鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-15話

「ええ、そうよ。この子たちにはね、提督ちゃんの鎮守府が必要なの……だからね、同盟を結んでから私をアナタの部下にしてほしい。そうすれば私が軍勢を統率する命令系統はアナタの掌握するところとなり、くーとタルトもアナタの部下になる……タルトはアナタの戦闘指揮下に入ることができるのよ………」

 

 

 

第五-15話

 

 

 

ゴクゴク……ゴク

カチャ

 

 

 

うん、美味い。

指揮官のチョイスに合わせて俺も紅茶を頼んだけれど、何だかホッとするな。

目の前に座る彼女も、気に入ったみたいだ。

 

「とっても美味しい……提督ちゃん、いつもこんなに美味しいお飲み物を堪能してるんだね」///

 

さっきの剣呑(ケンノン)な雰囲気からは想像もできない笑顔。どっちが彼女の素顔なんだろう?

 

「雷と明石のお陰でね。最初の頃に手伝おうとしたら、自分の仕事すら半人前なのに余計なことをするな、って先代の提督に叱られたことがあってね。それ以来ずっと、彼女たちには頼りっぱなしだよ」

 

「まあ……厳しい人なのね」

 

「色々と教わったよ……あの場合は、役割分担について、かな」ゴクゴク

 

「私も……部下に何かを教える時は、それを先ずキチンとできるようになってほしいかな。その提督はもしかしたら、提督ちゃんが色々と抱えて多忙になっちゃうことを避けたかったのかもね……多忙は人を、蝕(ムシバ)むものだから」

 

「そんな風には……考えたことなかったな。しょっちゅう叱られてたし」

 

「提督ちゃん……大変だったのね。でも安心して。これからは、私たちも一緒だからね」ニッコリ

 

今は休憩タイム。

他のみんなはフワフワ絨毯に思い思いの体勢で座りながら、俺たちと同じくお菓子や飲み物を片手に会話している。リ級とネ級は……主にくーとタルトが相手になって会話しているけれども、時おり谷風や秋雲、そして長波も何か話し掛けているみたいだ……何だか見てて和むな。

 

「それなんだけどさ。本気かい? 俺の部下になるなんて……まだ驚いてるよ」

 

「提督ちゃん。私は本気」

 

穏やかだけど、真剣な光の宿っている目。

 

「俺だって手を結びたい。でもそれは、お互い対等な立場を堅守した上でという意味だよ。俺の部下になったら今まで従ってきた軍勢はどうなる? 鎮守府と協力するなんて、断じて受容できない部下は絶対にいる筈だ。例えば俺たちは三ヶ月前に、くーと交戦したんだ……彼女の仲間だって沈めたんだぞ。ただ、対峙した天龍……ウチの大黒柱だ……天龍以外とは、あの時に遭遇していなかったんだ。どうやらそれが幸いして、くーは俺たちに対して敵意を向けない。でも天龍と再会させるためにはどうしようかと、頭を捻(ヒネ)ったよ」

 

声の大きさに気を付けて話す俺。くーは離れているけれど、俺たちが同じ室内にいることに変わりはない。

 

「そうだったの……提督ちゃんって、本当に色んなこと考えてるのね。でも提督ちゃん、あの子…くーの随伴艦を沈めたのが、どうしていけないの? あの時あの子と共にいたのは、深海棲鬼とその部下だったのよ? 」

 

「ああ。泊地棲鬼だな……強かったらしいよ。ウチの三羽烏をまとめて相手にしたんだからな」

 

天龍、龍田、そして木曾。

我が第八艦隊の主力トリオとして先代と共に戦い、鍛え抜かれた艦娘たち。3人とも、かつての現役時代には20年以上に亘(ワタ)り戦い続けた戦歴のある巡洋艦娘だ。

 

「強かった…らしい?」キョトン

 

「ああ、その時は天龍が戦闘指揮を執ったんだよ。俺が初陣で負傷したから、彼女は断固として自分がやるって言ったんだ……俺が事前に立案した戦術に従ってね。俺は海岸から全体の指揮を執っていたから、ヤツの姿や強さを間近で確認してはいないんだ」

 

「提督ちゃん、ケガしたの!?」

 

「も、もうとっくに癒えたよ……。どうしたんだよ、ちょっとビックリしたぞ」

 

「あ……、ゴメンね………」

 

談笑していたみんなが、何事かとこちらを見つめている。軽く手を挙げて、何でもないよと伝える俺。

 

