鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-31話

「提督ちゃん、私たちの気持ちは変わらないよ。せっかく提督ちゃんが、提案してくれたんだもの。私たち、行きます。第六艦隊の鎮守府だったあの施設で、地域の人々をおもてなしする、新しいお役目を果たすために」

 

 

 

第五-31話

 

 

 

バタン! ブロロロォ……

 

 

 

俺たちを送り届けてくれた運転手が、ウチの数少ない貴重な車輛の一台で走り去っていくのを見送る。今は一時的に活動停止状態の第六艦隊。あの鎮守府への潜入行動の際、行きと帰りでみんなを運んでくれた2人のうちの1人が彼だ。

ここは司令部の正門前。いまは入場手続きの最中だ。

 

「……はい、結構ですよ。では、こちらのカードをお持ちください。場内では決して離さぬようお願いします……」つ

 

ここへ来ると繰り返されるお馴染みの手続きだ。

 

「分かりました。そうだ、課長の様子どうですか? 先週来たときは徹夜明けでしたね」

 

「室長さんの差し入れ、喜んでましたよ。数日は徹夜の疲れが抜けてない様子でしたが、今週に入ってからはすっかり元気を回復してます。まあその分、我々は戦々恐々なんですが」

 

と言って苦笑する。いつも応対してくれる顔馴染みの壮年職員だ。課長は厳しいからな……執務室から遠く離れているこの正面受付にも目を光らせているんだろう。

 

「課長のカミナリは強烈ですからね…お察しします。良かったら、コレ見に来てください。ちょっとした気晴らしになれば」つ

 

「これは……入場券? えぇと……地域交流の…集い?」

 

「ウチの艦隊に協力してくれてる部隊が、第六の周辺地域の人々をおもてなしするんです。券のない人は入場できません」

 

初開催だから慎重にやらなくちゃ。料金さえ払えば誰でも入場できるという形式には客層的にリスクが伴う。こちらはこういう分野に関しては素人なんだし、闇雲に手を出しちゃいけない。

 

「へえ……いいんですか、我々が受け取っても?」

 

「課長を通じて、司令部の許可を貰いました。開催の許可は勿論、ココで券を配る許可も。大丈夫ですよ」

 

「ははぁ……そういえば誰かが、近々おもしろそうなイベントがあるって言ってたっけ……。有り難く頂戴しますよ」

 

「開催は明日、土曜日スタートで以後は不定期開催です……お待ちしてます。それじゃみんな、行こう」

 

「ああ」

 

「待ってボウヤ。迷ったら大変ですよ~、手を繋ぎましょうね」ギュ

 

「アネゴは相変わらずだな……」

 

 

 

広い敷地内の並木道を進んでゆく俺と、第八艦隊の誇る軽巡三羽烏。途中ですれちがう何人かの職員が立ち止まって敬礼していったところは、流石の貫禄と言うべきか。

 

「ふぅ……久し振りに来たけどやっぱり堅苦しいのはニガテだぜ。な、お前もそうだろ?」

 

律儀に返礼している木曾。ちょっとお疲れ気味だな。

 

「同感だよ木曾。ココは国土省だけじゃなく、国防省から入った人も多いからなあ……彼らはお前たちの正体を知っているから畏怖の対象なんだよ。尤も、何も知らない若手の職員から見れば美人のお姉さんたちが歩いてるとしか思わないけどな」

 

「そ…そうか……」///

 

「何だ、照れてんのか木曾?」ニヤッ

 

「ち、違うよアネキ! からかうなよ……」///

 

「からかってなんかいないの。天龍ちゃんはねー、木曾のそういう可愛いトコが見たいのよー」クスクス

 

「おい龍田! 余計なコト言ってんじゃねーよ」///

 

「はぁい。ほらほらボウヤ、離れちゃダメですよ~」ギュ

 

手を繋いでいただけのハズが、いつの間にか俺の腕に体ごと密着している龍田。よかった……いつも通りのマイペースな龍田だ。おとといの晩に彼女の様子を見にいった木曾は、ものの数分で戻ってきた。聞けば龍田は天龍と1階の大広間で、時おり笑顔すら浮かべながら会話していたらしい。姉妹の絆の前では、俺の懸念なんて杞憂に過ぎなかったというわけだ。あとは五月雨だけど…彼女だって、天龍との付き合いは俺よりもずっと長いんだ。海風も居てくれる。何の問題もないだろう。

