「さぁ~提督ちゃん、行きましょ!! 案内、よろしくね?」ニッコリ
(…………タルト)
(これが、私たちの指揮官、です。甘やかすと調子に乗りますよ、お気を付けになってください……)
第五-14話
ムギュウウウウ
「う~ん変わってないわね! あの頃を、思い出すわ~」///
森を通り抜けて鎮守府に戻ってきた俺たち。そして敷地内に入った途端に、歓声をあげた指揮官……彼女は歩きながらずっと、俺の腕に抱き付いている。タルトよりも更に豊満なふくらみを押し付けながら。
「提督ちゃん、ずっとここで戦ってるんだあ………そっかあ……」///
「もしかして……以前、ここに来られたことがあるのですか?」
さっきの遣り取りでペースを乱した……何とかしないといけない。出来るだけ平静を装って、話し掛けてみる。
「うっ………」
「う?」
「うわあああん! 提督ちゃんが、フツーに話してくれないいいい! 私、頑張って仲良くお話してるのにいいいい! やだああああああ!!」ブワッ
なんでガチ泣きなんだよ!
「隊長!! どうしました!?」ザザッ
「何でもない! 大丈夫だからゲートに戻っていいぞ、ギチ!!」
「そう…ですか? でもお客様が、隊長に抱き付いて泣いてるんですが」
「色々あるんだよ! 傷付きやすい年頃って誰でもあるからな!」
もう何言ってんだか自分でも分かんね。
「大丈夫よ。あの人ね、鎮守府を見て感激してるの。ここは私たちに任せて」
「暁さん…分かりました。では隊長、失礼致します!」ペコリ
帽子を取り一礼してゲートへと戻る職員のギチ。後で差し入れ持って世間話ついでに説明しておこう。
「ほら、落ち着いてくだ……落ち着いて。みんなが見てるよ、あなたの部下も」
「うぅっ……提督ちゃん……少し優しくなったあ…」///
マイワールドの住人かよ。脱力しそう……。
「提督を困らせないで! 私、提督の鎧だって言ったよね!?」
「う……ううぅ~」
(頼むタルト。そっとして
やってくれ)
(でも……)
(嬉しいよ、ありがとな)
(……)///
いつものタルトとは違った雰囲気だな。あんな声も出すのか。
「ぜんぜんかわってない。しれいにきらわれるよ?」
「いやあ! 提督ちゃん、嫌っちゃいやあああ!」ギュウウウウ!
しがみつく指揮官。でも陸上だから、力は微々たるものだ。
(くー。彼女はいつも、こうなのか?)
(うん、いつもだよ。たたかうときはきびしいけど、ふだんはおとこのひとがだいすきなにくしょくなの。しれいはわたしたちにやさしいってわかったから、しきかんはしれいがきにいったの)
そうか、部下を大切にしてるんだな……少しだけど彼女との距離が縮まった気がする。
けれど……
(男? 姫グループに男がいるのか?)
(ううん、いないよ。しきかんはね、むかしつきあってたの。すきなひとと)
何だって?
もしかして鎮守府を見たことがあるのは、陸上で好きな男と一緒に生活していたからか? そしてその相手は、鎮守府に出入りすることができた人間?
「提督ちゃん、嫌わないで! 嫌わないでええええ!!」ブワッ
さっきまでは年上のお姉さんって印象だったけど、今は子どもみたいだ……そう言えばさっき、一瞬だけ泣き止んだな。よし、それなら試してみるか。
(提督、大丈夫ですか? 私たちに何か、できることがあれば……)
(ありがとう早霜、大丈夫だよ。ちょっとビックリしたけどね……何とかしてみる。見ててくれ)
(はい、提督)
彼女の護衛2人が、こちらをジッと見ている。俺がどうするのか確かめる積りだろうな。しくじるわけにはいかない。
「いい子だから、そろそろ泣き止むんだ……ほら、行くよ」ポンポン
「…………ふぇ?」グスッ
「俺たちの同盟だよ。結んでくれるんだよね?」
「あ……うん、そう。そうなの………提督ちゃんと、同盟を結ぶの……」
いいぞ。このままいけそうだな。
「俺の執務室に案内する。大きな部屋だから、ゆっくりできるよ。紅茶とレモンティー、どっちがいい?」
「え……えっとね、紅茶…」
(雷、明石、頼む)
(分かったわ、先に行くわね)タッ
(クッキーたくさん焼いたんですよ、いっぱい召し上がってくださいね!)タタッ
手を振って2人を見送る。
「紅茶だな、分かったよ。さ、行こうか」ギュッ
指揮官の肩を抱きながら歩き始める俺。背が高いんだな……タルトと同じくらいあるぞ。
「うん、提督ちゃん」ニッコリ
さっきまでの泣き顔が嘘みたいに思える笑顔……やっぱり子どもみたいだな。理性よりも、感情を優先する性格なのかも。
(提督、あの………)
(名取、どうした?)
