鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-35話

よし決めた。もう少し先にする予定だったが、鈴谷の言葉がテンション上げてくれた以上は直ぐに動くべきだな。こういうのは間を空けちゃダメだ。

 

「摩耶、詳しい話を頼む。今から乗り込むよ」

 

 

 

第五-35話

 

 

 

ザザ………ザアアア……

 

 

 

海岸のある方角から波の打ち寄せる音が聞こえてくる。そちらに視線を向けても、見ることができるのは鎮守府の建物とそれをぐるりと取り囲むくすんだ無彩色の塀と、その上部に張り巡らせられた鋭い有刺鉄線ばかり。半年前、妖精さんたちのチカラを借りて不穏な鎮守府はドコかと偵察していた時に、当然ココにも来たが……ものものしい雰囲気は相変わらずだな。まったく変わってない。あの野郎にはピッタリの根城ってところか。

 

「ボウヤ、みんな降りたわよ~。運転手の人たちは少し離れた場所で待っていると言ってくれました~」

 

「分かった、ありがとう龍田。集合してあの木立(コダチ)の辺りで待っててくれ。直ぐに行くよ」

 

「はぁ~い」タタッ

 

「龍田さんって兄さんによく話し掛けるんだね。仲良さそう」

 

「俺が新人の頃からずっと助けてくれてるよ。天龍に叱られた時なんて、何回も庇ってくれたんだ」

 

「そうなんだ……。兄さんが叱られてたなんて意外。何でもできそうだし」

 

「何でもってワケじゃないが、できることが増えたのは天龍たち艦娘や職員みんなのお陰だよ。それよりもな…アユムは良いタクシー会社を知ってたんだな。やっぱりコチラの事情に関しても?」

 

「うん、みんな気付いてるよ。運転手は余計な詮索とか一切しないし口も堅い。司令部の総務課に頼んで会社の調査もしてもらったんだけど、全く問題なしだって」

 

「第二艦隊には職員が居ないもんな……どうしても民間に頼らなくちゃいけない。そんな中でも頑張ってるんだなアユムは」

 

「に、兄さん……」///

 

「照れるなよ本当のことなんだから。それにしてもさ、アユム」

 

「なに?」

 

「お前って順応力あるよな。アユムって呼び名に違和感もってないし俺とだって自然に会話できてる。一緒に話してると何だかもう何年も付き合ってる感じがするよ。なんで艦娘みんなには、そうできないの?」

 

「それは………僕、学校でクラスの女子から可愛いって言われてオモチャ扱いだったから……会話のペースとか話題の選び方がサッパリ分からないんだ」

 

あー。瞬時でビジュアル浮かぶな。

 

「彼女たちは艦娘だぞ? 女子学生とは違うよ」

 

「そうだけど……でもムリだよ。僕から見たら大して変わらない。でも兄さんは……話しやすいから…」

 

「そうか、ありがとなアユム。大丈夫だよ…お前は少しずつ慣れていける。俺が見た感じ、鈴谷はお前を応援してる。あと、初霜は物静かだから相性良しだと思うぞ」

 

「ええっ!? 鈴谷が?」

 

「さっきの言葉を聞いただろ、キミならできるって。あれはな、お前にエール送ってんだよ」

 

「鈴谷が……僕に…」ポカーン

 

「活発だしハキハキしてるから、お前は少しニガテに思ってるかもだけどさ、言葉の響きに圧倒されちゃダメだぞ? 鈴谷はあれがデフォなんだからな…フツーに受け止めてりゃいいんだよ。言葉そのものに気を取られるんじゃなくて、その言葉を紡(ツム)いでくれた心の中を想像するんだ」

 

「心の……中?」

 

「ああ。アユム頑張れ。アユムならできる。そう思ってるんだよ。嬉しくないか? 頑張って働いてる姿を鈴谷に見せようって気にならないか?」

 

「…………………やってみるよ、兄さん。できるかどうか分かんないけど、やってみる」

 

「ああそれでいい。アユムのペースでいいんだ。秘書艦の古鷹だって助けてくれてるだろ?」

 

「うん。でも古鷹はずっと色々と教えてくれたから…秘書じゃないよ。先生って感じ」

 

成る程な。もうアユムの中では序列ができてしまっているってワケか。人事課も酷なことをしたもんだ……最強艦隊で鍛えられた艦娘と何も知らないハタチそこそこの少年を、同時に同じ艦隊へ配置するなんて。一般的なことを言えば20歳は大人だが人には個人差ってものがある。ただ、2人が第二艦隊で勤務スタートした3年前といえば、人事課のトップは今の課長じゃなかった。課長は確かそのしばらく後で就任したんだ……アユムの苦しみは前任者に責任の一端があるな。