 

「龍田はお姉さんみたいだな。もう遠征は終わったことだし、また鎮守府でみんなを見守ってくれるんだよね?」

 

「そうね~、それもいいけど……でもね、ウチのみんなを見守るのは天龍ちゃんの役目ね。私はボウヤと天龍ちゃんで手一杯よ~」

 

「あのな。オレはお前に見守られてんのかよ」

 

「だって天龍ちゃん、危なっかしいんだもの~。独りでどんどん飛び込んでいくんだから~」

 

「それは戦闘の話か?」

 

「戦闘だけじゃないわよ~、ボウヤの前任だったあの人と口論してる時あったでしょう? 私、その後で気落ちしたあの子を励ましていたものよ」

 

マジか。あの提督と。

 

「龍田、俺の前でそこまで話していいの?」

 

「ええ、勿論ですよ~。いまの指揮官はボウヤなんだから、過去の私たちや提督のことも知っておいてね~」ニッコリ

 

龍田から見れば、俺よりずっと年上の先代も「あの子」か。大正生まれの彼女なら当然といえば当然なんだけど、やっぱり違和感あるなあ。

 

「それは……知らなかったな………」

 

図星を指され、意外な事実も聞かせられてトーンダウンする天龍。

 

「だからね天龍ちゃん、これからはボウヤにもみんなにも優しくしなくちゃダメよ~? もう今は昭和じゃないんだから。新しい時代、零和なんだからあ」

 

「……分かったよ」プイッ

 

(あらあら拗ねちゃった…心配しなくていいからね、ボウヤ。天龍ちゃんは直ぐ拗ねるけど、引きずったりしない子だから)

 

(ああ、龍田がそう言うんなら安心だよ)

 

(うふふ)///

 

 

 

 

 

 

ゴクゴク……コトッ

 

 

 

「ご馳走さん、ありがとうな!」

 

持参したうなぎ弁当を美味しそうに頬張ってからお茶で喉を潤す課長。こういう表情を見せてくれると買ってきた甲斐があるってもんだ。

 

「明日の準備はどうだ、順調か?」

 

応接用の長椅子に腰掛けている俺たちへと声を掛ける課長。自身は執務机に向かいながら椅子に腰掛けたままだ。

 

「お陰様で。許可を頂けたのは課長のお陰です。ありがとうございます」ペコリ

 

「ん? お前の働きを上が認めたんだ。俺は関係ねぇよ」

 

「それも課長がウチの艦隊を支えてくれたからこそ、ですよ。石油や鉄は勿論、弾薬や開発資材を課長が手配してくださるから僕らは働ける。町で調達するだけじゃとても足りない。三日前の戦闘だって例外じゃない……これ、報告書です」つ

 

「お前……十日前にも戦ったばかりじゃねえか。ケガしてねぇだろうな……おっと失言でした。みなさんが一緒なんだから、愚問ですな」

 

「いいんだよ、オレたちの提督を心配してくれてるんだからさ」ニッコリ

 

「恐れ入ります」

 

国防省から転身して入った課長は艦娘に対する敬意を忘れない。ただ、本来なら立ち上がって頭を下げて謝りたいくらいなのに、歴史交流局(戦闘してることを世間から隠すための名称だ)の中では艦娘よりも立場が上なので自重している。万が一、他の職員に見られたら組織の体面を汚す者だと見做(ミナ)されてしまうから……。いま天龍に敬語を使ったのは課長なりのせめてもの意地であり、歴史交流局に対するささやかな抵抗だ。組織ってのはほんとイロイロと面倒くさい。

 

「大丈夫です、課長の言う通りみんなのお陰で。……その報告書、すべて書いてはいません。特別条項に基づいて、一部を秘匿しています……時が来れば必ずすべて報告します」

 

リッティを確保したこと。そして他には、ミルディたち姫グループを仲間にしていること……だ。

 

