待ってたぜ。
俺たちは手を取り合わなくちゃいけないんだ。
「聞かせてくれ」
「第八艦隊と手を結びたい。友好の証として、私自らがご挨拶に伺いたい、とのことです」
第五-13話
ザザッ…ザッ…ザッ…
俺たちの鎮守府から直ぐ西隣に広がる大きな砂浜に、18人の艦娘みんなと共に足を踏み入れる。この辺り一帯は周囲の森林も含めて立ち入り禁止区域なので、海水浴シーズンでも人はいない。あと2ヵ月もすれば、毎年ここで泳いでいるウチの艦娘や職員にとって楽しみな時期が到来するんだ。
「あれだね……来たよ提督、報告の通りだね!」
「うん阿武隈、俺にも見えたよ。でも人数は不明だな……あまり大勢で行くようなことはしない、って連絡だったけど。くー、頼む」
「さんにんだよ、しれい。しきかんとね、おともがふたり」
護衛がたったの2人?
途中で鬼どもから襲撃される可能性だってあるだろうに。ということは………
「くー、姫の指揮官はとても強い人かな?」
「うん、すごいの! ふだんもつよいけどね、おこったらすごくこわいの……おになんかこなごなだよ!」
粉々か。相当な手練れだな。
「分かった、ありがとう。くーの探知能力は折り紙つきだな……しかも陸上でも発揮できるのが有り難い。名取は陸上からの索敵って、どう?」
「は……はい、提督…だいじょうぶ、です………」///
緊張しつつも、こちらの質問にはキチンと答えてくれる名取。焦らず彼女のペースに合わせていこう。
「鎮守府でいつも頑張ってくれてる熟練見張員のみんなと同じか……暁、艦娘は陸上からの砲撃や射撃が一切不可能なのに、何で索敵や感知はできるんだと思う?」
「はっきりしたコトは分からないの。あくまでも私の想像で良ければ………」
「構わない。是非とも聞かせてくれ」
「分かりました……陸上で私たちの体力が激減して火器が使用不可能になるのは、私たちが艦船だからという事実で説明できると思うの……でも索敵って、艦船に備えられた設備だけで行うワケじゃないでしょう?」
「そうだな。双眼鏡を使う索敵だってあるもんな」
「それよ。私たち艦娘は、あの頃の人々と共に戦った。だから私たちはあの人たちの思いや願いだけでなく、様々な技術をも受け継いでいる………たとえば柔道」
「確かにそうだ。みんなが今の時代に顕現してから誰かに教わったわけでもないのに、最初から身に付けている。昔の柔道人口は凄まじかったからな」
「索敵も同じだと思うわ。あの人たちが日々、雨の日も風の日も欠かさず繰り返していた苦闘の名残が、今の私たちに宿ってる。柔道や索敵は私たち艦船固有の能力じゃなくて、当時の人々から受け継いだもの……だから陸上でも、発揮できるんじゃないかしら」
「成る程な……よく分かったよ。ありがとう暁、これからも相談に乗ってね」
「当然よ。レディーの嗜(タシナ)みなんだから」ニッコリ
「ね、提督! 提督は艦船じゃないから、もしかして陸上でも私たちの兵装で攻撃できるんじゃないですか!?」
えッ?