 

「そうか。でも古鷹も、アユムのことをちゃんと見守ってるぞ……俺だってアユムを応援するからね」

 

「うん!!」///

 

本当に嬉しそうな顔。よし、アユムはこれで大丈夫だな。

 

「あのね兄さん、さっきはほんとゴメンね。脳内ストーリーなんて生意気なこと言っちゃって。僕、ほんとにビックリして……」

 

「深海棲艦の話か。気にしなくていいんだよ、俺だってタルトから初めて聞いた時は仰天したんだから」

 

「タルト……? 誰?」

 

「仲間だよ。とっても頼りになる艦娘なんだ」

 

 

 

 

 

サラサラ……スッ

 

 

 

「記入、終わったよ。これでいいかな?」

 

正門横にある守衛室で入場申請用紙への記入を終えて、目の前で対応してくれている黒髪の女性に不備の有無を確認する。穏やかな面持(オモモ)ちをしているが、その目には芯の強そうな光が宿っている。彼女も艦娘だ。

 

「………はい、問題ございません。あらためまして、ようこそ第三艦隊にお越しくださいました」ニッコリ

 

優しげな笑顔に穏やかな声。

 

「ありがとう時雨。それじゃ、入らせてもらうね」

 

「はい、あの中央の建物です。……あの……室長さん」

 

「何かな?」

 

「みなさんのご来訪……なんとなくだけど理由、わかります。ボクたちの艦隊を…どうかよろしくお願いします」ペコリ

 

立ち上がり深々と頭を下げる時雨。そうか……こちらの魂胆(コンタン)はとっくにお見通しか。それもまあ当然だろうな。俺はずっと他の室長からマークされていたんだから。

 

「わかったよ時雨、待っててくれ。大丈夫だよ、艦娘みんながチカラを貸してくれるからね」

 

「はい…分かりました。摩耶、しっかりね」

 

「ああ、吉報を待ってな」

 

 

 

 

 

「摩耶。いまの守衛室、けっこう大きいのに時雨ひとりだけなんだな」

 

「……………」

 

「他の艦娘が別室でカメラを使って監視してるな? 普通はあの大きさなら三人くらい居てもよさそうなもんだよ。あの野郎の方針かい? それともずっと以前からかな?」

 

「ただの人手不足さ。……って言ったら、信じるか?」

 

「信じないね。第三艦隊は重巡主体型、規模は二十人ほど……もう調べは済んでいる。それだけ居れば室長と艦娘だけでも艦隊を運営することは充分可能だ。守衛室に五人入れても十五人くらい残る。食事当番、掃除、洗濯、巡回、資材や設備の点検……艦娘はみんなハイスペックだから何の問題もないな」

 

「まいったな…そうだよ、アイツがそうさせたんだ。今日は白露と村雨と初風が隣室で監視してるんだ……カメラなら相手に気付かれることなくジックリ細部まで監視できるからな。以前はみんな対面で応対していたのにさ」

 

防犯意識が高いと言えば聞こえはイイけどな……あの野郎が関わってるとなると印象がまったく違ってくるぜ。

 

「来訪者の正体が犯罪者とかで不測の事態が発生しても、監視メンバーが飛び出てくる寸法だな。そうすれば相手は加勢に驚いてスキが生まれる」

 

「! ねえ、提督…」

 

「うん?」

 

「あんたって、司令部を乗っ取る積りなの?」

 

「加古にも似たようなことを言われたよ。そんなの全く興味ない……俺は艦娘みんなの笑顔が見たいんだ。権力なんて欲しくもないね」

 

「でもね……あんたのその切れ者っぷりはヤバい。カン違いされないように気を付けなよ、鋭さってのは刃物や凶器だけの専売用語じゃないんだ。要らぬ誤解を与えてしまうぜ……人が恐れるのは暴力とか腕力だけじゃない」

 

「忠告ありがとう摩耶。そうだな……気を付けるよ」

 

「うん」

 

「話は変わるけどね摩耶。お前が教えてくれた詳細な話、驚いたよ……。艦娘をパワハラに利用するとかとんでもねえ野郎だな」

 

「高雄と霞。あの二人がヤツの手足となってココを統制してる。だからあたしたちじゃ何もできない。手強いよ……頑張ってくれ、提督」

 

「お前のお陰で心の準備ができたんだ。やってやるさ」

 

 

 

