鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-27話

「ミルディの場合さ…威厳は厳しさよりも、優しさの方に宿ると思うぞ?」

 

「え…………そう、かな?」

 

「そうだよ。今晩、寝る前に少しでもいいから今の俺の言葉について考えてみてくれ。さ、それじゃみんな、行こうか」

 

「は…はい、提督ちゃん」

 

「分かりました」

 

「うう……私たちの指揮官が……新しい指揮官に首ったけだよう……」

 

 

 

第五-27話

 

 

 

ガサガサ……

 

 

 

よしずの端を少しだけ動かして出来た隙間をくぐり、俺たちが間もなく話し合いを始める部屋に入室する最後のチ級。椅子として使われている大きな流木に腰掛けている俺たちとは異なり、彼女たちはテーブル……これも海岸で拾ってきた流木だが椅子よりも巨大で、うまく削られているから食事も快適にできそうだ……これをぐるりと取り囲む形で立っている。雷巡チ級か……お揃いの戦闘装束に身を包んだ戦士たちが居並ぶ様子は壮観だ。

 

「提督ちゃん、これで揃いました。北方棲姫を除く全ての分隊長と副隊長です」

 

指揮官を務めていたミルディに、彼女の護衛のネビュラとリリィ。くーを含む3人の分隊長と元、分隊長のタルト、そして8人の雷巡チ級……つまり副隊長だ。分隊長と同様、かつては副隊長の人数だってもっともっと多かったんだろうな……。

 

「分かった、ミルディ…それじゃ始めよう。先ずは副隊長のみんな、はじめまして……もう既に俺のことは知っているだろうけど、鬼のグループと戦う鎮守府の人間なんだ、これからよろしく。本題に入る前に一つだけ伝えておきたい…仲間になってくれたみんなには率直に言うけれど、こちらの司令部から姫と鬼の対立を聞かされたことは全然なかったんだ……幸運にも俺は戦艦のタルトから真実を教えてもらって彼女と何回か会うようになり、その様子を知ったミルディ……みんなの指揮官の新しい名前だよ……彼女が俺たちの艦隊に興味を抱いてくれたんだ。その後はみんなの知ってる通りだよ。俺はもしかしたら、みんなと交戦するという大失敗を犯していたかも知れないが、姫のみんなのお陰で回避できたのさ」

 

ちょっと中断して室内の様子を見渡してみる…うん、みんな熱心に耳を傾けてくれている。

 

「だから俺は、俺たちの本当の敵が誰なのかということを間違えないように注意するようになった。手を結べる相手が居れば、俺たちはそうするべきなんだ。みんなの新しい指揮官になって間もないというのに、いきなりのお願いだが、どうかこれだけは受け容れてほしい。彼女の名前はリッティ……これから俺たちと一緒に行動する。この島からみんなと共に出発して、我が第八艦隊の鎮守府へと向かうんだ」

 

隣に腰掛けているリッティの方に視線を向けながら、

 

「リッティ」

 

「わ、分かったわ……」

 

立ち上がり、周囲を見渡す彼女。まだ緊張してはいるが、少し落ち着きを取り戻しているように見える。

 

「私は……リッティ。あなたたちの新しい指揮官から貰った名前よ……」

 

 

一瞬だけ俺を見てから、

 

 

「私は、降伏する。正直、戦いに負けてまだ混乱している。でも…これだけは約束するわ……私は二度と、あなたたちに刃向かわない。聞かれたことには答える。お願い、信じてほしい……」

 

 

静寂に包まれる室内。リッティを見つめる副隊長たちはまるで、射るような鋭さを帯びた視線を向けている……予想通りだな。

それじゃ、こちらもそろそろ始めるとするか。先ずはくーが仲間になった経緯を活用する。知らない者同士が仲間になることの素晴らしさを説くように、話の流れを持っていくんだ!

 

「天龍。お前は去る二月に泊地棲鬼を沈めたが、随伴していた駆逐艦娘くーを傷付けたりはせずに確保した。何故なのか、ここに居るみんなに説明してくれ」

 

「分かった」

 

リッティの隣に腰掛けていた天龍が立ち上がる。

 

「艦隊の最古参、天龍だ。彼はこの世界に足を踏み入れてからまだ二年くらいだが、見所のある指揮官だってことはオレが請け合う。質問の答だが……くーは心の優しいヤツだってことが分かったからだ。自分が劣勢に立たされているにも拘わらず、沈められた鬼のことを悼(イタ)むほどの優しさを、この目でハッキリと見たからだ。傷付けるなんて考えられない」

 

「よく分かった。くー、驚いたかい? お前を気絶させて確保したのは天龍なんだよ。彼女が遠征から帰ってきたら、お前に伝えようと思っていたんだ」

 

くーの表情に浮かぶ微かな驚き……でも、大丈夫だ。天龍に確保された時のことを全く覚えていない……つまりくーは、天龍への怒りや憎しみを抱く前に気絶させられたのだから、確保されたという真実を聞いたところで、心の蟠(ワダカマ)りを天龍に向けるなんて心配はない。今、くーが感じている驚きは単に、狐につままれたような驚きに過ぎない。もしもあの瞬間に天龍の顔を見ていたら、くーの心の中は復讐心で満たされてしまっていた可能性が高い……鬼に騙されていたという事実なんて関係ない。どんな理由があろうとも、ひとたび心の中に芽生えてしまった負の感情は、ずっと消えないもんだ。

俺たちは運が良かった…。

 

「あのおには、くーをだましたんだって、みるでぃにきいたよ。ちんじゅふにみるでぃがきたとき。でも、それだけじゃなかったんだね? あいつ、わるいやつだね…てんりゅーをころそうとしたなんて、しらなかった……」