「ああ、急迫した特別の事情に於ける室長の報告義務免除……だったな。構わんぞ、お前たち室長に与えられた権限だからな。もう秘密にする必要がないとお前が判断してから、こちらに知らせろ。長引いてもいいぞ」

 

夜のミーティングで、雪風に確認した件だ。

 

「分かりました。これ、明日の入場券です。場内をよく見てもらえれば、ウチの秘密が何となく分かると思います」つ

 

「……いいのか?」

 

「はい。お世話になってる課長にダンマリをきめこむのは、何だか違う気がして……まだ上層部には明かせませんが、課長は別です」

 

「問題発言だぞ? 俺の胸にしまっておくけどな」

 

これだ。こういうトコが俺の琴線に触れるんだ。

 

「それじゃ……問題発言ついでにもう一つ。上は僕ら室長に、何か隠してはいませんか?」

 

「ボウヤ!?」

 

龍田の声。驚かせちゃったかな。

 

「慌てるな龍田。ボウズに任せろ」

 

「天龍ちゃん……」

 

「大丈夫だよ龍田、心配しなくていい。…課長、この部屋は盗聴器が一切仕掛けられない特別製でしたよね。だから話します……課長は深海棲艦たちが、二つの勢力に分裂して互いに争っているってご存知でしたか?」

 

「何だと? 初耳だぞそんな話は。確かなのか?」

 

「禍津日神(マガツビノカミ)さまに誓って、真実です……ポイントは国防省ファイルの「姫」と「鬼」というカテゴリ。そして今から話す内容は、僕らが可能な限りの手を尽くして入手したもの。それをお伝えします…課長、僕らはこの国に仇なす侵略者を倒すために戦ってる。司令部のためじゃない。聞いてくれますか?」

 

「…その前にな…………さっき言った、十日前の戦闘な。その前日にココに来たお前が俺に言ったこと、覚えてるか?」

 

えっと……。

 

「深海棲艦がすべて侵略者だと思いますか……確か、そんなことだったと思います」

 

「そうだ。俺はあの時に、お前が日々の疲れのあまり突拍子もないことを唐突に口走ったんだろうと思ったぞ。この司令部じゃ、奴らは例外なく侵略者だってのが常識なんだからな。だが俺はな、色々と調べてみたんだ……お前に約束したからな」

 

眼鏡の奥からこちらをしっかりと見据える鋭い目が、さらに研ぎ澄まされた光を帯びる。

 

「上は俺たちに何かを隠している。お前の話を確かめるために俺が国防省ファイル以外の関連書類を求めた途端、対応した管理の連中は他に急な仕事があるからと言ってな、そそくさと退散した。一人残らずな。こっちは手ぶらで退室という有り様さ」

 

「課長……ありがとう…信じてくれたんですね」

 

「当然だろ? お前は今や特務室長なんだ。誇れよ」

 

「あら…ボウヤは第八室長よ~。どういうこと?」

 

「龍田殿、彼は新しい役職に就いたのです。第五、第六、第七艦隊は現在、彼の掌握するところ。三つの艦隊が消滅したと思っている者も居ますが、実態は異なります。あくまでも彼の艦隊に統合されただけ。彼がその気になればいつでも復活させることができますし、関連施設はすべて彼の思うがまま。明日のイベントが第六艦隊の敷地で開催可能となったのも、彼が施設管理権を持つがゆえ」

 

「あらあら……驚いた。ボウヤ、頑張ったんですね」ニッコリ

 

「龍田やみんなのお陰だよ。課長、彼らは課長に真実を知られることが恐ろしいんです。他の一般職員ならどうとでもなりますけど課長はそうはいかない。課長の人脈やチカラは凄いから」

 

「かも知れんな……よし、お前の話を聞こう。奴らは内紛を起こしていると言ったな。そして奴ら深海棲艦は、すべてが侵略者というわけではない……そうだな?」

 

「はい」

 

「他には何がある? すべて話せ」

 

