程で、ヤツらを的確に描写する名称が導き出された……。

その頃の人たちに尋ねてみたいと、以前は思ってた。何で姫と鬼なんですか、って。

何で全て鬼って呼ばなかったんですか、って。

これじゃまるで、深海棲艦は凶悪な連中ばかりじゃないって言ってるみたいだよ、って。

 

でも今は違う。

さっき俺は何て言ったか。

 

やはり姫、ということかな…もしも鬼のほうだったら、状況は全く違っていたかもな。俺たちは運がいいよ

 

俺はとっくに姫と鬼の分類を受け容れていた。いつ頃かは覚えてない…最初は違ってたし。でも、俺にとって、深海棲艦は鬼ばかりじゃないというこのカテゴライズには、今じゃとても馴染んでいる。

捕虜扱いしないって決めた俺としては、自分を肯定してくれてるみたいで嬉しくもある。背中を押してくれるような、そんな感覚。

 

艦娘のみんながどう思うか、という問題は確かにある。

でも。

立ち止まってたまるかよ、もう決めたんだ。

みんなには、精一杯伝えよう。

 

「ちょっと待ってくれ、確かめたいことがあるんだ」

 

一同に声を掛けてから、壁に取り付けられた内線電話の受話器を手に取り、通話ボタンを押す。

 

プルルル

 

 

「お疲れ様ですゲンさん。さっきはありがとうございます」

 

室内の監視カメラに向かって軽く手を振る俺。

 

「やあ久しぶりだね大将。よくできたコだねえ、本当は大将に早く会いたいだろうに、ワシを独りにするのは申し訳ないって残ろうとしたんだよ。こっちはコーヒーとお菓子たっぷりの監視室でカメラを見てるから、気にしないで行ってあげなさいって言ったのさ」

 

よく通る元気で張りのある声。鎮守府のあちこちに目を光らせる、還暦を少し越えた古参の職員だ。

 

「艦娘と一緒の時間が少しでも増えるのは、嬉しいです。姫が目覚めたときなんですけど、様子を教えてもらえますか?」

 

「ああ、寝返りを何回か打ったから、そろそろ起き上がるのかと気をつけて見ていたら、間もなく目を覚ましてね。最初はビックリしていたよ。自分が何故ここにいるのか、見当もつかないといった様子だったな。キョロキョロしていたが、しばらくすると布団から出て、歩き始めたんだ」

 

「興奮しているとか、声を張り上げたりとかは…」

 

「全くなかったよ。こちらが拍子抜けするぐらいさ」

 

「そうですか…ゲンさんとゴローさんで昼夜ずっと見張ってて、どんな印象でした?」

 

「どんなって…あれは敵じゃないか」

 

「もちろんそうです。ただ、あの姫を長く見てる人としての率直な意見が聞きたいんです。敵という立場を抜きにして、単なる一人の部外者として見た場合、邪悪そうだとか、禍々(マガマガ)しくて落ち着かないとかってあります?」

 

「うーん…ヘンなこと聞くねえ。あ、おい、デスクに乗せるなよ! 書類が汚れたりしたら、俺たちゃこっぴどく怒られるからな…そう、そこでいい。ありがとう。……ああ、ごめんよ大将。食堂から昼食を運んで来てくれてね。えぇっと…そうそう、深海棲姫の印象だったか…。そうだなあ、単純に見たら、邪悪とか…そういうのは無いね…あくまでもワシの主観だよ。というか、むしろ可愛らしいぐらいだ」

 

可愛らしい…か。また背中を押してもらえたなあ。

 

「ゲンさんありがとう、凄く参考になったよ。しばらくしたら、彼女と直に会うから、監視続行よろしくです」

 

「いよいよやるのかい。わかったよ、任せな」

 

「お願いします」カチャン

 

 

「今の会話、聞こえたね。というわけで、一週間ぶりのエンカウントなワケだけど、ここで俺の考えを述べておこうと思う。

俺はあの子を追い詰めたくない。

できることなら、お互いに意志の疎通を図りたいと思ってる。理由はいろいろあるけど、彼女に友達ができれば、きっと何かイイことが起きそうな気がするんだ。当たり前だけど、艦娘みんなの戦いを否定する積(ツモ)りなんて一切ないからな。深海棲艦は敵で、みんなは頼りになる大切な存在だよ。でも、全てを撃滅なんてしたら、それは単なる新しい恐怖の誕生だ。そんな鬱エンド、俺は嫌だ」

 

「ああ」

 

「ん」

 

「分かりました」

 

「しっかり守るからね」

 

「気を付けてくださいね」

 

「さあ行くのです」

 

「みんな疑問とかないのか? 俺はとんでもないことを言ってるんだし」

 

「はい、ありません。私たち、司令に反対なんてしませんよ」

 

「雪風の言う通りだ、お前をずっと見てきたのは、オレだけじゃないんだぜ」

 

「分かった。行こう」

 

 

 

心の中で感謝しつつ、隔離場内へと通じる、ただ1つの扉の前に立つ。

 

(電、扉の陰は大丈夫か)

 

(はい司令官さん、姫は離れてますよ)

 

カメラの映像を確認するために残った電との念話。

いきなり激しいプレッシャーを与えたくはないからな。

 

ギイイィ……

 

こちらへと振り向いた駆逐棲姫。少し驚いたようだが、表情に怯えた様子はない。天龍が一緒だったら、反応は違ったろうけど。

 

(木曾、もしものときは頼むぞ。それまでは、扉のトコで待機しててくれ)

 

(ああ、任せとけ。あいつがヤバい雰囲気になったら、飛び出て守ってやる)

 

(心強いよ)

 

「今回は初めての接触だから、慎重に慎重を重ねるぞ。暁、響、雷、雪風。これを彼女からよく見えるように食べるんだ」ジャジャーン

 

「明石が焼いてくれるクッキーじゃない! どうして司令官がこれを?」

 

「俺は甘いものが好きだからな。昨晩の作業の合間に全員で食べようと思って、焼いてもらってたんだ。結局その時間はなかったけど、ここで出番さ」

 

「それじゃ、いただきます」パク…モグモグ

 

「いただきます、司令」

 

「ほら、暁、響も」

 

「いただきます」

 

敵意がないことを相手に伝えるためには、贈り物をするというのは適切な手段だ。言葉じゃ時間が掛かるからな…通じるかどうかもわからないし。

 

トコトコ…。

 

近付いてくる彼女。今のところ順調だな。だがここで焦ると台無しだ。俺は残りの明石クッキーをカゴに入れて床に置く。早くテーブルとかも入れたいな…危険だから今はダメだが。

 

「よし、ここまでだ。ちょっと素っ気ないけど、欲張ると失敗するからな」

 

相手をビックリさせないように、ゆっくりと離れる俺たち。しばらくこっちを不思議そうに見ていたが、視線は直ぐに、床のカゴへ。

そして……

 

 

 

パクッ

 

 

…………ニッコリ

 

 

 

あー、あれだ。

一生忘れられないってやつだ、これ…。

 

 

 

          続く




書くことの難しさを実感しています
でもだんだん充実感が
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