パクッ
…………ニッコリ
あー、あれだ。
一生忘れられないってやつだ、これ…。
第三ー2話
トコトコ……ドサッ
「これで全部よ、司令官」
「お疲れさん、暁。みんながいると、あっという間だから助かるよ」
「司令官、ほんとにいいの? ここをあの子の部屋にして」
「ああ、彼女の近くにいることが、きっとお互いの為になると思うからな」
「司令官…大胆だね、執務室の隣だなんて」
「下心ってワケじゃないぞ。何かあったら直ぐに対応できるようにだな」
「エッチなモードの司令官さん、何だか生き生きしてるのです」
必死に自分の煩悩を抑えたコメントをスルーかよ。
つーか俺そんなモード持ちだったのか。
エッチなのに手を出さないなんてヘタレそのものの烙印を押されて凹んでたが、俺のキャラどこまでカオス進化するんだろう。
「最初はおとなしい子だと思ってたけど、電ってマイペースだし主張もするよな、意外と」
「え…そう思います?」///
何で照れてるんだろう。
「電は、司令官に見てもらえてるって分かって嬉しいのよ」
雷は俺が何も言ってないのに、まるで心を読んだみたいなリアクションするときがある。
最初の頃は驚いたな。
「俺は指揮官だからね、いつも見てるぞ…電のこともみんなのことも。さあ、ひとまずこれで完成だ。足りないものがあれば、後から入れていけばいい」
「そろそろくーちゃんが戻って来るわ。今ごろ不思議がってるかもね、いつもの隔離場と違う道へ連れられて」
駆逐棲姫だからくーちゃん。彼女と接し始めてから約1ヵ月、いつの間にかそうなってた。
ニックネームか…いいな。
機密上の理由で個人名の秘匿されている提督としては何だか羨ましい。俺は本名を名乗ることが許されず、これからもずっと「提督」であり「司令」のままだ。
仮名のゲンさんや、他の職員と同じように。
「気に入ってくれたらいいんだけどな…お、来たか」
コツコツ……コンコン
「雪風です、くーちゃんをお連れしました」
「ああ、入ってくれ」
ガチャリ
「ただいま戻りました。くーちゃん、あなたの新しいお部屋ですよ」パタン
「おへ…や…?」
静かだが風鈴のようによく通る心地よい声。不安よりも好奇心の勝るその目は、キラキラと輝いている。
「くーはこれから、ここで暮らすんだ。バスルームもキッチンもあるし、不自由しないと思う」
「ばするーむ?」
いけね、分かりにくかったか。
「お風呂だよ、キッチンてのは台所な。しばらくは雪風や暁たちが代わり番こで一緒だから、すぐに慣れるさ」
「うん、わかった」
素直だな…深海棲艦へのイメージがグラついてしまいそうだ。ヤツらの中には、こんな子が他にも……いや余計な想像だな。
「雪風との散歩は楽しいだろ? もうだいぶここに慣れたか?」
「うんたのしい。わからないことあるけど、ここけっこうすき」クールニッコリ
この微笑みを、いつまで見せてくれるんだろうか。くーが俺たちに敵意を向けないのは、どうやらあの戦闘での面識がないかららしい。俺は雪風と共に海岸で戦況を確認しながら指揮を執っていたし、吹雪型改特型の四姉妹と明石はフェンス設置だったので交戦はしていない。
そして戦闘で対峙し、くーを捕獲した天龍…彼女は今、遠征中なので不在だ。
以上の理由から、俺たちは彼女にとって「敵」ではなく、「敵と何かしらの繋がりがありそうだけど、詳しくは分からない存在」というわけだ。
他の深海棲艦なら、その認識だけで充分襲い掛かってくる理由になるだろう…特に「鬼」連中なら尚更だ。
それとも単に、彼女の生来の気質が穏やかだから、うまくいってるってことかな?
「それじゃお引っ越し記念に、楽しくやりましょう。はいどうぞ、くーちゃん。司令官もね」
「ありがとう雷。お、シュークリームか……うん、美味い」ムシャムシャ
「雪風もお食べなさい」
「ありがとうございます、いただきます」
「雷、私たちもいただくわね。ほら、響も電も」
「ん」パクッ
「ありがとう……とっても美味しいのです。はわわ、くーちゃん食べるの速い」
「ちゃんと多めに買ってあるから、まだまだあるわよ…って、くーちゃん?」
モグモグ。
美味ぇ。和む。
いいなこういうの…今は深海棲艦も鬼畜鎮守府も考えないでおこう。暫くしたら、またヤツら相手の作戦を練るが、それまでは……
はむっ。
………ん?
ペロ…ペロペロ……
……へ?
これってまさか…くー!
俺の指を嘗め…て…!?
…クリーム付いてたのか?
それ目当てに指を…。
クチュ…ペロ…
ちょっ…!