「あと三つあります。ひとつは、第五から第七について。あんなに奇妙な艦隊編成は見たことがありません……艦娘が九人しか居ないのに、そのメンバーを三つの艦隊で互いに融通しあっていた。第一艦隊は五十人以上も居るのに。そして所属していた九人のうち、阿武隈と夕雲と秋雲、そして長波はあの素晴らしい栄誉ある撤退作戦に従事した艦です。わずか九人のうち四人もですよ……単に派閥から送り込まれてきただけの室長たちを優遇するためには、とても好都合な艦隊だったと考えるのが妥当かと」

 

「とても戦闘など任せられない三人だったな。だが、とある有力派閥から来ていた以上、無下に扱うことはできん……」

 

「そこで阿武隈たちの出番です。彼女たちを部下にできたのは、彼ら三人を大いに満足させたことでしょう。そしてもしも万が一、彼らが素晴らしい働きぶりを見せるようなことがあれば、艦娘を追加で配属させる積りだったんですよ」

 

「成る程な……お前はきちんと接しているのか? 阿武隈殿たちを迎えて、あの作戦に参加した艦娘はお前の艦隊の中でかなりの数に上(ノボ)るんだろう?」

 

「七人です。最初の頃は興奮と緊張でなかなか眠れませんでしたよ。もう大丈夫です」

 

木曾と響、そして五月雨。二年前はこの三人だけでも

緊張していたんだから。いま思うと……響がやたらと俺に構うようになったのは、あの緊張を解きほぐそうとしてくれていたのかな?

 

「侵略者と戦うための組織が、派閥の顔色うかがいのために艦娘を利用、か……やってられねぇな。次の一つは?」

 

「いまの話と少し重複しますが、艦隊の数についてです。この組織には現在、休眠状態のものも含めて八つの艦隊があります。あまりにも多過ぎます。鬼どもの大半は東京と静岡の間の海域にしか現れない。課長はとっくに知ってますよね」

 

「まあな。だが例外はあるんだぞ……紀伊水道や瀬戸内海に出現したケースもあるんだ。そういった事態に備えることも必要だ」

 

「それなら九州や四国、そして北海道にも設置するべきでしょう? でも実際はそうなってない。艦隊の数は多いのに、その配置はここ関東に集中している。出現海域が分かっているからですよ。上は知ってるんです……いま課長が言ったイレギュラーには遠征で充分に対処できるんだって。東京~静岡エリアを重点的に監視していれば、何の問題もないんだって」

 

「仮に、お前の言う通りだとしよう。その場合、深海棲艦の出現ポイントが偏っているのは何故だ? 説明できるのか?」

 

「はい。深海棲艦には戦場で命を落とした人々の魂が宿っているからです。日本に伝わるつくも神の伝承、ご存知でしょう。艦船が魂を宿したのが艦娘。そして人々の魂を宿した艦娘が深海棲艦……彼女たちがこの国を目指すのは、魂がそうさせるからです。侵略なんて意図、殆どの深海棲艦にはないんですよ……ただ帰りたいだけ。例外として、軍部への憎しみに心を乗っ取られてしまった艦船だけは、こちらに所属する艦娘を沈めようと向かってきます。鬼から見れば、艦娘は軍部の忠実な所属艦船ですからね」

 

「そうか……何となく見えてきたぞ。東京といえば天皇陛下のいらっしゃる皇居がある」

 

「そして西には日本一の霊峰、富士山が聳(ソビ)えていますね」

 

「当時の人々にとって、故郷の日本を象徴する存在といえば……天皇陛下、そして芙蓉(フヨウ)だからな」

 

「その思いが、魂にちゃんと残っているんです。だからその魂を宿す深海棲艦の出現する地点は、あの海域に集中している。…………」

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「……それを攻撃と見做され、沈められてしまった深海棲艦は……何人…いや、何十人いたんだろう、と」

 

 

 

「それはお前が心を痛めることじゃない。俺たちは特別な力を身に付けているわけじゃないんだ。ただ一つ言えるのは、この海域を守るために戦った艦娘と提督の働きは信念に根差したものであり、誰も責めることなんてできないってこった。そして俺たちはな、己(オノレ)の過ちを認めて再び歩みを始めることができるんだ……いや、そうするしかないんだよ」

 

力強い言葉。でも最後の部分にはほんの少し、柔らかな響きが。

 

「……はい」

 

納得なんてできない。でも今は、目の前のことを片付けなくちゃ。

 

「…決めたぞ。今後の戦闘に関しては全て、お前に一任する。もう敵も残り少ないだろうからな……お前が先ず、対処するんだ。お前が許可しない限り、他の艦隊には一切手出しさせん。そして援護が必要な場合は俺に知らせろ、直ちに最寄りの、あるいはお前の指定する艦隊を派遣する。どの艦隊でもいいからな。事後承諾でも構わんぞ……希望する艦隊に直接連絡のうえ協力して事態を収拾した場合は、できるだけ早くこちらに報告しろ。いいな」

 

課長……!