(あ、あの………指揮官さんの兵装が、お口を開けて、グゴゴゴゴって唸ってて……)
指揮官の兵装は、今まさに炎の息を吐き出さんとするドラゴンがパックリと開けた口を思わせるような、恐るべき外見をしている………岩をも噛み砕いてしまいそうな歯は1本1本すべてが、まさにドラゴントゥースだ。尤も、飛び出てくるのはブレスじゃなくて艦載機だろうけど。
(多分だけど、主が機嫌を直したから喜んでるんじゃないかと思う。護衛の二人は特に何も気にしてないだろう?)
(あ……はい、その通りです……。すみません提督……私、余計なこと……)
(何言ってるんだよ、俺だけじゃ気付かないことが沢山あるんだ。どんどん遠慮せずに言ってほしい……頼んだよ?)
(はい、提督………)///
ガチャ
「ほら、着いたよ。ここがわた………俺の執務室なんだ。さ、入って」
「うん! お邪魔しまぁ~す!」タタッ
俺の腕から離れて室内へと
歩(ホ)を進める指揮官。その目には好奇心の光が宿っている。
(提督の執務室って、言わばこの鎮守府の司令室だよ。緊張感ないねー)
(長波、同感だけど今は静観してくれると有り難い。俺も今、手探りで暗中模索の状態なんだ……この指揮官、別の意味で手ごわい)
(あいよ、頑張ってね提督)ポンポン
(長波、ありがとな)
「あ、提督ちゃん! あの襖の奥には何があるの?」
いきなり俺の部屋かよ。
「そこは、俺の部屋なんだ。何かあったら、直ぐに執務室で対処できるようにしておきたくてね」
「へぇ~、そうなんだあ。提督ちゃんのお部屋かぁ」
「提督の私生活です! ちょっとは自重して!」
やや怒気を含んだタルトの声が響く。こんな姿を見るのは初めてだ。
「……どうした? しばらく会わぬうちに、随分と大口を叩くようになったな。我(ワレ)は軍勢の長であり、この場に在っては相応の分別を心掛けている。お前は黙って見ていろ」
……さっきまでの物腰とは似ても似つかない迫力を漂わせる指揮官。加古と似ているな……オンとオフをキッチリ切り替えるタイプだ。
「…………ッ!」
「たると、だめ。おさえて」
やや焦りながら、声を漏らすくー。
「おい……どうする?」
「………ワタシらの出番じゃないし………あの子もそれなりのカクゴしてるっしょ」
「そうだな」
護衛の2人か。
リ級とネ級。
共に重巡の深海棲艦。
すると彼女たちもタルトと同様、第六艦隊で見付けた写真の子か。
(夕雲。あの二人には、見覚えがあるね?)
(はい提督、間違いありません。タルトと共に、室長の友人の方々を、……接待していました)
(分かった、ありがとう)
(……あの、提督……!)
(あの夜のことかい? 残念だったけどね、仕方ないよ。夕雲には夕雲の気持ちがあるんだから……でも俺は夕雲のこと仲間だと思ってるから、それだけは信じてくれ)
(はい……提督…)
(司令、ご指示を)
(雪風、タルトはその場の勢いだけで軽率なマネをするような子じゃない……ここはアイツに任せてみよう。俺のカンだけど、二人の間には何かがある……それを放置したら、同じことの繰り返しだ)
(はい、分かりました)
(タルト)
(提督……ごめん…なさい……でもタルト、くやし……)
(やれ、タルト)
(!?)
(お前は彼女に、何か言いたいことがあるんだろう? 俺はずっと見てきたんだ、タルトのことをね……だから分かる。やるんだ、タルト。お前の思いを伝えろ)
(提…督……)///
(戦艦の意地を見せてやれ)
(………はい、提督!!)
「分かったな? 我は提督殿との同盟をむ………」
「この程度で、大口を叩くなどと仰るのか。私の本心すら知らず、よくも勝手なことが言えたものだ」
「…………貴様」
(みんな聞こえるな。今から俺たちは、ちょっとした修羅場を目の当たりにすることになる。でもこれは、みんなと共に戦った人々も見せていた姿だよね……大海原を駆けるみんなの腕の中で。いざという時は俺が止めるから、二人を見ていよう)
(分かりました、司令)
(お前が決めたんだ、それでいいさ)
「私を威圧するの? でもね、これだけは覚えておいて。鬼どもとの戦いで、私はこの身に鞭打って軍勢の勝利に貢献してきたということをね!! 貴女は確かに最強の指揮官だが、私だって勝手の分からぬ分隊指揮を執らされながら、この手を血に染めてきたんだッ!! 彼女がヤツらの凶弾に倒れたとき、私は一番近くにいたの!! ヤツらは、全て沈めてやったわ………。彼女ね、私に何て言ったと思う!? 後を、頼んだわよって!! 同じ戦艦のあなたが、みんなを、守ってねって!! そう言ったのよ!!! だから私は、彼女の代わりになろうとした……周りの者からは、彼女と比べられて色々言われながらね!! 貴女に威圧される覚えなんてないわッ!!」
(海風、誰か来るとややこしくなる。扉を閉めて)
(はい、提督………)パタン