いいか、特に、第三艦隊の指揮官には気を付けろ

 

 

 

課長の言葉を思い出す。もしかすると課長はあの時から……いや、もっと前から分かっていたのかな? いつか俺が、こういう場面に臨むんだろうなって。

 

 

 

 

 

ガチャリ……ギイィ…

 

耳障りな程に大きな開閉音が響きわたる。時雨が教えてくれた建物の大きな扉を開ける俺……あまり油を差していないみたいだな。そうか、この艦隊は艦娘の練度が高いが資材は不足しているんだっけか。

 

「て、提督う! いきなり開けちゃうなんて……!」

 

「ノックはしたよ、古鷹。それに…守衛室からヤツに連絡が入ってる。古鷹が俺を歓迎してくれた時のようにね。遠慮は不要だ」

 

「古鷹、ここはもう敵地だよ。アタシたちにとって」

 

「うん……それは分かってるんだけどね……加古。提督のこういうトコ、お姉ちゃんに似たのかな……」

 

「どうだろうな。ま、ボウズだって男の子なんだ。これぐらいでいい」

 

「室長は居るかしら~? まさか不在なんてことはない?」

 

「問題ないよ龍田。時雨はこちらの意図を察していた……ヤツに会いに来たという俺たちの意図をね。不在なら俺たちを通したりしないよ、無駄足だからね。通してくれたのは中に居る証拠だ………ん、どうやらお出迎えだよ」

 

俺の言葉を聞いてみんなの表情に緊張が走る。現れたのは……

 

 

 

「特務分室室長殿でいらっしゃいますね……ようこそ我が艦隊へ。私は神通と申します……みなさんをご案内致します……提督が、お待ちです。どうぞこちらへ……」

 

夏のそよ風に揺れる風鈴の音色のように可憐な声で話す少女、神通。だが彼女はコロンバンガラ島沖の死闘で、2000発以上の攻撃を浴びて戦い続けた果てに轟沈した第二水雷戦隊旗艦…まさに鬼神だ。格闘技の選手はある一定のレベルを越えると、非常に落ち着いた物腰を身に付けることがあるけど……神通を見ていて、何となくそんなことを思い出した。

 

「お願いするよ神通。みんな、行こう」

 

室内は大きなロビーになっている。殺風景なもんだな……観葉植物とか絵画の類(タグイ)が一切見当たらない。部屋を横切って奥にある階段のもとに辿り着く俺たち。こちらです、と先導する神通に続いて階段を上ってゆく。最初に到達したフロアには入ることなく上り続けて、次のフロアで廊下へと進んでゆく。

やがて

 

 

 

「ここでみなさんをお待ちです。どうぞ、お入りになってください……」

 

扉の横の壁面に「武道場」と書かれたプレートがある。こちらは9名……広さという点に関しては適切なチョイスだな。だがそれだけじゃない……俺たちをヤツなりに歓迎する積りなんだろう。いいぜ、上等だよ。

 

「俺が開けるよ。神通、いいかな?」コンコン

 

「室長殿の仰せのままに」

 

「なんだかワクワクしてくるねー! 提督はそっちからね、鈴谷はこっちー! お邪魔しまーす!!」ガラガラ

 

通常の部屋とは異なり、武道場ってのは練習する大勢の人たちが一回で出入りすることがあるから、観音開き式では具合が悪い。その点、こういう引き戸式の扉なら出入りをスムーズに行うことができる。

 

「鈴谷ってほんと元気だな……っと」ガラガラ

 

 

 

 

 

板の間かよ………本格的なんだな。でも、さほど広くはないか…ウチの第八艦隊には板の間の練習場とマットの練習場……その両方が備えられているが、その板の間のほうだけと比べても半分くらいの広さだな。

 

 

 

「よく来たな」

 

 

 

……ようやくご対面かよ。

 

 

 

「どうも、第八室長だ。お邪魔するよ」

 

 

 

居並ぶ艦娘たちの中央、背の高い男がこちらをじっと見詰めている……背丈は俺よりも5~6cmほど高いな。だがゴローさんと比べると同じくらい低いか。髪は短く整えられており、妙に醒(サ)めた目付きは感情を巧妙に隠していて、こちらを観察するのに余念がないといった印象だ。年齢は50歳ぐらいだろう……だが顔に刻まれた皺の数は、年相応と思えるくらいのそれを余裕で凌いでいる。四六時中、理不尽に怒鳴り散らしてばかりいる者……そういう輩に特有の現象だ。

やっと会えたなパワハラ野郎!!

 

 

 

          続く

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