「お、それは試してみる価値アリだな」ニヤリ
「ちょっと待て木曾、考えたこともなかったぞ。つーか兵装だって艦船の一部分だしムリだろ。どうしたんだ鬼怒? いきなりだね」
「だって、提督って結構イイ体付きだから、小さな兵装ならきっと反動にも耐えられます! ゴローさんは、もっとスゴいけど」
「あの人は元々国防省派閥の一員で、若い頃は人事課長と同じく現役の隊員だったんだ……並大抵の体力じゃないよ。何故か派閥を離れて、我が第八艦隊に来てくれたんだけどね」
「今でも派閥とは繋がってんの?」
「長波、あの人はもう何年も国防省には行ってないよ。時おり司令部に顔を出すことはあるから、昔の同僚と旧交を温めるくらいはあるかもだけど」
「人事課長とか?」
「有り得る。聞いたことはないけど、ゴローさんが話す気になれば話してくれるだろうし、こちらから詮索はしないよ」
「提督、おととい雪風と一緒に食堂でお昼食べてたらゲンさんって人に初めて会ってね、挨拶したよ。あの人も同じ派閥かい?」
「いや、ゲンさんは国防省じゃなくて国土省の派閥だったんだよ谷風。でも二人はココの古株で、先代の提督と仲が良いって共通点があるね。三人は本当に互いを気の置けない相手として接しているのを、何回か見たことあるよ」
「両方の組織とパイプがあるのですね。困った時には、何かしらの援助を請うことができるかも知れませんわ」
「同感だ夕雲。どちらの組織でも海をよく知る大勢の人たちが働いているから、協力関係を保つのは非常に重要だ」
第五室長の秘書艦だった夕雲。室長の派閥はどっちなんだろう? でも彼女に聞いてみたりはしない……それはとても無礼なことだ。夕雲には夕雲の私生活がある。
「かなり近付いてきたな……くー、タルト。俺の側に来てくれ。俺たち三人が、みんなの前に出る形にしたいんだ。向こうからよく見えるようにね」
「うん、わかった」ザッ
「分かりました、提督」ザザッ
「ね、私たちもちゃんと整列した方がいいかい?」
「いや、フツーでいいよ。この交渉が双方の合意に達するかどうか、現時点では不明だからね。いつの日か司令部のお偉方が登場するぐらいの関係になれば話は別だけれども、今はフツーにいこう」
「うん、分かったよ提督」
「来ました……ちょっとドキドキしますぅ…」
ザザザアァ………ザザッ!…ザッ…
移動の速度を減じてから次々と砂浜へと上陸する3人の深海棲艦たち。色白な肌に陽光がキラリと反射する様子は、何だか妖しい色香(イロカ)を感じさせる。でもその身に纏う戦闘装束と艤装が放つ輝きは紛れもなく、彼女たちの前に立ち塞がる敵が最期の瞬間に味わう死神の鎌のそれだ。
「提督、指揮官ぽい人が艤装を外してるね?」
「そうだな谷風。どうやら護衛は、あそこで待っている積りらしい……彼女だけが、こちらに歩いてくるんだろう。谷風、みんな、ここで待っていてくれ……雪風、くー、タルト。行くぞ」
「はい、司令」
「うん」
「分かりました、提督」
(しっかりな)
(ありがとう、木曾)ザッ
陸上では艦娘も深海棲艦も兵装による攻撃を封じられる。艤装を外さなくても危険はないわけだが、友好の意思表示のためには必要な行為だ。
「遠路はるばる、ようこそ鎮守府へ……第八艦隊鎮守府の戦闘部門指揮官です。規則により名前を明かせないご無礼を、どうかお許しください。今回のお申し出を嬉しく思います」ペコリ
今回の話し合いは向こうからの申し出によるものだ。こちらはそれを受諾する側になるから、人によっては尊大な振る舞いを見せる場面だろうけれど、俺は敢えて自分から先に挨拶の口上を述べることにする。こちらが姫グループとの交流に積極的だということが、これで何となく伝わってくれると良いんだけど。
「こちらこそ……わざわざお出迎えくださるご厚情に感謝致します……。かつて深海棲艦すべての軍勢を束ねし女王……私は彼女の、第一の従者でございます。故あって、名乗る名を持たぬこの身ではありますが、みなさまとの交流を……心より望んでおります」ペコリ
名前がないのは予想通りだ……くーとタルトだって国防省ファイルでは駆逐棲姫と戦艦タ級だし、彼女に至っては一切記述されていない……そもそも深海棲艦同士が固有の名前で呼び合うなんて聞いたことがない。彼女たちには独自の識別方法があるだろうし、くーにもタルトにも聞いてみたことはない。
そして彼女自身の言葉によれば、かつて深海棲艦の統率者だった女王の右腕……つまり以前は軍勢のナンバー2だったわけか。ここ数日間の準備中、くーとタルトに、彼女については何回か聞いてみたけどこれは知らなかったな………。
チラリ
ん、一瞬だけくーとタルトの方を見たのか…やっぱり気になるんだな。タルトのようなバトルオーラは感じられない……こちらへの警戒心を解いているということかな?
