鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-36話

……四六時中、理不尽に怒鳴り散らしてばかりいる者……そういう輩に特有の現象だ。

やっと会えたなパワハラ野郎!!

 

 

 

第五-36話

 

 

 

ペコリ

 

 

 

ここは武道場。入る時と去る時には必ず礼、だ。間違ってもヤツに対する礼じゃないけどな! 誤解されると悔しいからあくまでも場内全体を見渡す視線を意識しながら礼をする。この場所に宿る荘厳(ソウゴン)な精神への敬意を込めて。他のみんなも俺に続いて次々と、礼を。

 

ガラガラ……ピタッ

 

俺たち9名すべてが入ったことを確認した神通が扉を閉める。そして第三艦隊の面々の所へとゆっくり歩んでゆく足音……彼女は俺のすぐ背後を通り過ぎる際に小声で、

 

 

 

「私も時雨と同じです。どうか……我々を…」

 

 

 

第三室長への視線をロックオンしたままで神通の声を聞く。そして同僚の艦娘の傍らに立ち、こちらへと視線を向ける彼女。その目に浮かぶ感情は穏やかで、敵意などは微塵も感じられない。ヤツとは大違いだな。

 

 

 

「お邪魔するよ、か」ジロリ

 

威圧的な響き。上から目線で他人を値踏みすることにすっかり慣れきっている人間だけが出せる声だ。

 

「大した礼儀だ。道場は敬うがコッチにゃお構いなしってわけか」

 

「お会いするのは初めてだけどね第三室長、この際ハッキリさせとこう。俺は第八室長……同じ室長だがあなたとは同僚でもないし、ましてやあなたの部下でも後輩でもない。単に同じ広報課分室に所属しているというだけの話だ。今日はこちらの要求を伝えに来たんだよ」

 

広報課に入ったのは後からだけど自分が後輩だなんて全く思わない。先輩後輩の関係ってのは順番だけじゃなくてもっとイロイロ必要なものなんだ。

 

「ナメた口を利くじゃねえか。 お前が? 俺に? 要求だと?」

 

セリフ刻んできやがったよ……言葉を弄(モテアソ)ぶとかどんだけ言霊リスペクト欠けてんだ? そうやって話せば威圧感を出せると思ってるのか。

 

「俺が勝手気ままに要求するんじゃない。人事課より与えられた権限を正当に行使するんだ……今、この場に限って俺の言葉は人事課の言葉だと思ってもらう。第三艦隊に所属する艦娘全員を我々第八艦隊に出向させることを要求するよ第三室長。目的は艦娘同士の交流による全員の心身の充実および親睦の促進だ。あなたには拒否権などない。何故ならこれは俺が保持する権限なのだから」

 

 

「……………ふざけるな」

 

 

………………………。

 

 

 

「ふざけるなああああああああッ!!! そんなの聞いたことねえぞ!!」

 

あまりにも分かり易いリアクション。もっと手強い奴かと思っていたんだけど…だが油断はしない。たとえこんな奴が相手でも。

 

「あんたが知らなかっただけだよ。ただ、それもまあ仕方ないという側面も確かにある……権限を与えられたのは今日だからな。疑うなら人事課に確認してもいいぞ。だがいずれにせよ艦娘のみんなは連れて行く」

 

 

 

「第八室長」

 

実直そうな声の主に目を向けると、そこに……ヤツの隣に、佇んでいるのは声に違(タガ)わぬ緊張感を身に纏う軍服姿の艦娘。ああ、彼女は……

 

「高雄だね。何だい?」

 

「……私を、ご存知で?」

 

「北のアリューシャンや南のソロモン……それと、サンタクルーズ諸島にマリアナ諸島だったか……。太平洋を所狭しと駆け抜けた艦船だね。そして今はここ第三艦隊の支配者を支える参謀ってところか」

 

「支配者などと。彼は私たちの指揮官でいらっしゃるのですよ? 口を慎みなさい」

 

「私たち、と言ったね。その私たち、の中に含まれている艦娘は……はたして何人いるんだい? 俺の見たところとても全員とは思えないし……そうだな、高雄と……彼の隣、高雄とは反対側の隣にいる彼女。きみたち二人だけだな、その男をリーダーと仰ぐのは。尤も、その数をひとりでも多く増やそうと日々がんばっているんだろうけどね」

 

反対側の隣にいる艦娘というのは、さっきから剣呑(ケンノン)な視線をこちらに向けている小柄な少女だ。間違いない…彼女が霞だな。

………ちくしょおおお艦娘にこんなカオさせやがってええええええ!! 艦娘にはな! 笑顔が一番似合うんだよおお!! この子だって笑ったら絶対に可愛いんだ!!! 歴戦の艦娘相手じゃ自分ではとても敵わないからってよりによってその艦娘の中から抜擢して艦隊内の監視役を務めさせるなんて!! 響に注意されたから何とか冷静に喋っているけど……やべえキレそうだよ!!

