(司令官、こちらの残敵は片付けたわ!)
(提督、お疲れ様~)ニコッ
(おいボウズ、 確保したぜ! 今からそっちに戻るからな)ニヤッ
第五-22話
ザザザザザ……ザバッ
ザシュッ! ザッ! ザザ……
続々と砂浜へと上陸する仲間たち。みんなの表情には疲労の色が浮かんでいる…日が暮れる前に到着できたことが、本当に嬉しい。
「………へぇ。けっこう大きな島だな」
周囲を見渡す天龍の声。
「ああ、岩場や洞穴が目立つ。身を潜める場所が沢山ありそうだ…この環境がミルディたちを守ってくれたんだな」
木々や草花が殆ど見当たらず、ただゴツゴツとした姿で屹立する山々が連なる光景とは物悲しいものだけれども、その一方では、そんな環境に在っても様々な野性動物や野鳥が逞しく生きているという現実が、生命とか大自然とかに対する驚嘆や畏敬の念を呼び起こしてくれる。
「はい、到着……っと。お疲れ様です、提督ちゃん。ずっと脚の筋肉を使ってなかったから、最初はゆっくり動かないと危ないですよ? 気を付けて降りてね」
「分かったよ、ミルディもお疲れ。今日はお前の強さを本当に実感できたよ。お陰で俺は無傷で済んだ……ありがとうね」
「ま……まあ、私が本気を出せば…これくらいは、ね?」///
彼女なりの照れ隠しだ。少しずつだけど、ミルディのことが分かってきた気がする。
「本当に、ありがとう……ミルディ、ここがお前たちの……?」
「ええ提督ちゃん、本拠地です。船舶の航路からは離れているけど、それでも年に何度か漁船が近付いてくることがあるの。そんな時にはみんなで島の反対側に移動して隠れなくちゃいけないから、大変です」
「待てミルディ。年に何度か、だって……?」
その言い方だと、まるで何年もここに住んでいるみたいじゃないか!
「あ……うん、そう…だよ。ごめんなさい提督ちゃん、私ったら余計なこと……」
しまった、という表情を見せたミルディ。俺を心配させたくなかったのか。
「余計なことなんてあるもんか。ミルディ…一体ここで、何年暮らしている?」
「えっと……あの人と別れたのが二六六七年で、それからしばらくして海に戻って暮らし始めて……」
………………!
「…何年か経(タ)ってから、バラバラだった深海棲姫のみんなが私のトコに集まるようになって、それからタルトやネビュラやリリィ…やがて戦いが始まって、ここで暮らすようになって…ごめんね提督ちゃん、ハッキリとは分からないけど多分、五年か六年くらいだと思うの……」
何…だと……。それじゃミルディや姫グループのみんなは、俺が第八艦隊に配属された頃にはもう既に、何年も戦い続けていたのかよ!
なのにお前は普段から、あんなに明るく振る舞って!
ギュウウッ……ムニュン!
「あはぁんッ! て…提督ちゃん……今日は、大胆だね……」///
密着しているミルディの感触が、とても愛おしい。
「私は背が高いから、首の周りじゃなくて胸の方に腕を巻き付けてほしいと言ったのはミルディじゃないか。俺だって今日はずっとドキドキしてたんだぞ?」
第五艦隊に潜入した日のことを思い出す。木曾の背がもっと高ければ、彼女の言葉通りに胸を抱きしめられたんだけど。
「だって…首の周りは苦しいんです……」
「分かるよ…木曾もそう言ってる。それよりミルディ、お前たちはやっぱり日本で暮らさなくちゃダメだ! 生活資金稼ぎの邪魔をした俺が何を今さらって感じだけどな、埋め合わせする方法をずっと考えていたんだ。鎮守府に帰ったら説明するよ。おーい! ネビュラ、リリィ! 追っ手は?」
「はい、今のところは大丈夫です!」
「こっちも……異状なしですー、提督!」
「分かった、ありがとう! ミルディ…疲れているのに悪いけど、島の仲間たちのところに行って説明を頼む。俺たちがイキナリ押し掛けたら驚かせてしまうから、先ずはお前たちだけだ。俺たちはこの砂浜で待ってるから、話が終わったら来てほしい」
「分かりました。提督ちゃんのご命令通りに先行させた艦載機たちから、さっき無事にみんなと合流したとの連絡を受けています……説明を直ぐに終わらせて、お迎えに参りますね。提督ちゃん、安全帯は……」
「ああ、もう少しで外せるよ……っと、よし」カシャン…スタッ
ミルディと俺を繋ぎ止めていたベルトを外して、さっき彼女からもらった助言の通りに気を付けながら地面に降り立つ。十数時間ぶりの感触……砂浜とはいえ、やはりしっかりした地面を踏みしめるというのは気持ちを落ち着かせてくれる。
「あぁ……提督ちゃんの体温、離れちゃった…。それじゃ行ってきます。タルト、ネビュラ、リリィ! 一緒に来るんだ!」