 

「それならもう、魂が沈められてしまうことはありません! 分かりました!」

 

「まあボウヤ、嬉しそうな顔して」

 

「当然だろ。なあ木曾」

 

「ああ、アネキ。コイツはオレがいつも見てるんだからな。これでこそオレたちの指揮官だ」

 

何だか恥ずかしいな。もしかしたらおとといの長波も、こんな気持ちだったのかな。

 

「よし、気合い入れてやるんだぞ。質問の続きだ、瀬戸内海とかのイレギュラーな出現海域はどう説明する?」

 

「奈良と京都ですよ、課長。確か大阪湾には、京都に至る川と奈良に至る川が注いでいますよね……きっとそこを通ろうとしたんですよ。かつて、天皇陛下の都が存在した地域……東京よりもそちらのイメージを強く抱いていた人々の魂を宿した深海棲艦だったんです。関東に現れる深海棲艦には皇居や富士山のイメージの強い魂が多く、関西に現れる深海棲艦には都のイメージの強い魂が」

 

「故郷を目指すというのなら、日本のあちこちを目指す筈なんじゃないのか? 北海道出身、東北出身、北陸出身……いろいろだ。しかし実際はそれぞれの地域へと向かってはいない。何故だ?」

 

「一人の深海棲艦に宿る魂が一人だけの魂なら、そうなりますね」

 

「うん……?」

 

「一人の深海棲艦に宿る魂は、恐らく一人じゃないんです。大勢の魂が深海棲艦一人ずつに宿っている。ひとりひとりの魂がイキナリ自らの故郷に向かおうとすれば大混乱ですよ……深海棲艦の体は一つしかないんだから。船頭の多い舟と変わりません。だから先ずは日本を目指そう、そして日本に着いたらそれぞれの地元に帰ろう…そういうことなんだと思います。皇居や都、そして富士山は魂が合意した解散の場……最終目的地の故郷へと向かう途中の、解散場所……」

 

「……………」

 

室内に満ちる静寂。俺の言葉が課長の心へと染み込んでいってるんだ。もしかすると、俺と肩を並べて着席している天龍と龍田、そして天龍の隣に座る木曾の心にも。

 

「よく分かった。お前の話を他の艦隊に伝え、そして納得してもらいたいところだが、人手も時間も足りん……なにしろお前ひとりが頼りなんだからな……お前はどうする?」

 

「そうですね……我々は既に第二艦隊の艦娘と会っているので、彼女たちとの繋がりを深めていきながら、今の話を伝えます」

 

「ああ、それでいい。これからはどんどん交流しろ。邪魔者連中など知ったことか」ニヤリ

 

凄味のある笑いを浮かべる課長。現役時代が何となく想像できるなあ。

 

「第三艦隊も放っておきません。特にパワハラ室長」

 

「任せる。俺たちが手を出せば騒ぎが大きくなるかも知れんからな……よし、最後の三つ目の話は何だ?」

 

「艦娘同士の交流があまりにも希薄なことです……パワハラ野郎もだけど、これは本当に許せない。他の鎮守府の留守番に呼ばれ、それが終わればさっさと帰らせられるなんて……仲良くさせてあげるべきです」

 

思い出すのは以前の電。時おり本当に寂しそうな顔をしていた。

 

「俺も知っている。だが傍観者に過ぎんな…すまん」

 