「気にしないでいいよ……それより、泊地棲鬼の話だけどね。姫と鬼が行動を共にしていたのは驚きだったけど、俺には分からない経緯とかがあったんだろう? 一緒に行動していたのなら、くーだってその鬼には仲間意識を抱いていただろうと思うんだけど……俺たちは、そんな深海棲艦を沈めたんだぞ。いけないことじゃないか」

 

「ううん、違うのよ提督ちゃん。奴らはあの子を利用していたの。あの子の索敵能力、凄いでしょ?」

 

「うん、知ってる。それがどうかした?」

 

「泊地棲鬼はね、鎮守府の艦娘たちを暗殺しようとしていたのよ。彼女たちの強大な戦力に向かって真正面から突撃するのは、余りにも分が悪いから……。くーの能力からは、どんな艦娘だって逃れられない……遠隔狙撃なら自分は安全だし、仮に失敗しても距離が離れているから逃亡は容易よ」

 

「……知らなかったよ。くーは暗殺の片棒を担(カツ)がされるところだったのか」

 

「そうよ……奴らは多分、あの子を何とか口車(クチグルマ)に乗せて連れ出したのね。私、慌てて追い掛けたわ……でもね、結局は間に合わなかったの。泊地棲鬼は沈められ、くーは連れ去られた後だったわ……でも、提督ちゃんはあの子に、とても優しくしてくれたみたいね!」///

 

そうだったのか。ということは、くーの仲間でも何でもないじゃないか! つまり天龍は、くーを陰謀から救い出した功労者だ……!

光明(コウミョウ)が見えてきたな……時間を掛けて、くーの警戒心を溶かしてから再会させる積りだったけれど、今やその必要もない。

天龍。龍田。五月雨。

もう直ぐ、彼女たちに会えそうだな。

 

「……提督ちゃん、どうかしたの? 何か考え事かな?」ジーッ

 

「うん、遠征組のことを、ね。それより、くーを追い掛けただって?」

 

「ええ。間に合わなかったけれど、ね……。あの子が心配だったけど、ここに突入しようなんて思わなかった。泊地棲鬼を無傷で倒す強さは危険だし、ひたすら無事を祈っていたわね」

 

「…全く気付かなかったよ……あの時、あそこに居たんだな。くーを確保した、あの晩…いや、未明に」

 

暗かったとはいえ、何て迂闊だったんだよ俺は!! 勝利の興奮で舞い上がって、周囲への警戒を疎(オロソ)かにするなんて!!

……あんなことじゃダメだ。もう二度と、あんな失敗なんてするもんか………俺は艦娘の黒子、そして鎮守府のシーフになるんだからな。

 

「提督ちゃん、怖い顔しちゃイヤよ……怒らないで………」

 

「違うよ、腹を立てたのは自分に対してだ。気にしないでね」

 

「本当に? うん、分かった」ニッコリ

 

表情が目まぐるしく変わる指揮官。ほんと、子どもみたいな素直さだ。

 

コトッ

 

「提督、お代わりをお持ちしました。指揮官さん、どうぞ召し上がってください」ニコッ

 

見るとウッディなテーブルのお皿から、いつの間にかお菓子がなくなっていた。

 

「お、ありがとう明石」パクッ

 

「ありがとう、とっても美味しいわ………マフィンもクッキーも。これ全部、あなたが?」

 

「いえ、今あそこで飲み物を配っている雷と一緒に焼いたんです。ありがとうございます!」ペコリ

 

空っぽの皿を持っていく明石。

 

「お料理かぁ……いいなぁ……」ポツリ

 

「……不思議に思ってたんだけど。もしかして、この大八島國で暮らしていたことが?」

 

「興味ある? 気になる?」///

 

何で嬉しそうなのかな。

 

「正直、かなりね」

 

「もう~、しょうがないなあ。いいわよ、提督ちゃんには教えてあげるね……うん、そうよ。さっき言った通りね、好きな人がいたんだ……でも結局はね、別れちゃったな。半年くらい、だったかな……」

 

明るく話そうとしてはいるが、言葉に宿る哀切な響きまでは隠せていない。

 

「ごめん。傷付けたな」

 

「いいの! 提督ちゃんだって私と同じ指揮官なんだから、情報は集めないとね。それにね、私は提督ちゃんに聞いてほしいの」ニッコリ

 

「そう言ってくれると有り難いよ。その時の経験で、日本に興味を持ったの?」

 

「うーん………。楽しかったけれど、この国で暮らしたい願いは、もっともっと強い気持ちに根差したものだから……。あの半年間がなくても、私は同じ気持ちだったと思う」

 

 

 

 

 

せめない! おうちだよ?