 

泊地棲鬼の言葉を信じて一緒に行動したくー。確証はないが、彼女を騙して連れ出すという計略を案出したのは軽巡棲鬼だろうって気がするな……。泊地棲鬼との出会いについては、くーが鎮守府で説明してくれた。巧妙な手際だが、くーの心を動かすにはどのような言葉を使えばいいのかを把握していたと思われる狡猾さだ。

 

「てんりゅー、ありがとう……。てんりゅーのおかげで、くーはいま、こうしてみんなといっしょにいられるんだね…ありがとう」ペコリ

 

流木チェアから立ち上がり天龍に向かって頭を下げるくー………何だか胸が熱くなってくる。今この瞬間、俺がずっと抱いていた懸念は雲散霧消したんだ。第八艦隊は一歩、強固な結束へと近付いた。

 

「いいってことよ……お前が今、仲間と楽しい時間を過ごせているんならオレはそれで満足だぜ」ニッコリ

 

「うん!」ニコッ

 

「だからな、くー。お前のその笑顔と楽しい時間をな……リッティにも分けてやってほしい。オレからの頼みだ……いきなり仲間になるのはムリかもしれねぇが、でも努力しなけりゃ何も始まらねぇ。どうだい?」

 

 

天龍………ナイスだ!!

 

 

「うん、りってぃはもうてきじゃないよね? くー、りってぃがいいこになるようにきょうりょくする! そしたら、なかまだね」

 

やべぇ。少しウルッときた……あぶねぇ。

 

「ありがとよ、くー。おいリッティ、仲良くするんだぜ」

 

「うん、分かった……」///

 

リッティのぎこちなかった態度が柔らかくなってきている。いい感じだ……ありがとうな天龍、くー。

 

「ミルディ、ネビュラ、リリィ、タルト、よっちゃん、はっちゃん、副隊長のみんな。今、くーが言ってくれた言葉……みんなはどう感じたかな? 俺はね、凄く嬉しいよ。みんながくーの言葉を胸の奥に刻み込んでくれたら言うことなしだ。リッティを連れてきた甲斐があったよ……あ、リッティ。もう座っていいぞ」

 

「わ、分かった」

 

上首尾だがココで焦っちゃダメだ。今日のところは、これで充分。

 

(ありがとうな、天龍)

 

(いいってことさ)

 

「あの~………私、はっちゃんなんですかぁ?」

 

お、食い付いてくれたか。

 

「ああ、八号だからね。勿論、押し付けたりはしないぞ? 俺がそう呼ばせてもらうだけだよ。今まで通り、番号も使ってほしい」

 

神風型駆逐艦「神風」は、その前に第一号駆逐艦って呼ばれてたんだよな。昭和の初期に制度が変更されてから、番号じゃなくて神風の名で呼ばれるようになったんだ。当時の人たちも、きっと番号より名前の方がいいと思ったんじゃないかな……。

 

「何だか……照れる」///

 

イヤってわけじゃなさそうだな。良かった。

 

「直ぐに慣れるよ。もしも他に好きな名前が浮かんだら、いつでも言ってくれ。そちらの名で呼ぶようにするからね。よっちゃんも」

 

「提督、それでは四号の呼称は、使い続けてもよろしいのですね?」

 

「ああ、その番号はミルディと一緒に戦い続けた証だと思うからね。そこは絶対に尊重する……役職名もね。詳しくはミルディから聞いてほしいんだけど、俺はここに居るみんなも艦娘だと思っているんだ。番号で呼ばれていた時期もあるが、海軍艦船といえば、やはり名前だよ。だから鎮守府の艦娘は様々な名を持っているし、同様にみんなにも名を持ってほしいと思う。但し繰り返すけど、番号と役職名も尊重する。みんなは番号と役職名、そして名前を使い分けてくれ…よっちゃんはこれからも分隊長であり、四号だ」

 

「分かりました、それなら安心です」

 

「これからも分隊長…? でも提督ちゃん、第八艦隊には分隊長なんて役職、なかったよね?」

 

「その通りだ」

 

「え、えっと……。提督ちゃん、私たち……艦娘なんだよね? 提督ちゃんの部下だよね?」

 

「大切な部下であり艦娘であり仲間だぞ。分隊長の制度については何も心配しなくていいよ…ミルディの軍勢内の制度を変更していきなり鎮守府の中に組み込むのはムチャだから、当分の間は現行の制度を続けるってだけのことだ。天龍を筆頭とする従来のグループと、ミルディを筆頭とする新しいグループ……二つのグループが共存することになる。そしてそれらを纏めるのが俺と秘書艦の雪風。やがて近い将来、二つのグループは一つになるんだよ。お互いの絆が強くなった時にね。ミルディ、何か質問は?」

 

「あ……いえ、ありません。ごめんなさい提督ちゃん、私ったらちょっとビックリして、つい……」

 

「いいんだよ、疑問に思ったことは今みたいにどんどん尋ねてくれると有り難い。それじゃ最後に、確認だけしておくよ……これが済んだら今日は解散だ。ミルディ、この島を離れる準備は、どんな具合になりそう?」

 

「はい、提督ちゃんをお待たせしている間に、私たちで話し合いました。反対する者は居ません。物資を運ぶのは輸送艦ワ級に任せれば大丈夫です。明日一日で準備を完了できます」

 

よし……!

 

「分かった、それじゃ出発は明後日だ。俺と雪風とミルディは、北方棲姫が帰ってきてから彼女と合流して一緒に出発する」

 

 

 

          続く




明日は七夕ですね
気の滅入るニュースが多いから明日ぐらいは穏やかに

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