 

「たとえ何人だろうと貴様の知ったことじゃないわ。帰りなさい! さっきのタワゴトは聞かなかったことにしてあげるわよ」ギロリ

 

「霞……悪いが……それはできないな。艦娘のお前に…そんな表情させる野郎を放っておけるかよ。最後に笑ったのは一体いつだよ? ……覚えてねーんだろ」

 

あ。もうダメ。フツーに話すのキツい……感情を抑えるのマジきつい。俺の中の怒りゲージ急速上昇中。危険ブザー鳴りまくってるわ。アクション映画で崩壊する基地の中のスタッフが泣き叫びながら必死で食い止めようとしてるシーンで鳴ってるアレ。

 

「そう……私の名前まで知ってるの。……どうでもいいわ、そんなこと! 帰りなさい! 貴様みたいな奴は……あッ!?」

 

「……! 提督、いけません!!」

 

いきなり飛び出て俺に向かって突っ込むヤツに驚く高雄と霞。

 

「ガキが調子に乗ってんじゃねええ!! 誰に向かって野郎とかホザいてやがるんだああッ!!」ドタタタッ

 

右腕を振り上げたままで突っ込んできやがったなああああああ!! その体勢と身長なら頭部ねらいのパンチかよ上等だあああああああ!!

 

(みんなは手を出さないでくれよおおお!!)ザザッ

 

(やっちまえボウズ!)

 

(頑張れ~ボウヤ)

 

(……ツラいが。我慢するぜ)

 

(!?)

 

(なんだ、コレ!?)

 

(提督の声が……私の中から……?)

 

(やるじゃん提督。こんなコトできるんだ)

 

「兄さん!! あぶな………わわっ!! 放して鈴谷! 放せよ!!」

 

 

 

「テメエだよ……テメエ以外に誰が居るってんだよおおおおおおおおおッ!?」

 

「くそガキがあああああああああああッ!!」

 

 

ドガァッ

 

 

痛てえええええ!! ガードおかまいなしに殴りやがったマジ痛てえええ!! だけどなああああ!! みんなの寂しそうなカオ見るのは!! もっともっと痛てえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

ギュウウッ!

 

「!?」

 

つかんだぜ……伸びきったスキだらけの腕!! テメエの右をガードした左! だがメインの目的はコッチなんだよ! 左で引き付けてえええええええ! 右で巻き込んでえええええええええええええええええ!!

 

「どりゃあああああああああああああ!!!」

 

「ひぎぃっ!?」

 

 

ズダアアアアアン!!

 

「きゃああああ提督やったあ!!」

 

「古鷹~、テンション高過ぎるって~」

 

「いいぞおボウズ!」

 

「室長さん……いいえ、提督。一本背負い……お見事です」

 

「兄さん……よかった……。あれ? 鈴谷どこ?」

 

 

「提督!?」タタッ

 

「やめな。高雄」スウッ

 

「………あなたは」

 

「久し振りだね高雄。提督のジャマしたら鈴谷が許さないよ」

 

「鈴谷!? そんな……。そう……せっかく数十年ぶりに会えたのに、共に戦った私の邪魔をするのね」

 

「それは今カンケーないよ。だまって見てるの! ヤボなことしちゃダメだかんね……いまの鈴谷は強いんだよー、摩耶がビックリするぐらいにねー」キッ

 

「鈴谷? あなたまさか」

 

「黙って見てるって……何言ってるんだい鈴谷、もう兄さんの勝ちじゃないか」

 

「そっかー、キミも寝技よか投げ技重視だったんだ。まだ続くよ……ほら」

 

「あ……」

 

 

 

ギリギリギリィ……

 

「ぐぎッ……は……放…せ…えッ……」

 

立ち技だしたらすぐさま寝技、我らが日本の伝統技術だ!!

 

「放してほしけりゃ自分のチカラで離れてみやがれえええええ!!!」ギュウウウウウ!!!

 

「……!」

 

「よしッ三角絞(サンカクジメ)入ったあ!!」

 

「わわッ……木曾さんビックリしたあ(でも凄く嬉しそう……こんな表情するんだ)」

 

「あらほんとね。こういうボウヤは久し振りだわ~初陣の時も凄く気合い漲ってたものね~」

 

「あの時の話はするな龍田。アイツはもうあの頃の青二才じゃねーんだ」

 

「はぁい天龍ちゃん」

 

「木曾さん、何ですかあれ!? あんなの見たことない!! えと……三角絞ってのは前から仕掛ける技でしょう? 海外プロレスで見たことありますから! あれは違いますよね、何ですかアレ!!」

 

「だから三角絞さ、あれも歴とした三角絞なんだ。ただし後ろからのな……お前が知ってるのは前、横、後ろのうちのひとつだ。よく見てみな、相手の右腕を両腕でしっかり伸ばしながら首も両脚で絞めてるだろ。あの子の勝ちだ」

 

「兄さんの!? やったああ!!」

 

いいぞアユム……そうやって少しずつ感情を出していくんだ。ん……このパワハラ野郎、もしかして……。

 

「……………………………」

 

 

 

「提…督………。……鈴谷、あなたの所為で……提督が負けたわ! 第三艦隊はね、第一艦隊の支援という重要な役割をどこの艦隊よりも忠実に果たしているの!! 提督は日々の激務で稽古だって満足にできてなかったのに!!」

