「………僕の艦隊を」
「うん」
「第八艦隊に、吸収してほしいんです! それが、僕の希望なんです!」
第五-33話
カチャカチャ…パクパク
「提督……いかがです? お口に合いますか?」
「とっても美味しいよ。チーズのまろやかさがハンバーグ全体に染みわたってて、もう最高!」カチャカチャ
「良かったぁ……」///
「初霜は食べないの?」
「今日は私たちが食事当番ですから。それに、お客様と同席するなんて……」
「そういえば守衛室では若葉と子ノ日が受付業務やってたね。ここの運営は全て艦娘のみんなとアユムだけで?」
「あ、もう二人に会われたんですね。そうです、第一艦隊のような職員はひとりも居ないんです」
「大変なんだな…。ご馳走様、本当に美味しかったよ」カチャリ
「ええッ!? もうぜんぶ……まあ! こんなにキレイに平らげてくださって……お粗末様でした」///
「兄さん、もしかして足りなかった……かな?」
「そんなことないよアユム、お腹いっぱいだ」
第二艦隊を第八に吸収してほしい。そう言った第二室長は、しばらく話し合いを続けるうちに、俺のことを兄さんと呼ぶようになっていた。少し驚いたけれど、この短時間で俺もすっかり慣れたみたいだな……。ま、お互い本名を明かせない者同士、代わりの呼び名があるのはとても便利でいい。仮の名前のお礼……というわけではないだろうけど、昼食をご馳走になれたのは有り難いな。古鷹や加古も同席していれば、もっと嬉しかったんだけど……こちらのために気を利かせてくれた彼女たちとアユムには、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「あの、提督……アユムというのはどんな由来でお付けになられたんですか?」
「将棋だよ。歩(フ)はひとつずつしか動けないけど、対局のためには欠かすことのできない駒だからね。一歩一歩、コツコツ歩む駒。アユムに合うと思った」
「わあ……なんだか素敵。……あら? アユム提督、いま嬉しそうなお顔でしたね」ニッコリ
「え? そ…そんなことないさ。気のせいだよ」///
分かりやすいなあ。
「えぇ……そうでしょうか?」ジーッ
「そう……そうなんだよ初霜っ。それよりさあ、アユム提督って……」
「あら? アユムさん、のほうがよろしかったですか?」
「そ、そういうことじゃなくて…その……」アタフタ
「?」
「なんでもない! 呼び方はみんなに任せるっ」
「分かりました、アユム提督」ニコッ
「……兄さん。何だか恥ずかしい」
「俺たちって室長とか提督と呼ばれるのが大半だもんな。新鮮というかくすぐったいよな」
「うん……」///
「それでさ、アユム」
「なに?」
「ほんとにいいのか? 第二を第八に吸収しても」
「うん、お願いだよ! もう室長の役割は僕じゃ力不足なんだ!」
「言い切るんだな。でもアユムはもう三年くらい頑張った。いいよ、任せとけ」
「え……兄さん、なんで僕が三年やってるって分かったの? まだ言ってなかったよね?」
「古鷹がココに来たのは三年前らしいからな。艦娘の居るところには常に提督アリだよ。前任者なんてのも居なかったんだろ?」
「…そうかぁ、それで分かったよ。うん、居なかった。僕は古鷹と加古からイロイロと教わったんだ。他の室長はどうなのかな?」
「俺は前任の室長から薫陶を受けた。ほかの室長については知らないな、ずっと 疎遠 だから。艦娘の交流すら許されない程に」
「兄さん、いま怖い顔してた……」
「あー、すまない。ちょっとね。それよりもアユム」
「うん」
「第三艦隊への訪問に行ってくれた古鷹たちのこと、改めて礼を言う。ありがとうな、本来なら俺たちが赴かなくちゃいけないのに」
「僕も感謝してるんだよ。だからおあいこ。第五艦隊の鎮守府って、兄さんの第八艦隊の近く?」
「いや、ウチから一番近いのが第六で……それから第五。ちなみに第七はその次だな」
「そうなんだ。てことは西から順に、八、六、五、七、僕らの第二……」
「ここから直ぐ近くに司令部、その東に第四、第三、そして」
「いちばん東が第一だね。最強の、第一艦隊……」
「第一ってのは後付けだな。もともとはあの艦隊が国史庁そのものだった筈だ。俺たちはサポート艦隊だよ」
「そうなの!?」
「証拠資料なんてものがあるワケじゃないけどね……でも俺はそう確信しているんだ。今までに倒された鬼は……泊地棲鬼と泊地水鬼に離島棲鬼、南方棲鬼と空母棲鬼、そして装甲空母鬼だ。つまり六人。第二と第八で倒したのが前半の三人で、第一が倒したのは後半の三人のうちの誰かだ。凄まじい戦果だよ…」
「えっと……第二って。もしかして僕らは鬼の誰かを倒したの?」キョトン
「なに言ってるんだよアユム、泊地水鬼の艦隊に大打撃を与えただろ。第二艦隊の働きがあったからこそ、泊地水鬼を倒すことができたんだ。もう一回言うぞ、泊地水鬼を倒したのは第二艦隊と第八艦隊だ」