空いてる方の手で、急いで別のシュークリームを箱から取り出した。
「ほ、ほら、くー。 これも美味そうだぞ」サッ
「…………!」パク!
「ほら、しっかり両手で持って…よし、たくさん食べるんだぜ。美味しいだろ」
「うん!」ニッコリ
ふぅ……やばかった。
メチャクチャやばかった。
完っ全に不意打ちだったぞ…
女の子の比率が圧倒的に高いこの戦闘部門で、何の間違いも犯さず2年間やってこれた理由が2つある。
1つは必死に煩悩を抑えつけてきたからだけど、今の不意打ちは…いや、不意打ちじゃねーな。
穏やかなムードで気を緩めたのは俺だ。
いけね。
「ちょっと出てくる。直ぐに戻るから!」
「え…う、うん」
明らかに不自然だな俺、けれども今は気持ちを落ち着かせるのが先決だ。
ドキドキ…
やべぇよ心臓、まだ静まらねぇ。
ガチャリ…パタン
「……よし、ここなら誰もいないぜ」
ほっと一息。
いい天気だ。
居住区画の外れにある森の入り口に立つ俺。
それにしても、くーヤバ過ぎるだろ。何て言うか、子犬みたいな無邪気さの奥に、サキュバスの妖しい色気が潜んでるような感じ。
彼女の唇と舌の感触が、まだ指に残ってる。
でも。
「邪悪な感じは、ないな」
それは断言できる。
俺は人の気配とかに割と敏感だし、何より雪風たち艦娘が真っ先に察知するだろう。折角ここまで築いた交流、今さら水の泡にされてたまるかよ……さあ、少し落ち着いたし、みんなのトコに戻るか。
さっきのシーンを思い出すとまだドキドキするけど、すぐ戻るって言ったんだ。
ザッ…ザザッ……
ん、前方から、砂利道を踏み歩きながらこちらに近付いてくる音。
茂みがジャマで見えね。
誰だろう。
「おーい、いるんだろ」
この声……
「木曾だな! こっちだ」ザザッ
飛び出る俺。
「ああ、やっぱりな……ったく、どうしたんだよこんなトコに……おぉっと」ガシッ
「木曾お!」
ギュウウウウウ!
思い切り木曾を抱きしめる。こないだの静かな抱擁よりもずっと激しく。
「苦しいんだな…いいぜ、好きなだけそのままで」
ナデナデ
…………落ち着く。
すっげえ落ち着く。
さっきまでの興奮も煩悩も潮が引くように消えていく。
俺が間違いを犯していないもう1つの理由。
艦娘との抱擁。
彼女たちの体温に包まれていると、不思議と落ち着くんだ。もちろんドキドキするのは当然だが。
この2年間で、もう何回も助けてもらった。
どんだけエロいんだよ俺。
「ありがとう木曾、落ち着いた。……まただよ、久しぶりにやっちまった」
「お前が独りで歩いていくのが見えてな。もしやと思ってついて来たんだよ」
「あれ? 俺十分ぐらい立ち止まってクールダウンしてたぞ。遅いな」
「いきなり追いついたらお前がゆっくりできないだろ。暫く待ってたんだよ」
……ッ!
ギュウウウッ
「…いいか? お前はもっともっとオレたちとの時間を増やさなくちゃダメだ。この前、大広間で言ったようにな。だから暁にも注意されるんだぞ」
「キツいこと言ってくれるぜ…俺がどんだけ我慢してると思うよ? これ以上みんなと近くなったらマジで俺、ケダモノにトランスフォームだぞ。そうなったら終わりだ、みんなと一緒にいられなくなる」
「分かってる。お前をずっと見てるんだぜ。だからこそハッキリ言うぞ、オレたちにもっともっと近づけ。お前のアレが出たら、すぐにオレたちが鎮めてやるさ、今みたいにな」
「…それは」
余りにも大胆な木曾の言葉に、思わず目をそらす。
「何回も繰り返していけば、お前もだんだん慣れて、誰に対しても自然に振る舞えるようになるさ…おい、こっち向け」
優しく、そして強い響きのある声。彼女の方に顔を……
……………?!
目の前がよく見えない。
当たり前だ、木曾の顔がすぐ数ミリのところにあったんだから。
「…ん……」
彼女の声が聞こえる。
俺…木曾とキスしてるな。
頭の中が一瞬、真っ白。
でも妙に冷静な心持ち。
「……ぷはぁ……なあ、お前の望みは何だ? 司令部の言うこと聞いて、ただひたすら戦うだけか」
「いや、違う」
しっかり彼女の目を見て
「戦うのはあくまでも目的を果たすための手段。目的じゃないし望みでもない。聞いてくれ、ヤツらと内通している連中がいる。調べたからな」
本当の望みを伝える。
「俺は叩き潰したい。ヤツらも、ヤツらと内通している鎮守府も」
続く
艦これ改6周年おめでとう!
キャラの表情変化とか音楽とかインターフェースとか本当に素晴らしい作品