 

「ハァ!? 最初のは力任せのチンピラパンチだったじゃん!! 稽古とかカンケーないし!! 投げてくださいって言わんばかりのチンピラパンチ、全力で投げられにいっといて何言ってんの!? 高雄、もしかしてアイツさあ、じつはMなの!?」

 

「あ…あ……あなたって娘は……!」

 

「高雄、もうやめて。残念だけど提督は負けたわ。介抱しなくては」

 

「……そうね霞。鈴谷、もういいわ。あなたと交わす言葉がもう私には残っていない……」

 

「ふーん。鈴谷にはそうは見えないけど? それにさあ……鈴谷を倒してやりたいって目、してるよ」ニヤッ

 

「………くやしいけれど、今のあなたには勝てないわね。提督補正があるなんて知らなかったわ……せいぜい、あなたの提督から離れないようになさいな」

 

「ほせい? よくわかんないけどさ、高雄が負けを認めるんならそれでいいよ。勝ったのは提督だかんね。お疲れ様、提督!」ニッコー

 

「ああ、ありがとう鈴谷」

 

「………そうね。第八室長殿、勝負ありです。お見事でした」ペコリ

 

へえ。高雄って………。

 

「ありがとうな高雄……もう技はとっくに解除してる。天龍、すまないが活(カツ)を頼む」

 

「教えてやっただろ。ちゃんと練習しとけよ……ま、よくやったぜボウズ」///

 

「アネキ、無茶言うなよ。この子が活を入れる機会なんてないさ」

 

「ん? ………あー、そうかそうだな。悪りぃボウズ、今のはオレが悪かった」

 

「いいんだよ天龍、お前の手を煩(ワズラ)わせているのは事実だ」

 

「兄さん、いまの木曾さんが言ったのってどういう意味? はい、スポドリ」つ

 

「おっ、準備いいじゃんか。ありがとな」ゴクゴク…プハー

 

「……指揮官補正だよ。俺が艦娘と稽古するってことはつまり、海上と同じステータスのみんなを相手にするってことなんだよ……絶っっっっ対に勝てねえ。俺が活を入れるなんて有り得ない」

 

「補正できるんだ……やっぱり思った通りだよ。何でもできるんだね……スゴいや。でもさ、それなら兄さんじゃなくて艦娘同士で稽古して、誰かが失神した場合に兄さんが活を……」

 

「それは危険だ。ハイスペ同士の稽古は一歩間違えれば大怪我だからな。俺が稽古に立ち会うことはないんだ……普段は雪風が担当している。俺の秘書艦だよ」

 

「そっか、だから兄さんが艦娘の誰かに活を入れるなんてムリなんだね」

 

「そういうこと。お、目を覚ましそうだなアイツ。身動きしたぞ……天龍に感謝しろってんだ」

 

「え………あ、ほんとだ」

 

このままあの野郎に対面しても……ヤツの傷口に塩を塗り込むだけだな。自分がくそガキと呼んだ相手に負けたんだ、しかも部下の前で。もうプライドはズタズタだろう。ヤツはもう充分に報いを受けた……三角絞という肉体的苦痛と、そして衆人環視の中での敗北という精神的苦痛だ。この上さらに俺が奴に何か言えば、それは単なる言葉の暴力だろう。いや正直、始まる前はメチャクチャにしてやりてえと思ってた! そりゃもうてんこ盛りで! だけど今の気持ちは……うん、ダメだ。それをやっちゃおしまいだろ。テメエが艦娘にやったのと同じマネを、俺がやってたまるもんか。俺はテメエみたいな野郎にはなりたくないんだよ……。

 

 

 

「あの野郎に話すことなんてねーや。アユム、俺には急用ができたということにして、うまく……」

 

「任せてよ。僕だってここまでついてきたんだから役に立ちたいさ」

 

「ありがとう」

 

艦娘のみんなに取り囲まれている第三室長の方へと向かうアユム……頼んだぜ。

 

(天龍、龍田、木曾。あとは任せる。アユムを頼むぞ……外で待ってる)

 

(分かったぜボウズ)

 

(あの純粋なボウヤが今じゃこんなに空気読むようなオトナになっちゃって。複雑なキモチね~)

 

(そこは素直に喜べよアネゴ。……お疲れ様)

 

 

さて、と。

 

 

(いま廊下に居るね……よくココまで来ることができたな雪風。指揮官に帯同していない艦娘は不審に思われるんだけどね)

 

(コロンバンガラで神通と一緒だったんです……守衛室がスグに通してくれました。彼女から私のことを聞かせられていたようです)

 

コロンバンガラ………神通の……。いけない。この話題はダメだ。

 

「もしかして……監視を頼んでおいた森か?」

 

あの声を放ってはおけないからな。

 

「その通りです提督」

 

少し興奮気味の声。ほんとうにわずかだが……もう2年も一緒に居るんだ。ハッキリ分かる。

 

「落ち着いて聞かせてくれ。何があった?」

 

「はい……。泊地水鬼…です……私たちが埋葬した彼女。提督に会いたい、そう言っています。軽巡棲鬼を止めなくちゃ、と……」

 

 

 

          続く

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