雪のように白く美しい髪と肌。こちらを見つめる眼差しは穏やかでありながら真剣な輝きを宿している……そして、思わず目を疑う程の爆乳を少しだけ隠している大胆なドレスは白を基調としながらも、所々に黒のアクセントが鏤(チリバ)められている。上半身とは対照的に腰から裾までゆったりと広がりながら包み込んでいるデザインは、タイトアンドフレアラインってやつかな……お洒落な深海棲姫なのかも。
「分かりました。お互いの呼び方については、これから何とかするとして……先ずはご紹介します、第八艦隊旗艦の雪風……鎮守府では秘書艦とも呼ばれます」
「雪風です。はじめまして」ペコリ
「どうぞ、よろしく…」ペコリ
「そして……ご紹介、ではなくて………本当に、心強い仲間、ですよ。くー、そしてタルトです。二人の指揮官である貴女となら、是非とも協力したい」
「ひさしぶり。くーだよ、おなまえもらったの」
「お久し振りです。今の我が名はタルト、です」
「まあ………本当に、久し振りね…………」///
ほんのりと頬に赤みが差してる。さっきまでの凛とした印象が何だか和らぐな。
「あの……、この者どもに、名前を授けてくださったのかしら?」
かしら?
「出過ぎた真似をしてしまったこと、どうかお許しください……駆逐棲姫、戦艦タ級などという呼称は、あまりにも似つかわしくないと思いましたので」
「これからは、くーってよんでね。でないと、おへんじしない」
…何だか強気だな。大丈夫なのか?
「私もです。そして今の私は提督を守る鎧であり刃でもある。もう貴女の指揮下には戻らぬから、その積りで」
!?
ちょっ………! おま!!
「……………………………」
何でこうなるんだよ!
慣れない口上を練習して今日に備えた俺の苦労、どうしてくれるんだお前らああああああああああ!!
「……………………そう」
………どうすりゃいい。
2人を力ずくで押さえ付けて謝らせるか?
いやムリだ…俺の補正を受けてる。ここは陸上だがこれだけ俺の近くにいる2人はヤバい。特にタルト。勝てる気がしない。
「本当に…………変わったわね。いえ、変えてくれた、かしら…………ね、提督…………」
決裂かよ。
こうなりゃヤケだ。
やってやる。
くーとタルトと連携して彼女を確保してからの説得作戦………よし。
みんなが見てるんだ。
姫グループとは、絶対に協力しなくちゃいけないんだ!
むにゅん
………え?
「まったくもう……どうしてくれるの?」ギュウウ
……………………この感触。
「もう! 私の部下を、こんなにステキにしてくれちゃって!! 信じられない!! 提督ちゃん! アナタ、自分が何したか分かってる!? もう~提督ちゃん! 決めたわ!! おい、私の艤装を持ってこい! 我らは今より提督殿の本陣へと赴き同盟を結ぶ! 」
「はっ!」
「…………重いんだけど、コレ………人使い、荒っ」
「さぁ~提督ちゃん、行きましょ!! 案内、よろしくね?」ニッコリ
(…………タルト)
(これが、私たちの指揮官、です。甘やかすと調子に乗りますよ、お気を付けになってください……)
続く
艦これ改のビジュアルって音楽やシステム同様に素晴らしいです