「……逃げられてしまったんだよ?」
「ああそうだったな。でもな、市民に被害が及ぶ前に倒すことはできたじゃないか。それって結局は、俺たちが協力して倒したってことだよ。第一艦隊のマネして完璧主義に陥る必要なんてないさ。俺たちは俺たちの遣り方で……つまり協力して結果を出す。それでいいじゃん」
「兄さん……何だか嬉しいよ」
「それだけの働きをしたんだ。誇るべきだよ」
「同感だ。お前は控えめなんだな。若いんだからさ、もっと図太くてもイイんだぜ」
「えぇっ!? ぼ…僕がですか!? そんなあ」
「天龍ちゃん、いきなりムチャ言わないの~。ほら、困っているわよ~」
「何がムチャだ。室長を任せられてるんだぜ、それくらいのことができる強さはちゃんとあるさ」
「え………あ、あの。ありがとうございます……」
「これからのアユムに期待だな。話を戻すけど、第一艦隊の戦果は圧倒的だ。鬼の勢力は壊滅寸前だが昔はこんなもんじゃなかったんだからね。第一艦隊は昔から、フルパワーの敵勢力と戦ってきたんだ。残存戦力と戦ってる俺たちと根本的に異なるのはそこだよ。これだけでも、俺たちがサポート艦隊だってことが分かる。第一艦隊が非番の時などに、代わりの戦力として戦う。それが俺たちだ」
「そうか……そういえば僕ら、第一艦隊と一緒に出撃したことなんて全然ないや」
「俺たちもだよ。サポートだからさ」
「うん……。話は変わるんだけど、さっきの兄さん、三人のうちの誰かって言ってたね。どういうこと? 第一艦隊なら間違いなく三人全員を倒せると思うよ。誰かじゃなくて、全員だよね?」
「実力的には確かにそうだ。でもな、鬼たちと戦ってるのは鎮守府だけじゃないんだ。深海棲艦の軍勢は二つに分裂してるのさ。姫のグループと鬼のグループにね。だからさっきは、第一艦隊が三人とも倒したとは言わなかった」
「それ兄さんの脳内ストーリー?」
「いや、マジ話。ていうかけっこうツッコミの切れ味するどいな、お前」
「あっ……ごめん兄さん! 違うんだ、そんな積りじゃ……」
慌ててフォローしようとしてる。うん、思ってた通りだな。悪い奴じゃない…。ただ、その気立ての良さが社交面に於ては足枷になっているのだとしたら、勿体ないな。
「いいんだよ、分かってる。今はただ頭の片隅に留めておいてくれればいい」
「うん……分かったよ」
「いま話せるのは以上だ。アユム、あらためてよろしくな」
「僕のほうこそ、よろしくお願いします」
「提督、よろしくお願い致します。私たちの艦隊…その…けっこう大変だったものですから」
「ああ、加古が切っ掛けをつくってくれたんだ。無駄にはしないよ、初霜」
「はい!」ニッコリ
「それじゃ区切りもついたことだし、古鷹たちの帰りを待たせてもらうとしようかな。どこかの部屋で待っていても構わないかな?」
「勿論だよ兄さん。最初に古鷹が案内した応接間を使って。帰ってきたら知らせに行くからね」
「ありがとう。…あれ?」
「……どうしたの?」
「誰か来る。足音が複数だ。もしかしてまだ会ってない艦娘を呼んでくれたのかい?」
「ううん、呼んでない。古鷹と加古だよ、きっとね」
「分かった。それならこのまま話をしよう。天龍、どうやら休憩は中止だ」
「みたいだな。構わないだろ、オレたちにはやらなくちゃいけないことが沢山あるんだからな。どんどん片付けるとしようぜ」
「ああ、そうだな。アユム、すまないが……」
「大丈夫、このままこの部屋を使ってね」
「助かる。ありがとう」
ガチャリ
「古鷹、戻りましたー。あ、良かったあ…お姉ちゃんも提督も、ずっと待っててくれたんだ」パアアァ
「同じく加古。提督、ちゃんと連れてきたよー! ふふ~ん、ついてたね! 司令部に行ったらさ、たまたま第三艦隊のメンバー見付けたんだよ。ほらほら、ご挨拶ご挨拶!」
「分かったって! もう加古、荒っぽいんだよ!」
「あれ~アンタがそれ言うの? ま、いいけどさ。それよりねぇ、さっさとするの! 二度は言わないよ」
「わ、分かったって!」
古鷹と加古の間に立っている艦娘の口から発せられた声。張りがあって、よく通る響きをしている。そして
何より印象的な、彼女の目。快活で凛々しい光が宿っているが、自らと他人との間に揺るぎなき一線を画(カク)するために、相手をしっかり観察することのできる冷静な目だ。
……妙だな。
これほどの迫力がある艦娘に対して、パワハラ野郎が何かできるんだろうか?
「えぇーっと、摩耶だ」
明らかにこの場に於ては気乗りしていない様子の艦娘、摩耶。加古の言葉があるから仕方なく、という表情がありありと浮かんでいる。
「ちょいとした用事で司令部に居ただけなのに、ココに呼び出された。さっさと済ませてくれ」ジロリ
鋭い視線を摩耶から向けられる俺。呼び出したのはお前だな、という苛立ちがハッキリと伝わってくる。さあ、やっとここまで来たんだ。彼女の険しい目が少しでも柔らかくなるよう、慎重に進めよう。
続く