鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-26話

「ああ勿論だ。さ、行こう」

 

「……ええ」ザッ

 

(天龍。俺は彼女が恐怖心を抱いたりしないように、何とかして会談が少しでも穏やかになるよう努めてみる。援護射撃、頼むぞ)

 

(ああ。コイツはオレたちと同じで艦娘なんだろ? だったら、ほっとけねぇさ…任せとけ)ザッ

 

 

 

第五-26話

 

 

 

チャプ…ゴシゴシ

 

 

 

渓流のひんやりとした水を染み込ませたタオルで今日一日の汗を拭(ヌグ)ってゆく。汗と一緒に疲れも落ちていくような感覚が心地よい。

 

「提督ちゃん、タオル足りそう? まだ予備の分、あるよ?」

 

「ありがとうミルディ、大丈夫だよ…汗は全部拭き取れたからな」

 

シャツと制服を身に着けながら周囲を見渡すと、木々に覆われた辺り一面の視界が目に飛び込んでくる。ここは小さな森の中だ。

 

「ミルディ、そのカジュアルな服装も似合ってるな。そのままココでキャンプとかできそうだ」

 

「あらあら、ありがとね提督ちゃん。提督ちゃんは心配してくれたみたいだけど、私たちって頻繁に戦闘してるワケじゃないからね、のんびりしてる時期も結構あるの。あれ、私のお気に入りだから、本当に大事な時にだけ着ているの」

 

「生地を傷(イタ)めないよう大切にしてるんだな。あのドレス、本当に綺麗だよ」

 

「ありがとう……。あのね提督ちゃん、この森のことなんだけど…気に入った? 素敵なトコでしょ?」ニコッ

 

「ああ、本当にね。最初は竹島のように岩場だらけの島かと思ったよ。でも実は鬱陵島のように、ちゃんと樹木があったんだな」

 

対照的な2つの島……とは言っても、竹島の方は、それ自体が既に2つの小さな島を含んでいるんだけど。後醍醐天皇が、島流しにされていたという隠岐(オキ)…そこから更にずっとずっと離れた島ではあるけれど、それでも今から300年も前の昔、既に隠岐の漁師の人々により発見されていた島……勿論、漁だって行われていた。でも今は他国に支配されている島だ。

 

「ビックリしたかな? 私も提督ちゃんと同じでね、この島に初めて来た頃は岩だらけだと思ってたから、何日か後に初めてココを見付けた時は驚いたよ~。この森には、本当にお世話になったの……。もう直ぐお別れかあ」

 

「この渓流は貴重な飲料水をもたらしてくれたんだろうね……でもそれだけじゃなくて、心も癒してくれそうな雰囲気の森だって気がする」

 

「うん……ここは落ち着くよ。最初の頃は、よく来てたの……考え事をしたり、ね…………」

 

愛おしそうに傍らの樹木をゆっくり撫でているミルディ。でけぇ……これって確か、ブナの木だったよな。本州から離れた島だけど、ちゃんと生長しているんだな。

 

 

ガサガサッ

 

 

「お話中のところ失礼する。あなたが提督だね? 私は分隊長を務める者の一人。どうぞよろしく」ペコリ

 

分隊長か。この前ミルディが教えてくれた4人の内の1人だな…リッティと同じく、黒を基調とした服装を身に纏った女の子。長い黒髪には大きなリボンが踊っている。そして首にはチョーカー……と言っていいのかな…そしてそこに結び付けられた長い鎖。ゲームに出てくるショップで、魔法の品物を売ってくれる魔術師みたいな雰囲気だな。彼女の姿はファイルの内容と一致している……水母棲姫だ。俺が希望した通り、会談を始める前に会いに来るようミルディが手配してくれたんだな。

 

「はじめまして、第八艦隊の鎮守府で指揮官を務めている。こちらの司令部の決まりで、本名を明かすことができないんだ……すまない。ミルディのお陰で同盟を結べたことに感謝している。これからよろしくね」スッ

 

「あ……よろしくお願いします、我らの新しい指揮官殿」ギュッ

 

少し、はにかみながらも俺の手を握ってくれた。可愛い。

 

「提督ちゃん、もう一人いるの……おい、何をしている? 早く来なさい」

 

少し離れた場所にある茂みに向かって呼び掛けるミルディ。どうしたのかな?