「いいえ、課長はきっと尽力してくれたんだと思いますよ……でも、課長より上連中の遣り方はメチャクチャだ……ひとつひとつの鎮守府を、まるで艦娘の収容所みたいにしている。お互いの交流なんて聞いたことないし、ウチの第八艦隊も同じです。みんな寂しい思いをしてきた……今ここに居る木曾も。課長、司令部は艦娘を分断しているんじゃないですか?」

 

「現状を見る限り、否定はできんな。目的は何だと思う?」

 

「すべての艦娘が団結した暁に実現するであろう巨大勢力の誕生……それを阻止すること、だと思います。司令部の実体は宮内省と国防省、そして国土省……でもそれだけじゃない。他の省庁からも出向……いや、潜入している関係者が居るのは分かってます。主導者は恐らくその連中。恐らく僕ら室長や艦娘のことを嫌っていて、国防とか自衛という言葉を聞いただけで拒絶反応を示すグループが、交流局内で暗躍している……だから艦娘同士の交流を意図的に阻んでいるんです。この組織では艦娘ひとりひとりが大きな発言力を持つ……ましてや彼女たち全員が団結したら、艦娘アンチの連中は間違いなく居場所を失いますから。違いますか、課長?」

 

「………お前を現場に回した上層部は、こんな日が来ることを期待してたのかもな。お前はさっき上を批判したが、心ある人も中には居るんだってことだけは忘れないでくれ……。それにしてもたまげたぞ。お前ひとりの力じゃあるまい、きっと良き理解者が周りに居るんだろう……お前に助言してくれる仲間が、な」

 

「最初は誤解してました。でも今は、とっても感謝してます」

 

「そうか。……話は終わったな? それじゃあ、まとめてみよう……

 

一、深海棲艦は分裂して互いに争っている

 

二、深海棲艦のすべてが侵略者というわけではない

 

三、司令部は別組織の派閥から来た人間を厚遇するために艦娘を利用した

 

四、司令部は深海棲艦の出現ポイントが限られていることを把握しているにも拘わらず、艦隊を集結させないで八つに分割している

 

五、司令部には艦娘たちの団結を恐れる勢力が潜入しており、艦娘同士の交流を妨害して分断を図っている

 

………やれやれ」

 

これが……俺たちの置かれている現実なんだな……。メンタル削られるぜ。

 

「世話になってる身だ、あまり言いたかないが」

 

天龍が口を開く。

 

「難儀な組織だな。同情するぜ」

 

「ただただ赤面の至りです。ですが次はこちらの番。奴らに一泡吹かせてやりましょう」

 

「フフ……その意気だぜ」ニヤリ

 

課長に負けてない迫力のある笑いを浮かべる天龍。最後の決戦に近付いているのをひしひしと感じているんだろうな。

 

「ボウズ……ここまでよくやったな。胸を張るんだぜ」ニッコリ

 

ここでその笑顔かよ………まったく、天龍にはかなわないや。

 

「天龍殿の言う通りだぞ。本当によく調べたな」

 

「課長、ありがとうございます。仲間のお陰ですよ」

 

すべての始まりはくーの言葉だったな。あの森の中で。

 

「そうだろうな。さてと、俺だってじっとしてはおらんぞ。さっきお前に言ったことを実践しなくちゃならんな」ガチャリ

 

執務机に置かれた内線電話の受話器を手に取る課長。ということはこの敷地内のどこかに居る人に掛けるんだな……どんな用件なんだろう。

 

「……どうも、こちらは人事課です。……はい、少々やっかいな事案が……はい、その通りです……。………例の…………ええ、私が以前お伝えした男です………はい、それでは……」カチャン

 

受話器を置いて俺を見詰める課長。こいつはどこまでやれるんだろう……そんな感じのする目で。

 

「お前に今後の戦闘を一任し、どの艦隊にも援護を要請できる権限を与えることは、さっき伝えたな。それに付け加えることがある」

 

「はい」

 

俺も課長の顔を、しっかりと。

 

「お前に全ての艦娘同士の交流を任せる。さっきのは戦闘時の権限だが、これは平時の権限だ。お前は今後、交流させる必要があると判断した艦娘たちを、いつでもどこの艦隊からでも呼び出すことができる。たとえ第一艦隊であろうと文句は言わせん………今までの空白を、埋めてやってくれ」

 

 

 

          続く

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