 

 

 

 

 

あの時の、くーの言葉。

ずっと気になってた。

あの時は、木曾の質問に返答できなかったけれど。

でも指揮官の話を聞いて、俺なりに温めてきた考えが、ようやく纏まった。

 

「まるで、魂の奥底から湧き出てくるような感情、かな?」

 

彼女の目をジッと見つめて、問い掛ける。

 

「え……提督ちゃん?」

 

少しビックリしている彼女。

 

「くーが俺に言ったんだよ。この国が、お家だって。ここに、来たかったんだって、ね。だから、俺は思うんだ……深海棲艦はみんな、人々の魂を受け継いでいるんだよ。艦娘だけじゃなくてね。あの戦争で戦の船に乗って、兵士として戦い続けた人々……その人々の魂が艦娘と同じように、深海棲艦にも受け継がれているんだ。あの人々の願いとは、故郷を守ることだった……愚かな為政者たちが招いた惨禍の真っ只中へと駆り出された彼らはそれでも、自らの命を賭(ト)して故郷を、家族を守ろうとしたんだ………やがて迎えた敗戦、国土荒廃という結末。そして」

 

「そして……?」

 

「故郷を守ろうとして戦場に散った人々の、故郷に帰りたいと願う気持ち………だよ。戦後の経済発展というお祭り騒ぎの陰に追いやられ、顧(カエリ)みられることのなかった人々の魂の……最後の願いだ」

 

室内が、いつの間にか、静かだ………みんなが、こちらを見ている。

だからこれは、彼女だけじゃなく、みんなにも伝える言葉。

 

「故郷に帰りたい……日本で、永遠に眠りたい……大海原に散った願いを、その身に受け容れたのが深海棲艦だ。侵略なんかじゃない! 人々の魂を送り届けようとしているんだよ」

 

「提督……ちゃん」

 

驚愕の表情を浮かべる指揮官。でも俺は不思議と冷静に穏やかに、これが真実であると確信していた。

 

「こんな考え、司令部に知られたら騒ぎになるだろうな。でも仕方ないよ、現実から目を逸(ソ)らすなんて真っ平ご免だからね……そうだ、一つだけ聞いておきたい。国防省ファイルには見当たらなかったけれど、関係者の間では何かしらの呼び名があったんじゃないかな? くーやタルトみたいに、さ」

 

「あ………うん、えっとね……あんまり、好きな名前じゃなかったけど……中間棲姫、って呼ばれてたの」

 

中間……ミドル、………ミッド……か。成る程な。あの海域との何かしらの関連性とか繋がりを、当時の職員たちは彼女の中に見出だしていたんだろうな。

 

「俺も、そんな呼び方をするのは気が引けるよ……。俺からの提案があるんだけど聞いてくれるかな、ミルディ?」

 

「み、みるでぃ!? だ、誰………え…えと、どうしたの、提督ちゃん!?」アタフタ

 

かなりビックリしてる……ま、当然かな。初対面の相手から、いきなりこんな呼び方されたら。

 

「今だけ、だよ。名前がないのは不便で仕方ない……中間を意味するミドル、置き換えてミルド、そんでもって愛称風にしてミルディだ」

 

いつもなら、そろそろ響や長波からツッコミの念話が飛んでくる頃なんだが。流石に、この静まりかえった場面ではムリかな。

 

「ミルディ……。わたし……ミルディ……」///

 

……あれ?

 

「そうだミルディ、お前の名前だよ。ミルディ、さっきの続きだけど、提案がある。俺たちの司令部は大きな勘違いをしている……深海棲艦は海からの侵略者で、災いをもたらすから倒さなくてはならないと思ってるんだ………えっと、ミルディ? 聞いてるかい?」

 

「え! あ、あの……ごめんなさい、その、ドキドキしちゃって………本当に、ごめんなさい」///

 

どうやら、気に入ってくれたみたいだな………良かった。

 

「続けるぞ? 俺はこれからも鬼と戦っていくけれど、全てを倒す積りじゃないんだ。何故ならさっき言った通り、彼女たちは戦場で亡くなられた人々の魂をその身に宿しているからだ……こちらからの説得に耳を傾けてくれる相手は、倒すんじゃなくて助けたい」

 

「うん……分かるよ、提督ちゃん」コクリ

 

「ありがとうミルディ。そのためには、この方針に賛同してくれる大勢の仲間が必要になる。ミルディが賛同してくれるのなら、俺は喜んで部下として迎えたいと思うんだ」

 

 

 

          続く




ゲーム内でそれぞれの月末頃にターン表示の色が変わるから分かりやすいですね
早く任務を消化しなければとか気付かせてくれます
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