 

「えっと…ミル……ディ? どうしたんだ……言葉遣いが何だかヘンなんだけど」

 

怪訝(ケゲン)な表情をしてミルディを見つめながら声を掛ける水母棲姫。俺と話す時のミルディは穏やかだから、ギャップに戸惑ってるんだな。

 

「な、何を言ってる……そんなコトはどうでもいい。……ほら早く! 」

 

「ミルディは俺と話す時、こんな感じなんだ。直ぐに慣れるよ」

 

「そう…ですか、分かりました。提督、彼女の名前はもしかして……」

 

「うん、俺が名付けたんだよ…仲間のことは名前で呼びたいからね。リリィから聞いたんだけど、みんなは名前ではなく役職名とかで呼ばれているんだよね?」

 

「はい。あと、番号ですね。彼女は一号で指揮官、私は先程もお伝えした通り分隊長で四号。役職名を持たない者も居ますが、番号は全員が持ってます。イ級やワ級でさえも」

 

番号、か。リリィは言及してなかったな……でも彼女の気持ちは分かるような気がする。確かに呼び掛けるには手っ取り早いけど、それでもやっぱり番号よりも名前だよなぁ…。彼女たちは海軍艦船じゃないから名前を持っていないのは仕方ないけれど、これからはその点も変えていこう。

 

「よく分かった。できれば俺は、全員が自分の名前を名乗るようになってほしいと思ってるんだ。でも強制はしないよ……そもそも俺だって名前を隠しているからね。あくまでも俺の希望だ。ただ、個人を特定できる呼称だけは必ず持っておいてほしいんだよ。番号じゃなくてね」

 

「分かりました、提督」

 

ミルディやタルトは俺が考えた名前たけど、自分で決めるのだって勿論アリだ。

 

「提督ちゃん、ごめんなさい~。ほら、さっさと歩く!」グイグイ

 

「うううぅ~恥ずかしいよぉ~。引っ張らないでええぇぇ」ズザザザ…

 

3人目の分隊長だな。ミルディ曰く、北方棲姫は気性が激しいらしい……声の雰囲気は…激しいどころか、のんびりしている。てコトは多分、港湾棲姫だな彼女は。

 

「ミルディ、大丈夫か? 何だか大変そうだけど」

 

「気にしないで提督ちゃん、大丈夫だからね……ほら、ご挨拶するんだ!」

 

「う……うううう~。ぶ、分隊長……です…。この子とおんなじ、なの……」チラッ

 

一瞬だけ水母棲姫の方に視線を向ける港湾棲姫。

 

「よ……よろしく…です」

 

俯いたままなので、彼女の額(ヒタイ)からユニコーンみたいに伸びてる黒い角が丁度、俺に向かってロックオンされてるような角度に。ドキッとするけど、いちいち指摘して彼女を困惑させる必要なんてない。彼女は頑張って挨拶してくれているんだ。

 

「よろしくね、分隊長。こちらは第八艦隊の鎮守府で指揮官を務めている。仲間のみんなからは提督とか司令官とか呼ばれているから、できればこの二つのどちらかで呼んでもらえると有り難いんだ。ミルディたちはいつも助けてくれるから、本当に感謝している。これからよろしくね」スッ

 

「し、司令官! よろしくうぅ!」ギュウウッ

 

両手で握手してくれた! 何だか嬉しい。ロックオンなんて気にならないぜ。

 

「まったくもう………顔が真っ赤だぞ。我らの新しい指揮官に、くれぐれも失礼のないようにね」

 

「だって男の人だもん…。あなたってイロイロ強引」

 