「吠えたな………軍勢の勝利に貢献するなど、戦士として当たり前のことだろうが!! 貴様の味わった苦しみに、我が気付かぬとでも思ったか!! だから貴様を戦闘から外して第六艦隊に送り込んだんだ!! 好色な連中だが、貴様を傷付けたりはせぬという確証を得てからな………我自らが実地に赴いて確かめたんだぞ!!」
成る程な。戦闘からは外したが、将来この国で暮らすための資金を調達する任務を与えたんだな。そしてタルト以外にも、4人を加えて………。
「貴女って、いっつもそう! 自分は何でもお見通しって積り!? だったら私の気持ちだって少しは分かってよ!! 会ったばかりの提督に、あんなにベタベタして!!! 分かるわよ、私だって提督のこと大好きなんだから!! でもね、提督が私より貴女のことを好きになったら、タルト、貴女に何も勝てないただのおバカじゃないのッ! 冗談じゃないわ!!」
「何? 貴様……提督殿のことを」
「そうよ、悪い!? だから、貴女の指揮下にはもう戻らないって言ったの!! タルトはね、ここでみんなと一緒に戦うの!!」
「そうか………ふふ」///
「な……何よ!」クワッ
「提督殿には、何故か気の置けないものを感じているのだ………我もつい、浮かれてしまったようだな。貴様の……いや、タルトの気持ちはよく分かった。提督殿、本当に嬉しいよ……あんなに内気だったこの者が、今やすっかり年頃の娘に相応しいワガママを言っておる」
「提督に、余計なコト言わないでよ!!」///
「くくっ……本当に変わったなタルト……大人ぶって第六艦隊で男を手玉にとっていた姿とは別人みたいだわ。今回は我の負けだ、認めよう。まさか……嫉妬で怒り狂うなんてね………うふふふ。ごめんなさいタルト、悪気はなかったのよ? 私に盾突いたことは許してあげるからね」
「………そう。分かった」
喋り方が戻ってる。もう安心かな。
「でもね、タルト。私も提督ちゃんのことが好きなのよ。提督ちゃんが第五から第七の艦隊を消滅させた時にね、提督たちのことを失職しないように守ってくれたの、覚えてるわよね?」
……? 俺、彼女に好かれるようなこと何かしたのか。
「…当然だ。私もその場にいたのだから」
「第六艦隊の提督はね、私が好きだった人の友達なのよ。だから私たちに協力してくれたの。二人ともすっかり年をとったけれど、あの頃は若くてステキだったわぁ……」///
やはりな。彼女たちも艦娘と同じく、エルフみたいにずっと若々しいんだ。それにしても、第六艦隊が深海棲艦との窓口になっていたことは暁が予想した通りだけど……まさかそこまで個人的な繋がりがあったなんて夢にも思わなかったな。
「だから、提督に感謝していると?」
「そういうこと。それと勿論、好意もね……よくお聞きなさい、タルト。私はもう、お前を子どもだとは思わない。さっきのお前を見て、お前はもう自分の新しい居場所を見付けた、一人の女だと思ったわ。だからお前は、お前の道を歩みなさい……これからは指揮官と部下という関係だけではなく、女と女よ。私の戦闘指揮下に戻りたくないと言うのなら、それでも構わない…でも、組織上の繋がりだけは守りなさい。もう、二度目のごめんなさいはしないわよ。いいわね?」
「…………望むところよ」
「くー」
「はい」
「お前はまだまだ若い。けれどお前も、どうやら提督ちゃんの側にいるのを望んでいるみたいね………そのための覚悟は、あるの?」
「…かくごとか、よくわかんない。でも、しれいとしれいのなかまをくるしめるやつは、くーがたおす」
タルト………くー………。
「そう…………二人とも、本当に………ね……。提督ちゃん、正直に答えて。この二人のこと、どう思う?」
俺の答えなんて勿論、決まっている。ありのままに伝えるだけだ。
「大切な仲間だ。俺はくーもタルトも、大好きだよ。ずっと一緒に戦うんだ。そして戦いが終わったら、みんなで一緒に暮らす。鬼どもの襲来から守ってもらって、それが終わったらはいサヨナラだなんて、ご免こうむるからね」
「みんな?」
「今ここにいるくーとタルト、そして十六人の艦娘のみんなに加えて、今は遠征に出ている三人の艦娘……合わせて二十一人の艦娘みんなだよ」
「まあ……タルトもくーも、提督ちゃんから見たら艦娘なんだ………」///
「勿論だよ。俺は艦娘みんなに支えられたから、今までやってこれたんだ」
「分かったわ、提督ちゃん……………もっと早く、アナタに会いたかったな……提督ちゃん、お願いがあるの。いいかな?」
「同盟以外に?」
「そ。同盟以外に」
「いいよ、俺にできることなら」
「ありがとう……あのね、この二人のことなの」
「くーとタルト?」
「ええ、そうよ。この子たちにはね、提督ちゃんの鎮守府が必要なの……だからね、同盟を結んでから私をアナタの部下にしてほしい。そうすれば私が軍勢を統率する命令系統はアナタの掌握するところとなり、くーとタルトもアナタの部下になる……タルトはアナタの戦闘指揮下に入ることができるのよ………」
続く
徹底的な調査を
二度とあんな会社ができないように