気を遣わせたか…ありがとうミルディ。
「……ええ、分かったわ! 提督……直ぐに戻りますから……!」ザッ
「はっ、分かりました! 提督殿、失礼致します」ザザッ
「あ…ッ! ………ちょっとネビュラ、急に動かないで。 コイツ………ほんと重いんだからね」
「お前は気を抜きすぎだ、リリィ。いくら一つの戦いが終わったとはいえ、それは次なる戦いの始まりに過ぎないんだぞ。さっき提督殿が我々に、追っ手の確認をされただろうが…気を抜くな」
「分かってるって。アンタはいつも真面目だねー……あんまり気を張り詰めてると……カラダ壊すよ?」
「体調の管理はしているさ。ほら、行くぞ」
「うん……提督、ちょっとだけお別れですー。この大入道(オオニュウドウ)を……運んできますね」ザザッ
大入道…妖怪じゃねーか。
「グルルルル……!」
ほら怒ってるぞ。
「…………なぁーに? 今日ずっとアンタを運んであげてた私たちに…モンクあるの?」ギロリ
「……………クゥン」
大入道のターン終了かよ。
「よろしい………つーかさ、アンタ…以前のデッカイお口がなくなったのに………どうやって唸ってるのかな」
「お前も口より手足を動かせ」
切り立った山の麓、その一角を占める岩場の陰へと歩み去る4人…いや5人を見送る。
「くー。ミルディの兵装は、いつもネビュラとリリィが運んでいるのか?」
「そうだよ。たたかいがおわったときはね、いつもはこんであげてるの。みるでぃはせんとうしきでつかれているから、ふたりでささえてあげてるの」
ミルディ……お前も素晴らしい部下に囲まれてるんだな。
「ありがとう、くー。雪風、くーと一緒に待っていてくれるかな? ミルディの配慮を無駄にしたくない。ようやく第八艦隊のみんなが揃ったんだ……ここから、新しい仲間たちとの結び付きを少しずつ固めていくよ。準備ができたら呼ぶから来てくれ」
「はい、司令! くーちゃん、私と一緒にお話しましょう」ニッコリ
「おはなし……? うん、たのしそう」///
「少しだけ、待っててね」
「うん!」ザザッ…
「天龍、龍田、五月雨。おかえり、本当にお疲れだったね。いつもありがとうな」
本来の遠征任務に加え、俺の一存で帰還を先延ばしにした彼女たち。感謝の気持ちで一杯だ。
「おう、ありがとよ!」
「いいのよ~、ボウヤ。また一緒に頑張りましょうね」ニッコリ
「三ヵ月ぶりですね、提督……。少しカラダが大きくなったみたい。私たちの遠征を延長なさったのは、何か事情を抱えていらっしゃったからですね?」
「その通りだよ五月雨、新しい仲間のことでね……。どうかな、やっぱり驚いてるのかい?」
「はい…海風と再会できたことは、本当に嬉しいです……色々とご活躍だったと聞きました。提督、ありがとうございます!」ペコリ
「気にしないでくれ、五月雨。海風はみんなと同様、とても任務に熱心で素敵な艦娘だぞ。……五月雨、率直に答えてくれ。タルトたちに対しては複雑な気持ちを抱いている……かな?」
「はい……申し訳ありません、提督。私たちはずっと十人だけでやってきましたので、新しい仲間という存在に戸惑っております」
電は喜んでくれたんだが……難しいもんだな、こういうのって。
「私も、ビックリね~。こんなに増えたら、揉め事が増えちゃうんじゃない?」
「オレは驚いてなんかいねぇぞ。仲間が増えて賑やかになるのは大歓迎だ! アイツら喜んだろ?」
「ああ、特に電がね。くーと一緒に遊んだりお菓子食べたりして毎日が楽しそうだ……くーの活躍は、さっき見たな? 彼女はとても頼りになる戦士だよ」
龍田と五月雨の反応は予想通りだ…俺が来る前から第八艦隊の鎮守府で暮らしていたんだし、自分の居場所に見知らぬ誰かが入ってくるのは我慢できないんだろう。これを懸念していたからこそ、初めてくーと対面する際には遠征組のみんなを連れて行かなかった。
でも、今なら。
「あそこに手頃な岩場がある。座って話そう」
ミルディたちが去っていった辺りからは、やや離れた場所に位置する岩場。そこで見付けた大きくて平坦な岩に、4人で腰掛ける。
「お腹すいたな…ほらみんな、明石のクッキーだぞ」つ
「おっ、いただき!」パク
「あら~ありがとう」パク
「わぁ……久し振りですね。いただきます」パク
美味しそうに頬張る3人の姿をしばらく眺める。何だか和むなあ……それじゃ、始めるとするか。
(雪風)
(あ、司令…。さっきの件ですね)
(ああ、準備できたよ。くーを連れて、こっちに来てほしい)
(分かりました、司令)
続く
強大な力を手に入れるって本当に恐ろしいことですね