そういう一面もあるかな。でもミルディは部下思いな女性だ。

 

「提督…平素であれば彼女は非常に頼りになる戦力です。今は提督の存在感に、少々気押(ケオ)されているだけ。お気になさらないで」

 

「分かったよ分隊長、きっと慣れてくれると思う。くーのように、ね」

 

「司令官……あの子、ずっと司令官と一緒だったんですね?」

 

「ああ、今はもうすっかりみんなと打ち解けているよ。とくに、電っていう駆逐艦娘と仲が良いんだ」

 

「そう…ですか。仲間と一緒に、ずっと仲良くしてたんだ……」///

 

くーのことを心配していたのかな……今日は久し振りに再会できて、きっと嬉しく思っているんだろうな。彼女も、くーも。

 

「ミルディ、そろそろ始めようか。疲れているのに、すまない。でも軽巡棲鬼が次の襲撃を画策している可能性があるからな……こちらも後手になるわけにはいかない」

 

「分かりました提督ちゃん……離島棲鬼は、どちらに?」

 

「さっきミルディが用意してくれた俺たちの部屋に居るよ……他のみんなと一緒にね。とても快適そうな部屋で驚いたぞ。洞穴の中を住居に改造するなんて、流石だな」

 

「そうでしょう~。いろいろ工夫したからね」ニッコリ

 

「何だか…違う人みたい」

 

「同感だが慣れるしかないね」

 

2人の分隊長の言葉……でもミルディは嬉しいのか、まるで気にしていない。

 

「では、提督ちゃんのお部屋でよろしいですか? あの部屋は、かなり大きいですし」

 

「そうしよう。それからね、みんなに聞いてほしいことがある」

 

「え……提督ちゃん?」

 

「今から離島棲鬼に会って話をするけれど、みんなの心の中の怒りや苦しみは、彼女にぶつけないでほしいんだ。仲間を殺されたみんなに向かって、勝手な言い分だということは承知している。それでも、彼女を怯えさせたくはないんだよ。詳しい説明は後日の機会に譲るが、俺たちは鬼グループを全滅させちゃいけない……そんなことしたら新しい鬼の誕生だからね。彼女に宿る魂は、帰還を望んでいる。だから彼女を鎮守府に連れていく。みんなの新しい我が家に、ね……」

 

「私はもう、提督ちゃんの方針に従うって決めています。その気持ちがあったからこそ、アナタの部下になりました」

 

「さっきミルディから、幾つかの話を聞きました。驚いたけど、私は彼女が信じる人なら信じることができる。お言葉通り、怒りは抑えます」

 

「約束する。強引で、男の人が大好きで、一度思い込んだらドコまでもワガママ。でも……私たちを、とても大切に思ってくれるんだもの。約束します、司令官」

 

「分かったよ。ありがとう……みんな…」

 

「ちょっと、八号! 提督ちゃんの前で何てこと言ってくれてんのよ!」クワッ

 

……俺の感激ムード返せ。

 

「落ち着けミルディ。言葉遣いが変わってる……もうタルトやくーに話すときと同じように統一したら?」

 

「え……あ…ああああッ!」

 

慌てて口元に両手を添えるミルディ。もう遅い。

 

「そ…それはね、ダメ。私は提督ちゃんの部下だけど、でもねっ! 威厳は重要だから! あの二人は例外……そう、例外なの!」

 

何だ、威厳を気にしていたのか。

 

「ミルディの場合さ…威厳は厳しさよりも、優しさの方に宿ると思うぞ?」

 

「え…………そう、かな?」

 

「そうだよ。今晩、寝る前に少しでもいいから今の俺の言葉について考えてみてくれ。さ、それじゃみんな、行こうか」

 

「は…はい、提督ちゃん」

 

「分かりました」

 

「うう……私たちの指揮官が……新しい指揮官に首ったけだよう……」

 

 

 

          続く




すごく暑かったですね
今年の海はきっと賑やかに
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